起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき決意

山方の兄さんが殺されて、川岸に打ち上げられていたのが明け方。それぞれに報告が入ったのがお勤め人が会社に着いた頃で、俺は急ぎ歩いていた。本来なら事務所に向かう所だったが、今日は別な所に向かっていた。

“坂井組”の看板が掲げられている。前世、暴対法のおかげで組の看板は大人になった頃には土建業等以外は無くなっていた。改めて見ると新しく感じる気もする。

勝手口の戸を叩く。

 

「どちらさんで?」

 

「小沢です。坂井の兄さんに取り次いでください。」

 

「どうぞ。ちくとお待ちつかあさい。」

 

坂井組の若い衆がカシラに取り次いでる間、勝手口に腰を下ろした。ここで吸っていいのか思案してる内に、さっきの若い衆戻ってきて案内してくれた。

 

「すまんの小沢。ちぃくとピリついとってのぅ…」

 

「無理もないでしょう。山方の兄さんがやられましたから。その件でお話とお願いが。」

 

「小沢の話は無駄がありゃせんからの。聞かしてみぃ。」

 

新開、有田が金丸の手引きで土居組の残党を抱え込んでること、山方がそれを察しつつあったという設定にしてそれが原因で消されたことをカシラに伝える。流石、松方弘樹である。少々正視に耐えないくらい怖い。カシラは青筋立てて、握った拳をプルプルさせながら口を開いた。

 

「ほうか…で、願いの方はなんじゃ。」

 

「はい。兵隊を何人かお借りしたいのと米軍の45口径の弾をいくらか。ダイナマイト1ダース…あと車を1台欲しいです。これもジープとかだといいです。口の固い医者、居ませんか?」

 

「聞くまでも無かろうが…何する気かの…」

 

「山方の兄さんの仇、自分がとってきます。」

 

カシラは即答してくれなかった。タバコに火をつけ、1本を時間をかけて吸いきった。そうだタバコ吸いたかったんだ。口が渇いてるのに気がついて、出されたお茶に口をつける。

 

「晶三がおったらのう…夕方まで待っちょれ。届けさすけん。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「あぁ…おやっさんとはワシが話しとくけん。用もあるけんのう。」

 

イラつきを隠さず居るとこによると多分、有田に

「若頭ともあろうモンが人の茶碗とるない」

と言われたか。と言うことは今日が神輿発言の日か…今日の夜中から始めよう。まず有田だ。

 

「では帰ります。色々欲しい物あるので。」

 

「待ちや。何買う気なら。」

 

「電線切るハサミと墨ですが?」

 

「必要なんか?」

 

「はい。」

 

「一緒に届けさせるよって。家に居れや。」

 

不思議そうな顔してるあたり、理解出来て無さそうだが必要なので伝えた。普通に何で必要か分からないだろう。分からなくていい。

 

「では、これで失礼します。」

 

「おう持っていけや。」

 

投げられたのはカシラの分厚い財布だった。多分、一般人の何ヶ月分くらいの金が入ってる。

 

「なんです?」

 

「遊んでから行ったらええかろうよ。」

 

「モノ届けて貰ったら始めます。遊んでる時間、無さそうです。お気遣いありがとうございます兄貴。」

 

ちょっと笑いながら返すとカシラは切なそうな顔をした。やめて欲しい。後ろ髪引かれる思いで、事務所から出た。それから帰りにそば屋でカツ丼を食って、肉屋でコロッケを買った。何となく濃い味が食べたかった。

 

家に帰って、45口径のコルトガバメントを取り出す。弾倉を抜いておく。まだ昼過ぎ。寝ておこう。枕の下に銃と弾倉を隠すように置いて、横になった。神原をやった時とはレベルが違う…でも、眠気は来た。こうして慣れるのだろうか?

