筆者、インフルエンザです。
申し訳ありませんが数日休みます。
大友組長の引退式は広島市内のホテルの宴会場で行われた。もうそれは凄い人数の来客がだった。
金屏風の前に立つ大友組長はその年を感じさせない堂々たるものだった。ちなみに五人とも大友組長が用意してくれた和服を着ている。よくもまぁヴァルターに合うサイズがあったもんだと思う。
「あの人はお父さんの家族?」
「そうだな。僕の父さんの兄弟だ。」
「おう総司。相手もせんとすまんの。」
「いいえ。ご招待ありがとうございます。」
各所に挨拶を済ませてきた大友組長…元組長が声をかけてきた。
「ヤクザの義理事に子供が来るとはの。初めて見たわい。」
「申し訳ありません。最近、家に来たばかりでして。」
「ほん…ちっこいの、名前聞こうかの。」
「ヴァルター・東郷。」
「です…だ。」
「です。」
辿々しい自己紹介をするヴァルターの頭を撫でながら、顔を綻ばせる大友さんは普段は優しい爺ちゃんなのだろうか。
「夏樹が育てた総司じゃ。ヴァルターよう。ええ男になるんじゃの。」
「いい男?」
「いつか分かるわい。じゃあ、ゆっくりするんじゃの。」
大友組長の引退式の後、二代目を継いだ息子の大友勝紀と五分の兄弟盃を交わした。この時に幾らかのお願いをしておいた。ちなみに大友のおやっさんは「大友勝利、最後の媒酌」と言って喜んで間に立ってくれたのだった。
ルワンは式が終わると先に帰国し、東京にはゲールたちが到着したと連絡が来ていた。
広島を早朝に後にした我々は一路、東京に向かった。懐かしの東京、ヴァルターには色々見せてやりたいと思う。通り道であった大阪ではたこ焼き、名古屋ではあんこをトーストに乗せた小倉トーストと静岡では本場であると言う緑茶を楽しんだ。
終始、腹が減っては食っての繰り返しだったので移動中、ヴァルターは寝ていた。
「こんな可愛いのにな。ロアナプラのマフィア連中が震撼したのはこんな子だったとは。今でも信じられないな。」
「キャクストンも私も知っていても少年兵くらいでしょうからね。それでも少年兵の様じゃないので我々も相手するのは御免です。」
「俺なんてまるっきり息子に被ってな。歳かな。」
「仕方ない。だって、普段はこれだもん。」
「こんな子でもパニッシャーになるんだ。少し、身を律した方がいいな。」
キャクストンの言葉にみんなが同意すると、東京のホテルに着いた。この日は夜も遅かったのでそのままみんな寝ることになった。忘れていた訳ではないが、明日の午前中は観光に行って夜は坂東さんたちと会う事になっている。ホテルモスクワからも担当が来るとスミルノフから連絡があった。少々心当たりがあって気も重くなる。絶対来るのはアイツだ。
翌日、東京タワーに登り、山手線に乗って東京を観光していた。冬の日本は結構冷える。オスカーは雪山に行くのかと言う様な格好をしている。好奇心というのは凄い物で、一番元気だったのはヴァルターだった。遊びの時間というのは速いもので、気がつくともう夜になっていた。
「さて。そろそろだと思うんだけどな…」
「誰かと待ち合わせですか?」
「あぁ。ホテルモスクワの通訳だ。」
「なるほど。それは必要だな。意思の疎通は重要だ。」
「へい。総司。待たせたかって…その子供は…」
「レヴィ、余計な事は言うな。ロック、久しぶりの日本はどうだった?」
「あぁ…いや、懐かしい気持ちになりましたよ。」
「浮かない顔だね…まぁいい。今回の件は通常の依頼料を払っている。遠方なのはいつぞの埋め合わせだね。」
こうして五人で夜の歌舞伎町を歩いていく。この街にある店の数だけで、ロアナプラと同じだけあるだろうと思えるほどの店数だ。
坂東さんに指定された店はストリップバーだった。なんだか身に覚えのあるシュチュエーションだった。全く失念していたが、ヴァルターを店に入れるのに一悶着してしまった。当たり前である。しかし、日本のセキュリティはん何のためにいるのか?
三人は拳銃を持ったまま通され、ヴァルターに至ってはグルカナイフを持ったままである。
部屋に案内される道すがら、思い出した様にオスカーに確認を取った。
「ゲールたちは?」
「作戦目標を達成、こちらへ向かっています。店のセキュリティにも伝えました。」
「よし。じゃあ大丈夫だね。」
「ゲールは元々GSGだ。基礎ができている。問題なかろう。」
「キャクストンがそう言うなら大丈夫だな。」
「ねぇ。お父さんて何者?」
「なんだ。殺しに来て知らなかったのか?」
ヴァルターの質問には今更ながら面食らってしまった。なんて言ったら通じるだろうか?
