『これは誰もが幸せになるロマンチックな物語』   作:綾瀬~><

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一を聞いて十を知る

 

「ブエル先生!いい加減起きてください!!もう朝の9時ですよ!?」

「んん…あなくさごらす?…………あと、ごふんだけ」

 

 

 今やオンパロスで知らない人間は、辺境な田舎くらいだと言われるほどに有名で黄金裔である「千樹の王」ブエル。

 黄金裔にさして興味がないアナクサゴラスとて知っている、高潔で聡明な美しい黄金裔だ。

 

 初めてアナクサゴラスがブエルに会った時、それはそれはもう恐縮した。間違いなくアナクサゴラスの人生において、最初で最後の恐縮する瞬間だった。

 アナクサゴラスにとってブエルの湧き水の如く溢れ出る知恵と数多ある功績は尊敬に値するもので、あれやこれやとトリビーによって引き合わされた時は密かに心臓がバックンバックン音を立てていた。

 噂通り優しく、服が汚れることも厭わず膝をついて、呼びづらいと言われがちな名前を褒められ、自分の体を使った禁忌的な実験をしていたことを抱擁するように受け止めたブエルに好感度は上がりっぱなし…………だった。

 

 アナクサゴラスがブエルの元へ引き受けられた翌日から、ブエルの謎に包まれたプライベートを知ってしまえば、少しづつ尊敬度が下がっていくのも道理と言えるだろう。

 

 

 「千樹の王」ブエル、まさかのズボラだったことが判明。

 

 

 部屋は綺麗にされているが、基本的に寝ており、ご飯を食べないことはざら、掃除は自分の権能を乱用、朝は起きれない。アナクサゴラスが来る前はどうやって生活していたのか、聞きたいレベルに酷かった。

 ひとつ言っておくとアナクサゴラスは知らないが、ブエルがアナクサゴラスを引き受けることを決めた際に部屋が汚いことを思い出して遠隔で権能を使い部屋を綺麗にしていた。

 そのため、あのズボラっぷりにしては綺麗な部屋だったのだ。流石のズボラも人を招くのにあの汚さは不味いと思った。

 

 ブエルは仕事がある日の朝でも基本的にアナクサゴラスが布団を引っぺがして叩き起さないとギリギリまで寝て、朝ご飯を食べない。今日もアナクサゴラスは尊敬する人を雑にあしらいながら起こした。

 

 

「はいはい、もう5分過ぎてますよブエル先生。朝ご飯が冷めちゃうので早く起きてください」

「……ごはん…うう、おきる」

 

 

 唸りながら、のそりとベッドから起き上がったブエルの‘’嫋やかな髪”と称された黄緑が混じった薄灰色の髪は、ボサボサで酷い寝癖が着いていた。どうやら今日の寝相も悪かったらしい。

 寝ぼけながらクローゼットに手をかけたのを見てアナクサゴラスはブエルの部屋から出た。

 

 半覚醒状態のブエルは、例えアナクサゴラスが居たとしても服を脱いで着替える。何百年も生きているからか、怒ったり恥ずかしがったりもせず、むしろ大犯罪をしたのでは?というくらい謝るのだ。

 それはそれでアナクサゴラスは居た堪れない気持ちになるので、ブエルがクローゼットに向かったら速攻で部屋を出るようにしている。

 

 しばらくしてブエルがリビングへとやってくる。

 

 どこぞの仕立て屋によって仕立てられたブエルを最大限に引き立たせる服はとても美しい。しかし、どう考えてもあの酷い寝癖を櫛で梳かすだけでサラサラふわふわヘアーになるのだけは理解できない。アナクサゴラスが勝手に作ったブエル七不思議のひとつだ。

 

 

「おはよう、アナクサゴラス。今日も起こさせてごめんね」

「別にいいですよ、貴方に教えて貰っている知識と比べれば安いものですから」

「そ、そうかしら?それでもやっぱり申し訳ないわ……ご飯まで作ってもらっちゃってるんだもの」

「そもそも私は居候の身で、家の主はブエル先生です。住まわせてもらっているなら出来る限りのことはする、それがポリシーですので」

 

 

 それにブエルがズボラさを改善しようとしていることはアナクサゴラスとて知っている。

 ただの惰性によるズボラならアナクサゴラスとて、ここまで寛容にはなれない。しかしズボラに対する理由があるからこそ、アナクサゴラスはブエルのズボラを許し、下手に改善させない。

 

 ブエルが家で長時間眠るのは外で疲弊した心を休めるため、ブエルが家でご飯を食べないその気力がないため、ブエルが家で掃除が出来ないのは疲れ切っているため。

 

 誰よりも黄金裔としてオンパロス中を駆け回っているからこそ、一番心が休まる家で何もせず疲れを癒しているのだ。

 アナクサゴラスという子供がいるからこそ、疲れた体に鞭打っている。それを知ってしまえば一概に改善しろとは言えなかった。

 

 ちなみに言うと確かにその理由もあるが、ズボラなのはブエル本来の気質だったりする。

 いい感じに勘違いされてるな、とブエルは意図的に勘違いを正していない。常時マハールッカデヴァータモードは流石に疲れるのだ。

 

 

 

 今日は珍しく仕事も何も無い日で、ブエルの気分により勉強が進められる。といっても基本的にはアナクサゴラスがブエルに質問攻めをして、それに対してブエルが答えることの方が多いのだけれど。

 

 

「ブエル先生、何故、人はタイタンを神だと崇めるんですか」

「拠り所だからよ、人は何かに縋らなければ生きていけない生き物だもの。神を信仰するのが人にとって一番手っ取り早い方法なのよ」

 

「ブエル先生、人とタイタンの差はなんですか」

「強いて言うなら力と寿命かしら、それさえ克服できれば人と神に大した差は無いも同然ね」

 

「ブエル先生、神が完璧な存在であるとするならば、タイタンも黄金裔も人間ですか」

「そうね、神が完璧な存在であると仮定するならばタイタンも黄金裔も人間よ」

 

 

「ブエル先生は、私が冒涜的な質問をしても怒りませんよね」

 

 

 いつだってブエルはアナクサゴラスがタイタンや黄金裔を貶す質問をしても怒らなかった。神悟の樹庭でこんな質問をしてしまえば烈火のごとく集中攻撃されるだろうに、ブエルはそれを否定せず、ただひたすらに質問の答えを返した。

 

 そんなアナクサゴラスの疑問に少しキョトンとしてから──

 

 

 

「──私にとっては、それら全てが賞賛すべき好奇心だからよ」

 

 

 

 知恵と博愛の象徴と呼ばれし“黄金裔(半神)”は、恐ろしいくらい美しい微笑みを浮かべて言った。

 

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