嵐の様なメイド騒動からしばらく。オスカーが珍しく午後からの訓練に出ているが、諸般の業務は回っている。基本的にオスカーかキャクストンがいれば警備会社は回り、ルワンがいて時々チャドがいれば港湾も回転する。エーカーの分隊が帰国して出してきた報告に目を通して一つ決める。
「ルワン、カゲヤマにコールしようと思う。エーカーがディエゴ・ラブレス氏の同意を取り付けてくれた。アクシズに採掘権をくれることになった。当面、独占の契約だ。」
「あぁ…あの子のな。利益が見込めるのならいいだろうな。どう言うところに噛むつもりだ?」
「鉱山とそこで取れるモノの警備だな。二個分隊か三個分隊くらいかな。キャクストンはどうかな?」
「ありだろう。今現在、本社には一個中隊と二個分隊少しがいる。」
「じゃあそう言う方向で。」
みんなの同意が取れたところでカゲヤマに架電する。数コールの後に懐かしい声を聞く。
「お久しぶりです。ミスターカゲヤマ。ベネズエラではうちの人間を使っていただいてありがとうございます。」
『ご無沙汰です。こちらも治安の悪い土地を安全に視察できるとあれば心強いものです。本日のご用向きはなんでしょう?』
「そのベネズエラ絡みの話だね。視察の結果はどうだった?」
『鉱脈は魅力的ですし、レアアースの安定供給は我が国の課題でもあります。ですが、土地の治安と鉱山近辺の地主が難物でしてね。少々課題が多いと考えています。』
「そうですか…採掘権と治安の確保ができたら旭日重工は開発に乗り出すと?」
『その方針でおります。』
「なら一つ、提供しよう。我々アクシズはちょっとした縁でラブレス家から採掘権をもらった。当面は独占となる。だが、我々に鉱山開発のノウハウはない。よって、旭日重工に鉱山の開発、採掘、販売をお願いしたい。」
『ほう…それは興味の湧く話題ですね…見返りを要求されるのでしょうね?』
本当にただの会社員か怪しいカゲヤマだが、抜け目のない声を聞かせてくれる。
「そうですね。鉱山と取れるモノに対するの警備を発注して欲しい。海外駐留であるのと、地元のマフィアとの折衝もこちらで済ませる。ので、少し高めの警備代をいただきたい。」
『なるほど…役員会に諮ってみましょう。タイの企業からの仲介かなんか、とでも言って私の専任案件にすればある程度、通じるでしょう。』
「ありがとう。じゃ誰か担当者を寄越して欲しい。あ、出来れば昔、お宅にいた岡島と面識のない人間がいいね。」
『岡島…善処しましょう。』
こうして一応、第三ヤードの修繕費用のアテは作れたところで仕事に区切りをつけた。
「総司、今日は連絡会だろう?少しネタがある。」
「ルワンの言うネタってのは荷の事?」
「いやリップオフの会計士からだ。俺も会計士も銃器には詳しくはないんだが、キャクストンに聞いたらブーゲンビリア貿易が妙なものを最近買い込んでるんだ。」
「妙なもの?」
「俺から説明する。ブーゲンビリア貿易…つまるところホテルモスクワは旧ソ連の銃器を使ってる。AKの7.62ミリか5.45ミリだ。だが、最近、スプリングフィールドの弾を買っている。こいつは連中のAKでは撃てない。撃てる銃を買った形跡もない。」
つまり、ホテルモスクワが西側の弾を買い込んでいると言う話だ。この街では別段気にする事ではない様に思えるが、これはかなり不自然と言える。アクシズでは元々コルト社の銃をメインにしていたが、キャクストンの判断でH&Kの銃をメインに順次更新している。もちろん弾もそれに合わせている。元々両方使っていたが、互換性がないと困るので性能、整備性、パーツの入手しやすさなどなど色々な事情でH&Kに落ち着いた。オロホフさんが売りたかったともいう。
