起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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背徳の日常

コーザ・ノストラの騒動からしばらく、街は平穏そのもの。各種事業の利益も上々。

マクドゥガルが連れて来た友人たちはアクシズを仰ぐ旗としてくれて、今では訓練に参加している。編成を少し変えて、元米兵は教導隊とした。今では全員が彼らの訓練を受けている。その中に総司とダイスラーの息子、オスカーやクローゼの息子アレクもいた。総司はデスクワークもあるので毎度とはいかないが、どこかのローテーションに混じっているらしい。いい事だ。汗かきな。

 

そんな様子をタバコを吹かしながら眺める。

 

「マクドゥガルさ、そろそろ慣れて来た?」

 

「あぁ。総司に案内を頼まなくても街を歩けるよ。」

 

「で、うちの連中はどーよ?」

 

「精強の一言に尽きるな。予算も装備もある。ヘリがあればグリーンベレーも養成出来そうな勢いだ。」

 

「そうか、では将来、来るべきの時のために育ててくれ。」

 

「いい結果を見せるさ。」

 

いい加減、暑いので事務所に戻ってくると、ダイスラーとルワンがいる。ダイスラーはキャクストンらを教導隊にした事で、事務方に回っていた。まぁもうすぐ六十代後半だしな。だが、見た目は出会った頃と変わらない。自分の席に座ると、汗だくの総司が入って来た。上半身の彫り物が映えるいい体をしてる。腕の彫り物は俺の鏡写らしい。あれほど止めたのに…俺も鍛えようかな…。

 

「父さん、少しいいかな。」

 

「どうした?」

 

「魚雷艇一隻と沖のウチが管理してる島がいくつか欲しいんだけど…いい?」

 

ワーキングチェアに座り汗を拭きながら、とんでもない事を言う。

 

「あのな、物事は順序立てて話すもんだ。着上陸訓練か?」

 

「トーゴー、それはあなたに似たんですよ。リトル・トーゴー、魚雷艇を使って何を?」

 

「リゾート地にしようと思って。ホテルとモーテルはこっちにあるじゃん?島にロッジでも立てたら結構、いい稼ぎになると思うんだ。」

 

「なるほどな。魚雷艇である意味は?」

 

「積載量と安全性、いざと言うときに戦隊に組み込める。」

 

「トーゴー、俺はありだと思うぞ?運営管理をサンカンパレスに委託して、上がりを分けたらこっちの人間をさほど割かずに新しい事業を始められる。」

 

総司も最近、自分で考えて動くようになった。街の人に可愛がって貰っているので繁華街の管理は、ルワンも総司に任せ始めている。実にいい事だ。最近ではラオ氏のところに交渉に行って、みかじめ料の改定…値引きを実現したらしい。どうしてだと疑問に思っていたが、なんの事はない。店数が増えた。いまや、タイでも有数の観光都市と言える栄え様だ。

 

「そうだな…ルワン、少し面倒見てやってくれ。」

 

「トーゴー。お前は先が見えている割に、目の前が見えていない。」

 

「何の事だ?」

 

「総司に任せて大丈夫だ。もう大人だ。」

 

「そうか…そうなのか。」

 

「やっていい?」

 

「おう。やってみろ。期待している。」

 

「わかった‼︎」

 

そう言って笑顔で出ていく総司は、少し遠い存在になった気がする。おっちゃん、センチメンタルである。

 

「リトル・トーゴーはトーゴーに期待を寄せられるといい顔をしますね。」

 

「そうなのか?」

 

「やっぱ、見えてねぇ‼︎」

 

「オスカーに聞きました。彼は人一倍真面目に、しかも一番キツいメニューをこなしているそうです。キャクストンはウエストポイントだったら間違いなく上から数えた方が早いと。」

 

「やっぱり学校行ってほしかったな。」

 

「仕方ねぇだろ。来た頃の総司は、トーゴーとの時間を優先したかったんだ。でも、二代目は盆暗って相場があるが、総司は心配ないな。」

 

「ヤクザは世襲しないぞ?優秀な奴が跡目だ。」

 

「トーゴー、オスカーもクローゼの息子のアレクも優秀ではありますが、リトル・トーゴーには三歩も四歩も劣ります。次代という点で彼に勝る人物はいないでしょう。」

 

