起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき決裂

遂に広能のアニキが出所する。屋台の組合で寄合があって、俺は行けないが岩見がついていてくれたから大丈夫だろう。岩見もまた、山守組の若い衆だが広能組に身を移す事になる人間だ。諸々の用を済ませて、料亭の前でタバコを1本吸う。丁度吸い切る頃にオヤジさんと姐さん、矢野が出てきた。頃合いと見て店に入る。深呼吸してから戸を叩く。

 

「アニキ、小沢です。」

 

「おう。入ってええど。」

 

「失礼します。」

 

戸を開けばそこには広能昌三がいた。もう何十年も会っていない気分になる。やや痩せたようだが、眼光は衰えない。

 

「お勤めご苦労様でした。」

 

そう言いながら二つの包みを出す。一つは現金、ちょっとした年収分だ。もう一つは書類だ。

 

「よう活躍しとったようだの。ムショでも小沢の話は聞こえたわい。」

 

「恐縮です。そしてこの書類なんですが、港湾のスクラップ置場の管理警備委託の証文、タンク跡地の権利書です。」

 

「オヤジさんが言うとったわい。シノギは心配せんでいい、小沢が用意しちょるちゅうてな。」

 

「生意気ですが、用意させて頂きました。」

 

「よう鉄ちゃん説得出来たのう…」

 

「まぁ…色々と頑張りまして。そこで一つお願いがあります。」

 

ここまでで機嫌は悪くして無いので受けてもらえはするはず。

 

「なんじゃ。ここまでして貰うてたら断れんよのう。言うてみ。」

 

「盃貰えませんか?」

 

「もう既に兄弟盃やっとるやないけ。」

 

「親子でお願いします。」

 

「アニキ達の会話に割って申し訳ありゃせんのですが、自分にも頂けんでしょうか?広能のアニキが組興すのやかしたら自分も子分にしてつかあさい。」

 

岩見がここで会話に入ってきた。これは想定出来た。ありがたい味方だ。

 

「おまんらがそうまで言うなら…それでええ。」

 

「「ありがとうございます…親分!!」」

 

「岩見は分かるが…小沢はええんか。聞いた話やと上田は小沢が先に組持つべきや言うたらしいがのう。」

 

「小沢の兄さんは親分出てくるまで持てんちゅうてたんです。」

 

「自分は広能組に入るって決めてたもんで。」

 

「どうりで手回しのいいこっちゃのう…」

 

「ありがとうございます。あ、ここの支払いですが、自分、受け持たせて頂きます。」

 

そうしてたった三人ではあったが、ここで親子の盃を交わして帰った。後日、10人超の子分を持つ親分となる。

広島の村岡、松永両名にも改めて広能組の若い衆になったことを伝えた。山守組は広能組の若い衆でありつつも今まで通りの出入りが許された。

屋台の仕事に、スクラップ置場の管理、タンク跡地のホテル誘致と忙しくしていた。それが仇になった

 

「小沢、鉄ちゃんどう見とる?」

 

「どうかしました?」

 

「山守のオヤジさんによう…殺ってこい言われとんじゃ。」

 

は?…あのタヌキ…ぃぃっ

 

「どうすんです?本当に殺ってしまうんで?」

 

「とりあえず鉄ちゃんに会うて来る。もう一遍、説得しよう思うちょる。」

 

ヤバい。この説得は失敗する。そして、夜、日本刀を振り回すカシラが山守に引退を迫る。対立する矢野も殺害、後に矢野組残党にカシラは射殺される。微妙に史実通りになっている。歴史には修整力があるのだろうか?

 

「自分、オヤジさんの所行って来ます。」

 

「頼んだど。」

 

山守組の事務所に向かって車を走らせたはいいけど、拳銃なんて持ってどうするんだろうか。カシラ弾くなんて御免と言いながら、もしもの事を考える。

 

「オヤジさん!!小沢です!!」

 

「兄貴、お疲れ様です。どうされました?」

 

「オヤジさんに用がある。どこ居られる。」

 

「奥に居られます。」

 

ズカズカ言う表現が正にと言わんばかり上がり込むと、いつもの席に鎮座していた。立場云々はもう頭から消え去っていた。

 

