今年のインフルエンザ、なかなか熱が下がりません。皆さんくれぐれも…
鷲峰組とホテルモスクワを交えて、日本の情勢、法律なんかを聞きつつ懇親会といった感じの時間を過ごしてこの日はお開きとなった。少々込み入っているのでレヴィとロックには席を外してもらった。暴力団を取り締まる法律について色々と教えて貰ったが、少しザルなところがある法律だった。抜けようはありそうだ。
「あの程度で腰を抜かすなんてね。」
「バラライカ、まだ軒先を借りる身だ。あまり辛辣に言ってやるな。」
ため息を吐きながら坂東さんに向き直る。ヴァルターは眠そうで、オスカーとキャクストンは退屈そうだ。
翌朝、バラライカとボリスと呼ばれる副官がアクシズの指揮所へと来た。指揮所は鷲峰組の用意してくれた極々ありふれた日本の戸建てだった。キャクストンは既に一個小隊を率いて出ている。指揮所にはオスカーとヴァルターが残るだけだった。
「我々は展開を完了してるわ。そちらは?」
「我々も編成を完結、展開は終了している。」
「では始めましょう。」
「ん。キャクストン、ボランスキー、聞こえるか?」
『こちらキャクストン、聞こえる。』
『ボランスキー、良好です。』
「よし。二人とも聞いてくれ。諸君は現在、それぞれ香砂会傘下組織の事務所前にいる。今日はそれぞれ二か所を襲撃してもらう、かつて敵だった我々が今は手を取り合い、一つの目標に向かっている。共同作戦だ。組織的に上下はあるが同じく戦地に立つ仲間だ。よろしく頼む。キャクストン、抜かるなよ。バラライカ何かあるかい?」
「ボランスキー、聞いての通りだ。無傷で帰れ。」
「よろしい。諸君、軍靴を鳴らせ。」
『承知、状況を始める。行くぞ‼︎』
『遊撃隊、突入‼︎』
無線からドアを蹴破り銃撃する音が聞こえる。戦争交響曲とはよくも言ったもんだ。
「バラライカは前線に立たないのかい?」
「日本のヤクザ程度で必要ないわ、E.Oでは立ったのだけど。総司は?」
「そのうち出ようと思ってる。指揮官先頭はアクシズの教義だ。」
「先代はそうだったわね。」
無線では状況は順調、次の目標に向けて移動中らしい。オスカーがバラライカとボリスに紅茶とジャムを出し、俺にはコーヒー、ヴァルターにはジュースを出してコーヒーを飲み始める。多分、自分が飲みたくて全員分用意したのだろう。
「やっぱり遊撃隊はすごいな。うちの連中より早い。」
「同じ戦場にいたでしょ?第三次大戦を想定していたのよ。」
「強いはずだ。うちの連中は…」
「東部戦線を戦い抜ける…でしょう?」
「そう。そんな感じだ。」
「充分よ。叔父様に聞いてるわ。」
「褒めて貰えたと思っていいのかな?」
「ほぼ無傷で負かされたのよ。もう褒めておかないと立つ瀬がないの。」
「ありがとう。」
幾分、かつて会った頃より丸くなっている事に安心する。苦手意識は杞憂だった。
「ところでデニーギンなんだけど、あの末路は酷いわね。」
「我々の流儀だ。反目効かすまではいいが、子供を使うのはいただけない。俺も元は孤児なんだ。」
「新しい大頭目のスミルノフは元軍人。やりやすくなっていいわ。」
夕方前に帰還したキャクストンとボランスキーの一行は無傷だった。まぁこの程度なら当たり前と言ったところだろう。バラライカは明日以降の作戦検討に戻ったので、三人を連れて鷲峰組に向かった。
「いやぁ見事見事。流石ですわ。警察もまだ何も掴めていない様で。」
上機嫌で迎えてくれる坂東に案内されて、客間に座る。
「我々の武力とはそう言うものですよ。で、今日の用向きですが、明日の夜までに第一段階を完結させます。その後の打ち合わせをしたいと思っています。」
「はぁ…その程度の約束でしたら電話でもええんでしたがの。」
「考えてもみてください。我々は警察無線を傍受している。その逆も考えたいのです。」
「なるほど。本式の方々は考えが違う。ええでしょう。おそらく新宿は香砂会が出歩き始めよって、六本木にしましょか。」
「承知しました。では、お店の名前を後ほど指揮所に届けていただければ。」
「そうさせて頂きます。」
「それと一つ伺いたい事が。」
「なんでっしゃろか?」
「鷲峰組は50人そこらと言っていましたが実数はどの程度なのです?」
「盃受けてるのが50人を超えるくらいおって、その舎弟を含めれば120人を下らないところかと。」
「なるほど…いざとなったらアテにしても?」
「そりゃもちろんや。」
「ありがとうございます。」
帰りの車中、珍しくオスカーがふと漏らした。
「こちらが無線を傍受しているなら、相手方もやっていると考えないのでしょうか?」
「性質の違いじゃないか?少し調べてみたが、日本のヤクザがやってきた抗争にこう言った形の抗争は見受けられない。」
「そもそも日本人は拳銃の撃ち合いが精々だった。爆破なんて手段はそうそうなかったんだ。」
