前話は元職の記憶を基に作りました。みなさん、豆は焼いて10日だそうですよ。
エスプレッソマシーンは真面目に説明すると文量えげつないので勘弁してください。ちなみに私、ラテアートはスワンが得意でした。
継承式からしばらく、闘争の日から多くのことが日常に置換された頃。鷲峰組が送ってくれる素麺を堪能した後、傘下としたホテルモスクワがブーゲンビリア貿易の駐在員を寄越した。なんでも仕事の種があるとかで。とりあえずオスカーとルワンを連れて、応接室にいく。
「ハシェクさん、本日はどう言うご用向きで?」
「本国から連絡がありまして。日本のとある重工企業がですね、某国の核開発に協力すると言ったそうです。」
「それで?我々は核兵器の取り扱い、それに近い物を持っていない。あまり魅力のある仕事になると思えないんだけど。」
「問題はですね、その国はほぼ鎖国に近い状態でして。第三国経由でその計画を記したディスクを船便と陸路で運搬するとのことです。それを攫いたいと考えています。」
「今更ですが…我々に海賊をせよと?」
「どう捉えるかはお任せしますが、これをキッカケにその企業と付き合うのも一つでしょうし、某国に売るもいいと考えています。」
今更、絶対合法というつもりはないものの、少しリスキーな気がする。
「二人はどう思う?」
「最後の判断は総司の判断だが、少し引っかかるな。核の拡散はうちの仕事に響く。先代が仲良くしてた連中にも睨まれる。」
「私はいいとは思います。帳面上、我々は中身を知らない。が、アレクを使うのは気が引けますね。」
「核か…うちの取り扱い…というかオロホフさんのカタログにないもんな…うん。」
「もしよろしければ、アクシズではなく、ラグーン商会に繋ぎを取っていただけませんか?過日世話にもなってますので、義理があるのです。」
「ラグーンにやらせるなら受けてもいいかと。」
「オスカー待ってくれ。某国はうちに出入りしてる船便の航路が絡む。その海域の不安定化は美味しくないぞ?」
コーヒーを飲んで、タバコに火をつける。金の匂いはするがリスキーな面が拭えない。
「難しいな…条件を付けよう。」
「条件ですか?」
「ラグーンに仕事を振っていい。だが、そのディスクはその企業に買い戻させる。交渉はそっちでやってもこっちでやってもいい。」
「それで本国も納得するでしょう。こちr…」
そう言って懐に右手を淹れた瞬間、オスカーのブローニングハイパワーがハシェクを捉える。
「待ってください‼︎航路です‼︎」
「左手は上げてゆっくり右手を出せ。」
「わかりました。撃たないでくださいよ…?」
ゆっくり出された紙を受け取ると、オスカーはブローニングをしまった。
「なるほど…この航路上のどこかで襲撃、回収をかけると。受け渡しは?」
「ラグーン商会の使用する乾ドックでどうでしょう?大きい荷ではないので、港である必要はないでしょう。」
「では、そうしよう。ルワン、ダッチを呼んでほしい。オスカーは仕事に戻っていいよ。」
「わかった。連絡しよう。」
「承知。」
「ハシェクさん、請求諸々はラグーン商会からさせる。これは今から彼らの仕事になった。我々は手数料を取らない。」
「は?はぁ…いいのですか?」
「当たり前です。我々はここに座っているだけです。」
少し、細かい事をハシェクが説明して引き上げていった。
フットワークの軽さは仕事に繋がる。夕方には、ダッチが応接室のソファーに座っていた。
「なるほどね。このディスクとやらを頂戴してくるんだな。」
「そうだ。依頼料は2万と聞いている。どうか?受けるかい?」
「あぁ。御指名もいただいている様だしな。やろう。」
「ならお願いする。これが航路を書いた海図、そして受け渡しは君の乾ドックで。日時は戻ったら連絡があるはずだ。」
「OK。スマートに片付けて来よう。」
無駄のないやり取りはいい。手間が省ける。諸般の話が済んだ後、自分も決済書類の片付けに入る。ぼちぼち夕方になってきたので帰ろうと思って、帰り支度…と思った頃にワトサップがアメリカ人を連れて応接ソファーの使用にやってきた。
「総代、済まないね突然で。こちらロサンゼルス市警から来られたジョン・マクレーン警部補だ。捜査の絡みで来られたと。」
「ジョン・マクレーンだ。いくつか聞きたいことがあってね。にしても暑いな…。」
「アクシズ総代、東郷総司です。ナカトミビルの英雄ですね。テレビショーはここでも見れる。で、捜査、ですか?」
「あれは酷いクリスマスだったぜ…もうごめんだね。で、ミスタートーゴー、聞きたい事ってのは…」
「待ってくれ。ここでは総司と呼んでいただきたい。トーゴーは父を指す。」
「そうなのかい。これは失礼。それで、ハッカーを探してんだ。FBIからも話が来てたはずだが…」
FBIから…と聞いてワトサップを睨むと露骨に目を逸らした。のらりくらりと躱しているのだろう。話くらいは振ってて欲しかったな。
「警官二人を前に言い切ることではないんだけど、うちはヤクザだ。人探しは我々の仕事じゃないと思うが。」
「マクレーン氏はここら辺の地理に詳しくない。それでアクシズに連れてきたという訳だ。」
「では、そのハッカーについてお伺いしよう。余所者なら我々の目に留まるし、特徴があれば探せもする。」
「そりゃ結構。俺も早いところ帰りたいんだ。そいつはな…」