 

 

優雅に…とは言えない昼寝から現実に引き戻したのは電話のベルだった。

 

「おう小沢。」

 

「カシラ、どうしました?」

 

「おやっさんは黙ってる。やってええぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「すまんのぅ…もうじき届くけのぅ。イキのいいの3人つけたけん。道具も持たしよったけ使うてくれや。」

 

「返す返す申し訳ありません。」

 

「ん…頼むど。」

 

そう言って電話が切れると、家の前に車が止まる音がした。払下げのジープだ。

 

「失礼します。オヤジから言い遣ってきました。」

 

「ありがとう。今晩から行くよ。とりあえず休んでて。」

 

「承知しました。」

 

 

日が暮れ切って、日付の変わる頃。全身真っ黒な作業服を着て顔と首を黒く塗り潰し、右目を黒い布で覆い隠す。玄関前の車に乗り込もうとしたら、驚いた面持ちで若い衆が聞いてくる。確か尾田君って言ったかな。

 

「オジキそりゃどう言う格好で?」

 

「今から有田組に襲撃をかける。」

 

「たった4人でやる言うんですか?」

 

「いや1人でやるよ。君らに頼みたいのはまだ後で。」

 

「ワシらにも出番来るんですかのう…」

 

不安そうに呟いたのは太田という一番若い子だった。もう1人いるが「三島言いますけん。」と言ったきり何も言わずにいた。不安だろう。太田は初めてチャカ握ったのか軽く震えてる。

 

「大丈夫だ。俺も最初怖かった。落ち着けば大丈夫。」

 

「今日は俺1人で行くから大丈夫。少し手伝って貰う事はあるけどそんなに難しくないから大丈夫だ。」

 

 

そんな事を言っていると。有田組の事務所近辺に着いた。の電柱で止めて貰う。

 

「おう。太田。お前の仕事だ。」

 

そう言ってケーブルカッターを渡す。

 

「いいか?この電柱の電線を切れ。そうするとこの一帯が停電する。切る電線を間違えるな。その右の電話線も切るんだ。間違えなきゃ感電はしない。」

 

「へ、へぃ。」

 

「よし。行ってこい!停電が合図だ。三島、有田組の正面に行け!」

 

背中を強く叩いて見送る。コルトを取出し、スライドを引く。

 

「そう言えばオジキ、そん片目隠しよるのは理由があるんで?」

 

「夜目を作るんだ。停電したら何も見えなくなる。そうしたら左目を隠す。暗い部屋で立ち回るコツだ。欧州の海賊なんかがよくやる手法だそうだ。」

 

「オジキは博識ですのう…顔に墨塗った理由もようやっと得心いきましたわい。」

 

そうして、事務所前に着いた。予備の弾倉も確認した。足袋にニッカポッカの裾を仕舞う。

 

バァァァァン

 

大きな音と共に一帯が真っ暗になる。同時に三島が発進する。

 

「三島、俺が飛び降りたら裏手で待っとけ!」

 

「承知!」

 

有田組の玄関を蹴破りながら右目の布を左目へ移す。

 

「停電や!ロウソクどこじゃ。」

 

「外も真っ暗じゃけん。停電じゃのう。」

 

「なんぞ割れる音しようたが。見てこんかい。」

 

「オヤジの所にロウソク立てぇや!」

 

そこそこ混乱してる様だが、外も真っ暗だからそこまで混乱している訳じゃない様だった。声のする方へ歩いていく。有田のタマを取りたい所だが、ある程度、戦闘不能に出来ればいい。基本的に命まで奪うのは有田だけで、他は足なり何なりを狙うつもりだ。少しだけ静かに引き戸に隙間を作り、中を確認する。中に居るのは有田をいれて5人、まだロウソクは立っていない今なら有利にいける。

景気付けに勢いよく引き戸を明け放ちながら、有田の頭に狙いをつける。

 

「静かに開けんk…」

 

パァン

 

有田が後ろに飛ばされるのを横目に、次の照準を合わせて引き金を引き続ける。

 

「なんじゃk…」

「クロンボかッ」

「へ?」

 

パンパン…パァンパンパン

 

「あっ…あああああっ」

「がぁぁぁってぇぇっ」

「ヒッヒッ…くぁぁっ」

 

