賛否いただいてますけど、もう少しお付き合いいただきたいです。
おはようから、おそようまで。毎日、断続的に聞こえる銃声の中で、あいつらはどうやって寝ているんだ。いやそもそも寝てない?正午を過ぎた頃に起床するが銃声は聞こえている。
あぁこれで‘魂が帰ってこられない’って状態になるのか。数回のオペレーション・イビキは毎度の激しい妨害の果てに成功したものの、戦略目標(疲労回復、睡眠不足の解消)は達成出来た事は今の所ない。
渋々起床し、髪を後ろにまとめて、髭を剃る。いつも通りアロハに着替えて、指揮所へ入る。
「マッコーリー急げ‼︎ブルクドルフの援護に回れ‼︎総司‼︎無理なら失陥点と両脇を第二ラインまで下げろ‼︎」
『こちらブルクドルフ‼︎敵火力が増した‼︎特急便はまだか‼︎』
『もう少し粘れると思う‼︎』
『分隊長とカヴルがやられた‼︎後送してくれ‼︎出血は止めたが、意識がない‼︎』
『こちらケイン‼︎ポイント奪取‼︎ポイント奪取‼︎』
『退いています‼︎敵撤退‼︎』
起きて早々鉄火場である。夢なら覚めてくれたらいいのだが。
「ダイスラー、随分と忙しそうだね。」
「申し訳ありません。引き継ぎ後に強襲を受けました。第一中隊の防衛陣を二つ失陥しました。現在、ケインが奪取、ブルクドルフが奪還中であります。」
「ブルクドルフの小隊ははやれそうか?無理なら退かせるんだ。」
「総司はもう少し粘れると。」
「殲滅が目的じゃない。敵の出血が目的だ。」
「増援を回しました。これで無理であれば退かせます。」
「信じよう。」
一時間もすると銃声は止み、防衛ラインは第一まで復旧した。が、指揮所に来た総司の報告に腹を冷やした。
「父さん、申し訳ない。分隊長のエーカーが意識不明、カヴルは戦死。他に負傷者六名、戦線離脱はエーカーを含めて三人。」
「失態だ。大失態だ。何故、強攻した。何故、一度退かなかった。」
「コマンデール、私も奪還に同意しました。総司だけを責めるのは…」
「当たり前だ‼︎ダイスラーもだ‼︎何故、陣地奪還にこだわった‼︎陣取り合戦ではないんだ‼︎」
「でも、占領している街区の多さは今後の…」
「黙れっ‼︎」
勢いに任せて総司を殴ってしまった。が、甘い。
「コマンデール、やりすぎだ‼︎」
「アンドラス、ちょっと黙ってくれ。」
「トーゴー、よろしいでしょうか?」
「なんだ。」
「失礼。」
驚くべきことにダイスラーに殴り飛ばされた。うん。やっぱり痛いかもしれない。暴力は良くなかったか。
「トーゴー、兵の前で指揮官を叱責するのはいいでしょう。ですが、殴りつけるのは言語道断。士気に関わる。自制されたい。」
「やりすぎたな。申し訳ない。カヴルの家族は?」
「彼はミャンマーからの出稼ぎで来ました。国元に照会せねば分かりませんが、仕送りする相手はいたようです。」
「家族を探し出せ。養うんだ。」
「承知しました。」
「それと全員に話がある。無線を。」
「こちらを。」
無線を手に取る。握り潰したいくらいの気分である。
「みんな、聞いてくれ。怪我人こそ出していたが、遂に戦死者が出た。実に遺憾である。ミャンマーから来た青年は、この街を守るためにその命を散華した訳だ。冥福を祈ろう。ここで一つ、方針を修正する。」
無線を一度置いて、深呼吸する。ついでにタバコに火をつける。
「無闇矢鱈に敵を殺傷する事は許可しない。降った者、負傷した者は手当しろ。しかし…俺の部下を、俺の子分をとったケジメはつけて貰おう。露助の不調法を許すな‼︎カヴルの命は露助の命で埋め合わせして貰う‼︎徹底的に叩き潰せ‼︎ヤクザの流儀を教育してやれ‼︎俺の眼前にバラライカの小指を持って来い‼︎」