「オヤジさん!!どう言う事なんです!!なんで一言、自分言うて貰えなかったんですか!!約束通りカシラは下がってくれてるんですよ!!」

 

「約束もどうもあるかい!!おどれ親のやる事口出すんか!!」

 

「カシラ抑えろってんでカシラに折れて貰ってんですよ!!それに建設の口入れだって持ってきたじゃないですか!!」

 

「黙れっ!!いちいち口出すないッ」

 

「まぁいいです。言い過ぎました。多分、今晩、カシラ来ますよ。自分、今日はここに居させて頂きます。」

 

「勝手にせぇ!!」

 

勝手にせぇとは言われたが、ハイそうですかとは言えないのが凄まじくは宮仕え…宮仕え?まぁいい。今日はここの玄関で朝までコースだ。その間、少し考えをまとめる。海渡の親分を通したおかげで、オーシャン観光のホテル建設には結構な人数を集められた。人工の送迎に使う業者には打本の名前もあった…が出来れば距離を置きたい。打本を噛ませず明石組を引き込んだのは、村岡の親分引退する時のイザコザを回避する腹があったのもある。あれやこれやを考えてる内に玄関の曇りガラスの向こうに、景気よく戸を叩く人影が見えた。使いたく無いがコルトのスライドを引いて、腰に差す。

 

「今開けます。」

 

「ッ…小沢ァッ。おどれこの始末、どう言う了見じゃ。」

 

血相を買えた…とはこの事だろう。最早、ゆでダコの様にとも言える。

 

「カシラ、落ち着いて下さい。とりあえず刀は置いてもらっていいですか?」

 

流石にゼロ距離の坂井鉄也は、今にも膝が笑いそうだ。それはもう大爆笑、ドリフも驚きの大爆笑待った無しだ。そして酒臭い。いやっていうか広能のアニキなんて言ったんだ。こりゃ素直に「オヤジさんがとって来い言うててのう」とか言ってんじゃねぇだろうな。一本気、裏表なしもココまで来ると厄介も極むぜ?

 

「コッチはマトにかけられよるんぞ。落ち着ける話がどこにあるんなら!!」

 

「だったら1回オヤジさんと話してください。刀、俺に渡して!!そうしたら通します!!」

 

「どがいしてカシラのワシがおどれの指図に従う話があるんじゃ!!おどれ、どかん…ッ…覚悟はあるんか正気ァッ」

 

「正気です。こんな事、したかないんですよ。カシラ、1回冷静になりましょう。」

 

膝は笑う寸前、カシラは抜刀する5秒前。ここで最後の手段を取る。カシラの脇腹にコルトを押し当てた。

 

「カシラ、今日は帰っていただけませんか?オヤジさんのカシラをどうこうの話は自分と広能のアニキしか知りません。」

 

「これが最後ぞ。おどれの話に乗るんは。我慢にも限界っちゅうもんがあるんで?」

 

そうして嵐の如きカシラは帰宅した。絵に描いたようにその場へたり込んだ。

 

「小沢ァッ…小沢ホンにありがとう。おどれは最後頼りになるのう…すまんのぅ…」

 

そう言いながら後ろから抱きついてきたのは赤っ鼻のタヌキ、もとい山守のオヤジさんだ。もういっその事、俺、ここで弾くか?そしたらこのイザコザ終わるんじゃなかろうか?そんな事を考えてしまった。後々考えるとそれはそれで正しかったと思う事になる。

 

 

「小沢は大変だったのう」

 

翌日、カシラを除くみんなが集まった。これは原作に無かった展開だ。正直、辟易した表情を隠さず列席させて頂いた。最近、ヤクザと言うよりかキャバレーのオーナーとしての顔、むしろ繁華街の顔役としての方が板についてきた相談役、若杉寛のオジキから労りの声をかけていただいた。

 

「そうよ?小沢が居らんかったら今頃、ワシはナマスになっとったかもしれんのよぅ?」

 

「しかしカシラもオヤジさんに刀向けようちゅうのは気が触れたんかのう…」

 

「坂井も会社起こして気が大きゅうなったんかのう。」

 

オヤジさんは俺に「勝手にせぇ」ったの忘れたのか?健忘症か?そう思いながら矢野と槇原が賛意を示すような事を聞かせて来る。

 

