体のだるさが全然抜けません。微熱が続いてます。
連れて行かれた建物がどう言ったものかは分からなかったが、警察関係のものらしい。と言うか、警察署だろう。制服を着た警官が沢山いる。取調室と書かれた部屋に通されると、お茶を出された。向かいに畑中と名乗った男が着席し、もう一人がドアの脇に座った。
「数日、我々は探し回った。鷲峰組に出入りする人間を徹底的に洗ったんだが…たった一人、身元がわからない。だが、若頭の坂東とよく会っている人物があんただ。こっちも名乗ったんだ。名乗ってもらえないだろうか?」
「東郷総司、です。」
「あんた何者だ?」
「鷲峰組から日本の物品を海外に輸出して貰っていて。特に乾麺なんかは人気がある。」
「あんたらが出入りしてからロシアのマフィアと鷲峰が突然シマを広げている。偶然とは思えないんだよな。」
「思ったより東京は物騒だ。驚いてる。」
出されたお茶を啜りながら、とぼけた事を返してやる。随分、イラついている。灰皿があるが、吸ってもいいのだろうか?
「そうか…各所に問い合わせてね。タイに同じ名前でマフィアをやっている人間がいると分かった。君はアクシズという組織を知っているはずだが?」
「だったら何か変わるか?自惚れでなければ、早いうちに僕は帰れるはずだ。」
「即日帰れるとは考えていないのか?」
「遠くない未来、そのドアがノックされ、僕の知る誰かが来る。そして、僕は正面玄関から出て行く…と思う。」
「なにを言っている?」
「僕の部下は優秀で、友人たちは顔が広いと言う意味なんだけど。」
畑中がタバコに火を付けるのを見て、それに倣う。一本を灰にした頃、ドアから若い男が入ってきて畑中を連れ出す。外から「父さん待ってくれ」と叫ぶ声が聞こえてきた。父さん?少し想定してたのとは違う展開かもしれない。先ほど来た若い男に案内され、廊下に出る。
「畑中さん、多分そう言う事だと思う。」
歯軋りする畑中を横目に、男に付いて警察署を後にした。正面に停車していた2台の車の内、後ろに停められていた車の後部座席に座らされた。
しばらく都内を走り、豪奢なホテルに着いた。その一室、恐らくスイートルームだろう。相当、高い部屋だとわかる。その部屋で待っていたのは、父さんより少し若い紳士だった。ソファを勧められたので、座るとお茶と見覚えのある饅頭が出される。
「君は…タイから来たと聞いている。」
「えぇ。ロアナプラと言う街から。」
「そうか…そうか。君を連行したのは娘婿でね。まぁお茶と饅頭、食ってくれ。僕の地元の銘菓だ。」
「誰かも分からない方からの物に手をつけるのは…」
「食えよ。饗応された物に手を付けるのは礼節…と言っていた男がいた。」
「ふーん…」
そう言われるとそうかと思って饅頭を食べる。大友組で出されたのと同じ物だった。
「CIAから畑中という警察関係者が連行した者の身柄を要求され、先日引退したあるヤクザからは君の事を聞かされた。よく知る共通の人物の息子だと言う事で。君が捕まってから、僕に連絡が来るまで約2時間。凄い手際だな。」
「全て父さんの財産ですよ。」
「その父親を逮捕する事を目標に生きていた。叶わぬ夢となったが。」
「夢は叶うも叶わぬも悲劇と言いますよ。」
「口の減らないやつだ。似ているな。海田昭一、この国の…政治家だ。」
「アクシズ総代、東郷総司です。」
「君は今回の一連の抗争に関わっているんじゃないか?」
「だとしたらどうするんです?」
「昔なら逮捕する所だが、少し学んだ。君を利用したい。」
多分だが、この人物は清廉であるのは感じられる。こう言うことは好きじゃないのが表情からもわかる。
「どう利用しますか?」
「君を見逃す。条件はわかるだろう?」
「回りくどいですね。」
「即時終結。君にはそれが出来るのではないかな?」
「振り下ろした拳は途中で止まらない。わかるのではないですか?」
「いいさ。再び振り下ろさなければ。」
「三日もあれば終わりますよ。」
「三日で君は帰るんだな?」
「約束します。」
「分かった。早い所、迎えを呼ぶといい。」
部屋の電話から指揮所に連絡し、迎え先を伝える。小一時間ほどで来ると言う事だった。
「ひとつ聞きたい。」
「なんでしょうか?」
「君は何者だ?」
「知りませんでしたか?ヤクザですよ。」
「そうか…そうなのか。」
豪快に腹を揺らしながら笑う男は、どこか見覚えがある様に思えた。
海田との会合を終えた夜。指揮所に戻ると‘予定通り’ラプチェフが襲撃を受け、殺された報告と天野一家の天野光雅を殺害したこともキャクストンから聞いた。
「やっと鷲峰に渡した土産が役立ったね。」
「だが、ラプチェフは首を落とされてたって話だ。済まないがヴァルターはまだ上で寝ている。」
「そっか…まぁ戻れたからいいよ、約束を果たしてくれたか。」
「約束?」
「こっちの話だ。バラライカ、もう一件デートだ。」
「あら?結婚してなかったかしら?」
「うん。今のは言葉のアヤだ。」
事態の収集が見えた頃、想定しない報告が飛び込んできた。
「総司、鷲峰の松崎さんと吉田さんの二名が面会を求めています。それにラグーンの二人も一緒です。」
「さて…約束はしていなかったが?」
「火急の用だと。」
客間としている部屋に座る二人は薄ら硝煙の匂いを漂わせていた。約束通り…と言うことだろう。何故か吉田は泣いていた。ラグーンの二人はなぜいるのだろうか?
