遂に総司が成人した。ここ最近のアクシズの発展もあり、慶事としてみんなが祝ってくれた。イエローフラッグを貸し切って祝いの席を用意したが、近くですら叫ばないと会話が出来ないくらいの人が集まった。それはアクシズの人間だけではなく、街の人も来てくれたからだ。総司はみんなに愛されている。
「これで総司も大人の仲間入りだな。これからは自由と責任が増える。人並みの言葉で申し訳ないが、頑張れよ‼︎」
「ここに来た時はまだまだガキンチョだったのになぁ…感激だ。」
「ルワン、来た頃でも15歳くらいだったのでは?」
「15だってまだ子供だろ?俺は遊び歩いてたぜ?」
「キャクストンの子供時代ですか…比較的、真面目そうですがね。」
それぞれの青少年時代の話に花が咲いたがはいいが、ダイスラーや俺は戦争の時代、ルワンとキャクストンは戦後の明るくなり始めた頃と二つに分かれた。こういった違う経験をして来た大人に囲まれているのも、総司には世界を広げる要因になっている様で、ある意味いい環境かもしれない。
「しかし、あれ程。後継者になるのを嫌がっていたトーゴーを説得するとは。熱意か執念か、見上げたものです。」
「父さんは随分、渋い顔してたよ。」
「だろうな、そのために俺まで雇ったのにな‼︎」
「キャクストンに教育を手伝ってもらったせいで食い下がって来たんだ。早晩、アクシズに来ただろう。親としては複雑だが正しい判断だと信じたい。」
「私の息子の教育もキャクストンに依頼しましょう。」
「おいおい。俺は教育係か?」
「その為に雇ったんだ。」
「それは総司のだろう!?」
こんな日々が続いてくれればいいのだが、そうも言ってられない。週明け、俺はルワン、ダイスラー、キャクストン、総司を集めて一つの考えを話す。
「日本のヤクザはトップを親としてその下に兄弟、子の擬似家族の形態をとっている。その中は盃事と呼ばれる儀式で親子兄弟の縁を固める。シチリアでいう血の掟と似た様なモノだが、仁義って概念もある。ちょっと難しいが、弱きを助け、強きを挫くところから始めよう。」
「日本式のマフィアの入会儀式か。いいなそれ。」
「ルワンの言う様な認識でいい。」
「では、我々はトーゴーの子と言う訳ですね。」
「いや。少し違う。ルワンとキャクストン、総司とは子の盃、ダイスラーとは兄弟にしようと思っている。」
「子分と舎弟の違いだな。キャクストンと総司はどうだ?年齢的にも経験的にも妥当だと思うんだが。」
「ルワンに同意だ。」
「俺もいいと思う。」
「よろしいでは…と言いたいが盃事には媒酌人ってのが必要なんだがな…難しいな。」
「ラオ氏に依頼しましょう。こういった席に呼ぶことで繋がりを強くするのも手でしょう。」
「いや。ピンさんに依頼する。俺たちは地元に根を下す、この土地の人間である事を知らせたい。」
「そうだな…ピンさんに依頼しよう。ラオさんは招待客だ。」
後日、ダイスラーとは俺を兄としての兄弟、ルワン、キャクストン、総司とは親子として盃を交わした。ロアナプラに名実ともに、ヤクザが誕生した瞬間だった。
慶事が続いたのはいい事だが、そろそろ現実に戻る。
「トーゴー、売人の一人が吐きました。出元はイタリア人でした。」
「そっかぁ…次の問題はコーザ・ノストラって事だな。」
「忌々しいイタリア人ですね。祖国のみならずここでも足を引っ張るのですか。」
「そうだな。枢軸国的にはそう言う認識だな。」
「キャクストンは戦史で学んでいるでしょう?総司、イタリアは我がドイツと日本を裏切り、連合軍の手先として戦った歴史があるのです。」
「聞いたよ。授業で習った‼︎」
「サンカンパレスホテルの支配人に連絡を。多分だが、成金趣味みたいな感じにスウィートに踏ん反りかえっているんじゃないか?」
「そこは俺が確認しておく。支配人に連絡すればわかるはずだ。」
