一応、ざっくり東京あたりまで話、組みました。
『ワラワラと出てきたな。リュウ、もう少し誘引しろ‼︎第一、第二は待機。』
『第二、諒解。このまま続けます。』
「第三、待機続行了解です。」
第二分隊のグレネードによる釣瓶撃ちに驚いた敵は、本能的に外に出てくるが、ちょっとした狙撃に次々と倒れて行く。指揮官らしき男が物陰から騒ぐのが見えるが、狙える距離ではない。少しずつ統制を取り戻したゲリラ達は徐々に第二分隊の潜む森に近づきつつある。
『頃合いだな。第一、第二はフェンスを切断、キャンプを制圧しろ‼︎』
「諒解‼︎第三分隊、いくぞ‼︎」
「「「応‼︎」」」
キャクストンの指示を聞いてそこら中に隠れていた連中が、フェンスの金網を切断してキャンプ地に傾れ込んでゆく。第二分隊に気を取られ、背後がガラ空きだった為に思いの外早く鎮圧されるのが見えていた。安全装置を解除して、参加する用意をしつつ後ろに振り返る。
「レヴィ、くれぐれもうちの連中を撃たないでくれよ?」
「そっちこそ誤射すんなよ?」
「うちの連中はそこまで馬鹿じゃないさ。」
「アクシズの評判は本省でも聞こえてるですだよ。アバズレとボンクラよりは戦えそうネ。」
「その口、ぶち抜いてやろうか?」
「すぐ銃に頼るネ。弾の数は数えたか?」
言い争う二人を放置して、キャンプ地に足を踏み入れる。M16系とは違うショックを肩に感じながら、早々に二人を沈黙させた。
第三分隊の開口から一番近い建屋を覗くと、シグたちが鎮圧したところだった。建屋に入ると、五人が頭と胸から血を流して簡易ベッドで息絶えていた。
「シグ‼︎状況は‼︎」
「第一が建屋を二つ制圧、現在、敵と交戦中。我々は建屋と倉庫を鎮圧。こちらには被害はありません。倉庫は燃料缶と弾薬のみ、おい‼︎窓から応射しろ‼︎ここの建屋は宿舎の様で書類は見当たりません。」
「よろしい。ロックの目撃情報もないね。」
「ありません。第一が三つ目の建屋を鎮圧にかかった様です。ラグーンのガンマンは別の建屋に飛び込んだ模様です。」
無線の状況を聞きながらシグが状況を説明してくれる。順調に進んでるらしい。
「よし。広場にいる連中を鎮圧しよう。」
「はっ‼︎」
ライフルを構え直して窓から狙いを定める。かなり激しく撃たれているが、素人なのか弾は窓枠の上部を削るばかりで当たる気配がない。警戒しつつ引き金を引くと、照星に重なった男が弾かれる様に倒れる。次に狙った男は引き金を引く前に倒れ込んでしまった。よく見ると鞭がしなった様に見えたが、先端が反射したところを見ると刃物がついていたのか。戻る先を見ると、レヴィといた中国人がいた。
「器用なことをする。」
「は?」
「いやレヴィの連れてたやつさ。」
「はぁ…」
「仕事しろ。これはシグの評定でもあるんだぞ?」
「承知です。」
粗方の反撃を抑え込んだところで、レヴィがロックを引きずって建屋の中から走り出した。その後を続く様に中国人も走って行く。無計画に見えた様で、タイミングよくSUVがゲートを突き破ってきた。器用にそのSUVに乗り込むと、一瞥をくれるまでもなく逃げ去っていった。俺らの銃撃戦を盾に逃げて行った訳だ。賢いが…思うところがある。彼らを追って五台のジープが走り出すが、最後の一台はシグたちの斉射で爆発、軽く跳ね上がった。
『ラグーンは回収できた様ですね。追撃しますか?』
「いや。もうすぐ掃討出来るだろう。構うことはない。追ったのは指揮官と見られる男もいた。降伏する奴らは拘束、抵抗する奴は任意に鎮圧だ。」
『諒解です。』
ラグーン一行がいなくなって途端にまばらになった銃声は、遂に止んだ。久しぶりの海外遠征はここに終結した。
「キャクストン、終わった?」
『11名を拘束、現在生存者の捜索中です。』
「うん。気をつけて。」
そう言いつつ、シグたちを連れてロックたちがいた建屋に入って物色すると、幾らかの書類を見つけることができた。司令室として使っていたのだろうか。
「シグ、この辺の書類は一通り拾って帰ろう。メモも残さずね。便宜をはかってくれたフィリピンの友人への手土産に。」
「承知しました。」
しばらくしてキャクストンからの鎮圧完了の報告が入った。それと同時にデスクに転がっていた無線から知らない声で指示が来る。拠点を捨てて予め設定した地点に集合する様に呼びかける男の声だった。応答する様に呼びかけが五月蝿いので、仕方なく答えてやる。
「残念ながら集合地点には向かう人間はいないよ。」
『お前は…襲撃をかけてきた連中だな。どこの軍だ?』
「軍隊…ではないですよ。」
『軍隊じゃない?警察にしては重武装だったようだが。』
「警察…でもありませんね。」
『警察でもない⁉︎俺は一体何と戦っているんだ‼︎』
驚く声を上げられても困る。どちらも違うのだから。
「先日、おたくのお仲間にRPGを食らってね。そのお礼に来たのさ。」
