起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき対話

「おどれ、やる言うならさっさとやらんかい。」

 

鉄工所に矢野の声が響き渡る。左右の柱に腕を縛って居るので、矢野は膝立ちで大の字を表す状態だ。港程近いこの鉄工所は二十四時間、港が稼働している為に多少の叫び声はなんの問題もない。というか多少大声を出さないと会話もままならない。

 

「あのね兄さん、俺はやるのやられるの好きじゃないんですよ。出来るだけ穏便にってのが信条でしてね。」

 

「何が穏便じゃ。辞書もっとらんのかい。」

 

「穏便…知ってますよ。なので矢野の兄さん、引退か、広島から黙って消えるか。お願い出来ませんか?」

 

「何を寝言抜かしよんなら。おどれ、頭イカれとんか?」

 

「イカれてるから軍人辞めてヤクザな商売してんだわ。」

 

そう言うと俺は矢野の左腕に繋いだロープを引っ張って行く。その先には鋼板用のプレス機があった。矢野は俺がしようとしている事に気が付いた様で、凄まじく焦り始めた。

 

「ちょっと待てぇい。待ってくれぇっ。手打ち、手打ちにしよう!!指でも何でも詰めるっ!!」

 

「手打ちなんか口先にかすりはせんのよ。耳詰まってんのかオッサァン!!」

 

手にしたリモコンの昇降スイッチを押し込む。

グァァァァァッ

という野獣の咆哮にも似た音をたてて機械が降りてくる。

 

「待てッ本気なんかッ」

 

「そうら1発目!!まずは左手いったらぁっ」

 

「ハァァァァァァァァン」

 

訳分からない矢野の叫び声と同時に、手首が景気よく潰された。いやヒデェ…やってて言うのもアレだがヒデェ。

 

「アニキ…こらぁ…いや…」

 

「水上、まだだ。まだ終わらんぞ。」

 

「おどれら、こがいな事してただで済むと思うちょ」

 

「次は肘までぇっ!!」

 

「話聞かんかいっおどれぇっ…クァァァァァァァン」

 

「でぇっ?引退かぁっ?消えるかっ?どっちにすんじゃいっ!!詰める指はもうねぇんだぞっ!!」

 

矢野の腕はもう見る影もない。だが、まだ矢野の返答は変わらない。

 

「ぶち殺しちゃるけぇのぉッ」

 

「もう一回してぇんだな。」

 

「おどれ、ホンにイカれよったん…ヌァァァァァァァァァッ…クッァァァァァァァァッ」

 

次は潰した肘から下を完全に潰し切った。もう使い物にはならんだろうな…。

 

「で、どうすんだい?」

 

返答を聞こうと思って矢野に目をやると、動かなくなっていた。

 

「あっ、ヤバいっ」

 

「あっ、アニキッ…」

 

駆け寄ると息はしていた。気絶したらしい。

 

「生きてんな…よし。」

 

「アニキ、どうすんで?」

 

「このまま山に捨てる。県境の峠に捨てて来い。すまねぇな。」

 

「わかりました。」

 

こうして俺と矢野の対話は終わった。矢野を積み込んで水上を見送った後、無意識に言葉が漏れた。

 

「もうやらんぞ…」

 

 

これで終わりではない。次は誰と話せばいいんだっけ…そうだ松永の兄ぃだ。疲れからかふらつく足を叩く。公衆電話にもたれるようにしがみつく。

 

「はい。村岡組ですが。」

 

「呉の小沢です。松永の兄ぃはいますか?」

 

「少々お待ちつかあさい。」

 

受話器を置いて離れる音が聞こえる。脱力して座り込む。

 

「小沢!!松永じゃ!!」

 

ぶら下がった受話器から知った声がした。

 

「兄ぃ…もう矢野は来るこたぁねぇわ…時森は呉の駅裏、連れ込み宿にいます。小沢の遣いって言えば通れるはずです。」

 

「ほうか…ほうならオヤジさんにも伝えるけん、身体気ぃつけぇ!!」

 

ただこの時、もう手遅れだった事を知らない。同じ時間、カシラは既に山守に引退を迫っていた。

 

矢野の行方不明で、山守組の内紛は終結。山守は引退して、競艇場の理事やら何やらをしている。引退と言えば、半引退に近い状態だった若杉のオジキは引退、キャバレー経営を本業にするようだ。そして、今回の抗争でオーシャン観光との話は流れた。どうやらタンク跡地と言うことで、石油会社が買い取りに手を挙げた。そして、オヤジは怒り心頭…と言うより呆れ返っていた。

 

「小沢、徒労だったのう。矢野どうしたんなら。」

 

「こんな話、あるかってんだ…オヤジは知らなくてもいいんですよ。」

 

「ほうか…わしゃ山守に盃、返すけん。こんならは好きにしたらええ。」

 

「ワシらオヤジについてきていきますけん!!」

「ほうじゃ。ワシらはオヤジさんの子分じゃ。」

 

「オヤジ、俺もついて行くよ。」

 

