励みになります‼︎
ダイスラーの遠足に同行して、久しぶりに教会に出向く。キャクストンに言われなければ、今日も日常業務に勤しむところだった。危うく包囲殲滅の続行になるところであった訳だ。別にわざとではない。決して。腹に据えかねてたとか、別にいいかとか、悪意があったわけではない。
初回と同じように、応接間で久しぶりに神父とシスターに対面した。このソファー、毒針とかないよな?
前回と違うのはルワンがいない事と、背後にダイスラーと五人の弊社社員がいるくらいか。総司、徹底した対応を学びなさい。
「ジャクソン神父、些か痩せたようですね。」
「ええ。色々とありまして。」
「急激な減量は体に良くない。気をつけられるといい。本題に入る前に一つよろしいか?」
「なんでしょう?」
「貴様らどこに座っている?敗者は地べたに平伏して命乞いしたらどうだ?アメ公。」
「…っ‼︎申し訳ありません…。」
一喝すると二人は床に正座し平伏した。当たり前だ、どれだけ経費がかかったと思っているんだ。こっちは怪我人に入院者、損傷した魚雷艇の修繕とヤクの発破代とクローゼがばら撒いた弾代、ハチミツ代がかかってるんだ。
「で、あんたらの上と協定を結んで、ジャクソンは更迭、ヤクの売買は即時停止となった。今後のベトナムからの帰還ルートの一つだったらしいが、それはうちが代行する。」
「そんな…」
「それとは別にこの教会からみかじめ料を貰う。倉庫を一つ建てろ。管理人と警備員はこちらから派遣する。あと会計士もだ。」
「何をさせようと言うのですか…」
「コレから少々物騒な物、武器兵器を取り扱う事になった。ので、君たちを窓口にする。この街唯一の武器屋だ。」
「そんな…リスクが高すぎる‼︎」
「ヤク売ってた頃よりいいだろう。在庫管理と販売先の確保はこちらでやるから安心しとけ。あぁガサ入れとなったら捕まるのはここの人間だから…ちゃんと賄賂は払った方がいいぞ?」
「それではまるで…」
「まるで…何か?」
「スケープゴートだ‼︎」
「認識を共有できて幸いだ。それと辞令も預かってる。ヨランダとか言うシスターがここの代表シスターになる。それでシスターヨランダ、1セントでも支払いが足りなかったらここは更地にして寺を建てる。覚えておくように。以上だ。」
講和が成ったところで出て行こうとしたら、二人は燃え尽きた人のようになっていた。
「あ、総司、今回かかった経費は請求しておけ。分割の場合は月三割の利息だ。回収は任せるからルワンに人借りるといい。これが最初の仕事だ。よろしく。」
「わかった。経理の人に聞いたらわかる?」
「そうだな。チャドが担当だ。」
「わかった‼︎」
二人は卒倒した。栄養足りてないんじゃないのか?
面倒ごとを片付けて港の倉庫に戻ると、ダイスラーの取り寄せたサンプルが届いていた。
「これはガーランドの自動化した物でM14と呼ばれているようです。こちらが現行のM16だそうです。今後の主流はM16が入るようです。」
「そっか…来週、先方が視察に来る。ありがとう。いい仕事だ。」
「光栄の極み。」
翌週、クルツコワと商人が訪問してきた。随分若い商人だ。
「遠いところご足労いただきありがとうございます。クルツコワさん、ご無沙汰だ。アクシズ代表のトーゴーです。」
「久しぶりね。ここ最近は随分忙しかったのね。」
「ありがとうございます。ユーリ・オロホフです。駆け出しですがよろしくお願いします。」
「実に忙しかった。で、早速商品ですが…そこの倉庫までお願いします。」
M16を主として、後進国、中興国に売りたい旨を伝える。
「伺っていました。顧客に制限があると。承知しました。」
「ところでどの程度ご用意出来るのでしょう?」
「本体、弾、弾倉を…ベトナムにある分だけ。他にも色々あるだろうと思います。」
「しかし、そうなるとまとまった量は見込めませんか…」
「いや?コンテナ単位で用意できると思うが?」
