シルバーウィークなんてなかったんだ。
「修理が必要なクレーン2機、スクラップになったコンテナが25個、使えない移動クレーン4台、バオの店の調度品が一揃いで3万。赤字だよ‼︎」
「ごめん。ラブレス領を実質シマに出来たので許して。」
「まぁ鉱山経営が始まれば損失以上の利益になるかな…基金はいい考えだと思ったが。」
過日の連絡会の報告をしたのち、多少の小言をルワンから頂戴したところだった。昼に食べたナシゴレンのせいか、少し胸焼けする。そもそも統制してもここまで問題の多いと言う事は、街の統治構造に問題があるのではないか?と言う事に気づき始めてしまった訳だが今更だろう。
今日も窓の外からは銃声が…と思った所で少し遠くに爆炎が上がった。うん。今日もロアナプラは通常営業だ。爆炎なんて珍しくもない。いつもの…ことではないな。
「オスカー、今、爆炎が見えた…と思う。」
「えぇ。あれは爆炎でしょう。見覚えがあります。」
「あれは…RPGだろうな。塹壕とか装甲目標だとそうでもないが、普通の住宅に撃ち込むと結構、景気良く燃えるんだよな。」
「キャクストン、残念だが、住宅ではなさそうだ。総司、この距離と方向からして三合会の事務所あたりだろう。少なくともイエローフラッグはまだ営業していないし、方向が真逆だ。」
揃って事務所の窓から外を眺めていると、オスカーと入れ違いに街の地図をバサバサと広げながらルワンが近寄ってきた。
「どうする総司?三合会のシマの問題だから放置してもいいが、爆炎ってのは問題だろう?上番してる連中を連れて行こうか?」
「確かになぁ…張に一回電話してみない?」
「そうだな。確認してみよう。」
そう言う方針でいると、すでにオスカーが呼び出した後だった。そして、ほぼ同時にルワンが鳴った別の電話の受話器を持ち上げた。
「今かけたんですが不通です。三合会が電話に出ないと言うのはあり得ません。」
「うーん…どうしたもんかね。」
「ただ事ではないだろうな。」
「総司、ワトサップから電話だ。」
「なんだ。今日は忙しいな。」
自分のデスクに受けて受話器を持ち上げると、ため息混じりのワトサップの声が聞こえる。
『総司…抗争だの、喧嘩だのは前もって教えてくれ。この前もバオの店が消し飛んだだろう?』
「申し訳ない。ホテルモスクワとE.Oの件はうちだが、この前はマニサレラだし、今回も俺たちは事務所から眺めていただけだ。あの辺は三合会のシマだろう?」
『なんだ違うのか。遂に三合会とおっ始めたと思ったぜ。』
「三合会は本家も含めて友好的な関係を築いてるよ。」
『じゃあどこだ。三合会と喧嘩できる体力のあるところはアクシズくらいだぞ。』
「あのさ、たまには真面目に仕事しなよ。それ調べるの仕事だろ?」
『それもそうか。すまなかった。』
受話器を置いて盛大にため息を吐き捨てる。
「なんだって?」
「火元はどこだ?ってさ。」
「俺たちから上前ハネるのは変わらないが、先代のセーニは勤勉だったな。」
「本当に。ワトサップの勤勉性に期待を込めて業務に戻ろう。」
ワトサップを見習って、勤勉に書類を片付けているといい時間になってきたのか、オスカーがコーヒーを出してくれた。
「やっぱり義父さんのコーヒーは美味しいね。」
「えぇ。最近ではサンカンパレスのラウンジにも卸しているようです。」
「あぁ。旦那のコーヒーは美味い。この前のヴルストを買って帰ったが、うちの子供たちも喜んでた。」
「ルワンもコーヒー飲もう。」
「そうだな。一息入れるか。」
四人で15時のブレイクタイムを楽しみ、陽の傾きかけた街に目をやる。多少の喧騒と銃声、そして爆炎。爆炎?