「よし。ルワンは支配人に連絡を頼む。ダイスラーと総司は街の清掃を継続、クローゼに臨検の強化を指示して欲しい。」
「了解した。」
「承知です。」
「分かった‼︎」
「トーゴー、手すきの部隊がいくらかあるので、街の出入り口になり得る道も検問を敷きましょう。」
「手間じゃなければ頼みたい。」
ダイスラーの配下には一個中隊以上の歩兵戦力と10隻からの魚雷艇戦隊がいる。もう軍隊だろ。これらで治安を維持していたつもりになっていたが、まだまだ甘かった。
「で、俺はどうするんだ?親分。」
「いつも通りでいい。キャクストンの連れて来た友人と面談といこう。」
「ああ。応接室で待たせてるよ。」
応接室に向かうとキャクストンと同年代であろう青年がいた。
「レイ、アクシズのリーダー、トーゴーだ。レイ、自己紹介を。」
「レイモンド。レイモンド・マクドゥガル曹長です。実はここに来るのは二度目ですね。」
「レイモンド氏、トーゴーです。ロアナプラに?観光地ではないと思うが…」
「ここから帰ったんだ。アメリカに。」
「なるほど。ご利用いただき感謝を。」
そう言うと大きくため息をついて話し出した。
「率直に言って、連絡を受けた時は衝撃だったよ。少尉が生きていたことも、ここにいる経緯も。」
「我々はこの街で平穏無事に生きていたいのだがね。どうしても上手くいかない。」
「ところで少尉たちが民兵に負けたと言うのは本当ですか?」
「民兵だゲリラだとタカを括って痛い目を見た。彼らの指揮官に言わせると‘東部戦線を戦い抜ける’そうだ。‘人種、思想こそ違うが彼らは武装親衛隊だ’とも言っていたよ。精強な兵士たちだ。」
「ダイスラーは元武装親衛隊らしい。」
「なるほど。それであの訓練か。俺たちと戦っていた頃からやっていて欲しかったね。」
「金の為せる技だ。レイモンド君、君はキャクストンと共に選抜した人員をより精強にしてもらいたい。目下、仮想敵はソ連軍だが市街地戦、近接戦闘に特化した部隊を育てたい。」
「レイ、どうだろうか?」
「アメリカは敵か?」
睨む様に視線を寄越すマクドゥガルは、俺を品定めしているのだろう。
「どこの誰とは言えないが…退却に手を貸すくらいは友好的な関係ではあると思っている。」
「では…一つ頼みがある。」
「東南アジアの辺境に呼びつけて、訓練教官をやれと言っている。頼みの一つや二つ聞かねばなるまい。」
「俺の戦友に、帰国しても魂が戦場から帰れない奴らが何人か居る。一緒に拾って貰えないか?」
「呼ぶといい。何もないところだが、海は綺麗で、時間の流れもアメリカよりは穏やかだろう。」
「働けとは言わないのか?」
「日常に帰って来れた時に、この街の住人のために戦うと言うなら雇用する。仰ぐ旗を変えられんと言うなら帰ればいい。幸い、保養所にしている無人島がある。しばらくそこでダラけるといいさ。」
「あんた何者だ?」
「俺たち、ヤクザだよ。知ってるだろ?」
キャクストンが呼んだマクドゥガルを雇用した後、九人の元米兵がロアナプラ沖の保養所でしばらく過ごした。その時に来た彼らは、そのまま入社してくれた。後に次代の基幹たる指揮官となる。
幾日か経って、吉報とも凶報とも言えない報告をルワンが持って来た。
「トーゴー、アポが取れた。やっぱりサンカンパレスにイタリア系のマフィアが泊まっていた。」
「そうか…アポが取れたって事は交渉の余地はあるのかな?」
「どうだろうな…とりあえず会ってみるしかないだろう。」
「よし。総司、出掛けるぞ。ダイスラー、護衛を二人出して欲しい。」
「はいよ。」
「承知です。」
サンカンパレスのフロントで要件を伝えると、少し待ってスウィートに通された。
「ようこそ。と言ってもここは仮住まいでね。私の家じゃないが寛いで欲しい。」
「恐縮です。アクシズの代表、トーゴーです。これは息子の総司、後ろはダイスラー、彼らは護衛です。物騒な街ですので。」
