ここすき、地味に嬉しいです。
旭日重工の行動から始まった一連の騒動が決着し、日常に戻りつつある中で日々の業務を進めていた。
「総司、何件か指示を仰ぎたい。ちょっといいか?」
「指示?何かあったか?」
「陳が上納金の改訂を求めてる。上がりが悪くて上納金が払えないそうだ。」
「陳…あー横流し屋ね。いたなそんなの。」
「あぁ。昔からいるチンピラだ。」
陳、その名の通りに中国系だ。父の頃からいるチンピラだが、中国系を三合会の管轄にした時、その傘下となるのを拒んだ人間だった。ラオさんは元からいた中国系、特に大陸系は優遇したのだが、三合会を嫌った人間も多かった。
「だったら三合会の庇護に入ればよかったのに。そして過去一度、改訂もしている。業績が上がらず、改訂を要求なんて聞けない。スズムシくらいの脳みそしかないのか。却下だ。」
「スズムシって…」
「わかった。あとはアレクから相談を受けてるが河川の方だ。ルアクの海賊団いるだろ?海の治安向上で河を上る船は減って、今も河で物を運んでるのはラグーンくらいだ。利益が上がらんとよ。」
「治安が向上してる環境に文句をつけるな。バカなのか。スズムシなのか。環境に順応できない方が悪い。これも却下だ。」
「スズムシかよ…」
「あとは、ホテルモスクワだが…」
「スズムシの話は聞かん。却下だ。」
「ホテルモスクワもスズムシ扱い…」
「いや。ホテルモスクワがE.Oの本社を襲撃、8名を殺害、警察の追跡を撒いて撤収したとの報告だ。」
やっと仕掛けたか。忘れられてるのかと思った。まぁアメリカで襲撃をかけたんだ。及第点としておこう。
「オスカー、キャクストン、陳とルアクの脳みそはスズムシレベルだ。」
「これで実質的にE.Oは活動を停止しましたね。」
「フィリピンとカンボジアは焼いてやったからな。本当に傭兵だったのか疑問に思ったくらいだ。」
「ジャンキーという奴でしょう。傭兵と呼べるかも疑わしい。」
「まぁいいさ。これで我々はケジメをつけた。ルワンさん、あとは?」
「最近、街に白人が増えているくらいか。あぁ、ワトサップが感謝していたよ。」
「ワトサップが?」
全くの予想外の相手に少し面食らう。何かあっただろうか?むしろ最近‘ド派手なパーティー’を開催した負目がある。
「あれだ。急遽、アメリカの海外捜査が打ち切りになったそうだ。」
「マクレーンか。当たり前だ。引っ掻き回されたんじゃ堪ったもんじゃない。テロリストを一人で殲滅する奴ぞ。」
「ふざけてる奴だよな。居なくなって安心する。」
「キャクストンの言う通りです。常に監視をつけてましたからね。」
「あと、エアメールだ。日本からだぞ。」
「日本から…あ、大友組長からじゃん‼︎」
帰国してからと言うもの、大友組長は酒や地の物を送ってくれたりして結構、好評だ。特に花札は従業員のレクリエーションとして絶大な人気がある。
椅子にぶら下げている銃剣で封を切ると、癖のある大友組長の字が触り心地のいい和紙に現れる。季節の挨拶、俺の体調や父の様子を気にする内容、前回送った手紙の誤字脱字の訂正がいつもの書き出しだ。大体その後には一緒に送った物の食べ方や飲み方、遊び方の説明があるのだが、今回は手紙だけだ。
「そっか…」
「どうした?なにかあったのか?」
「大友組長は今年一杯で引退するそうだ。決まり次第もう一度連絡をくれるそうだが、冬にやる大友組の継承式に招待したいんだって。」
「トーゴーの兄弟って言ってたあのヤクザか。凄い人だったな。」
「調べましたが、気安く接することのできる人物ではありませんでした。」
「実際、どんな人なんだ?」
「あぁ俺も気になる。」
キャクストンとルワンは日本のヤクザ事情に詳しくない。どう言った人物か知らないのも無理はない。
「博徒大友組は配下1200人を超える大組織です。しかも、売春、薬物をやらない。合法賭博…日本ではパチンコや麻雀と呼ばれているものや違法カジノ、シマ内のみかじめ料、喧嘩の仲裁、談合の仕切り、人工の口入、そう言った事はやっている様ですね。驚きましたが、日本はヤクザを取り締まる法律があるのにも関わらず、大友組はかなり民衆に人気があります。」
「トーゴーの言うカタギに愛されるってやつか?さすが兄弟だな。似ている。」
「しかも、大友組長はこのヤクザを取り締まる法律を歓迎したと。」
「なるほど。トーゴーの兄弟ね。納得だ。」
「総司、これは行くべきだ。トーゴーの兄弟だからではないぞ?」
「ルワンさんの言う事はわかってる。大友組長のおかげで二代目として周知された恩がある。」
「総司は行くとしてあとのメンツはどうするんだ?」
「キャクストン、ここは何人か幹部の出席がスジでしょう。」
「そうだ。少なくともここにいる四人は出る必要がある。それと日本の文化に合わせて、モスクワ支部からも花を出そう。」
「みんなありがとう。例によって足は友達にお願いしよう。」
「そう言うところもトーゴーに似たのか…」
