起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき旅人

見舞いに行った晩、早々に出かける用意をしていた。今回は1人で行く。誰にも相談はしていない。十四年式拳銃は弾がそれほど無い。終戦時に貰った弾倉が3つだけだ。1つを油紙から出して、本体も出す。軽くバラして油を差す。深呼吸して腰に十四年式拳銃を差して上着を着る。

 

「さて、行くか。」

 

深夜の街を抜けて病院の…職員用通用口から入る。思った通り白衣やらシーツが洗濯カゴ放り込まれている。上着をカゴの脇に隠して、白衣1枚拝借して羽織る。階段を駆け上がって病室前に来た。やるんだ。スライドを引いて装填する。病室に入ると寝ている新開を視認した。

 

パッパパッ

 

いつもの三連発。ベッドの上で新開の身体が跳ねた。さすが十四年式拳銃。押し付けて撃ったらそこまで大きい音はしなかった。

そのまま来た通路を戻って行く。薄暗い病院ってのは気味が悪い。洗濯カゴに白衣を返却し、上着を着て出る。洋画で見た手段だ。ホテルに侵入するのにサービスマンのジャケットを着て、避難誘導に紛れて殺しに行くシーン。火災報知器鳴らしてくるべきだったか…どの道、巡回ではバレる。もうどっちでもいいんだ。反省しながら布団にはいる。この事で翌日、広島極道界隈で俺の名前は一躍時の人になった。

 

 

そこでのカシラからの呼び出しだった。山守の事務所に行くと…まぁいつも通りカシラとオジキがいた。

 

「小沢、今回の事で警察も怪しんどる。神原、有田、新開と同じ手法じゃけ。ちいと旅に出ぇ。昌三が出る頃まで広島の村岡組に行ってこいや。」

 

「そうじゃ。ちくと小沢の名前は売れすぎてもうたけんな。昌ちゃんの出所までほとぼり冷ましとくんやな。小沢に向いとる暇つぶしも用意してもろうとるけ。」

 

「自分向きの暇つぶしですか?」

 

「オヤッサンが理事やっちゅう競艇場で屋台やっとるじゃろ?あれを村岡組が警備をやってる競輪場でやってきたらええんじゃ。」

 

あー…村岡組が警備をやってる競輪場…勝利に爆破される便所か…いや俺はそっちの方がいいよ。

 

「はぁ…でも権利やらショバ代やらの手続きはどうなるんでしょうか?」

 

「そこは心配要らん。昌ちゃんの出所までって条件でカシラの松永には話通っとる。ありゃ兄弟じゃけん。」

 

手回しのいいことで…と思いながらオジキを見る。

 

「大丈夫や。出所決まったら戻したるに。」

 

「で、あれば。行ってきます。なんか村岡さんに手土産用意しに行ってきます。」

 

「昌三の参謀長目先が利くわい。」

 

「「あーっはははっ」」

 

高笑いする2人を後に残して廊下に出ると山守のオヤジさんに出会した。

 

「おう小沢、久しいのう。ちくと来てくれ。」

 

「はぁ。」

 

2階のオヤジさんの部屋に通されるなり語気粗めにまくし立ててきた。

 

「坂井のヤツ、ワシに向こう張って会社立ち上げるそうじゃ。挙句、ワシのことは神輿呼ばわり“黙ってりゃ悪い様にせん”言うて引退せぇ言う話じゃ。このままじゃ組乗っ取られるわい。」

 

「耳に挟んだ程度ですが、オヤジさん、ポン売ってたって言うじゃないですか。みんなポンは儲かるのにやってませんよ。」

 

「そりゃ没収したポンを積んでおく訳にもいかんじゃろ?それをかたいルートを通じて売っただけじゃにゃあの。上納金削られよってワシも稼がにゃいけんかったんよ。」

 

「オヤジさんが売ってたらみんなを止めてたカシラ、立つ瀬ないですよ。オヤジさんの立場も大事ですけど、みんなをまとめるカシラの立場も気にしましょうよ。カシラには自分から言うておきますから。」

 

「そうか…小沢が言うんじゃったらのう…」

 

「ところで村岡の御大は何か好きなものとかあるんでしょうか?」

 

「さぁのう…寄合で会うた時は身形はええ格好しとったの。」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

そう言って山守の事務所を出ると、上田組の事務所へ向かった。そう言えば山中に時計をくれてやってたな…嫌味にならん程度の時計でも買っていこう。そう決めて上田組の玄関を開けた。

 

「上田〜!居てるか〜!」

 

「兄貴、そんな叫ばんと聞こえようですよ。どがいしたんで?」

 

「ちょいと買い物付き合ってくれよ。村岡組に厄介になるから手土産をね。あ、あとコレ預かって。」

 

唐突に手提げ袋を渡した。床下3点セットだ。

 