「シーゲルと呼んでください。コーザ・ノストラ、タイ支部を預かります。」
「タイ支部…ですか。」
「ええ。どうやらこの街はアウトローが多い様でね。ここに我々も支部を置くことにしました。事務所を構えるまではここを拠点にしようかと。」
「そうですか。で、あるなら薬物の取引は一切を停止。人身売買、武器取引は窓口がこの街では一つにまとめられているので、そちらに。シマの割り当てその他はまた後日詳細をお伝えします。」
「それには及ばんよ。自分たちで出来るし、商売はこちらで考える。そちらはそちらのルールを守るといい。」
こいつ、人の話聞いてないな。総司も頬をピクつかせているし、後ろのダイスラーからは殺気がダダ漏れである。ちょっと堪え性がない。
「シーゲルさん、この街にはこの街の仕来りと言う物がある。その上で商売に勤しんで欲しい。薬物も街で売る事は禁止しているが、本国に出荷する事は止めていない。郷に入りては郷に従え…ですよ。」
「では、我々が新たな仕来りを作ろう。一緒にどうですかトーゴーさん。後ろの方はドイツ系であなたは日本人、私はイタリア人。仲良くできませんか?」
「でしたら、ダイスラーの指揮下にどうぞ。イタリアは初戦はともかく、ドイツの衛星国であったと聞きます。そう言う事でしたら歓迎しましょう。」
「舐めているのか?」
「先の三国同盟を例に挙げられたので。私もその構造に倣ってみました。」
「ふざけるな‼︎田舎のマフィア如きが我々に逆らうと言うのか‼︎」
「落ち着けって。顔面ボルシチみたいな色だぞ。その田舎に寄越されたあんたも大概だよ。」
「父さん、ボルシチはロシア。」
「そうか。じゃあトマトみたいと言い直そう。」
「その減らず口いつまで利けるかな…後悔するなよ‼︎」
「おー怖い怖い。帰るぞ。ここにいたら殺されてしまいそうだ。」
事務所に戻りルワンに報告する。
「だろうなぁ…ちょっと見えてたよ。」
「と言うわけで、ダイスラーとルワンは兵隊を倉庫前に集めてくれ。」
「おうよ。」
「承知しました。」
倉庫前に集まった人種をみて本当に混沌としてると思う。タイ人、ベトナム人。ダイスラーやクローゼらドイツ人にアメリカ人のキャクストンとマクドゥガル。
「先日、諸君らが可愛がってくれたリトル・トーゴーの成人祝いをし、盃を交わして諸君らとも親子となった。改めてよろしく頼む。」
まばらに拍手が聞こえる。本当に彼らは総司を可愛がってくれた。
「そんな中で、明るい空気に水を差す客人が我らの街、ロアナプラにやって来た。彼らは我々のルールには従えないそうだ。君たちの生活を預かるアクシズの代表としては、その様な人間たちにはお引き取りいただきたい。」
そうだそうだ、と叫んでくれる人間が多くいることに安心する。
「そして、彼らイタリア人は自分たちをマフィアの本場から来たと思っていてね。田舎者が逆らうなと言って来た。あ、ここ笑うところだ。」
ドッと笑い声が港に響いた。彼らは元軍人が多い。マフィアと軍人が喧嘩しようと言うのだ、今の彼らなら笑えるだろう。
「今回の観光客はいささか残虐性に富んでいる。コーザ・ノストラは構成員だけではなく、その家族もマトにかけてくる。諸君。少し、覚悟して欲しい。そして、奮起してくれ。この街を守るのは我々だ。本物のマフィアだと思い上がっているマカロニ野郎共に、闘争の根幹を教育してやれ。」
一瞬にして歓声が港を支配する。全くの違法行為に出るわけだ。俺も堕ちるところまで堕ちたな。だが、ルワンと総司や彼女のカーテ、キャクストン、マクドゥガル。彼らに残せるモノが鉄火の先にあるなら、それでもいいかもしれない。
クズにはクズの道理があるんだ。
コーザ・ノストラ襲来‼︎
グレイフォックス雇用‼︎
ブラクラは回収する物が多いですね…