これがブーゲンビリアが互換性のない弾を集めてるとなれば、不自然極まると言う外ない。
「どこかに流してる形跡は?」
「ルワンのところからは出ていない。」
「確かに収まり悪いね。あとマニサレラのペナルティに関しての書類は目通してくれた?」
「俺はいいと思う。」
「ルワンに同意だ。オスカーもいいと言っていた。」
「ありがとう。じゃ連絡会に行ってくる。誰か手隙の人間いない?」
「カルナップかシグが夜勤で、そろそろ上番する。」
「カルナップはダメだ。この前うちの街回りしてる奴らが喧嘩の仲裁をした。かなりの激情家だな。シラフでキレるくらいだしな。」
「あぁ。部隊指揮やら個人の戦闘能力は問題ないんだがな。むしろ優秀で祖父も元国防軍、親は共和国軍と聞くし、教養もある。だが、気性が荒い。シグにしよう。」
「なんでうちに来たのさ。シグ…名簿では見るな。最近、配属されたよね?」
「カルナップは徴兵逃れでボスニア紛争に参加。負傷し除隊。うちに来た。シグはブルクドルフが紹介を受けてきたんだ。まだまだ若い上に少し線は細いが概ね優秀。ライフルの扱いはまだまだだが、警備分隊で慣れたら海外にも出してみたいと思ってる。」
「なるほど…じゃあシグを連れて行く。つうか徴兵逃れで傭兵って…」
「軍隊にいた身としては理解できなくもない。」
よく分からない価値観もあったもんだと思う。軍隊も傭兵もつまるところは一緒だろうに。
シグと呼ばれるまだ二十代と思われる白人の青年が、キャクストンの紹介と共にきたところで支度をして出る。
暮れて街にネオンが輝き始めた頃、いつも集まるローワンのストリップバーの入り口でセキュリティカウンターにシグは拳銃を預ける。まだあどけなさも感じられる見た目に反して、持っていたのはM1911A、コルトガバメントだった。VIPルームに入るとみんな揃っている。
「みんなお待たせ。じゃあ始めよう。」
お付きの人間は入り口で銃を預ける。が、各組織のボスはここで自分の銃を出してマガジンとチャンバーに弾がない事を見せることになっている。張は悪趣味なコルトウッズマン、ヴェロッキオはベレッタ92、アブレーゴはコルト、ハシェクはトカレフとそれぞれの性格の見える選択だ。
「相変わらず古臭い銃を使いやがる。国から米軍に納入してるモデルのベレッタを取り寄せてやろうか?」
「そのP38は元はトーゴーの物だ。そう言ってやるな。」
「そう。これは父から引き継いだ。ヴェロッキオの心遣いはありがたく。みんな出したね?じゃあ本題。」
そう言って未だ顔に大きなガーゼを張っているアブレーゴを見やって言う。
「過日、マニサレラ・カルテルはアクシズが定めるルールを破ってベネズエラの富豪の子を売り飛ばそうとした。これは今後、うちがみんなから預かる荷の荷札を信じられなくなる事態だ。みんなには今後、虚偽のない様に徹底して欲しい。」
「ちょっと待てよ。今回問題を起こしたのはマニサレラだ。なんで俺たちまで釘を刺される?」
「吠えるなヴェロッキオ。総司は信用したいと言ってるに過ぎない。それに荷札を信用されなくなるとどうなる?俺たちが本家に送ってる品々はこれまでより一ヶ月は遅延する。そうしたら俺たちは本国に呼びつけられ、後任がこの街に来るだろう。」
「ケッ。胸糞悪い。」
それぞれのグラスにホストである俺がラムを注ぐ。いつものキャプテン・モルガンだ。
「まぁ飲んでくれ。アルコールは保存に効く。嘘以外の。そして、アブレーゴとその仲間の処遇だけど、マニサレラ・カルテルには罰金を課す。5万だ。今月中に払ってくれ。」
「わかった…払う。」