「兄貴コレって…」

 

「頼むよ!!兄弟!!」

 

「かないませんなぁ〜…預かるだけでっせ。」

 

「じゃ、出かけよう!!」

 

「支度しますんでお待ちつかあさい。」

 

玄関先で待っているとバリッとスーツを着た上田が出てきた。

 

「おぉ~…カッコいいじゃん!!似合ってるよ!!」

 

「いやありがとうございます…兄貴に言われると照れます。」

 

「おうし、行くか!!」

 

そうして向かったのは市内の貴金属店だった。

 

「兄貴、こんな店で何買うてくんで?」

 

「腕時計買っていこうと思って。村岡氏は身形に気を使ってるって話だからね…ああすいません。コレとコレ、あとそっちのも見せてもらえます?」

 

気安く出してもらったが、身形の差だろう。上田の前に置かれた。どれも何十万と言うプライスタグがぶら下がっている。なんともまぁ…前世ですらG-SHOCK使ってたくらいなのに。品定めしながら雑談に興じた。

 

「兄貴、それらスイス製の何十万もする時計でっせ?」

 

「いーんだ。気風の良さは博徒の泊だぜ?」

 

「兄貴、ほとんど屋台やないですか…アレ儲かるんで?」

 

「月に…まぁ30〜40万にはなってるよ。人件費が高い分俺に入るのもそこそこだけど、俺は子分いないからさ。あ、コレ買います!!」

 

フラッときた開襟シャツにジャケット、雪駄の男が20万近い時計を買ったんだ。店員の反応も目を丸くしている。ふふーん。買うのは俺だよーん。

 

「あ、あとそっちのもいくらか見せてもらえます?」

 

そこで出してもらったのは懐中時計だった。

 

「あとチェーンもありませんかね。」

 

いくらかの懐中時計のセットが並ぶ。うーん…いい値段。

 

「兄貴、懐中時計なんか使うんで?」

 

「うん。上田どれがいいと思う?」

 

「自分でしたら…このアッサリした懐中時計に少し太いチェーンを合わせたらええと思います。」

 

「じゃあそうしよう!!会計してくるから待っといて〜。」

 

そうして会計をする。腕時計と懐中時計あわせて2ヶ月分の収入だが…良かろう。村岡氏はさて置いても松永の印象は良くしておきたい。会計が終わって、外に出ると上田に包みの1つを渡す。

 

「懐中時計は上田にだ。いつもの感謝だよ。」

 

「は?兄貴。え?」

 

「出したもん引っ込めさせんなよ?俺が恥をかく。」

 

上田は若い頃にオジキと揉めて片腕を落とされてる。腕時計は1人でつけるに難儀するだろうから、懐中時計にした。

 

「兄貴、この時計、村岡のオヤジさんに勝ったのより…」

 

「上田君〜…いい男になれよ〜?」

 

笑いながら背中を叩いてやる。やめろ。往来ある所で頭下げるな。しかも涙目で。

それからと言うもの、上田は必ず懐中時計を持っていてくれたらしい。しかも子分に自慢しながら。いい買い物だった。

 

 

しばらくして俺は村岡組の門を叩いた。

 

「呉から来ました小沢夏樹です〜」

 

「おうおう。わしゃカシラやらしてもろうとる松永じゃ。若杉の兄弟から聞きようた。丁度オヤジさんもおられるけん。あがりんさい。」

 

実に立派な玄関、玄関として機能する空間だけで前世の俺の部屋みたいな広さを抜けて応接間に通された。奥のソファに村岡のオヤジさん、もとい村岡常夫、右手に高梨国松、左手に若頭の松永弘が腰を下ろした。

 

「遠い所、よう来られた。おまんさんの活躍はようよう聞いとる。客分に迎えられる事は組としても鼻が高いちゅうもんよのう、高梨。」

 

「オヤジさんの言うとおりですけん。山守組の小沢言うたら呉だけやのうて市内の極道も知らんもんはおらんですわい。」

 

「恐縮です。コチラ皆さんで召し上がってください。呉で同期の桜が饅頭屋やってまして。宣伝がてらお持ちしました。コチラはお世話になる村岡のオヤジさんに心許の品です。」

 

「おう。誰ぞ。渋茶持ってこんかい。」

 

「ほう!!極道モンとしてじゃのうて挨拶まで…ほんに気が利く。海軍仕込みかのう!!」

 

高笑いする村岡のオヤジさんと高梨だが、包みを開けた瞬間、固まった。…安すぎたか?

 

「こりゃあ…スイス製の腕時計じゃのう…小沢よ。どう言う腹じゃ?」

 

ヤバい。睨まれると怖い…名和宏、2回目でも怖い!!がこちとら松方梅宮コンビ向こうに回しとんじゃ!!怖かないわい!!