「そうだな…ロアナプラではヤクザ、ここでは…公共の敵、だろうな。」
「公共の敵?」
「総司の言う公共の敵というのは招かれざる客くらいの意味だ。」
「ふーん…」
「その内わかるさ。」
二階のVIPルームに通されると懐かしの坂東さんと吉田…さんだったかと何人かの子分と思われる人間がもう既に待っていた。
「お待たせして申し訳ありません。ご無沙汰しています坂東さん。素麺と蕎麦はみんなでいただきました。」
「こちらこそえろう久しぶりで。立派になられたもんよの。ささ、座ったらええ。」
握手と挨拶を交わして席につかせて貰う。すると吉田に「何飲まれます?」と聞かれたので「日本のビールを三つと何かジュースを。」とお願いした。
「坂東さん、覚えてるかどうか分からないのですが、これがシェーン・キャクストン、こっちがオスカー・フォン・ダイスラー、これは息子の東郷・ヴァルターです。こちらの二人は後から来るホテルモスクワの通訳とその護衛です。」
坂東に紹介すると、ロックが気を利かせて三人に通訳してくれた。ルワンがいてくれると良かったが、あまりに長い事全員いないのでは会社が回らない。誰か通訳を雇えば良かったか。
「そちらのキャクストンさんは前にも会うた事がありますな。オスカーさんとやらは以前に来られたダイスラーさんの身内で?」
「オスカーは以前来たダイスラーと呼ばれていた人の息子です。ちなみに俺の義弟でもあります。」
「なるほど。で…息子言うんは…」
「色々ありましてね。拾いました。冗談抜きでそこいらの兵隊より強いです。本当に。」
そこいらの兵隊より強いと言う言葉にオスカーとキャクストン、レヴィは吹き出していた。鷲峰組の連中は怪訝な表情だが。それもそうか。
「さて、坂東さん。早めに会見の時間を設定したのは雑談のためではありません。我々の作戦行動と目的を伝えて共有するためです。」
「作戦行動…でっしゃろか?」
「我々はヤクザのそれとは比べ物にならない武力を以て敵を制圧します。」
「ロアナプラでは一等、鉄火場に強いっちゅう話ですわな。」
「そう。我々の鉄火場はアフガニスタン、アフリカ、イラクです。そして、今回の目標ですが…」
「目標…聞かせて貰いましょか。」
「香砂会の殲滅と香砂政巳の殺害、関東和平会会長、五十嵐組組長の五十嵐昌平を講和の場に引き摺り出す事です。」
俺の言葉を聞いて吉田をはじめとした鷲峰組の面々は騒ぎ出す。
「親殺しなんて以ての外だ‼︎」
「ありえない。内紛程度で五十嵐組が動く訳ない‼︎」
「そんなことしたら日本中が敵になるぞ‼︎」
「黙らんかい‼︎総司さんよ、そこまでの大風呂敷、畳むに誰が間に入れるんですかいな。」
「天政会というヤクザをご存知で?」
「知らんヤクザはいませんわな。日本最大の明石組を相手に戦った伝説ですわ。」
「香砂会を無力化した時点で二代目博徒大友組が仲裁に入ります。」
大友組の威光は東京でも効果があるらしい。鷲峰の人間もざわめく。
「申し訳ないんですがのそりゃあり得ん話や。」
「なぜです?」
「こっちは50人そこらの言うたら弱小ヤクザ。あっちは1200人を超える老舗ですわ。」
「坂東さんは五分の兄弟に協力を求められたら、相手を見て選ぶのですか?」
「そんな事はせん‼︎極道の風上にも置けんことや。」
「でしたら大丈夫でしょう。大友勝紀は私の五分の兄弟です。ご存知でしょう?父たちが五分であった様に子も五分になったんです。」
ここまで話すと坂東は腹を抱えて笑い出した。
「せやせや。総司さん、あんたの父親はそう言う人やったな。」
笑いが収まった頃にホテルモスクワの担当者が入ってきた。やはりバラライカだった。
「お久しぶりね、総司。大頭目から聞いてるわ。ラプチェフの尻拭いらしいわね?」
「あぁ、スミルノフさんはオロホフさんの幼馴染らしくてね。レヴィは覚えてるだろう?今回の仕事はホテルモスクワの通訳だ。」
「姉御、久しぶりだなぁ。ロック、知ってるか?アクシズとマジで戦争したのが姉御、バラライカさ。」
「どうも。ラグーン商会のロックです。」
「ヤポンスキー?ダッチのところに入るなんて骨があるわね。」
「バラライカ、わかってるだろうが、デニーギンが反目した。傘下である以上養うが反目は許さない。上位下達、軍人の基本だ。」
「軍歴のない割には心得てるのね。いいわ。従ってあげる。」
「本物には敵わないな。」
「なぁ姉御、あの子供な…」
レヴィたちが少しの雑談をしてる間にゲールが到着した。旧交を温めているところ申し訳ないが本題に入る。
「ホテルモスクワは鷲峰組の口利きで東京に拠点を構える。鷲峰組はホテルモスクワと共闘して格を上げる。こう言う認識でどうか?」
「こちらは依存ないわ。」
「ええでしょう。一つ気張りましょか。」
「では、こちらのスイッチを。」
先ほど、ゲールが届けてくれた三つのスイッチを坂東とバラライカ、そして自分の手の中に収める。
「カウントします。ゼロのタイミングで素早く2回握ってください。」
「ほう…何が始まるんでしゃろか?」
「日本人が50年忘れていたものですよ。それでは3、2、1」
カチッカチッと言う音が控えめに聞こえた直後、地鳴りの様な音が響いてくる。吉田をはじめとした鷲峰組の人間が地震と勘違いしている。
「香砂会の持つクラブ、裏カジノ、バーを吹き飛ばしました。」
「吹き飛ばしただぁ?」
吉田の叫ぶ顔が本当に驚いた表情である事に、こちらが驚きたい。
「よく見ろ日本人。これが戦争だ。軍靴の音を思い出させてやる。」
「こらぁいい。鷲峰組の事始め、上等な花火やないか。」
こうして父さんの祖国での戦争が始まった。