「君たちに与えている特権だが、モスケラ氏との約束だ。これはそのままにしておく。その代わり、俺の友人がベネズエラで鉱山開発をする。ここの警備をうちが請け負う事になった。これを本家に了承させろ。」
「それは即答できねぇのはわかってくれるだろ?」
「意味がわからないな。今回の問題を金で収めた上に、今後も優遇してやるからラブレス家の所領をうちに寄越せと言ってるんだ。」
「アブレーゴ、悪いことは言わねぇ。こいつぁかなりの温情だ。飲んでおけ。」
「そうだな。5万とシマの割譲。ホテルモスクワを見てみろ。本気になったアクシズとマニサレラは事を構えられるか?三合会ならしない。」
「我々も随分な温情をいただきました。」
「アブレーゴ、君が本家に言えないのなら直接切り取ったっていいんだ。本家ごと焼いたっていい。」
「…わかった。わかったよ。」
少々渋い顔はしたが、みんなの説得もあって、アブレーゴは飲んだ。まぁこれ以降も利益の出る予定なので金の方は努力目標だった。
「それと今回、ターミネーターが実在する事が判明した。よって、ヴェロッキオ・ファミリーに売る銃器の制限を撤廃する。ヴェロッキオには今後も良き隣人であって欲しい。」
「それはありがてぇ。先代のタイ支部長の失態を引きずるのも思うところがあったからな。今後も頼むぜ。」
「そう言えばどうなったの?シーゲルさん。」
「さぁな。帰国するなり引退して田舎に帰ったが、事故で亡くなったって聞いたな。」
まぁ予想通りの結末を迎えたと言うことか。疑問はない。さすがはイタリアマフィアって言ったところだろうか。
「それともう一つ。バオの店だ。」
「あそこはトーゴーの時からの中立地帯だろう?やめるのか?」
「張の心配は杞憂だ。我々は散々壊している。小規模にも大規模にも。先日はマニサレラ絡みで消し飛んで、先月は三合会の下っ端が暴れて椅子とテーブルが壊れ、その前にはヴェロッキオの配下が店で喧嘩だ。」
「確かに迷惑だな。俺も先月、謝りに行った。」
「酒場の喧嘩に俺たちが出張るこたねぇ。アブレーゴはやりすぎだったな。」
「あんなメイドがいるなんて思わねぇだろ。」
こうして考えるとバオは随分と心の広い人間であることがわかる。本当なら今頃、チェーン展開出来てたんじゃないだろうか?
「そんな訳で、今回アブレーゴから払ってもらった金のうち、2万を基金として街に迷惑をかけた時の補償代として積み立てる。今後、各組織から毎月上りの2%を収めて欲しい。」
「それはいい。トーゴーの言うカタギに愛されるマフィアだな。」
張の一言で事は収まる。これでルワンにも叱られずに済むだろう。満足のいく連絡会だったと思ってる時に、一つ思い出した。
「ここからは付録の雑談だけど、最近、ワトサップの押収する銃器とリップオフから出る銃器の数が合わない。個人で持ち込んでるとは思えない開きがある。みんな情報があれば教えて欲しい。それとハシェク、最近スプリングフィールド弾を買い込んでるらしいね。カラシニコフは用済みかい?」
「そりゃ大きなニュースだな。ホテルモスクワにしては珍しい。」
「待ってください。総司も張も勘繰り過ぎです‼︎注文があって買い揃えているのです‼︎」
「どこに売るのか知らないけど、持ち出すならうち通してね。」
「もちろんです。」
焦って弁解するところを見ると何かしらの隠し事はあるのだろう。まぁ一度痛い目を見ているホテルモスクワに限って、頭の悪い事はしないと思いたい。
「経験してんだろ?うちも今回知った。アクシズ、ひいては総司に隠し事はよくねぇ。首は繋がってこそ意味があんだ。アクシズは海も超えてシマを切り取りに来る。」
「心しましょう。」
こうしてメイド騒動に始まる一連の事件は決着した。
原作者のツイートにあったのでちゃんとシステム化してみました。