「火急と言ったが…どう言う事だ?」
「お嬢が…攫われた。」
「は?」
「ラプチェフの襲撃を済ませて本家に帰ったんや。そしたら…そしたらっ…」
「カシラが頭に風穴開けられてたんですわ。おめぇさんらと一悶着あったのと、カシラが含まされてきた事は承知してんだ。だから行動に出た。」
「総司、バンドーの頭は大口径のリボルバーでやられてた。そう言うエモノを持ってるのに心当たりがあんだ。」
松崎と吉田が話す言葉に、口を挟んだのはレヴィだった。
「誰だ。余計な茶々は困るんだ。」
「六本木のクラブでロックを可愛がったやつだ。」
「チャカ…チャカか‼︎」
「吉田さん、心当たりがあるんで?」
「心当たりもクソもうちの組員や‼︎」
バラライカの言葉をここで思い出すことになった。バラライカは人を見る目があったな。
「酷い話だな。キャクストン、一個分隊招集だ。バラライカ、鷲峰の拠点のどこに対象がいるのか調べてくれ。」
「外れのボウリング場にいるわ。愚連隊と思われる連中といると報告があったのよ。」
「手際いいな。」
「作戦の綻びになる所は徹底する…基本ね。」
「本職には負けるな。」
ゲールを初めとしたメンバーが揃ったところで、出かける用意をする。
「吉田さんは組員にそれぞれの事務所で待機する様に指示を、松崎さんは着いてきてもらう。レヴィも来てくれ。バラライカも事務所に待機。」
「それで?総司はどうするってんだ?」
「依頼人が死んだ。その後の事を相談する相手は鷲峰の娘御しかいないだろう?」
「客人、そいつぁ‼︎」
「是非もないだろう。もう当事者だ。それに坂東さんとの約束があるんだ。ヴァルターも呼んでくれ。」
みんなが揃ったところで話を始める。
「状況をかき乱す奴が現れた。ちょっと散歩に出る。三日ほど我々は自由に動ける。諸君、仕事の時間だ。」
夜の東京を吉田にもらった地図通りに走ると、外れのボウリング場に着いた。なるほど。悪趣味な改造車やバイクが並んでいる。
「ゲール、出入り口を固めろ。オスカーとキャクストンは俺と場内の制圧、松崎さんはレヴィと娘を探せ。」
「承知。総員かかれ‼︎」
「総司さん、二人は言葉が通じない‼︎連携が取れるか…」
「ロック、戦いがおっ始まりゃ、お互い体は勝手に動く。そういうふうに出来てんだ、あたしたちは。」
時計は3時を過ぎていた。ゲールたちが配置についた連絡が無線から入る。準備はできたな。
「さぁお嬢さんを迎えに行こうか。」
「お父さん僕は?待ってろとは言わないよね?」
「あぁ…忘れてたよ。ヴァルター、この前会ったお姉さんを探してきな。敵は任意で排除だ。」
「分かったよ‼︎」
玄関ホールに入ってゆくと、受付カウンターで老人が新聞を読んでいた。ワルサーを向けて依頼をする。
「頭は低くして黙ってな。命は大切にな。」
「はっ…はい…」
「松崎さん、道は俺たちで開く。探してきな。」
「かたじけねぇ…」
ボウリングレーンの入り口前のドアに四人の若者が屯していた。散弾と思われる猟銃を抱えている。
「おい。あんたら、鷲峰の娘を知らんか?」
「なんだオメェ?」
「俺の日本語通じない?」
そう言うと同時に一人の頭を吹き飛ばすと、オスカーとキャクストンも一人ずつ無力化した。もう一人と思った瞬間、松崎の日本刀が光るのを見た。斬られた男が場内へ吹っ飛ばされるついでに、ドアも開いた。
「へぇ‼︎ホントに来たよ‼︎わからねぇなぁ‼︎レヴィちゃんなんで?俺とファックしたいって?嬉しいねぇ‼︎」
「銀さん…銀さん‼︎」
チャカと呼ばれていた男の横には、半裸の雪緒がいた。レヴィの目がヤバいことになってる。キレてると言うヤツだ。それより問題は松崎…銀さんの方だ。背中から漏れる殺気が、本当に切れ味を持ってる刃物の様になっていた。
「お前さん方。やりやがったな…そんなに俺の刀が見てぇか…‼︎全員仲良く、十億万土を踏みやがれ‼︎」
こうして悪意に塗れた大乱戦が始まった。