「は?それでは戦線が維持できないのでは?」
「彼らは帰宅するそうだ。」
「なるほど。いい耳をお持ちだ。今後も良い付き合いをお願いします。」
「では、事務所に戻りましょう。」
事務所に戻り、ルワン、ダイスラー、総司を交えて軽い食事をしながら雑談に興じた。午後になってから商談に入る。
「それでは我々の手間賃の話ですが…」
「少々お待ちください。総司、計算してくれ。」
「わかった。」
電卓を叩きながら、メモ帳を見つつ計算をしている。いいぞ。勉強してたな。
「父さん、これくらいにしたらみんな納得できないかな?」
「見せてみ?」
完璧な計算に感動した。商品がまともならもっといいのに。
「総司、提示しろ。俺は見てるから。」
「えっ…オロホフさん、これでどうでしょう?」
「いいですね。経験を積める機会を貰えると言うのは大切です。我々はこれで十分利益を見込めます。」
「ありがとうございます。で、これは…どうしたらいいの?」
「こう言う時は「では、これで契約しましょう。」って言うんだ。オロホフさん、軽視して総司に任せたわけではないのです。リトル・トーゴーと呼ばれていましてね。経験を積ませたいのです。」
「では、私が総司君の最初の顧客になりましょう。」
「いいのですか?」
「ええ。もし、私の子が取引に来た時はお願いします。」
「その時は私が最初の顧客になります。」
「本当にいいお付き合いが出来そうだ。」
「クルツコワさん、いい友人を紹介してもらった。ありがとう。」
「話がまとまってよかったわ。アメリカ製の武器、うちにも少し売ってくれないかしら?」
「一揃い進呈しよう。ところで総司、クルツコワ女史の取り分は?」
「15%‼︎」
即答だった。会計士とか目指してくると嬉しいね。このままそっちに進んでくれないかな。
「あたしの取り分もあったのね?」
「中間マージンをクルツコワさんの取り分として計算させていただいたんです。」
「そう言う事だ。」
後日、このオロホフ氏は結婚し、美人な奥さんとハネムーンに来た。流石にロアナプラに来てもらうわけにもいかないので、近所の無人島を借り上げた。それらはまた別話。
商談がまとまって一週間、今日も順調に一日が回っている。最近では困ったらアクシズに相談すればいいと言ってくれる住民の皆さんが多くて、非常にいい空気だ。みかじめ料もお世話代とか面倒代と言って貰えている。麻薬撲滅が効いた。
「父さん、あのさ…」
「なんだ?彼女でも出来たか?」
「その話もなんだけど、コンテナヤードのエンザさんが…」
「彼女出来たの⁉︎」
「それよりエンザさんがもうコンテナ置けないって悲鳴あげてるの‼︎」
「は?」
総司の彼女も気になるが、ヤードが一杯とはどう言う事だ。早々埋まるような面積ではないぞ?
急いでメインヤードに行くと途方に暮れたルワンがいた。
「トーゴー、これって当てつけなんじゃないのか?」
「うむ…なって言ったかなあの安全なんとか局の役人…」
「トーゴー、これは損切りで、補給に向かう艦の内二隻をこちらに回しましたね。積んであるライフル、弾、その他に擲弾、榴弾徹甲弾と手榴弾に軽機と重機までが新品で揃っています。」
「戦争でも始めようってか…戦争してるのか…総司、オロホフ氏に連絡だ。空のタンカーをチャーターされたし…だ。」
「急いでもらうよ…」
「それとルワン、二段ベッドと布団を大量に用意してくれ。戦標船を購入して改修だ。」
「クルーズ事業でもやるのか?」
「米兵をコンテナに詰めて送り返したら、ロアナプラに侵攻されそうだ。」
「あぁそれは同意する。ってか本当にコンテナで繰り返すつもりでいたのか…。」
「総司、予算を組んでもらってこい…」
こんな事になるならオロホフ氏にはキロ売りすればよかった。
数日後、嬉々として船で乗りつけたオロホフ氏は全て引き取ると約束してくれたそうだが、エンザ君は所狭しと並ぶコンテナに苦労した様だ。あとで、酒でも差し入れよう。
