ルワンが友人に連絡を取り、完全武装の一個小隊が夕暮れの中、フィリピンの米軍基地に降り立った。
「ルワンが気付いてくれてよかったね。」
「全くだ。何故、わざわざフィリピンに着上陸をかけてゲリラ基地を殲滅して米軍基地に行くなんて手間をかけようと思ったのか。」
そもそもの問題だが、アレクに色々段取りをさせようとした時点で、ルワンが気付いた。フィリピンの米軍基地に届けろと言うなら友人に連絡して直行すればいいと。二人で不思議そうにしていると慣れていないシグが質問してきた。
「ここ米軍基地ですよね?なんで我々は普通に降り立てるのでしょうか?」
「あぁ…説明していなかったが、ここは総司の友達が便宜を図ってくれるんだ。それでよくうちの会社は使わせてもらっているんだ。多分そろそろ基地司令のダラス大佐あたりが来るはずだ。」
「基地司令が!?一体どんな付き合いをしているんですか?」
「シグ、これは先代からの縁だよ。父さんの残してくれた財産だ。」
「先代…自分はお会いした事がありませんね。」
「いつか会う事もあるよ。」
そう言っていると顔馴染みになりつつあるダラス大佐と握手をし、ケースと‘滑走路使用料’を支払う。一言二言挨拶をし、今後の付き合いをお願いすると大佐は笑顔で司令部がある建物へと戻ってゆく。
「本当に来ましたね。」
「言っただろう?友人の友人みたいなもんだ。」
「キャクストン、大体の事は済んだ。始めよう。」
「諒解した。総員、傾注‼︎」
キャクストンの言葉に屯していた小隊が気をつけの姿勢になる。
「今回の任務は三合会のケースをここに届けることであった。が、巻き添えではあるものの、あろうことか本社にRPGを進呈していただくことになった。我々は警備会社であり、ヤクザだ。殴られたならば殴り返さねば立つ瀬がない。よって、これよりイスラム戦士を名乗る不調法者に懲罰を課しに行く。しかも、今回は総代も同行される。あまりみっともないところを見せるなよ?」
ここで隊員たちから笑い声が聞こえてくる。キャクストンの訓示はどこかユーモアがある。そして、こう言う時はそれなりに接してくるあたりも線引きがされている。
「さて、編成だが、第一分隊は俺が指揮する。第二分隊はリュウ、第三分隊はシグに任せようと思う。総代、どこにつきますか?」
「シグの実地デビューでしょ?第三について行くよ。」
「諒解です。シグ、作戦行動の他に総代を生きて連れ帰ると言う任務も発生した。気張るんだな。」
「わかりました。成功させます。」
「よろしい。では、詳細を説明する。」
小隊が集合して地図を覗き込む。南北に基地に入るゲートがあり、東西の密林には地雷やブービートラップがあるらしい。現地警察がある程度の監視をしていた為に、そこそこ詳細な地図が提供されていた。むしろ、排除してくれるならどこの誰だろうが見逃してくれると言うのだ。やはり現地文化に馴染まなければ排斥されてしまうのだ。
「西の地雷、ブービートラップを解除した後、敵拠点内の状況把握に入る。確認を済ませ次第、東の密林から第二分隊がグレネードランチャーで派手に揺動をかける。狙うのは脆い上によく燃えそうな物だ。リュウたちが歓待を受けてる間に西から浸透、制圧する。室内という室内にはパイナップルを見舞ってやれ。古典的な手法ではあるが、いまだに使われるのは何故か考えて欲しい。リュウは出迎えが来た時点で30m後退、アンブッシュをかけろ。敵制圧後は周辺警戒にあたれ。」
「諒解です。」
「シグの分隊は俺の分隊と基地内の制圧をかける。戦う意志のないものはそれぞれに渡している結束帯で拘束しろ。必ず武装解除を徹底するんだ。負傷は認めるが戦死は認めない。では、現地時間2200時まで提供された宿舎で休息とする。総代、何かありますか?」
「いや。いいんじゃないかな。俺は久しぶりの外地だ。みんなの足を引っ張らないように頑張るよ。」
「大丈夫です。先日の訓練を見る限りまだまだ心配には及びませんでした。」
「ありがとう。みんな、あと6時間、休憩してくれ。」
「総員、分かれ。」
それぞれが自分の装備を確認して、あてがわれた宿舎へと入っていく。リュウとシグが残ってキャクストンと細かいところを打ち合わせしている。今回の遠征から今までM16シリーズだったのが、オロホフさんがゴリ押しで売り込んできた為に採用したG3A3に変わっている。腰にはいつも通りP38を持ってきたが、キャクストンにはM1911A1を持って欲しいと言われた。弾の共有ができると言うところを重視したかったらしい。
打ち合わせが終わったところで、リュウは自分の小銃の点検を済ませて宿舎へ向かった。
「トーゴーや旦那の使っていたと言うところは理解するが、そろそろ総司とオスカーにも9mmを卒業して欲しいところなんだがな。」
「そう言えばオスカーさんはブローニング使ってますね。」
「総司もオスカーも父親のお下がりを使ってる。」
「オスカーさんの父親って喫茶店のマスターですよね?」
「そう。僕の義理の父でもある。」
「そうなんですか!?」
「そうだよ?」
「さ、雑談もいいが、休息も作戦の一部だ。二人とも休もう。」
こうして闇夜を待つこととなった。
完全に陽も落ちて辺りが暗闇に包まれた頃、顔面すらジャングルカラーに染めた一個小隊が密林を進む。
『こちら第二分隊、定位置についた。』