どうやらネットの世界を歩く覗き屋の様な物らしく、アメリカではマフィアとFBI、ついでに国防総省にも追われている青年らしい。コミックで読んだ怪盗みたいな存在だ。どうしたらその三者に追われることになるのか…オッサンに聞いてみよう。そして、非常に心当たりがある。
「約束は出来ないが、いくつかあたって見ましょう。連絡はワトサップに。では、そろそろ。終礼があるので。」
「ヤクザに終礼があるのか⁉︎」
「ヤクザでもタイムカードがあって、雇用契約も就業規則もある。残業には申請が必要だ。」
「少なくとも市警よりは待遇良さそうだな。」
「転職されますか?」
「ここいらのスパイスの効いた料理は口に合わなくてね。暑すぎるのもいただけねぇな。」
「残念です。玄関まで送りましょう。」
二人の警官を見送って、一度事務所に戻ると、ルワン、オスカー、キャクストンが待っていた。だが、定時を五分過ぎてる。
「ルワンさん、最近ダッチが雇った奴はハッカーだったって言ってたよね?」
「あぁ…いろいろ睨まれて流れてきたって彼か。そうだな。」
「合衆国から警察が来てる。」
「そりゃ大物だ。どんな奴なんだか。」
「キャクストン、さっきまで来ていたのはジョン・マクレーンだ。」
「ジョン・マクレーン…ナカトミビルのジョン・マクレーンか!?」
「厄介ですね。ニュースを見る限りしつこそうです。」
「ダッチに連絡を。まだ出港はしてないだろう。キャクストンはマクレーンの監視を。」
「わかった。連絡する。」
「地元の奴らでやらせておく。」
「それと、オスカーに頼みがあって。」
「なんでしょう?」
「どこか民間警備会社、傭兵で日本から仕事を受けないか見ててほしい。今回の狙うものがかなり物騒で、場合によっては実力行使も考えられると思うんだよね。」
「わかりました。情報を集めておきます。」
「総司、狙いの船の航路だが、オロホフ氏も使っている。連絡しておくかい?」
「そうですね。ルワンさんにお願いしても?」
「大丈夫だ。連絡しておく。」
「で、終わりかな?」
解散しようと思ってみんなを見やる。みんなが手元にある案件で、聞いておくべき事を確認する。なにかありそうだな…。
「総司、個人的になるかもしれないんだけどいい?」
「どうした?」
「父さんに昔の友人から連絡があって。絵を探してるらしいんだ。」
「絵?」
「うん。二枚あって、返事は保留したらしいんだけど、この前うちの制海権の中に海底ケーブルを引くのに沈没船が見つかって。そこを調査したいらしいんだ。」
「そこに絵があるの?」
「先方はそう見てる。」
「総司、海底云々はうちではどうにも出来ないぞ?」
「うーん…で、その絵はなんなの?」
「わからない。でも、作品名を聞く限り家に一枚はある。」
「なんで保留してるんだ?旦那が所在を隠すってことは何か厄介なのか?」
キャクストンの疑問はみんな思うところだと思う。なんで隠しているのか。昔の友人が探しているなら渡せばいいのに。
「多分、‘党’絡みなんだと思う。」
「旦那は武装親衛隊だったな。軍人であるという自己認識と反して、その名誉は失ったからな。」
「義父さんには、海底調査の許可は出せると伝えて欲しい。日時が決まり次第一度、うちに問い合わせてくれる様に言って。」
「アレクを通してタイ海軍とフィリピン海軍にも言い含めた方がいいな。制海権内で問題が起きると、うちの信用問題だ。」
「じゃあその指示はルワンから。キャクストンは義父さんに護衛を。バレない様に。」
「旦那にバレずに護衛!?無茶だ‼︎絶対バレる‼︎」
「それとなくでいいから。」
ようやく今日の業務がまとまった。これで、帰れる。
「じゃあみんなお疲れ様。また明日。」
数日後、ラグーン商会が出港して各種業務が滞りなく進んでいる…モスクワのシマの運営が始まり、ウラジオストク支社も営業を始めた中、毎日を順調に過ごしていた。そんな中で一通の招待状が三合会から届いた。
「総司、三合会から葬式の招待状が届いた。ラオ氏が亡くなったそうだ。ロアナプラでの功績は大きいとのことで、うちも招待したいと。どうする?」
「それはお悔やみを。出席する。ルワンさんと…俺も行こうかな。」
「総司、ちょっと待ってくれ。ラグーンの仕事といい、旦那の友人の件といい、ちょっとキナ臭い。代理を立てられないか?」
「キャクストンの言うとおりです。出来れば代理を。」
「うーん…オスカーのところからは?」
「海からアレクを。陸からは…」
「レイを出せる。その間、俺がみよう。ルワンじゃダメなのか?」
「うーん…父さん?」
「それだ。先代との付き合いだったしな。トーゴーに頼もう。」
「じゃあルワン、父さんとレイ、アレクを連れて…あと六人くらい護衛つけた上でお願い。あまり少人数でもアレだろうから。」
ラオさんと言えば、血を流さずにロアナプラに進出したやり手の香港マフィアとして、向こうでは知られているらしい。こちらではこちらの都合を考慮しつつ、自分のシノギを回す理性的な中国人と思われている。それ以来、ここに進出してくるマフィアはラオ氏の待遇を基準にしてきた。
「香典の用意もある。少なくない額だが用意した方がいいな。」
「その辺はルワンさんに任せるよ。恩を仇にしないくらいはお願い。」
「わかった。じゃあ、トーゴーに連絡する。」
「オスカーとキャクストンも準備よろしく。」
「承知。」
「諒解した。」
ラオ氏の訃報、こうして多くの別れがこれからあると思うと少し、切なくなる。こうしてロアナプラの歴史に残るであろう人物が一人、この世を去っていった。