完結編までいけるよう頑張ります。
ちなみに広島弁ですが、訛り程度の導入にしようと思います。と、自分の祖父が話していたモノを思い出しながら書いています。どうしても発音と字面に差異はあるので表現にブレはあるかと思いますがご容赦下さい。
あれから文字通りに散り散りになり、それぞれがそれぞれの組で対応策を考えていた。岩見が運転する車中、重苦しくて仕方無かった。
「広能のオヤジ、こりゃもう坂井対山守/矢野になります。」
「おう小沢、そがなこと分かっとるんじゃ。こうなったもう鉄ちゃん殺るしかないんかのう…」
「オヤジはそれでいいんですか?」
「ええも悪いもないわい。親に従うもんなんはわかっちゅうがよ…戻れんのかのう。」
「自分に一つ考えがあるんですがどうでしょう?」
「こがいな状況でもまだやりようある言うんか?」
「あります。誰か一人借りていきます。オヤジ、カシラの所でもう一遍、説得する振りでいいんで、時間、稼いで貰えませんか?」
「おう。そがいな案がある言うなら聞かしてみぃ。」
「もう実力行使です。矢野を黙らせようと思います。」
自信満々に言ってみたが、まだ何も考えていない。修整力があるとするなら、山守を組長に据え続けるとすれば矢野を黙らせ、かつカシラの納得する形を探す必要がある。何にせよ矢野がどうしても障害になるのは目に見えている。
「矢野が黙る手がある言うんか?」
「あります。ただ詳しくは言えません。オヤジ知らない事が大切です。」
「なら任せるわい。わしゃ鉄ちゃん当たってくるけん。うまくやれや。水上つけちゃるけん。うまくつこうたれ。」
大見得を切って出て来てみたはいいものの…サッパリ手が浮かばない。死んでくれなくていいから、ちょっと矢野には黙ってて欲しい。あれやこれや山守の悪知恵を実現出来るのは、山守の手足あっての事。今の手足は矢野だ。流石に次は俺も懲役待った無しだろう。
「アニキ、オヤジさんにああ言うてましたけど何か手がある言うんですか?」
「あのな、水上よ。俺も魔法使いじゃないのよ。」
「じゃあ考えなしに出てきた言うんですか?」
そう言われると耳が痛い。が、水上の言う事は最もだ。
「ランプを擦ったらボワッと。精霊が出て来て解決してくれたらいいんだがなぁ〜…。」
「なんですそれ?自分、矢野のとこに走りますけん。言うてつかあさい。」
「いや何でもない。今回は殺しはナシだ。ホテルの件もある。大事にしたくない。」
今日の所は別れよう。と言ってから天啓を水上が授けてくれる。
「自分、取り立てありますけん。ちょっと回ってから帰ります。」
「あ、キタわ。」
「はぁ?」
「取り立て先の名簿、まとめて俺の家に持って来い。手が浮かんだかも知れん。」
こうして俺は今回も勤勉に働く事になる。前世より働いてるんじゃないかと思える程に。ただ少し、今回は出遅れた。翌朝は朝刊より早く、水上が家に転がり込んで来た。
「アニキ、矢野が坂井のオジキ弾きよったです!!」
「…え?」
落ち着いてお茶をすすって。うん。やっぱりほうじ茶はチンチンに熱い状態がいい。同期の桜が作るもみじ饅頭、これが
またほうじ茶と合う。ふう。
「やりやがった。あんチクショウ!!」
慌てて広能組の事務所、もといオヤジの家に駆け込んでみると、まだオヤジしか居なかった。
「オヤジ、カシラは?」
「おう小沢、飛び散ったガラスでケガした程度のもんじゃ。命に関わることはありゃせん。」
「これってもう…」
「戦争、じゃろうのう。」
言ってくれるし、諦めるのもやめて欲しい。コレでもう俺たちに残された時間は数える程ももう無い。
「小沢、もう時間はありゃせんど。ホテルどうこう言うてる場合やのうなったわい。」
「言われなくても…分かってるつもりでした。」
「今回ばかりは見落としたのう…」