「おう槇原、おどれ鉄ちゃんとつるんでおいて、気が触れたちゅう物言いはなぁじゃないの。」

 

「そうじゃ。広能のアニキの言うとおりじゃ。槇原のアニキはカシラとよう一緒におるやないですか。」

 

矢野は反坂井派と目されて居るが故に反論されないが、槇原の言には広能、上田両名の指摘が飛ぶ。

 

「まぁまぁみんなそう争わんのや。だがのう、オヤジさんに刀向けた言うんはあかんのう。」

 

「オジキ、でもマトにかけられたら誰もがそうなってしまうんでないですか?」

 

「おう小沢、そもそもオヤジさんに取って代わろう言う野心見せる坂井に問題があるのと違うかのう?」

 

「矢野の兄さん、俺らヤクザです。ギラギラした野心、結構じゃないですか。」

 

矢野はどうしてもカシラを問題にしたいらしい。どうしたもんか。仕切り役に欠く場を、なんとかオジキが仕切ってくれる。

 

「小沢、今回は何ぞ考えでもあるんかの?」

 

「もう形だけ引退して貰うのはどうですかね。本当に形だけ。組長から会長になっていただいて。」

 

「おどれ、ワシにホンにお飾りの神輿なれ言うんか!!おう!!」

 

「広能のアニキだって帰ってきました。矢野の兄さんや槇原の兄さん、上田も居ます。相談役だっておられます。ホテル建設で呉に貢献、花道もあれば後進も居ます。悪くない気もしませんか?」

 

「アホ言うない小沢。いくら小沢でも口が過ぎるんど?」

 

賭けに出てみました。思いっ切り怒られたでござる。矢野にも睨まれてるです。

 

「小沢の言うことにも一理あるかものう…」

 

「オジキ、まだまだオヤジさん、現役やど?こりゃ坂井の処分なしにオヤジさん引退じゃあんまりじゃなかろうかのう?」

 

「言うても矢野よ、ここでワシら喧嘩しよったら警察に睨まれるんがオチよ。そいたらホテルどころ騒ぎやないんで?」

 

「そもそも坂井が調子付いてこうなっとろうが。破門までせんと、何かしらはせんと格好つかんじゃろうて。」

 

「じゃあの、こうしたらどうかの?」

 

今まで広能のアニキが黙っていたものの、ここで口を開く。アニキの提案はこうだ。

・オヤジさんは会長職に。

・組長はカシラに。

・組長はカシラにする代わりカシラは半年の謹慎。

この三点で妥協となった。特に相談役なんかは手を叩いて賛同した。

 

「ほんなら明日の幹部会でカシラにも伝達っちゅうこってええな?」

 

相談役の仕切りでこの日は解散となった。妙に静かなオヤジさんの目を見てこなかったのが悔やまれるが、この日は相談役、広能のアニキ、上田と飲みに出てしまった。正直、浮かれたと言える。何せ代理戦争編に入る前にオヤジさんに引退して貰える。これは相当、人死が減る。至って甘い考えだった。翌日、胃に穴が空く思い…最早、空いたんじゃないかと思う事件が起きる。

 

 

「今日、皆に集まって貰うたのは他でもない。組の事後を託す跡目を皆に知らせようと思うちょる。」

 

この言葉をオヤジさんから直接聞くとやっぱりゾワッとする。代替わりしたら俺は、広能組の若い衆専念して山守組の会合にはもう顔出さなくていいかな…なんて思っていた。

 

「まずワシは会長職に就こうと思うちょる。そして、組長には矢野修司譲ろう思うとんじゃ。」

 

場が凍りつくとう言うか沸騰すると言うか。カシラはオヤジさんを睨みつけ、オジキはカシラとオヤジさんき交互に目をやり、矢野は口元に手を当てて、槇原は目が泳いで勝ち馬を探し、上田は慌てている。広能のアニキも流石に唖然としている。

 

「そういう事だからの、あとは追々知らせるけん。今日は仕舞いじゃ。」

 

そう言い残してオヤジさんは悠然と出ていくのと対照的に、カシラはもう怒り心頭、沸騰してますという態度を隠さずに出ていった。山守組最大の内部抗争、坂井の乱とでもいう抗争始まった。

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