「二発目だな。ここはいつから紛争地帯になった?」
「あっちは…ブーゲンビリア貿易かラグーン商会のある方ですね。」
「もちろんイエローフラッグはまだ営業していない。」
「流石にマズイかな?」
「もうすぐ街回りしてる連中が帰ってくる。銃声も聞こえるが、それからにしよう。」
ルワンの提案に三人で同意し、コーヒーを味わう。今の炸裂音は多分、手榴弾だな。絶対、なにかしらの非常事態が起きている。
「今のは手榴弾ですね。」
「こもった感じの音だったな。屋内の交戦と考えるが、素人だな。RPGを撃ち込んで無力化出来ないのは下手くそと言わざるを得ない。」
「出る?どうする?」
「いや。ルワンところの連中が戻ってからでいいだろう。どうしても気になるなら斥候でも出すか?シグとアンドラスが上番してる。」
「じゃあ実地も兼ねてシグに状況確認に出てもらおう。一応実弾装備で。」
「わかった。俺も行く。教習としよう。」
「よろしくね〜。」
そんな気軽な心持ちで再び業務に戻った。月末も近いので、決済書類が多い。ペタペタと決済印を押し続けていると話題の人物がアクシズの応接室に通された。
応接室に入るといつもの彪君と張がいた。テーブルにはアタッシュケースが置かれていた。
「張、電話したんだけどね。通じなかったみたいじゃん?」
「俺の事務所は今頃、ヨルダンあたりまで飛んで行ったよ。」
「やっぱり張のところだった?」
「あぁ。交渉が決裂するや否やRPGを貰った。度し難い連中だった。」
「もしかして二件目は?」
「ラグーンだ。問題はこのケースさ。」
「困るな。そう言うのは。」
「おかしいな。アクシズは運送をやっていたと思うが?」
こう言うところが張の上手いところだ。実にいやらしい手を使う。
「で、これは?」
「書類さ。ビッグブラザーが血眼になって探してるイスラム戦士の乱数表だ。」
最近、街で押収される武器と押収される武器が一致していなかった。その原因は東欧某国の諜報員が街のルールを知らずに露天商のように銃を売っていたことに起因していた。不幸なことに、三合会のシマ内でお気軽に販売していたところを真面目に調べていてくれた張たちの手下が捕まえた。あわや魚の餌となる時に差し出したのがこの書類ってことだった。売り先を探している時に、今回の度し難い連中に目をつけられた…と言う顛末だ。
「なるほどね。で、どうしろって?」
「これを所定の期日までにフィリピンの米軍基地まで届けてもらいたい。」
「いいんだけど、ラグーンには断られた?」
「いや。ダミー込みで5つのケースを用意した。その内の一つがこれだ。」
「そういうことか…で、アタリは?」
「申し訳ないがこちらも危ない橋だ。それは伏せたい。」
「なるほどね。わかった引き受けてもいい。」
「理解が早くて助かる。合言葉があるんだが…」
そこまで話していて銃声と怒号が聞こえた。ほぼ時を同じくしてオスカーが応接室に飛び込んできた。
「どうしたの?今銃声が…」
「敵襲‼︎武装集団がゲートを強行突破‼︎現在、アンドラスが迎撃中‼︎」
「張これがさっきの…」
「総司‼︎伏せろ‼︎」
その言葉と同時に、オスカーのほとんど体当たりとも言える押し倒しを喰らって床に吹き飛ぶ。同時に隣の倉庫にしてる部屋が吹き飛んで炎上する。RPGで間違いない。
「オスカー、全員排除。これは張の友人らしい。」
「友人?」
「待て待て。オスカーそんな目で睨むな。友人じゃない。俺だってアイツらに焼け出されたんだ。」
「とにかく全員排除。俺も行こうか?」
「総司が出るまでもないよ。もう鎮圧できそうだ。いや焦った。」
窓からゲートの方を見やって、オスカーは状況をそう判断した。オスカーは基本的にいつも敬語で話す。が、プライベートや焦ると敬語が抜ける癖がある。確かに、会社に襲撃を受けたことは今までなかった。