耳が痛い。俺が今まで上手く渡れたのは、周りが協力してくれたお陰だ。つまり、今回のシングルプレイとも言える事案に弱い。暴発されると手が限られる事を失念してたと言える。もう何振り構えなくなった。
「水上、俺、ちょっと市内に行ってくる。」
「こんな時になんですの?」
「村岡と時森が縄張り争いしてる。ちょっと首突っ込んでくる。」
「アニキ、今ウチの中で揉めとるのに、どがいして他所の兄弟喧嘩に首突っ込むんで?」
「時森には会ったことがある。一時、預かって村岡に恩を売る。その恩を持って山守を一時でも抑えて貰う。」
「そんな上手く入れるんですかのう?」
「松永は俺の兄貴分だ。悪い様にはならんさ。困ったら村岡も時森も山守に投げ付けて板挟みにしてやるさ。」
「アニキもえげつない事考えますわ…」
「で、その間に矢野の生活周期を調べておいて欲しい。」
「はぁ?」
「オヤジには黙っておけよ。矢野、拐うぞ。」
「ホンに言うとんのですか!!」
「もう後がないんじゃ」
原作にあったオヤジのセリフを真似てキメてみたがかなり綱渡り、鉄骨渡りも真っ青なギャンブルである。時森は水上の取り立て先に預ける。ちょうど連れ込み宿をやってる奴がいた。利息をいくらか免除してやれば、横に首は振るまい。
こうして俺はいつかの旅以来に久し振りの市内へきた。駅に降り立つと見知った顔が出迎えた。
「小沢の兄弟!!久しいやないか!!」
「松永の兄ぃご無沙汰です。」
「まぁまぁ堅いことはなしじゃ。オヤジさんも会いたがっとるけん。いこうじゃなぁの。」
「いや村岡の若頭が出迎えとは恐縮です。」
「村岡じゃ若頭だろうが小沢のとは兄弟じゃ。堅いこと言うない。まぁ乗れや」
豪快に笑う松永の兄ぃは付き合いやすくて好きだ。そして、竹を割ったような性格なんだろう。だから最後は「わしは降りたわい」と言って抜けたんだろう。
「ところで兄弟、今回は何しよったんなら。呉は揉めとるようじゃの。」
「困ったもんで…そこで少し助けていただきたく。」
「そらぁ兄弟の頼みも聞きたい所だがのう。コッチもコッチで時森と揉めてのう。」
「存じてます。しかも村岡組が優勢だとか。」
「はっ。やっぱりええ耳しとるわい。で、なんぞ腹に抱えてきよったんか?」
「かないませんね。時森を呉で引き取ります。今は旅に出てる大友を呼び戻して、博徒大友組を起こさせてる。で、時森のシマを継がせる。縄張りは“元に戻して”です。」
道中、必死こいて考えてきた計画を伝える。ここまでは村岡組の為に出来ることだ。
「ほうして小沢のにはなんの利があんなら。」
「村岡のオヤジさんに手間お願いしたく。山守を抑えて欲しくて。」
「兄弟は造反する言うんか?」
「いえ。組長は山守のまま。現状維持を落とし所にしたいなと。」
「まあええわい。兄弟のええように頼もうやないの。」
こうして村岡組の事務所で俺は村岡のオヤジさんに事の次第と、オヤジにすら話してない計画を説明した。
「上手くやれるんか?」
「今、同じく広能組の若いのが矢野を監視してます。戻り次第始める手筈です。」
「分かった。助けたる。が、条件がある。時森のシマは大友に継がせるもええ。が、時森には消えて貰うた方が通りがええ。引退じゃいかん。それと山守に声かけるんは矢野を抑えてからじゃ。」
「しかしオヤジさん、そうなると初手、兄弟は後ろ盾んなるもんがありゃせんです。」
「ええか松永。小沢のは山守に圧かけぇ言うんじゃ。ちくた泥すすって貰わんとコッチの綱渡りも知っておいて貰わんとの。」
「兄ぃ、これで大丈夫です。ほぼ味方いなかったんです。村岡のオヤジさんが助けてくれるだけで大丈夫、むしろ安心出来ますよ。」
「それに松永よ、おまんの弟分は相当に博打は強かろう?少し信じてええんじゃないかの。」
「そうとなれば時森拾って呉、帰ります。」
「ホンにええんか?」
「兄ぃ、この博打にも勝ってみせらぁ。」
