海外遠征から戻ってしばらく、大友組長が「夏の残りだ」と言ってイチゴとメロン、ブルーハワイと言う謎のシロップを送ってきてくれた。同封されていた説明書きによると、砕いた氷にかけて食べるそうだ。日本の「かき氷」なる屋台メニューという事だった。ルワンはイチゴ、キャクストンとオスカーはメロンを選んでいたので、ブルーハワイなる味を選んでみた。好みで練乳なんかをかけるといいらしい。
日も暮れて、外は真っ暗になっている中、四人で氷をシャクシャク言わせながら食べてみる。なるほど。夏の屋台なら売れる事間違い無い。
「これはいい。日本では夏しか食べないらしいが、ここなら年中食えるな。」
「この色もいいですね。最初は露骨すぎると思いましたが、屋台らしさがありますね。視覚に訴えるものがあります。」
「本当にメロンみたいな味がする。オスカー、練乳くれ。ところで総司のブルーハワイってどんな味なんだ?」
かき氷に並々と練乳をかけるキャクストンの問いになんと答えたものか悩む。
「わからないけど…なにか爽やかな感じがする。」
「なるほどな…今度、俺も試してみよう。」
ちょっとの会話の後、またも氷をシャクシャクさせてがっつく。別にわざわざ日本の夏祭りを感じるために夜、かき氷を食べている訳ではない。今日から月末最終週、集金日が集中する一週間なので幹部は夜勤となる。ので、大友組長の贈り物に舌鼓となった訳である。
「ところでオスカー、今日の集金は誰が出てるの?」
「元々エーカーかビアッジにルワンのところからタインかスオンが着いていましたが、エーカーはベネズエラ、ビアッジはレイモンドと外征、今日はカルナップとタインです。」
「カルナップか…仕事はキッチリこなすからいいか。」
「そう言えば話題は変わるが、三合会の下部組織の幹部がチャルクワンの売春宿で殺されたそうだ。詳しい話はまだ分からないが、売春婦と一緒に蜂の巣だと。7.62ミリをフルオートで見舞われたらしい。」
キャクストンの言葉に反応したのは意外にもルワンだった。
「先週の話だが、リップオフに派遣してる会計士が銃撃された件と繋がるか?」
「ブーゲンビリアの下っ端も殺されていますね。これも売春宿です。ヴェロッキオ・ファミリーの手配師が殺されたこととの繋がりも疑います。」
「会計士と三合会は7.62ミリ、ヴェロッキオの手配師とブーゲンビリアの下っ端はトマホークで頭を割られてる。今回はわかりにくいね。下手人は二人以上と見るべきだろうね。どこに喧嘩売りたいのかな。」
器の底の氷を流し込んで、思案する。
「言っちゃなんだが、殺人も銃撃も珍しくはない。だが、総司。今回の下手人は明らかにマフィアとその関係者を狙っている。」
「ルワンの言う通りだ。幹部連中には護衛をつけているが、いつうちも狙われるか分からん状況だ。」
「とりあえず当分は警戒体制だね。オスカー、護衛のローテ入ってる人間は手当出してね。」
「諒解です。」
じゃんけんで負けたキャクストンが器とスプーンを洗っていると、事務所の電話が鳴った。ルワンが取り上げて何やらメモをとっている。何やら驚いてる様子で、あまりいい電話とは思えない。
「ワトサップからだ。総司、やられた。ゲイシャバーの集金中にカルナップとタインが襲撃を受けた。カルナップは意識不明で病院に搬送、左腕を切り落とされたらしい。タインは死んだ。店の従業員と客にも死人が出ている。」
「総司、現場に行くか?」
「キャクストン、一個分隊呼んでくれ。現場に行く。オスカーとルワンは事務所に。外回りに出てる奴らは全員戻してくれる?」
「諒解した、シグを呼ぶ。」
「わかった。対応する。タインの家族にも連絡を?」
「夜中だけど火急だ。よろしく。」
「わかった。」
口の中の爽やかさをタバコで消しつつ、事務所前にきたジープに飛び乗って現場へ向かった。
ゲイシャバーの近くまで来ると、野次馬と規制線で人がごった返していた。キャクストンとシグが人混みをかき分けるとその先にワトサップがいた。
「ワトサップ、連絡ありがとう。」
「状況は簡単だ。アクシズの集金人が襲われた。カルナップが不意を突かれて、トマホークで左腕を一閃、もう一人が鉛玉をばら撒いた。聞き取りを出来る相手がいないからそこまでしか分からんが、その銃撃でタインは昇天したとみている。目撃者というか、カルナップの叫び声を聞いていた人間がいた。」
「なるほど。カルナップはなんて?」
「物陰から聞いていたとのことだが‘誰か総司に子供二人と伝えろ’と言う叫び声を聞いている。」
「子供二人?」
「詳しくは分からんが、そう叫び続けながら応戦、撃退するに至ったがそこで意識を失ったようだ。」
「さすがはカルナップだな。根性がある。」
「キャクストン、感心してる場合じゃないですよ。」
「ワトサップ、この件はしばらく留めて置いて欲しい。」