満場一致の広能組存続だった。オヤジは小さく溜め息を吐くと立ち上がって、出ていく。

 

「岩見、オヤジ送ってこい。」

 

「わかりました。」

 

この後、どうしたモンか…山中が来るはずだ。居場所と通り方は教えた。で、オヤジは山守に盃を突っ返しに行った。このまま行くと葬式での発砲事件は無くなるから、代理戦争の時の懲役はなくなるはずだ。コッチに来て長くそれなりの時間を過ごしたせいか、少し曖昧な記憶になってる部分もある。

 

「広島死闘編が今と被ってるはずだから…葬式が無いならどうなるんだろうか…。」

 

自分が介入したせいで、原作と違う事が増えている。当たり前だ。そのせいで少し先が読めない。各々性格から行動を予測するしかない。オヤジはこの件で盃を返した足で、多分坂井にカチ込むはずだ。

何日かゆっくりしよう。みんなゆっくりしたらいいと思う。

 

 

なんと今回も無理でした。事務所番を水上に任せてから、オヤジが出掛けると同時に、スクラップ置場の管理所へ行った。バカスカ灰を量産し、肺を痛めつけていると夕方、オヤジがフラッと寄ってくれた。

 

「小沢ここにおったか。」

 

「あぁ…オヤジ、お疲れ様です。どうでした?」

 

「親子の縁は切って来たんだがの。槇原は山守についとったんじゃの。鉄ちゃんは殺れんかったわい。」

 

「はぁ…そうでしたk…あっ」

 

「どうしたんなら。」

 

全く完全に失念していた。原作では広能と坂井がホテルで会った後に別れて、坂井は襲撃される。つまりあれは広能に尾行がついていたと考えたら、スッと収まる。つまり今、正に坂井襲撃が行われている。

 

「カシラと別れたのはどこです!!」

 

「駅前の跨線橋のあたりじゃが、突然なんなら…」

 

「オヤジは矢野組の残党に尾行された可能性があります!!」

 

「今更矢野の残党が何しよんなら…」

 

「ケツ叩いたのは山守です!!」

 

言うが早いか管理所を出てタクシーを拾う。

 

「駅周辺のおもちゃ屋まで飛ばせ。路面店で商品が表にも陳列されてる店だ!!飛ばせば飛ばしただけ払ったらぁっ!!」

 

現代なら有り得ない注文を出して飛ばさせる。丸腰な事を少し後悔しながら、右足を揺する。

 

「あとどんなもんで着くんだや!!」

 

「次の信号曲がったとこですけん。あと5分もかからんと思いますがね…」

 

ここに来て渋滞に食われた。あと5分…走ろう。

 

「ここでいい!!ありがとさん!!」

 

料金の三倍以上の金額を投げ付けて走る。ごめんなさい。行儀悪い。でも、それどころじゃないんだわ。

いろんな事が頭をよぎった。好きだったアイドル、戦場の記憶、カシラと飲んだ記憶、上田に時計をあげた時の事、初めてiPhoneを買ってもらった時の事、刺青を彫った時の衝撃、小沢の記憶と俺の記憶混じる。

向こう側の通りに見覚えのある姿を見た。カシラがおもちゃを物色している。似合わねぇ…とか思いながら叫ぶ。

 

「カシラッ…カシラァァァッ」

 

通りの排気ガスと共に俺の声も空気に溶けて消える。もう信号も待てない。車道に飛び出す。止めてくれた親切なおっさんありがとう。自殺じゃねぇよ。運転手が飛び出した俺に叫ぶ。ごめんてば。

 

「カシラッ…小沢です!!カシラッ」

 

眼の前をトラックが走り抜け、カシラの姿を一瞬見失う。やっとの事で手前の車線を抜ける。トラックが消えた後、カシラと俺の間に人影が何人か見える。

 

「カシラァァァッ…坂井てぇつやぁぁぁっ!!」

 

名前を叫んだ時、聞こえたかも知れない。カシラ振り返ろうとした時、右足が歩道の縁石を踏むと同時に白昼、銃声が響き渡る。のたうち回る様にカシラの身体が転がる。それでも止まない銃撃。襲撃犯たちが走り去るのが見えた。矢野のところに出入りしてた奴等だ。たった10メートルそこら、なぜか数十メートルにも感じた。タクシーを降りて数分、カシラを見つけて通りを横切って数分。

 

「カシラッ小沢です。申し訳ありませんッ!!」

 

抱き上げたカシラと目が合った。十分もしない間の出来事だったはず。何もかもがスローモーションだった。

 

「カッ…」

 

血だらけのカシラの手が俺の顎を掴んで、だがすぐに脱力して崩れ落ちる。

 

「カシラぁぁ…っ…あぁぁぁぁぁぁっ」

 

俺は初めて目の前で親しい人の最期を見た。こんなにもキツい。カシラは俺の慢心が殺した。オジキが引退して安心していた。

 