「なんか複雑だよ。」

 

「そういえば総司は‘父さんの授業で教わった事を意識している’って言ってたな。何を教えた?」

 

「企業秘密。」

 

「よっぽどいい授業だったんだろう。」

 

 

日々が穏やかに過ぎ去り、退屈な日常を謳歌してると困った事も起きる。

 

「トーゴーなにか花代を集める用件あったか?」

 

「いや、特にないぞ?」

 

「ファンさんが何日か待てないかって言って来てるんだ。」

 

「総司の成人祝いで料理を用意してくれた店だな。そもそも要らない。払わなくていいと伝えてくれ。誰が担当の地域だ?」

 

「クロイだが、行ってないそうだ。」

 

「おかしな話だ。手違いじゃないのか?」

 

「そうだな。とりあえず断って来るよ。」

 

「念の為、店に二人くらいつけておこう。ルワンのところから出してくれ。」

 

「わかった。そうする。」

 

そもそも、俺たちは入り用として集金する場合はいつものみかじめ料に乗せるし、年に一度もない。と言うか花代というシステムを設けてはいない。

 

 

事件は二日後に起きた。ボコボコにされ、拘束された若者二人を、総司が引き摺って来た。どうやら勝手にみかじめ料を取ろうとしたストリートギャングらしい。件の花代を断ったところ、殴りつけたようで。ルワンの部下が止めようとしたのだが、幸か不幸か、総司は昼飯の最中だったと言う顛末だ。

 

「こいつら、ファンさんに手を出しやがった。」

 

「もう随分と教育された後だな。」

 

「当たり前だよ。」

 

「さて、どうしようか。ルワン、ストリートギャングって居るもんか?」

 

「あぁ。まぁ街の不良少年だ。どこにでも居るよ。」

 

「うーん…こう言うのは良くないな。」

 

「総司はどうする?」

 

「晒したいと思う。」

 

「そうだな。だが、あれは敵にする事だ。直接手を下してはいないが、死んでしまう。薬物を売る者使う者、潜入した米兵、コーザ・ノストラは敵だな。だが、彼らは敵ではない。」

 

「じゃあどうするの?」

 

「そうだな。日本のヤクザは責任を取る時に、小指を切り落とす。」

 

「ちょっと待ってくれ‼︎なんでもす…」

 

口を挟んできた少年を総司が蹴り飛ばした。少し似過ぎてる。

 

「自分で切り落とすのが流儀だが、やりそうにないな。ダイスラー、ワイヤーカッターを。切り落としてやれ。左手の小指だ。」

 

「いや。俺がやる。」

 

カッターを持った総司が少年たちの後ろに立つ。

 

「待って‼︎もうしないって‼︎」

「ごめんなさい‼︎何でもするから‼︎」

 

「総司待て。なんでもするんだな?」

 

「何でもする‼︎トーゴーに従う‼︎」

 

「よし。総司、彼らは何でもするそうだ。同意を得た。小指を貰っておけ。」

 

「ガァァァァッツ」

「まっアァァァァッ」

 

とんでもない叫び声を上げるが、知った事ではない。俺の恩人に手を出して、タダで帰れると思うな。少々過剰かもしれんが、三合会のシマだったら今頃は海の藻屑だ。

 

「俺のシマで、俺たちの街でやっていい事とやってはいけない事がある。高い授業料だったな。総司、叩き出せ。」

 

少年たちを叩き出して、タバコに火をつけて一息入れる。

 

「トーゴー、少々苛烈では?」

 

「うん…総司も俺もだが、ファンさんの店じゃなかったら少し違っていたかも知れない。」

 

「そう言うものか。拾ってやれば良かったんじゃないか?」

 

「彼らは暴力でファンさんを従わせようとした。俺たちは彼らより遥かに強い。だが、弱者に暴力を行使した彼らは強者の側に立った。正しく行使できないのなら…彼らは暴力を行使する資格はない。そして、俺はそんな人間を…少年だとしても抱えるつもりはない。我が社はいつでも門戸を開いている。彼らより幼い子供たちですら雇ってもらえないかって聞きに来るのに、彼らは来なかった。」