「張、相手の情報は?」
「この乱数表を奪還したいフィリピンを根城にしてるイスラム戦士の連中だ。」
「なるほどね…ゲートと建屋の修繕費も別で請求したい。」
「仕方なかろう。それはこちらで持つところだ。」
「事収まるまで行くアテはあるの?」
「どこかで小さくなってるさ。」
「オスカー、ルワン呼んできて。」
「わかった。」
数分待っていると、ルワンが頭をかきながら応接室にやってきた。
「損害はゲートと建屋、倉庫の備品が吹き飛んだがそこまで問題じゃない。誰だアイツらは。」
「ちょっと色々とあってね。」
ここでルワンとオスカーに事情を説明して、今回の依頼について話を振る。二人ともため息のとまらない様子だが、修繕費とセットなので致し方なく…と言う空気が滲み出ている。仕方ないと思う。
「キャクストンが戻ってからもう一度検討しよう。港湾部で引き受けるのか警備部で引き受けるのか。状況的に後者にしたいが。」
「ルワンの言う通りです。これは警備会社で受けましょう。アレクはフィリピン海軍とも付き合いがあるのでそちらから話を。」
「なんにせよキャクストン待ちだね。ルワン、うちのロッジ、一つ張に貸してあげて。あと一個分隊くらいつけてあげるようキャクストンに相談する。」
「わかった。手配する。」
「これは随分な待遇だな‼︎」
高笑いする張に向き直って話を続ける。
「ロッジ宿泊代、警備費用、別途請求ね。」
「抜け目ないな‼︎致し方あるまい。」
戻ってきたキャクストンに状況と事情を説明して、話し合いを始める。
「事情としてはまたしても巻き添えだな。前回と違うのは三合会がもう頭を下げてるとこだな。」
「狙ったのは張でしょうが、一緒に総司も殺されかけたと言うところが検討するべき点です。」
「そうだな。総司諸共吹き飛ばそうとしてた。」
「なにせオスカーから敬語が抜けたからね。」
「焦るに決まってます。RPGに狙われるなんて数年ぶりでした。」
「まぁそれはいいとして、イスラム戦士とやらにもケジメを取らせるべきだろう。」
「ルワンの言う通りだ。今回もE.Oの時と同じ状況と言っていいだろう。」
「アレクを通してフィリピン軍に話は通すべきでしょう。」
「非占領地における殲滅戦だな。ゲリラが根城にするんだから山岳戦か山林での戦闘になるだろう。」
「ベトナムを思い出す?」
「思い出したくないな。まぁでも悪くないかもな。おかげでここに来ることが出来た。」
「じゃあ申し訳ないけど、それを思い出して貰おう。今回は俺も行くよ。そう遠くないし、売られた喧嘩だ。高価買い取りと行こう。」
「総司が出るのですか?」
「いつもみんなに行かせてるからね。指揮官先頭は父さんの教えだ。たまには出ておかないと。」
「総司、くれぐれも生きて帰れよ?俺は総代代行やら最高顧問はやるが、それ以上はないぞ?」
「大丈夫だ。俺も行く。必ず連れ帰るさ。」
「キャクストン、本当に頼むぞ?」
「もちろんだ。三日ほど集中訓練を積ませる。」
「え?訓練するの?」
「当たり前です。総司は最近、週一回しか訓練に出ていません。」
「あぁ…はい…」
「部隊はどの程度の編成で行く?」
キャクストンがローテーション表を眺めながら思案顔になる。出来れば最近入った海外未経験組を連れていきたいところだ。
「相手はゲリラです。武装はRPGと重機くらいが留意すべきところでしょう。」
「オスカーの言う通りだ。一個小隊、シグも連れて行こう。」
「諒解した。編成する。留守の間はレイに俺の代行をさせよう。総司の代行はルワンとオスカーがいたら大丈夫だろう?」
「あぁ。代行するくらいは問題ない。」
「諒解しました。」
「よし。では、キャクストンは部隊編成、ルワンは渡航手続き、オスカーはアレクを通して現地に仁義切っておいてくれ。」
「「「応‼︎」」」
こうしてフィリピンへの遠足が決まった。