「にしても…いざとなったらと総司は言いましたがアテになるのですか?」
「車両からの一斉射くらいは出来るだろ?」
「父さんが送った挨拶の品もあるはずだ。少しは気持ちだけでも立てて貰わないと。」
東京の街並みを見つつ、指揮所へと向かう。ヴァルターはどこへ行っても興味津々だ。純真な…とは言わないが外の世界に触れてほしいと思う。
翌日、更に裏カジノや違法な物品の隠し場所などを襲撃、爆破し、合計して六つの拠点、店舗、会社を機能停止に追い込んだ。香砂会はこれで結構な収入源を失っている。鷲峰組の情報が正しければ、二割ほどの収入減になる見込みだ。人員的には襲撃20名を超える死傷者を出しているものの、香砂会の身代を考えたら微々たるものだろう。だが、一つ問題に気づいて襲撃を一時停止、部隊を各拠点に戻した。
「作戦自体は順調だ。遊撃隊も素晴らしい働きだよ。先代の失態を回復する勢いで。」
「あら、それは光栄ね。」
「共に戦う相手として申し分ない。一度、相手取ったがやはり素晴らしい部隊だな。」
「キャクストン、ここで問題が発生してるけどわかる?」
「いや…オスカーやバラライカは分かるのか?」
「問題は見当たらないかと。順調です。」
「えぇ。我々は順調に作戦目標を達成してるわ。」
優秀な軍人である事に間違いはない。作戦に関しては一切の瑕疵がない。ここで意外なことを指摘してやる。
「ここに鷲峰の傍受した警察無線を翻訳したものがある。みんな目を通してくれ。」
そう言ってここ二日の無線内容をまとめた物をみんなに渡す。面白そうだからヴァルターにも読ませる。
「やはり問題は見受けられない。当初の予定を遂行できてる。」
「同意だわ。ここから分かるのは、妨害も反撃もほぼなく推移してることくらいよ。」
「僕わかったよ。これは誰がやったかわからないんだ。」
もう三人とも「え?」と言わんばかりの表情である。身元を辿れる物は薬莢しか残していなかったのだが、ホテルモスクワは5.45×39ミリ弾、アクシズは7.62×51ミリ弾の通称「NATO弾」か9ミリパラベラム弾を使う。ここに警察が苦労している事がある。組織的に襲撃をしているのは掴めているが、かたやロシアの弾、かたやNATO弾。組織の装備が全く違うものの、同時に香砂会系列を襲撃していると言う状況を警察は理解しかねていた。
「その通り。警察には知らせなくていいが、香砂会には気づいて貰わないと意味がない。」
「なるほどな…身元がバレないことをいいと思っていたが、ここでは裏目に出ていると言うことか。」
「確かに、これで香砂会は弱体化するけど鷲峰への締め付けは変わらないわね。むしろその分の埋め合わせを末端から回収かけて、今までより締め付けがキツくなることもあり得るわ。」
「なので方針の転換を図りたい。」
「攻撃目標の変更か?」
「いえここは、要人略取が効果的では?」
「そうね。私もオスカーに賛成よ。香砂政巳の家族を狙えば効果的ね。妻、娘は既にマークしてるわ。」
要人略取という言葉で騙された気がするが、詰まるところ誘拐だ。気乗りしない上に、鷲峰組の反応も芳しくないと思う。
「正直に言うと、誘拐はしたくない。リスクが大きい割に利益が薄い。身代金目的なら悪くないんだがな…」
「娘の身柄を盾に引退を迫ってはどうでしょうか?」
「それも一つだよな。だが、引退してから警察に駆け込まれたら事後に響く。出来る範囲で影響を残さず、かつ効果的な手段として…まとめて殺してしまおうと思う。」
「ずいぶん思い切ったことを言うわね。らしくないと思ったのはアタシだけかしら?」
「そうか?俺は意外性を感じないが。作戦行動で巻き添え…と考えたら許容もできる。」
「そうですね。状況を整理すればわかります。これは我々の意思による戦闘ではない、ここはロアナプラではない、そして我々の選択肢はそう多くない。」
オスカーの言う通りで、この街に対する責任もなければ子供相手に殺傷するわけでもない。言うなればここでの行動方針はモスクワでの方針と同じである。
「外地に出た瞬間、あなたたちは豹変するのね。」
「戦って知っているだろう?俺たちはロアナプラの人間には責任を持つが、そのリソースは限られている。誰にでも優しいわけではない。」
「なるほどね。じゃあそう言う方針にしましょう。あとは手段の問題ね。」
「一貫性を持って銃撃がスタンダードなところでしょう。遠からず、家族を関東圏から避難させるでしょうからその時が狙い目かと思います。」
「そうだな。高速道路での襲撃が一番効率良さそうだな。」
「香砂政巳の家族に関してはこっちで監視をつけてる。三人まとまって外出する時は声をかけるわ。」
「じゃあそういうことで。今日の夜、坂東さんに提案しよう。」
こうしてまとまったかに見えた方針だったが、想定しない反発と展開を迎える事になる。