『三合会の依頼か…傭兵だな?』
「アクシズだよ。三合会の依頼というのはあながち間違いではないが、この襲撃は我々の意思だ。」
『アクシズ…タイの軍閥気触れのマフィアか。』
「まぁ遠からずって所だけど、マフィアではない。我々は‘ヤクザ’だ。」
『そう言えば頭目は日本人の名前を名乗ってたな。』
「東郷総司だ。覚えといて貰おう。」
『知ってるよ。二代目だな。依頼を出すか迷った時期もある。米軍とやり合う胆力がある連中と聞いた。』
この会話の相手は多分、父さんより若いが、結構年上の人物であると察しがついた。それに頭もいいんだろう。
「あんたは何者だ?多分イスラム教徒ではないな?」
『よくわかったな。人民総決起、世界同時革命…そう言う物に人生を賭けたんだ。』
「あぁ…赤軍派ってやつだね。少し違うが、思想のために戦った人を俺も知っている。」
『ほう…興味が湧くね。』
「‘夢はいつかは覚める’そう言っていた。」
『俺とは違うってか。日本人でありながら、海外で無頼をやっている。俺とお前は似てると思うぞ。』
「あんたは国を追われたんだろう?父さんは追われてないし、俺は日本で生まれた訳じゃない。」
『そうか。そうかい。』
「俺は、俺たちは自分たちのいる街に馴染む様に、その地に根を下す人間として生きようとしている。だが、あんたらはそれを破壊して自分たちの理想を押し付けている。そこには感情も理屈もない。ただの破壊だ。かつてのカンボジアがいい例だ。」
『まさかヤクザに説法を喰らうとは思わなかった。そうか。なるほど。俺の目指すところがわかった気がするよ。』
「志すと言うことに遅いと言うことはないって言うからね。あんたの人生が実り多い物であることを願ってるよ。」
『出来ればもうかち会いたくないな。』
会話の途中だったが、キャクストンが入ってきた。大方、掃除が終わったのだろう。
「総司、制圧完了だ。捕虜の処遇はどうする?」
「そのまま縛り上げとくといいよ。地元警察に通報して撤収する。陽の上らない内に撤収しよう。」
「諒解した。撤収準備に入る。」
「うん。よろしく。」
撤収の段取りが始まったのを確認して、無線にもう一度話しかける。
「我々の予定は完了した。名前くらいは聞いておこうか。」
『名前ね…タケナカだ。今後は公共の敵とでも名乗ろうか。』
「では、前途が明るいことを祈ってるよ。」
ここで無線をデスクに置いた。彼が何を目指してここにきたのかは知らないが、今更お題目を信じていたわけではないだろう。だが、声には諦めも、絶望も聞き取れなかった。そう言った点では彼も強い人間なのだろう。実際に顔を合わせて話して見たかった。帰ったら対面してたと思われるロックにどんな人間だったのか、聞いてみるのも面白いかもしれない。
密林から撤収し、米軍基地の宿舎に着いた頃には軽く朝日が辺りを照らしていた。昼頃に帰るので交代で少し休憩しておく様にキャクストンに伝え、簡易ベッドで横になった。
2時間ほど仮眠をとった頃に、シグの声で目を覚ますことになった。
「総司、ラグーンの連中が到着した様です。」
「ん。ありがとう。見に行くか。」
両の目尻を押しながら、外へ出るとレヴィとロックが滑走路に立っていた。上空のヘリが回収担当の乗るヘリなのだろう。
「随分手間取ったみたいだね。」
「え?総司さん?」
「ロック、うちも三合会から依頼を受けた。道すがら君を救出する流れになってね。」
「ご迷惑をおかけしました…」
「今回の手落ちに関してはダッチにと張には黙っておくってレヴィと約束してる。二人にはそのうち、何かで返して貰うよ。貸しってことだね。」
「ありがとうございます。」
伝達事項を伝えて、青筋立ててそうなレヴィに目をやる。
「どうした。こっちにきてからしかめっ面しか見てないぞ。」
「うるせぇよ。」
「まぁいい。昼頃に帰るんだが、一緒に帰るかい?」
「ダッチが迎えに来る。帰り足まで世話にはならねぇよ。」
「そうか。まぁいい。そう言えばロック。あのキャンプにいた日本人に会ったか?」
「え?あぁ…少し話をしました。総司さんも会ったんですか?」
「いや。無線越しに少し話した。興味を持ってね。今度、話を聞かせてくれよ。」
「あ、はい。あまり深い話をしたわけではないんですが。」
「いいさ。聞かせてよ。」
「わかりました。」
幾らかの雑談を交わして、ロックたちと別れた。こうして久しぶりの海外遠征は終結した。
ロアナプラに戻るといつもの様に書類と、持ち込まれた面倒事との格闘が待っていた。そうだよ。こう言うのでいいんだよ。そう思いながら窓の外に目をやる。日暮のロアナプラに喧騒と銃声が聞こえてくる。もちろん爆炎はない。これでいいんだ。ここ最近で少し育った腕をさすりながら、義父さんの店から仕入れたコーヒーを飲むと日常に帰ってきた事を実感した。