新刊出てたんですね…全くチェックしてませんでした。(YouTubeの配信で知った)
依然として父は意識が戻らない。傷は大凡塞がったとのことで、顔面を真っ白に覆っていた包帯はなくなった。日本の仁友堂なる病院から研修で来ていた凄腕の脳外科医のお陰で、脳に障害は残らないそうだ。しかし左目と、左側の歯の三割は失われてしまった。
そんな中、父に見舞いが来ていると言う連絡が来た。人種的に身内だと思われると言う話で、ボディチェックだけ受けてもらっていた。病院に向かう道すがら、ルワンに聞いてみた。
「ルワン、父さんに日本人の友人ていた?」
「いや…出会ってから接触があった日本人はバンドーくらいなものだ。見てない所で…と言われたら分からない。それに老人だと聞いた。」
「老人で同人種って…ますます分からない。」
「まず会いに行こう。」
病院で入り口を固める警察に身元確認をされて、病室に通されると、監視役の警官が二人と老人と青年の二人。計四人がいた。
「見舞いとのことで、ありがとうございます。父も喜ぶかと。」
そう言うやいなや、振り返った老人の眼光は恐ろしいモノだった。確実に人を殺している。一人二人次元ではない。
「父じゃと…こんな、欠片ほども似とらんの。騙りじゃないんか?おう。似とるのは彫り物だけよの。」
「アンタ、何者か知らんが、その口の利き方はなんだ。総司はトーゴーの息子だぞ!!」
「トーゴー?コレはここでトーゴーと名乗っとるんか。東京では山守組から来た広能組の若い衆とか言うたらしいの。」
「アンタ、何者だ?父さんを知ってるのか?」
「誰何するんやったらおどれから名乗るんがスジっちゅうもんじゃないんか?」
「この街を仕切っています。アクシズ総代、東郷総司です。お見知りおきを。」
訛りのキツい日本語を話す老人は…そう言うと椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして正面から言い放つ様に発した。
「天政会…いや。博徒大友組組長、大友勝利。小沢夏樹の兄弟分じゃ。」
ルワンは意味が分からない様子だった。が、この老人は父さんの本名を知っていた。しかも、その兄弟分だと言う。本当に父さんを知っている人間だ。
「失礼しました、大友組長。日本から遠路、はるばるありがとうございます。」
「こがいな面晒しよって…こんな、まさか夏樹の血縁じゃあるまぁよ。」
「養子です。拾われました。」
大きくため息をついて、老人は鼻で笑いながら言葉を繋ぐ。
「よう人も変わらんの…コレは見所あると思うた人間を拾ってくるクセがおうての。しかも、本当に一端の男にしてもうて。日本のヤクザは少なからず、コレに影響されよるはずじゃ。」
「確かに。トーゴーは何処と無く人を見て選んでいる。見る目は確かだった。」
「トーゴーのぅ…思い切りよったわい。海軍出ならその名前の重さも分からんはずじゃ無かろうに。」
「アナタの知るこの人はどんな人ですか?」
「ワシの兄弟じゃ。それ以上もそれ以下もありゃせん。それがこがな南の果ても果てで寝腐りよって…こらァどういう了見じゃワレぇっ!!」
老人…大友さんは感情に任せてベッド蹴ろうとしたので、さすがにルワンとコレは不味いと羽交い締めにした。大友さんの連れていた青年も「オヤジ!!病院ですけ!!暴れんと頼みます!!」なんて言っていた。慣れている手付きだった。
一悶着も二悶着もして、なんとか部屋の外へ引きずり出そうとしたその時、サイドボードを殴り付ける音が部屋に響いた。
「勝利よぉ…病院で騒ぐもんじゃ…ねぇぞ?」
「夏樹…おどれ、子供おるんやったら、先にその子供の声かけるんがスジじゃろうが…」
「総司、いるのか?」
「あぁ…いるよ!!ここに居る!!」
呆然と立ち尽くす大友さんを横目に、ベッドに駆け寄って手を握ってしまった。
「悪かったなぁ…苦労かけたな。」
「いいよ!!全部終わった!!ちゃんと収まった!!何も問題は無いよ!!」
「勝利、俺のお迎えは勝利か…勝利、年下だったよな…」
「呆けよるんか。こんな、まだ薬抜けとらんのか。」
「起きたばかりだ。意識の混濁あるだろう。」
「ルワン…死んだか?」
「トーゴー、残念だな。ここは現世だ。みんなまだ生きてるよ。」
みんな声をかけて父さんに集まる。ルワンはここで看護師と医師呼びに出て行った。涙が止まらなかった。
「オヤジか上田、兄ぃがくると思ったのに…勝利と総司かぁ…」
「ちくと黙らんけ。勝手に殺すないや。」
入ってきた医師と看護師があれこれとし、今は記憶が混濁しているとのことだった。顔面の三割ほどを失った以外に異常はなかった。
大友組長を連れて喫煙所に行き、少し話をした。病室にはルワンが残ってくれた。
「アレはここで何しよんなら。」
「それは…」
ルワンや義父さん、キャクストンから聞いた父さんのして来た事、自分がして貰ってた事、それからしてきた事を大友組長に話しした。時折鼻で笑ったり、舌打ちをしていたところを見ると真面目に聞いていてくれたのだろう。