「ほうか。ほな駅まで送るけん。」
こうして今のところ一番強い後ろ盾を貰って、時森を拾って夕方には呉に戻った。兄ぃの「身体に気ぃつけぇ」と言う言葉が嬉しかった。今では顔を出すのが気まずい山守組の事務所へ向かった。
「オヤジさん、時森の親分連れて上がりました。」
「おう時森の。久しいのう。」
「山守よう、すまんの。しばらく頼むわい。」
「ええじゃないの。ちくと羽伸ばせばええじゃなぁ。」
「村岡にようやられたわい。」
そう言って俺を睨みつけたのは時森だけじゃなかった。山守にも睨まれる。俺は敵かよ。
「小沢、分かっとるな。時森のは客分じゃけん、失礼ないようにせぇ。」
「重々承知です。宿は目立たないとこ用意します。」
手札が少しずつだが揃ってきた。後は矢野だ。急ぎ広能組の事務所に戻る。その頃にはもう陽も暮れきって、月の見える頃だった。事務所には岩見と水上しか居なかった。
「オヤジは?」
「相談役のとこ行きよってです。」
「そっか。水上、矢野はどうよ。」
「へぇ。常に若いのが二人か三人かついちょります。ただ昼は必ず通り沿いの中華屋で飯を食うと言う話でしたわ。」
「そうか…昼か。夜は事務所から出ないべな。」
「そう言う話ですわ。」
「明日一日つけておいてくれ。夕暮れから夜に仕掛けたい。」
まだ俺は悠長な事を言ってしまった。これも実は手落ちになる。ヤクザのやり方をまだ甘く見ていた。カシラはオヤジが説得してたと思い込んだのが甘かった。オヤジが悪いんじゃない。俺が遅かった。この夜半、三人の被害を出してしまった。正に惰眠とはこの事だった。惰眠を終わらせたのは水上が家の玄関を叩く音だった。
「アニキ!!アニキ!!矢野じゃ。やりよった!!」
「水上、全くわからん。落ち着け。」
「落ち着けませんわ!!相談役が刺されよったです!!カシラも矢野の舎弟弾いたんですわ!!」
「そうだ。重要な事から報告すべきだ。」
「オヤジも一緒に居て斬られよって…」
「それが先だボケェッ」
全力で病院へ走ると機動隊が病院前を固めていた。もう警察に目付けられてるのか…だがどうでもいい。「広能組じ。退けコラァッ」と叫び散らしながら病院へ押し入ると、オヤジは処置室にいた。
「油断したわい。」
自嘲気味に言うオヤジに俺は勢いよく土下座した。
「申し訳ありません。大言壮語を置き忘れました。」
「それより若杉の兄貴よ。意識がありゃせん。危ない言う話じゃ。ワシしゃ警察の事情聴取があるけん。しばらくよう動けん。監視もつくやろう。」
「申し訳ありません。」
「ええわい。なんぞ腹があるんろ。頼むど。」
居た堪れない気持ちになり、病院を後にする。もう時間がない。
「水上、もう仕掛ける。徹底的に追い回して拐うぞ。」
「拐うにも手は考えん事にはどうにもなりゃせんですよ。」
「何日でもいい。追い回して拐ってやる。お前の取り立て先に鉄工所があっただろ?工場貸せって言っておけ。3日何も見ず黙って貸してくれたら、借金チャラにしてやるのが条件だ。」
「アニキ、何するんで?」
「矢野と座談会だよ。お話するのさ。」
明くる日、払暁。矢野が唯一自宅にいる時間、俺と水上は矢野宅に張り付いていた。ここは間違いなく一人で外に出ると踏んでた事がある。朝、新聞を拾いに出る瞬間を。俺はコルトを向けながら声を掛けた。
「矢野の兄さん。」
「小沢…早かったの。」
「ついてきて貰えますね?」
「おう。逃げも隠れもせんわい。」
こうして俺は矢野の身柄を手に入れた。事、ここに来て村岡組も味方になる。松永の兄ぃに連絡を入れると、時森の居場所を近い内に教える様に言われた。多分、ここで山中が遣わされる。また連絡しますとだけ言って電話を切った。
ここからが勝負だ。もう一回腹を括り直して、軍歌の歌詞を変えて呟いた。自分に言い聞かせる為に。
「咲いた花なら散るのは覚悟、見事散りましょう。組の為。」