キャクストンの言葉に一同は爆笑した。
忘れたと思っていたキャクストンの再教育に汗を流す日々を送っていると、またエアメールが日本から届く。
「また大友組長か?この前、返事を出したばかりだろう?」
「いや。鷲峰組だ。この数年、堪えたものの、もう上納金をいくら積んでも組の存続が危ういと言っている。」
「うちとの取引でそれなりに儲けているはずだ。それに前回届けてる手土産があるだろう?使っていないのか?」
「キャクストン、日本の法律では厳しい。それに鷲峰周辺ですが、親組織の香砂会というヤクザが鷲峰を締め上げているのです。香砂会が参加している関東和平会というヤクザの集まりがあるのですが、それらが坂東の継承に難色を示しているそうです。」
「オスカーの言う通りだ。武器を与えたところで戦える訳じゃない。」
「なるほど。日本は難しい。最終判断は総司だな。」
前回、繋がりを持って以来、鷲峰組に輸出してもらった日本の品々をロアナプラで売っている。これも一つの商売になっている。鷲峰組にもそれなりの利益が出ているはずだが、それでも組の存続が危ういとはこれ如何に。
「友人の危機には手を差し伸べて然るべきと思う。冬、大友組の継承式の後に寄ろう。」
「非占領地における制圧作戦、と思っていいのか?」
「そんなところかな。日本ではここみたいな賄賂やら袖の下が通用しない。実務的なところはオスカーの指揮、諸々の準備と人選はキャクストン。で、二個分隊。ルワンさんは継承式の後は帰国、留守をお願い。入口と出口、避難経路は友達に依頼する。」
「わかった。三合会の張にも留守は知らせた方がいいだろう。」
「そうだね。調整はルワンさんお願い。では、みんなそれぞれの仕事を。」
厄介ごとのない日々というのは、頭を悩ませる必要がなくて助かる。
「ルワンさん、欲しいものがある。」
「なんだ薮から。」
「ルワン、これはトーゴーに似たんだ。間違いない。」
「パナマ船籍のデカい船が欲しい。」
「ほらな。始まった。気をつけろ。」
キャクストンの茶々を聞き流しながら話を続ける。
「この国で出来ないことをしようと思う。」
「何をするんです?総司の考えを聞きたいですね。」
「カジノだ。」
「なんか拍子抜けだな。裏カジノならそこら中にあるぞ。日本のコンビニと言える勢いだ。」
「そう言うのじゃなくて…」
思いついた事を整理してみんなに説明する。
船というものは船籍のある国の法律が適用される。つまり飛地となる。タイではカジノは違法で、パナマにはカジノがある。となれば、船内はパナマの法が適用される。すると、タイの港にありながらカジノを合法的に運営できるわけだ。そして、港はアクシズのシマだ。シマ内の商売は自由ならやるべきだろう。
「どこからそういう知識を仕入れてくるんですかね。キャクストンの授業ですか?」
「さぁ?かなり前に、トーゴーの個人授業があったって聞いてる。それだろう。」
「父さんが昔、大使館でカジノをやろうと思ってたらしい。」
「なんだその悪魔的発想は…だから南米の元大使と友達か‼︎悪魔も逃げ出すわな。」
キャクストンが勝手に納得した頃でルワンが話を戻す。
「その悪魔的発想だが、いくつか問題がある。一つは海軍の臨検を受けた時、アレクが上手く付き合っているが睨まれるのは間違いない。もう一つは堂々とカジノを開いた場合、他との軋轢が生まれる。俺たちは金がある。次点で稼いでるのは三合会、アクシズはその本家と比べたって遜色ない。そこで俺たちが他の組織と同じ事を金に物を言わせて大規模にやってみろ。」
「ルワンの言う通りです。仕事を奪う事になります。そうすれば抗争になりますよ。」
「そっか…それもそうだな。」
「要はやり方だろう?ルワン、船は買っていいんじゃないか?」
「キャクストンまで…戦争になるぞ。」
「いるじゃないか。賭博に詳しい専門家が、日本に。トーゴーは日本でカジノをやろうとした。と言う事は日本にカジノの需要があるんだろう?ならばそのタンカーはうちで用意して大友組に貸せばいい。パーセンテージを取って、大友組に管理させるんだ。大友組は博徒なんだろう?軋轢は生まないはずだろう?」
「キャクストン…どうしました?」
「ちょっと心変わりをな。」
「総司、キャクストンの案はいけるぞ。これを大友組長への手土産にすればあちらも断れないだろう。」
「いいねぇ…ルワンさん、そう言う事でやれない?」
「そうだな。船舶市場をあたってみよう。オロホフ氏はチャーターか?自前か?」
「飛行機は自前らしいけど、船はどうかなぁ…でも詳しいと思うよ‼︎」
「とりあえずこの話は預けてくれ。手続きやら何やらもある。」
「ルワンに任せるよ。」
この年の秋、アクシズはその見た目は中古のタンカー、内装はフラミンゴホテルにも引けを取らない豪奢な船を運用し始めた。
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