励みになります。
咳のしすぎで腹筋が薄っすらと浮かんできました。インフル筋ですかね。いまだ体調戻らず…
「始めようぜ‼︎」
初手、絶叫しながら発砲してきたのはチャカと呼ばれる男だった。気休めに手近にあったマシーンに身を隠す。ボールリターンというのかこの機械…違う。そんなのはどうでもいい。
「オスカー、キャクストン、銃を持ってる連中が何人かいる。排除しろ。ヴァルター、どうにかして鷲峰の娘を取り戻せ‼︎」
「こんな事になるならライフルくらい持ってくるんでしたね。」
「この程度、拳銃で十分だ。だから45口径にしておけばよかったんだ。」
「行ってくるよー‼︎」
「教官のアドバイスはロアナプラに戻ってから検討するよ。」
三人で効率よく無力化を進めていくが、レヴィや銀次の動きは凄い。訓練された制圧戦というよりは、本能に従った動きというものだろう。訓練では習得できない動きに世界の違いを見た気分だった。何より銃撃を躱して相手を斬り捨てる銀次は、侍でも見てる気分だった。
「総司、あんな芸当があるのに日本がアメリカに負けたのは世界の七不思議じゃないのか!?」
「あれは特別だ‼︎何だお前、まだ生きてんのか‼︎アメリカ人はみんなブルース・ウェインくらい戦えるのかい?」
少しずつ制圧し、前進していたら突然足首を掴まれて驚いたのも束の間。頭に穴を新設して蹴り飛ばす。
「そういうことか‼︎納得だな‼︎」
「それにしても散弾が厄介ですね。我々の戦闘では散弾に対する訓練がありませんでしたね。」
「現代戦に散弾を対人に使う概念はなかったからな。だが、水平二連式か拳銃が精々だ。狙えば怖いものではないぞ‼︎」
障害物から顔を出すと同時に確実に一人を無力化し、もう一度隠れるキャクストンの動きは今でも現役兵と言っても通じる精彩を放っていた。
「見ろよ見ろよ‼︎こんな乱闘見たことねぇぜ‼︎隠れてねぇで男見せろや、ほらダッシュ‼︎」
そう言って味方の足元を平然と撃つ姿を見て唖然とする。
「いやマジかよ…」
「信じられませんね…チンピラとはいえ酷いものです。」
「まるでソ連軍だな。」
「キャクストン、それはバラライカたちに失礼だ。」
「済まない。聞かなかった事に。」
そんな雑談をしつつ、制圧を進めていると右のボールラックから金属バットを横薙ぎに振り払いつつ青年が飛び出してくる。ふと体を逸せて避けると、俺の上体を飛び越えて青年の首をかき斬る影を見た。
「ふふっ…油断した?」
笑顔に返り血を貼り付けて飛び回るヴァルターは、どちらかといえばレヴィ側の人間なんだろう。あの運動神経、羨ましくなる。
「近接戦闘は嫌いなんだ。」
「カッコ悪いなぁ…」
「若い内だ。そんなこと言えるのは。」
ヴァルターに小馬鹿にされたのを少し腐していると銀次の叫び声が耳に届く。
「お嬢‼︎」
「ちゃんと追いついてこいよ‼︎アハハハッ‼︎」
雪緒を連れて出て行こうとする、チャカの姿が見える。
「ヴァルター、回って追いかけろ。生かしたまま連れ帰る。あのチンピラは要らん‼︎」
「わかった‼︎」
そう言うとヴァルターは入ってきた時と同じドアから消えていった。
「総司、降伏した連中はどうしたらいい?」
「足を撃っておこう。銃器はどっかに放り投げとけ。」
オスカーとキャクストンが無力化を進めてるところで、ヴァルターから無線が入ってきた。
『見つけたよー。地下の更衣室かなぁ?通訳のお兄さんも一緒だよ。』
「そうか。怪我はないか?」
『お姉さんが少し怪我してるかな?』
「問題ない程度か?」
『そうだね。殴られたとかその程度かな?』
「ならいい。そこで籠城しておいてくれ。」
『わかった‼︎』
ロックと雪緒が一緒にいるのは非戦闘要員同士だからあまり安心できないが、ヴァルターが一緒なら問題はないだろう。
「二人とも、ヴァルターがロックと雪緒に合流した。地下だ。一階の残敵掃討に移る。」
「諒解です。」
「外の二人にも伝えておくか?」
「そうだね。」
律儀に入ってきたドアから出ようとすると、ドア枠が散弾で吹き飛ぶ。視界に入った武装は水平二連式だった。ここまでの状況で戦意を失わないのは、平和な日本においては敬意を持っていいだろう。手近に倒れていた売店の旗が転がっていたので、拾ってドアの外に放り投げる。すると、旗は無惨にもボロ切れへとジョブチェンジした。その瞬間に飛び出ると、呆然としている男に照準を合わせる。
「目が良かった様で助かった。」
そうボヤきながら引き金を引くと、男の頭に赤い花が咲く。丁度、弾も切れた事だし、マガジンを抜いて何度目かの装填を済ませる。
「いくら愚連隊とはいえクリアリングせずに出るとは不用心すぎます。」
「また再教育か…」
「それ、キャクストンは言いたいだけじゃないの?」
「最近、訓練になかなか出てくれないとみんな嘆いている。」
雑談しつつ歩いていると、物陰に隠れていた男をオスカーが物言わぬ物体へと変える。その先にいた拳銃を持っていた男はキャクストンが無力化した。散歩しながら殺している様な絵面だ。
「帰ったら少し仕事の分散を図っては?一部の決裁権を委譲してもらえれば私かルワンで決済出来ます。」