『諒解、第一、第三は現在地雷啓開、ブービートラップを排除中。しばらく待機してくれ。』
『諒解しました。合図を待ちます。』
『第一各員、冷静に焦らず進め。シグ、時間まではまだまだ余裕がある。焦るな。』
「諒解しました。ありがとうございます。」
ブービートラップは大概が手榴弾を応用したものが多く、地雷は彼らに言わせれば「隠す気があるのか」という埋め方であったらしく、順調に撤去して行く。
「総代、確認しましたが、この先には地雷、トラップは見受けられませんでした。」
「ありがとう。なんだろう…普段は総司でいいよ。」
「わかりました。小隊指揮官に連絡します。分隊各員、周辺警戒。ゲートの出入りをチェックしろ。」
「諒解です。」
シグがキャクストンに報告を入れると、第一分隊は既に周辺警戒と状況把握、同時に休憩に入っていた。それもそうだろう。基本的に第一小隊はキャクストンかレイがよく連れて行く部隊で、そのメンバーも父がいた頃からのメンツで構成されている為、練度も経験も桁違いに高い。
『総司、聞こえるか?』
「聞こえるよ。」
『現在哨戒してる敵兵の数から定石で行くと、ザッと50人と言ったところだ。基地というか少し立派なキャンプだな。』
「大体4倍だね。油断しなければ大丈夫じゃないかな?監視台の軽機に要注意かな。」
『では、カウントでリュウたちはグレネードを斉射、景気良く行け。監視台の軽機を潰すのを忘れるな。3カウントで行く。』
「指揮官、よろしいですか?」
キャクストンがカウントに入ろうとしたところで、シグが割って入ってきた。
『なんだ?状況に変化か?』
「うちの分隊の人間が不審者を捕まえました。中華系の女が二人なのですが「お前らアクシズだろ?誰かラグーンを知らねぇのか」と言っています。」
『総司、中華系の女でラグーンって…』
「レヴィだろう。ラグーンもこの仕事を請け負っているが…ここにいる理由がわからない。少し待機してもらえるかな?」
『諒解です。待ちます。』
シグに連れられて、二人を確保している場所まで移動する。ブーニーハットを直して歩いていると、知った顔とチャイニーズレストランの給仕の様な女がいた。
「やっとラグーンで通じる奴が来たのか?待ちくたびれたぜ。」
「レヴィ、悪いがこのキャンプは今から殲滅する。うちもRPGをもらってね。」
「は?総司?」
「何、アバズレの友達ネ?」
「レヴィ、本社にロケット弾を頂戴して踏ん反り返っていたのでは示しがつかないんだよ。」
妙な中国人を連れたレヴィはパッと見で気づかなかったらしい。
「だからって総司が出張るってのはどうだよ。」
「君らを捕まえた分隊は新しく組んだ部隊でね。今回が初陣なんだ。その評価ついでだ。その中国人は友人かい?」
「だからか。道理で知らねぇ顔ばかりだと思った。この‘ですだよ’は三合会の用意した護衛さ。で、そっちのやる事に口は出さねぇが一つ気にして欲しいことがある。」
「なんだ?まさか…書類を奪われたとか言わねぇよな?」
「そのまさかだ。しかも、うちのボンクラまで攫われちまった。」
聞くに堪えない失態をラグーンチームは演じているらしい。聞く限り、作戦の修正が必要であるように思える。
「レヴィ、落ち着いて聞いて欲しいが我々は今からこのキャンプにグレネードを釣瓶撃ちにして、全ての建物に手榴弾を放り込む予定でいる。古典的だが有効な敵拠点制圧の手法だ。」
「ボンクラも書類も月まで決まるネ。」
「総司ちょっと待ってくれ。それじゃロックも吹き飛んじまう‼︎」
「いいよ。少し待って。キャクストン、感度ある?」
『どうした?ラグーンだったか?』
「ラグーンだったんだが、しくじったらしい。」
『書類を奪われたのか!?』
「その程度なら焼き払えばいい。ロックが攫われた。」
『そもそも作戦が崩れたな。敵制圧と人質救出か?』
「そうなる。この手間をラグーンに請求する…」
ここまで言って、レヴィに視線をやるとしかめっ面で舌打ちしている。笑えよ。
「ところだが、ことのついでだ。レヴィもしくじったとはダッチに言いにくかろう。ここは一つ異国だし黙っててやろう。」
『わかった。総員聞いていたな?人質救出に切り替える。部屋という部屋を徹底的にクリアリングしろ。』
『『『応‼︎』』』
「もう少し待っててくれ。もう一つ話をつける。」
『わかった。連絡を待つ。』
一通り連絡事項を伝達してレヴィに向き直る。無線からは方針を変更するキャクストンの声が聞こえている。
「ロックと書類を奪われたと聞いて、こちらがキャンプを焼くと言った時に先に書類を心配したら予定通りに焼き払うつもりでいた。だが、レヴィはロックを心配した。その気持ちに応えよう。我々はこのキャンプを制圧する。君たちはロックと書類を探せ。こちらが先に見つけたら教える。これでいいかな?」
「本当にすまねぇ。ダッチの件も助かる。」
「これは個人的にロックとレヴィに貸しだ。そのうち何かで返してくれ。」
「抜け目ないこって。」
「タダ働きさせる訳にはいかないからね。無理難題は言わないさ。よし。キャクストン、応答を。」
『いつでも行ける。』
「各員に伝達。場違いな女二人が協力する。作戦変更はみんな承知したね?キャクストン、カウントを始めろ‼︎」
『待ち侘びた‼︎カウント3、2、1、撃ち方始め‼︎』
キャクストンの指揮でグレネードが監視台、銃座を次々と吹き飛ばしていく。こうして急遽決まったロック救出作戦が始まった。