真っ暗闇の室内を見回す。全員に当たったようだが、外してしまった。横川が額から血を流して転がっていた。

 

パンパン

 

要らん人死を出してしまった。仕方ないので心臓に2発、叩き込んでおく。確か劇中では山方殺害は横川の仕業だったはずなので、敵討ちと言うことになるだろう。有田は座っていた座椅子ごと飛ばされて、うつ伏せに転がっている。右足から血を流している。足で仰向けにしてトドメを刺す…つもりだった。

「残念じゃったのう!」

足で仰向けにするとリボルバーを持った有田がいた。

 

パァンパンパンパァンパン

 

「かぁッ…」

 

咄嗟に飛び退いて銃弾を躱す。右頬を掠った。熱いコテで撫でられた感じだ。いや死んだと思った。冗談抜きで。某眠りの小〇郎の娘も驚きの反応スピードだったはずだ。

 

「おどれ、何モンじゃゴルァ。」

 

ジタバタ動いてる音が聞こえる。多分、弾切れのはずだ。期待を根拠に行動するのは敗北への一手目だという。黙って、頭を低くして近付く。

 

「やらせはせんど、わしゃやられはせんぞ!!」

 

どっかで聞いた様な発言だ。暗いから黒いオーラは見えないがいる位置は分かった。匍匐の要領で逃げようとしていた。黙っ追い掛けて右ふくらはぎを踏み付ける。

 

「がぁぁぁっ…なにしよんじゃァァァ」

 

背中でもういい。頭に1発と心臓のあたりを狙って2発。確実に死んだ。

コルトを腰に差して裏口を目指す。玄関とはうって変わって、礼儀正しく外へ出る。

 

「オジキ!!」

 

尾田の叫び声に少し安心した。荷台に上がると太田が濡れた手拭いを渡してくる。顔の墨を落としながら指示を出す

 

「次だ。新開組の事務所だ!!」

 

「オジキまだ行く言うんですか!!」

 

「いいから行くんだよ!!三島、出せっ。」

 

「承知。」

 

「いいか尾田。新開組にはダイナマイトをケースで投げつける。さっさと帰るぞ。」

 

しばらく走る間に少し状況を説明する。

 

「有田は確実に仕留めた。横川をやったのは手違いだったがいい。トドメまで刺した。」

 

「オジキは海軍航空隊やったと聞きましたが…撃ち合いも出来るんで?」

 

「いや…陸戦隊のやつらに聞いたのを真似ただけだ。」

 

「聞いただけで出来るもんですかいの…戦争帰りは流石に違いますの…」

 

太田が羨望と尊敬の眼差しで見てくる。そうか、コイツらは戦争に言ってない世代か。軍国少年だったヤツらは元軍人に一定の憧れを持っている。少しむず痒いが悪い気はしない。小沢君の記憶では、戦後は航空隊だったと言うことで特攻崩れだの言われて随分肩身は狭かった様だった。

しばらく走ると、停電した地域を抜けて、いつもの街並みに戻ってきた。

 

「オジキ、次の角を曲がると新開組です。」

 

「よし。1回通り過ぎてくれ。」

 

「通り過ぎてええんで?」

 

「周りの家を確認したい。」

 

「せやったら大丈夫です。区画整理で引っかかって無人です。新開組も近々引っ越す言う話聞きようたがです。」

 

「じゃあ角の手前で1回止まってくれ。用意する。」

 

ダイナマイトの蓋を開けて2本取り出す。オイルライターを握る。火をつけたダイナマイトを袋に戻して、袋ごと投げ込む算段だ。

 

「三島、走れ!!」

 

「承知!!」

 

全力でジープが走る。角を曲がると同時に導火線に火をつける。

 

「オジキ、ここじゃ!!」

 

「出前迅速落書き無料ォォッ」

 

叫びながらダイナマイトを投げる。未来の世界の青狸を何故か思い出してしまった。

 

「なんですそりゃ!!」

 

「感嘆符だ。気にするな。」

 

そう言うや否や凄まじい爆発が起きた。家ごと消し飛んだ訳ではないが、凄まじい爆発だった。振り返ると事務所から何人か出てきた。新開はやれただろうか?