 

「そう言えば予備隊…あれはどう言うつもりだ?」

 

予備隊…最近、弊社に来る子供達が増えた。雇用希望で。断っては浮浪児になってしまうので予備隊として、小遣いと衣住食を与え、教育を受けさせている。ちなみに、マクドゥガルは子供受けいいらしい。

 

「慈善事業だ。俺たちはヤクザだからな。カタギに愛される様に振る舞う義務がある。」

 

「十分やってると思うんだがな。」

 

「ルワンは1ドル相当の物を1ドルで買った時と、2ドル相当の物を1ドルで買った時、どちらが嬉しい?」

 

「後者だ。」

 

「そう言う事だ。我々は無頼だ。ならば、収めて貰っている額の2倍も3倍も返す必要がある。」

 

「なるほどなぁ〜。よく考えるなぁ…」

 

「ところで道路の管轄はどこだ?配送部門から上がってるタイヤ購入の申請が多すぎる。毎月、数台分のタイヤを買っている。道路の舗装が急務だ。」

 

「役所の…どの部門だろうな。」

 

「ピンの爺さんに聞いてくれ。役所にも知り合いはいるだろう。」

 

「どうするんだ?」

 

「誰か…適当な人間挟んで寄付しよう。」

 

「ヤクザだと言ってみたり篤志家だったり。宗旨替えの激しい事で。」

 

「レーサーでもないのに毎月タイヤを潰されるよりマシだ。」

 

「違いない。」

 

 

平々凡々と生きていられるなら世界は優しいだろう。

 

「総司君もアクシズに入ったのですね。」

 

「自分の意思で決めた事だ。止めようがない。」

 

「父さんはかなり渋い顔してたよ。」

 

「ところで、本日お求めの商品は?」

 

「我々は陸と海では局地戦において、ある程度は軍隊に対抗出来ると思います。ただ、空に対抗出来る手段がないんです。」

 

「なるほど。現実的には武装ヘリ…でしょうね。ベトナムとカンボジアからの流れ物があります。」

 

「それは一度、父さんに提案したんですが、却下されました。‘我々は軍隊ではない’との事で。」

 

オロホフ氏は腹を抱えて笑い転げた。取引先で取っていい態度ではない。

 

「総司君の父上はユーモアセンスがある。トップは武装親衛隊、将校に米軍、下士官兵は南ベトナム軍。ジョークか寝ぼけているのかですよ。」

 

「税金を真っ当に納めているし、アメリカ様の指定企業で地元への貢献も大きい。だが、税務監査でも喰らったら社長以下役付きはもれなく終身刑待ったなしだ。クーデターか軍閥の独立とでも言われたら言い訳のしようがない。」

 

「で、あるので対空兵器を購入したいんです。」

 

「流行の品はスティンガーですが、最新式でまだまだ手に入らない。アクシズは西側装備が中心です。ベトナムで集めたミニガン、M134はどうでしょう?」

 

「そんなもの手に入るのか!?」

 

「キャクストンさんはベトナムで使ったのでは?」

 

「ドアガンだ。総司、このM134は二人で運用できる。シマ内の屋上なんかに配備すれば対空防御に使える。」

 

「父上の要望にも添えるのでは?」

 

「武装してないヘリってないですか?」

 

「同じくベトナム流れのUH-1が三機、部品取りに使えそうなスクラップが八機ほどあります。」

 

「父さん、ロッジにエアクルーズプランを入れようと思うんだけどどうかな?」

 

総司、そんな詭弁も使える様になったのか…お父さん末恐ろしいよ。

 

「キャクストン、マクドゥガルが言っていたよ‘ヘリがあればグリーンベレーも養成できる’ってな。」

 

「それは俺も思っていた。」

 

「総司、俺が認めたのはエアクルーズだ。空挺部隊とか、ガンシップなんて話は聞いていない。」

 

「わかった‼︎」

 

後日、オロホフ氏が納品してくれたヘリ…UH-1と言うらしい…とは別に、‘総司君への成人祝いです’と貼られたM134がドアガン用のアタッチメントと共に届けられた事を決済書がない以上、俺は知らなかった。

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