「承知した。黙っておこう。詳細がわかったらまた連絡する。」
「頼むよ。」
ゲイシャバーから引き上げて事務所に戻るとルワンとオスカーに聞いてきた事を説明する。
「子供二人ってのが引っかかるな。これはそのままの意味で受け取るべきか?」
「南アでは少年兵ばかりの部隊と交戦したことがあります。そう受け取ってもいいでしょう。」
「だが、この街で少年兵とは聞かない話だ。トーゴーの頃から子供の取引は‘ビデオ’だけだろ?」
「そうだ。それに行き場のない子供は孤児院に預かっているからな。」
「ルワンとキャクストンの言うことはわかります。外部勢力という線はどうですか?イスラムのゲリラと揉めましたし、我々の成り立ちからモサドもいい感情を持っていません。それにカルナップは感情的にはなりますが軍人としては優秀です。」
三人の議論は加熱するが、どうにも情報が少ない。まずは情報を集めるところからだろう。
「オスカー、マフィアたちに連絡を。連絡会を開きたい。」
「わかりました。伝えます。」
「日勤の連中が来たら今日は帰っていいよ。」
そう言って天井を仰ぐ様に椅子にもたれかかる。するとキャクストンが寄ってきて、ポケットから薬莢を出して小声で話しかけて来た。
「総司、これはスプリングフィールド弾だ。最近、買い込んだ連中がいたはずだ。」
「そんな話、あったね。」
「監視をつけようと思うんだが。」
「顔の割れてない奴らでよろしく。」
「わかった。それと落ち着け。かなり険しい顔してるぞ。」
「気を付ける。」
キャクストンの注意を頭の片隅に置いてこの日は明けた。
翌日、連絡会に出るためにストリップバーへとシグを連れて入っていった。
「始めよう。」
その一言だけ発して、テーブルにP38を放り投げる。
「総司、マガジンとチャンバーを。」
「張、申し訳ないがそういう状況ではないと思う。」
「そうか?では、出すだけにしよう。」
状況的に武装解除していいとは思えないという意味を理解してくれた様で助かる。張に倣って他の三人も銃をテーブルに置いてくれる。
「安全装置はかけてんだろうな?」
「ヴェロッキオ、先代の不始末から不利な状況に置かれてることに不満があると言ってたね?」
「総司は俺たちを疑うのか?こっちだって手配師やられてるんだ。」
「なるほど。では、下手人の情報についてアブレーゴから問いただしてくれ。」
「待ってくれ。この前、ラブレスの件では揉めたが手打ちにしたはずだ。それに兵隊も揃っちゃいねぇ。事を構える余裕はねぇんだ。」
「そうか。では、ハシェク、現場にはスプリングフィールド弾の薬莢が転がっていた。在庫していたと思うがどこに売った?」
「お待ちください。あれは射撃場に卸すための物です。それに我々はアクシズ傘下です。」
「総司、らしくないぞ。我々は状況を共有するために集まった。落ち着けよ。」
張の言葉に冷静さを取り戻して、ラムを飲み干す。
「こりゃあ街の人間じゃねぇよ。この街の構造を知ってりゃこうも無駄に殺しはしねぇ。」
「そうです。どう考えてもこの街の人間とは思えません。」
「ヴェロッキオとハシェクの言うことに同意するぜ。それにやり口がマフィアじゃねぇ。かと言ってアクシズみてぇな軍隊らしいやり方でもねぇ。」
「うちの集金人が二人組だと言っていたらしい。」
カルナップの言葉を断片的に伝えてみる。全員がこちらを向いた。
「片腕を切り落とされ、それでも応戦したうちの人間がそう叫んだそうだ。」
「それだけでも進展だな。では、共同で布告を出すって事でどうだろうか?」
「なんて出すってぇんだ?」
「まず、犯人は外部勢力…」
張が話をまとめようとしたところで、ウェイターがボディチェックを受けてメモを渡して来た。読み切って握り潰す。
「総司、何か火急の用か?」
「この連絡会以上の火急がこの街にあるってぇのか?」
「さっき言った応戦したうちの人間だが…」
「他に何か情報が聞けたのか?」
「死んだよ。むしろ生きてるのが不思議だったらしい。」
「そうか…アクシズの勇者に冥福を祈…」
「アクシズは今回の犯人に賞金をかける。生きてアクシズまで連れて来たら一人頭4万だ。米ドルで払う。張、その布告とやらに入れておいて貰おうか。」
「総司、そんな事をしたら街中大騒ぎだ。冷静になれよ。」
「冷静?実に冷静だよ。」
「冷静に考えての賞金なのか?」
「金で解決してやる…と言うのは俺からしたら温情だと思うんだがね。」
「わかった。布告に入れよう。」
この日、連絡会…街の人間は‘黄金夜会’と呼んでいるが…は共同で布告を出した。
「今回の一連の殺人は外部から来た二人組の犯行と断定し共同で犯人の狩り出しを行う。なお、生きてアクシズに突き出した人間には一人当たり4万米ドルをアクシズが支払う。」
と。