 

「よし帰ろう。もう今日はいいぞ。」

 

「承知。」

 

 

家の前で降ろして貰って風呂に入る。疲れた。風呂から上がると顔の傷を消毒する。床下にコルトを仕舞い込む。

 

「とりあえず寝るか…」

 

 

あまり眠気が来ない。今更だが1つ気付いた。やりようによっては、逮捕されないんじゃないか?

現代社会ではあふれる監視カメラによってすぐに見つかる。だが、今、俺が生きている世界にはそんなモノはないし、街灯も疎らだ。つまり顔さえ見られなければ逃げられるのだ。

翌朝、玄関を叩く音で目を覚ました。翌朝と言ったが、陽はもう高い。

 

「オジキ、お疲れ様です。カシラがお呼びです。お願いします。」

 

尾田の迎えに目をこすりながら応対した。

 

「ちょっと待ってて顔洗ってくる。」

 

やっぱりな。そりゃそうだ。流石に今回は懲役かなぁ…着替えて後部座席に乗り込む。今、殺人2件と殺人未遂が3件は確実だろう。あと銃刀法違反?ダイナマイトは危険物取扱法違反?殺人未遂になるのかな。

グルグルと考えてる内に事務所に着いた。そこには予想外の人物がいた。

 

 

「おぉ〜…小沢ァ。おどりゃ魔法使いかなんかなんかのう?今回も警察は何も掴んどらんそうじゃ。流石は昌ちゃんの参謀長じゃのう!!」

 

「なんでも警察じゃ新開組が米軍となにかしていると思うとるようでの。本家にきたポリ共は“新開組は米軍と揉めてるのか?山方は関係あったのか?”なんて聞いてきたわい。」

 

高笑いする上機嫌な2人を見て安心した。小細工は通用したらしい。

 

「カシラからお借りした3人の協力あっての事です。ところでどこまでバレてますかね。有田組の3人生きてたはずですが?」

 

「心配いらん。あれらはポン中で警察も取り合っとらんわい。まぁそれでも意味は無かろうが。何せ“2メートルはあるクロンボが来た”なんて言うちょるらしいからのう。」

 

「「あーっはっはっ」」

 

「で、新開の方は?」

 

「おう。若いのが何人か病院に運ばれてよって、新開自身も入院しとるわい。足をケガしたそうじゃ。」

 

「じゃあしばらく病院ですね。機会を伺います。」

 

「よう働くのう。参謀長殿は。少し休むか、旅打ったらええ。今回も逮捕されんじゃろうがの。」

 

そう言って雑談した後に事務所を出た。まだだ。

 

行きがけに花を買って、入院している病院に寄る。受付で名前を書いて、病室へ向かう。すれ違った医者に頭を下げて病室へ向かう。コレなら行けそうだ。そんな事を考えている内に右足を吊られてる新開がいた。

 

「新開の兄さん。」

 

「おぉ小沢じゃにゃぁか。すまんのう。足がこれで寝たきりじゃ。」

 

足もだが顔の右側に大きな火傷と右腕から手まで包帯が巻かれている。右で爆発したな。

 

「心ばかりの見舞いです。養生してください。」

 

「小沢が来るとは意外だったのう。」

 

「さすがにこんな時までいがみ合う腹は持ってません。」

 

「お前は優しいのう…他の連中は遣い寄越しただけよ。」

 

「こんな時です。警戒してるんですよ。」

 

「最近は坂井がでしゃばるからの。跡目貰うた気でおるんじゃ。」

 

「そうかっかせず。今はお休みください。では、これで。」

 

「わざわざすまんのぅ。」

 

もう1回走る決意をして病院を出た。事務所襲撃より楽だ。そう考えて家に向かう。十四年式を使おう。そう心に決めて…。

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