「ところで総司。時々、愚連隊の連中が「ギブ」と連呼するんだが、あれはなんだ?」
「あぁ。よく聞きますね。「GIVE」でいいのでしょうか?でも、意味がわかりませんね。」
「俺も分からないよ。父さんもそう言う言葉は使っていなかった。最近の日本のスラングかな?だと、やっぱり分からないなぁ。」
そう言いながら歩いている内にエスカレーターまで来た。何があったか電源は切られている。
「キャクストン、閃光弾ある?」
「あるぞ。ほら。」
キャクストンから受け取った閃光弾のピンを抜いて、地下へと投げ込む。目を背けていると強烈な閃光と爆音が響き渡る。
「おい。みんな地下にいるんじゃないのか?」
「ヴァルターたちは個室、あの二人は…大丈夫じゃない?」
「やはり再教育が必要でしょう。」
オスカーのため息に言い返そうとしたら、無線から怒鳴り声が聞こえてくる。
『フラッシュバン投げたの誰‼︎』
「あ、俺だ。」
『お父さんさぁ…一言あっても良くない?』
「そりゃ失礼。」
『次からなしで。』
「配慮する。」
二人の見ている前で思いっきり息子に叱られたでござる。
「言わんこっちゃない。」
「再教育ですね。」
「グズグズ言わない。行くぞ。」
エスカレーターを降りていくと、なぜか床が滑っていた。危うく転けるところだった。
案内板を見ていると聞き覚えのない叫び声と、馴染みのない銃声が聞こえる。
「あれはブラックホークの音だな。日本語で言い合いをしていたみたいだが?」
「仲間割れ…だろうな。付いて行けないとう言う様なことを言っていた。」
「で、味方殺しですか。本当に見下げ果てたチンピラ…チンピラと呼べるかも疑わしいです。」
「とりあえず、このプールに向かおう。どっちから回ってもここが中間地点だ。」
急いでプールに向かうと銀次とチャカが向かい合っていた。どう見ても刀を鞘に収めている銀次が不利に見えるが、なぜか不思議な事に負ける未来が見えない。レヴィはもう相手にする気がないのか銃をホルスターに戻していた。
「へい、総司。サムライとガンマン気取りの勝負だぜ。」
「賭けにはしないぞ。成立するとは思えない。」
「なんだよ。つまんねぇな。」
「なんとでも言え。あぁ銀次さんよ。お嬢と通訳は保護した。心置きなく…だ。」
そう言いながら俺たちは安全圏であろう、プールサイドのベンチに腰を下ろす。
「お手を煩わせた様で…感謝しやす。」
「あとはそちらの問題だが、一つ聞いておきたい。兄さんよ。こんな事してどうするつもりだったんだ?」
「はぁ?ここ日本よ?こんな暴れたらアンタら、警察に捕まるのがオチでしょ?だったら生き残れそうな方に靡くのが処世術ってもんでしょうよ。」
「あぁ。それなら心配いらない。海田昭一って政治家に三日の猶予を貰ってきた。それに…色々味方してもらってこの国は静観するそうだ。」
「海田昭一って…官房長官?あんた何者だよ‼︎」
「知るか。そっちの問題を片付けたら話してやる。」
そう言い捨ててタバコに火をつける…水場だし大丈夫だろう。
「さて…手前を拝見だ。」
「好きな様に…抜きなせェ。」
銀次が半身を開き、腰を落とす。父さんに聞いたことがある。抜刀の構えというヤツだ。
銀次が抜刀するのが早いのか、チャカの左手が銀次の眉間を捉えたのが先か、俺には見えなかった、銀次が上段に構えると同時に、ブラックホークが火を吹いた。この瞬間、この場にいた全員が理解できないことが起きた。
マグナム弾が真っ二つに割れて足元に飛んできた。
意味がわからないだろう。だが、それが事実だった。
目を二人に戻すと、左右の手首が床に転がり、チャカが銀次に突き飛ばされた所だった。
「みたかアレ。」
「確かに見た。」
「見ましたね。」
プールの際に立つと銀次がチャカの額を鞘尻で押し込んでいた。
「ガッ…てめっ…このバッカ…ガッバッ…鬼かっにゃろ‼︎」
「お前さんの死に方にゃちとぬるいが…程度はいいでしょうや。」
ゴボッという音と同時に水底へ元凶は沈んでいった。
帰る空気になった所で水を刺したのはレヴィだった。
「あんた、面白いことしたな。弾を斬っただろう?アレをもう一遍、見せちゃくれないかい?」
「やめろレヴィ。銃を戻せ。俺のクライアントに銃を向ける気か?」
「短気はよくねぇ。あんたさん方には義理がある。義理を無駄にすることはねぇ。」
そう言う銀次の顔には笑顔が張り付いていた。
「運がよけりゃ…いや悪けりゃやり合うこともあるでしょうが。」
外は明るく、朝日が昇っていた。
「面倒が嫌ならさっさと去んじまった方が吉ですぜ。出来れば通訳さん方とはお目にかかる日が来なけりゃあ幸いだ。それが互いの平和ってもんですぜ。」
ヴァルターたちを回収し、ゲールたちの待機を解消して撤収準備を済ませた時、ロックが雪緒に声をかけた。
「…雪緒ちゃん。」
「この度はありがとうございました。でも…銀さんの言う通り二度と、お会いしないことを願っております。」
二人に何があったかは分からないので、ヴァルターに聞こうと思ったが、日本語がわからない。だが、随分と言い合ったらしい。
そんなことがなぁ…と思いつつこの先を考える。海田との約束はあと二日。時間との戦いが始まる。