無線を置くと同時に街中から気勢を上げる叫びが聞こえる。頭目の指と子分一人の命ではいささか貫目が釣り合いが取れない。いや。カヴルという青年の命に俺と総司の頬だ。釣り合いとれた事にしよう。
「コマンデールは殺せと言わないのですね。」
「箍が外れては困る。ここは東部戦線でも南京でもない。虐殺は無しだ。それと目的は別のところにある。」
「承知です。その目的を伺っても?」
「バラライカは言うなれば、支店の店長に過ぎん。これを叩いても意味はあるまい?シーゲルがそうだった。」
「つまり?」
「以前同様、本国から責任者に来てもらう。」
「承知です。」
「アンドラス、十五時に散歩へ行く。支度を。」
「はっ‼︎」
「総司、少し派手に圧力をかけろ。キャクストンにも同様の指示を。オスカー、射程圏内に存在する敵陣営を五分間、釣瓶撃ちにしろ。建造物への被害は極力留意。マクドゥガルにヘリの用意を。オスカーの砲撃後、進発。ドアガンで歩兵戦力を掃射、威嚇程度でいい。十五時までの九十分間だ。火力で押し切れ。」
「コマンデール、戦闘目標は?」
「敵へ出血を強いるところは変わらない。が、街区をいくらか切り取るのも吝かではない。しかし、極力…」
「死人は出すな…でしょ?」
「いや、必ず配下を連れ帰れ。」
「わかった‼︎」
指示を聞いて総司が指揮所を出る。大丈夫だろうか。
「コマンデール、お優しいのですね。」
「かつて、自分の不手際で手前配下を失った。今回は自分の方針を徹底できなかった俺の手落ちだ。」
「責任を分散させては?」
「ここは外地ではない。ロアナプラだ。責任は俺に帰結する。それに…」
「それに?」
「配下の損失に堪えてるってのを知られてはどうかと思う。」
「だから皆従うのです。人間臭いトーゴーが皆好きなのです。」
「そうか…そうなのか。」
『第一、配置完了。いつでもいいよ。』
『第二、始められるぞ。』
『こちらオスカー、用意よし。』
『ヘリはいつでも飛べるぞ。』
「コマンデール、編成を完結しました。」
「よし。教育の時間といこう。始めようか。」
やや全力の攻撃にホテル・モスクワは怯んだのか、各指揮所から手応えがある報告が入る。戦争映画のような音が聞こえる。
『こちらキャクストン、第二は全ての戦線を押し上げる事に成功。双方の損害はこちらに軽傷者が四名、敵は二名重傷、捕虜にした。後送する。』
「よろしい。では、その地点に抗戦陣を構築。そのまま占拠しろ。」
『レイモンドだ。第一の前にルートを作った。浸透出来ると思うぞ。』
「コマンデール、指揮所付きの分隊を総司たちの支援に出しましょう。押し出せると考えます。」
「よし。アンドラスと防衛要員以外は回していい。」
「了解しました。」
『こちらブルクドルフだ。敵後方まで出た。タイミングをくれ。』
『父さん、第二は敵勢力を一部包囲する事に成功。』
いい調子なんだけど。怖い。やや全力で動かすとここまで出来るのか。本当に強烈だな。
「殲滅しますか?」
「包囲殲滅はカンナエ以来、軍人に抗えない誘惑をしてくるようだ。投降を呼びかけろ。連中にとってここは外地だ。」
「わかりました。総司、降伏を勧告しましょう。そこまでです。」
『従わない場合は?』
「手前の部隊を少し下げさせて、包囲を広く取って、迫撃砲の一斉射。もう一度降伏勧告。」
『わかった。状況に応じてオスカーに連絡する。』
『キャクストンだ。偵察に出した連中からの報告があった。第二の管轄戦区に向かう一個分隊を確認。その中に金髪の女がいる。バラライカとして扱っていいと考えるが?』
「それがバラライカです‼︎補足し続けてください‼︎コマンデール‼︎」
「アンドラス、少し早いが散歩に行こう。」
「いつでも‼︎」
指揮所に転がっていたG3カービンを拾い上げて、アロハを脱ぐ。みんなと同じタイガーカモの戦闘服を羽織る。