 

「はぁ…もしお気に召さなければ処分していただいて結構です。が、最近、マーケットで時計を壊された若者に自分の高級腕時計をあげた…と言う話を聞きまして。僭越ながらご挨拶にお待ちした次第です。」

 

「気が利く…と言うよりかはいい耳持っとるようだのう…いや申し訳ない。ここまでの御心遣い、恐れ入りました。また、この様に高価な物まで見立てて頂き恐悦至極。村岡組の客人に迎え入れられる事は誉れなこと。ごゆるりとお寛ぎの程を。」

 

そう言ってテーブルに手をついて頭を下げる村岡組長を見た2人も続いて頭を下げた。

 

「若輩者です。巡り合わせが違えば、自分その若者だった可能性もあります。村岡のオヤジさんの懐の太さ、心より御礼申し上げます。」

 

「「「あーっはっはっは…」」」

 

「いや小沢氏、成り行きで拾ったまで。気になさんな。それと聞きとうてしゃあない事がおうたんじゃ。」

 

「はぁ…どうされましたか?」

 

「組を持たんと言うてるらしいじゃなぁの。何で持たんのじゃ?」

 

「単純な話です。懲役行ってる広能兄貴の差し置いて組持つのは順が違いますんで。」

 

「ほうならおまんさんの兄弟の盃交わした上田は広能よりか弟分になるんやないか?」

 

「松永さん、自分は広能の兄貴の舎弟分です。上田は元は愚連隊の頭、それなりに人望もありますんで。」

 

「そりゃ欲がなさすぎるのと違うかのう…」

 

「松永、高梨、これもまた極道らしゅうてええやないか。松永、今晩には盆に連れて行って差し上げろ。博打の方もなかなかと聞く。一つ打って貰うたらええ。」

 

「へぇ。では暮れに迎えに上がりますんでごゆるりと。」

 

 

そんなこんなで案内された部屋でダラダラとしてたらあっという間に日が暮れてた。ちょっとした旅館のようで気が引けるが、ココは素直に甘えとこう。うたた寝かましてたら松永さんが迎えに来てくれた。

 

「こちら、オヤジさんが当分の小遣いにと預かって参りましたんでお納め願います。」

 

「え、いや、ちょっと多すぎませんか?」

 

中身を見るとちょっとした年収が入っていた。

 

「いたく時計に感動されまして。申し訳ないんですがの、野暮用にも付き合うてつかあさい。」

 

「へぇ。大友連合会の盆暗息子が的屋にも関わらず、ゴザ敷いとるんですわ。そっち巻かせてから賭場に案内しよう思うてます。」

 

あの日か…アレを上手くまとめたら松永を味方にできるかも知れない。そんな淡い期待を持ってついて行ってしまった。まぁ甘かった。

 

 

時森組の賭場に入るとやっぱりいた。大友勝利だ。そして松永名ゼリフから始まった。

 

「おう大友。賭場開くんは博徒のシノギじゃ。今日のところは見逃しちゃるけ。ゴザ巻けや。おう。」

 

「松永よ。わしゃあ時森のオヤジさんに面倒見て守ろうて博徒大友組立ち上げるけん。了見せぇや。」

 

「大友にはワシの暖簾やるけん。それに博打の垢はワシのほうが長いて村岡に言うとけ。」

 

そう返されると同時に大友の舎弟…舎弟?ただのチンピラじゃん。松永もトサカに来てるのが横顔ですら分かる。

 

「あのぅ…ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「おん?おまん誰ぞ?」

 

「大友、うちの客人の小沢氏じゃ。口の利き方気付けや。」

 

「おー呉で殺し過ぎておん出されたいうヤツかのう?」

 

「くれぁっええ加減にせぇ!!」

 

「まぁまぁ…売り言葉に買い言葉じゃ進む話も進まんですよ。で、ここは一つ半丁博打で決めましょう。どうです松永さん?大友さんも。」

 

「小沢氏がそがいに言うんなら…」

 

「博打でぇ?ワシらが勝ったらどうしてくれんなら。」

 

考えてなかったとは言えないが、まぁいい。ここらで腹括ってみよう。

 

「今日の所は賭場を見逃して貰います。足りませんか?」

 

「足らんのう!!小沢とやらの指でも貰うとくかの?あーっはっはっ。」

 

「いいよ。やろう。」

 

「待ってくれ小沢の。これは村岡の諍いじゃ。小沢のに指落とす事になったらオヤジさんにも若杉の兄弟にも顔向け出来ん。」

 

そう言って俺の両肩を掴むと松永は必死に止めてきた。それもそうか…とはならん。博徒小沢、吐いた唾は飲めん。

 

「勝てばいいんです。退きませんよ?」

 

そうして俺は賭場に着いた。

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