それからの事は上の空だった。警察が来て、事情聴取を受けて、解放されたのが夕方。あたりが真っ暗になるまで警察署の前立ち尽くしていた。

どうやってここまで来たのか、事務所まで帰ってこれた。

 

「アニキ…」

 

「おう…水上、オヤジはどこよ。」

 

「上に居てます。」

 

「おう。」

 

水上の反応を見るに、事情は知ってんだ。

 

「オヤジ、小沢です。帰りました。」

 

「おう…入れや。」

 

「申し訳ありません。間に合いませんでした。」

 

「頭が切れるのも考えもんよの。こんなは抱え込むクセがあるもんよな。」

 

「自分、山守の所行ってきます。」

 

「次は何するんなら。」

 

「オヤジはいい顔されんでしょうが…山守に鼻薬嗅がせて来ます。オヤジの名前で村岡と山守を繋いで、兄弟盃交わして貰います。上手いこと運べば広島と呉で安定した関係を作れます。」

 

「気が進まんのう…山守のう…」

 

「とりあえず、行ってきます。」

 

 

気も進まない、やる気もない、オヤジも乗り気じゃない。でも、事進めなければならない。少なくとも若杉、上田の二人は救えた。まだ救える命あるはず。その一心で山守の玄関を叩く。

 

「誰か、誰かいねぇのか。小沢だッ。」

 

「アニキ…どうされたんで?」

 

「おう…上田よ。なんでぇ居たんか。」

 

「カシラがやられたもんで。アニキが看取ったちゅう話ですの。」

 

「オヤジさん、居るかい?」

 

「奥に居られます。」

 

上田の脇をすり抜けて廊下を歩く。長く感じる廊下を抜けて、いつもの部屋に入る。

 

「オヤジさん、失礼します。」

 

「小沢か。何かあるとおどれは顔出して…」

 

「これからの事をお話させて頂きます。まずカシラの葬式を組で出して下さい。そうすれば呉はオヤジさんが仕切る事になります…。」

 

そこから村岡と兄弟になっておく事、村岡は子分から跡目は出さないだろう事、足掛かりに広島極道をまとめる段取りを目指したい事、その頂点を山守のオヤジさんにお願いしたい事を話した。もうコレは未来が見えてるレベルの話だ。が、今までの働きで頭が異常に切れると思って貰えている。

 

「おどれはそれでなんの利があんなら。」

 

「自分は元は山守のオヤジさんの舎弟です。今は広能のオヤジの舎弟です。親の為に働くのは舎弟の本分でしょう。本分を思い出したまでです。一つ言うなら矢野の残党、どこいるかも御存知では?聞かせて頂きます。」

 

「ここにおるわい。ほれっ。ほうなら坂井の葬式からかの。盛大にやったろうのう。」

 

紙切れに町外れの住所が書いてある。やっぱりそうか。

 

「矢野の若い衆のケツ叩きやがったなッ…」

 

「そがな話、誰が知るかい。」

 

このセリフ、俺に向くのかよ。原作のオヤジ、むちゃくちゃ悔しかったろうに。涙が滲む目を拭いもせず、槇原と上田を素通りして山守の事務所を後にした。

 

 

数日経って、広能組の事務所で時間を持て余していると上田から遣いが来た。渡された紙は二枚、一枚カシラの法要会場の住所、もう一枚は今矢野の残党がいる場所。

 

「オヤジ、カシラの法要、コチラです。」

 

「ほうか…鉄ちゃん、悔しかろう。」

 

「自分は野暮用あるんで。よろしくお願いします。」

 

「小沢、次頼むんは若杉の兄貴じゃないで。組、頼むど。」

 

「それって…」

 

「ワシのケジメじゃ。こんなが懲役行くのは許さんど。」

 

「なんとかします。水上、岩見、オヤジ送って来い。」

 

階段を降りながら、二人に指示を出す。この一件でオヤジは銃刀法違反で懲役になる。出所して金に困っていた描写があったはずだ。困っていなければいい条件で進められる事もあるかも知れない。オヤジが懲役行ってる間に稼ぎに稼いでやろう。

 

 

 

 

フラフラと港町のアパートを睨む。今頃、オヤジは仁義の欠片もない奴等の名前を撃ち抜いてる頃だろう。

真っ昼間と言うこともあって脇差を背に差して来た。生々しい感触だろうな…一階の一番奥のドアを叩く。

 

「山守のオヤジさんの遣いです。オヤジさんからの届けモンです。」

 

抜刀して待つ。足音が近づく。

 

「お待たせしてすんま…グッ」

 

ドアが開くと同時に心臓に刀を突き立てる。

 

「ちょっといいですか?」

 

ドアを開けた奴を外に連れ出し座らせる。脇差を後ろ手に隠し、上がり込む。あとの二人は酒を飲んでいた。

 

「小沢のオジキ…?」

 

俺を知ってた。それもそうか。勢いよく手前にいた奴の首を真一文字に切り抜く。そのまま奥の俺を知ってた奴の喉元に刀を勢いよく突き立てる。

 

「カシラ…了見してください。」

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