「行こう。躾の時間だ。」
先回りに、近道、坑道ルートを走り抜けて総司たちの包囲の外で待ち構える。基礎体力の差を痛感する。息が上がって呼吸が戻らない。
「コマンデール、体力なさすぎです。」
「お前らが化け物なんだ。1キロ以上走ったぞ。なぜ息が乱れていない?」
「3キロは余裕です。訓練は重要です。」
「こちらに向かってくる車両を確認‼︎」
「コマンデール、バラライカと思われます。」
「よし、車両を狙え。捕虜にして流儀を教育しよう。」
「総員構え。斉射三連‼︎足を止めろ‼︎」
車両が近づいてくる。金髪を靡かせているのはバラライカだろう。
「撃ち方始め‼︎」
車両に全弾命中し、ひっくり返る。その僅かな瞬間に乗っていた六人全員が飛び降りる。すごいな。軍人って。
脇道に全員が隠れるのを確認し、アンドラスが指示する。
「追跡する。走るぞ‼︎」
建物から建物へ移動し、バラライカたちを見つけた。
「あの金髪だ‼︎捕虜にしろ‼︎」
一人が残って弾幕を張って全員が退く。次の一人が残って全員が退く。その繰り返しで時間を稼ぐソ連兵の中に、顔に傷のある男もいた。間違いない。あの金髪は本物だろう。
「リロード‼︎」
「カバー‼︎」
「補足し続けろ‼︎」
撃ち続けてっも足止めができない。本当に強いんだ。連中は。一緒に射線に参加していた刹那、目の前に転がる筒を見た。
「グレネード‼︎伏せろ‼︎」
アンドラスに体当たり同然に押し倒された次の瞬間、一体が煙に覆われる。
「一度退け‼︎状況を整理する‼︎」
煙から出て、アンドラスが地図を広げて考え始める。
「血痕がいくらかあるのを確認した。相手には負傷者がいる。遠くへは行ってないだろう。」
「この地点に隠れられるポイントがあります。」
「負傷者がいるなら、こちらの薬局もあり得るかと。」
「ここから抜ける道があります。ここを辿って包囲の中に向かう可能性も。」
「バラライカは戦力の温存を図りたいはずだ。包囲の中に行く。」
「では、コマンデールこの地点に網を張りましょう。」
弾薬の残数を確認、再分配を済ませたアンドラスたちについて、角の安全を確保しながら街を進む。俺は思ってたより面倒なことをさせていたらしい。
「クリア‼︎進め‼︎」
「止まれ。そこの物陰を確認しろ‼︎」
「トラップ無し‼︎」
「市街地戦はこれだから…」
「アンドラス、こういうモノなのか?」
「そうです。市街地戦はこういうモノなんです。」
「手間なことをさせているな。」
「わかって皆やっています。ここら辺です。簡易陣地を構築しろ‼︎」
「ありがとう。手伝おう。」
周囲の物をうまく使って、バリケードを作り、周囲の警戒に入る。軍人ってのは本当にすごいと思う。そこら辺のガラクタが一瞬で陣地として姿を変える。
「敵はAKを持っています。フルオートで突っ込まれると厄介ですが、直進できなければ大きな脅威とはなり得ません。」
「あ、そう。」
「こっちとそっちにバリケードを構築、爆破しなければ通れません。敵は正面に出るしかない状況です。」
「あ、うん。」
「どうかされましたか?」
「あぁ…いや単純に凄いなと。」
「多分ですが、少尉の教育を受けたなら皆出来るかと。ジャングルよりは気楽です。」
「なんか…凄いのね。」
「アクシズはそういう集団です。」
「敵襲‼︎」
「正面に銃火、五を確認‼︎」
「撃ち返せ‼︎」
本当に言われたルートから現れた。最近の軍隊の思考回路は一緒なのか?
分隊のサイクルに混じって射撃に参加する。なかなか当たらないし、当てられる事もない。三人が常に弾幕を張り、二人が入れ替わる。常に射線を維持している。マガジン交換に隠れた瞬間、人生三つ目の‘坂’を目の当たりにした。
「お仕舞いなのよ。これで。」