「変わらんの。舎弟たちに言えば、泣いて喜ぶ奴が日本にはゴマンとおるわい。」
「父さんはカタギになれといつも言っていました。」
「無理じゃ。舎弟子分ならいざ知らず、アレに育てられてヤクザにならん方がどうかしよるわい。」
「大友組長からみた父さんはどんな人ですか?」
「聞かれて答えられることじゃないの。」
「そうですか。」
「何日かおるけん。サンカンパレス言うホテルにおる。シャンとしたら連絡し。」
「わかりました。」
それから義父さんに連絡し…というか各所に連絡したんだが、みんな一様に「ゆっくりしたらいいんだ」という様な事を返してきた。父さんはいつも急いでる様に映っていたらしい。
明くる週、大友組長を連れて病院を訪れた。着流しという日本の服に中折れ帽という出立ちは、大友組長の彫りの深い顔だから出来る格好だろう。
医師から「病み上がりなので刺激しない様に」と釘を刺されて病室へと向かう。ドアを勢いよく開いたのは大友組長だった。
「ワレぇこらどういう了見じゃ、こんタコがぁぁぁっ‼︎」
うん。なんとなく分かっていた。
残された片目をこれでもかと見開いた父さんを見るに、この前の記憶はないか、不確かな物なのだろう。
「なんで…勝利…」
「おどれ、東京で彫りモン見せた上に名乗ったろう。アレは明石組の知り合いの舎弟じゃった。」
「坂東さんか…」
「そがな甘い事しよるから、矢野なんぞに刺されるんじゃ。ド阿呆。」
「矢野、捕まったのか…」
「ん。」
二人の会話の途中だったが、大友組長の後ろから顔を出した。
「父さん、ごめんよ。」
「あぁ総司、すまなかった。勝利、俺の…」
「息子じゃろう。聞いたわい。」
「そうか。こうしていると言う事は丸く収められたのか?」
「ルワンさんは「辛い所はない」って。マフィアも張のおかげで納得してくれた。」
「うん。そうか。済まなかった。申し訳…」
「ほんにおどれは阿呆か。息子が気張って結果を出しゆうに、褒めん親がこの三千世界のどこにおるんじゃ。ボケが。」
「そうか。よくやった。ダイスラーはどうした?」
「引退させた。」
「うん。だよな。」
「父さんが撃たれた後「俺の子にまた家族を失わせるな」って言ってくれてね…」
そこから今日までの事、ロアナプラの現状とホテルモスクワとの手打ち、今後の予定を全部話した。頷きながら、残った片目から涙を流す姿は…少し老いて見えた。
「総司、すごいよ。お前は。本当にありがとう。」
「夏樹、もう引退せ。こんなの出る幕は終わっとるど。」
「そうだな…そうしよう。」
「父さん、一つしたい事がある。」
「なんだ。」
「日本のヤクザは代替わりする時に継承式をするって聞いた。やろうよ。」
「おう、やったらええ。一つの区切りじゃ。」
「じゃあ勝利、お前が媒酌人だ。」
「ケッ…こがな地の果てまで来て…。」
週末、会社の倉庫を大友組長の指示通りに仕立てて、継承式を行なった。多少、意図が伝わらず本式のそれとは少し違ったらしいが、それもロアナプラのやり方と言う事でいいだろう。三合会、マニサレラ・カルテル、コーザ・ノストラ、オロホフさんにプレーク、ワトサップやブーゲンビリア貿易からも参列者が来た。大友組長いわく「喧嘩した相手を呼びつける事で上下を明確にする」と言う事らしかった。針の筵だったろうに。
日本語が少しわかるルワンが式次第の通訳をしながら、事は進んだ。心残りは義父さんを呼べなかった事だ。大友組長の猛烈な却下と、苛烈な拒否によって呼ぶ事は叶わなかった。そういう仕来りも学ばなければならない。
大友組長がいる間にあれやこれやのヤクザの心構えや在り方、‘侠気’と言っていた…を教わり、飲みに行った。父さんは日本の仲間の話を聞いている時、なんて言うのかわからない表情をしていた。穏やかで悲しそうで、申し訳なさそうな…。
そして、あっという間に帰国の日が来た。空港で飛行機を待つ間、大友組長は堪りかねた様に言葉を発した。
「夏樹、どうするんじゃ。」
「なにがよ。」
「倉元も野崎も、水上もおるんぞ。黙ってこのままいるんか。」
「そうだな…じゃあ勝利の遺書に一つ書いてくれよ。」
「何書け言うんじゃ。」
「関村締め上げてみろ…ってな。」
「ほうか…あの女衒が書いた絵かいの。」
「でも、いいんだ。俺がいたら独り立ち出来ねーだろ。」
「人を見る目はあっても、目の前は見えん奴じゃの。」
「悪かったな。じゃ…勝利、ありがとう。」
「おう。またの。総司、何かあったら広島に来いや。場所は…」
「博徒大友組…ですね。」
「ほうじゃ。このグウタレん面倒、頼むど。」
「もちろんです。」
こうして予想外の来客と、その効果によってか父さんの帰還は実現した。
言うまでもなく後日、引退したにも関わらず、事務所の床に正座させられている父さんがあらゆる人に目撃されたのは言うまでもない。
誰に起こさせるか、トーゴーの正体を明確にすること、勝利を呼びたかった私の願望です。
勝利だけで20話くらい書けるくらい勝利に思い入れがあります。