そんな近隣から商品の流れ込む日々の中で平和なこともあるものだ。
「トーゴー、ピンさんから時間をとってほしいと言う連絡が来てるが、どうする?」
「なにか厄介ごとか?」
「微妙な線だな。酒場を出したいと言う青年がいるそうだ。」
「いいじゃないか。出して貰え。物件なら組合に不動産屋がいるだろう?」
「うちでは南ベトナムの兵士を再雇用してるだろ?ここいらでは一番大きいコミュニティだから、話をしておくといいって助言をしたそうだ。」
なるほど察しはついた。泥舟から逃げてきたと言うことか。
「いいぞ。そう言う紹介は嬉しい限りだ。」
夕方、紹介を受けたと言う青年が受付に来た。少々手が空いていなかったので待たせる事になってしまったが、直に会えた。
「ようこそロアナプラへ。アクシズの代表、トーゴーです。こっちはルワン。港を仕切ってる社長だ。」
「よろしく。ルワンだ。」
「バオと言います。ピンさんの紹介で来ました。」
「伺っています。お待たせして申し訳ない。酒場を出されるそうで。我々も通わせていただきます。」
「ありがとうございます。南ベトナムの兵士を雇用してるとか?」
「あぁ、彼らは祖国に明るい未来を見出せなかったようでね。再就職してもらっている。」
「自分もその口です。」
「では、ルールを。多少の違法行為は見逃すが、自分の商売以外のことをする時は一言欲しい。それと麻薬に関する商売は禁止だ。」
「この地域で麻薬禁止とは珍しいですね。」
「闘争の果ての平和だ。この街では売るも使うもどちらの場合は、素っ裸に剥かれて通りに晒される。」
「心得ます。仕入れ先の方はどうしたら?」
「ルワン、世話してやってくれ。あと、総司にも同席させてもらえるかな。物は全て正規輸入品で、だ。俺はもう一件アポがあって中座する。」
「わかった。じゃあ詳しい話は…」
もう一件のアポはダイスラーを連れての会談…つまるところ気分のいいモノではなかった。
「時間より早くお目見えになったようで…お待たせしました。」
「こちらこそ。早くに来てしまい申し訳ありません。」
物腰は柔らかそうだが、眼光の鋭い紳士だった。ダイスラーと同年代だろう。腰のワルサーが見えるように座った。
「トーゴー、こちらの方は香港からいらした。三合会のラオ氏です。申し訳ないが発音が難しい。」
「アクシズ代表、トーゴーです。お話を伺いましょう。」
「我々はこの街に拠点を持ちたいと考えています。その為にはご挨拶に伺うものと思いまして。」
「なるほど。この街の平穏は我々の築いたものです。いくつかの決まり事を守っていただけるなら、新たな住人を歓迎します。」
「決まり事…ですか?」
「ええ。手がける商売にもよりますが、この街での麻薬の販売は禁止だ。もし本国に持ち帰りたいと言うならそれは構わない。だが、海路ならウチを通して量は誤魔化さず申告を。荷上げの手間賃が変わる。それと、中華系の方々から頂いているみかじめ料は、そのままそちらにお支払いしよう。」
「噂に聞く通りのようですね。少々やりにくいが、こちらとしても流血なしに支店を出せるのは大きい。」
「助かります。あ、武器売買は教会を通していただきたい。ここではあそこの専売でね。」
「教会!?」
「リップオフ教会です。無秩序にモノをばら撒かれては困るので。」
「面白い街だ。つまらない事を言われたら事を構えるつもりでいたが、ここの流儀に従いましょう。」
「荒事を構える際はこちらのダイスラーに一言を。日本の武士は夜討ちの際も枕を蹴って、相手を起こしてから始める。」
「我々が枕を蹴ることはありません。どうやら悪党には居心地がいいらしい。」
「お互いいい繁栄につながる事を期待します。」
こうしてロアナプラに新たなマフィアがやってきた。第一号は香港マフィアだった。まぁいつか来るであろうと思っていたので、驚きはないが紳士的でよかった。今後来るであろう人たちもそうであると願いたい。