『これは誰もが幸せになるロマンチックな物語』 作:綾瀬~><
個人差はあるが、私の黄金裔としての仕事はそんなに多くは無い。
基本的にオクヘイマでダラダラしているのが仕事。
それは仕事じゃないって誰かに言われた気がするけど、私の権能は植物に干渉することだから、
いざって言う時の緊急装置だからこそ、万事に備えて仕事量は最低限に抑えられている。こればっかりは私がいるだけで生存率がグッと上がるため、仕方がない話だ。うん、別に役得とか思ってないからね?ホントだよ?
今日は元老院とオクヘイマの統治に関する話をしに外へ出たは良いものの、用事が終わってしまえば今日という日が何も無く終わってしまう。
いつも通り家でダラダラしてもいいが、ゲームも娯楽もさしてないココじゃ時間を潰す手段も限られてくる。それに、せっかく外へ出たのだから何もしないのは勿体ないだろう。
今日は趣味で作った花畑の様子を見に行くことにしよう。
自分で作ったとはいえ、いつ見ても思わず息を吐いてしまう程に美しい花畑だ。
色々と品種改良を施してココでは季節関係なく、様々な花が咲き乱れているため酷く現実離れしている。
そんなことを考えていると、見慣れない珍しい客人がいることに気付く。花畑を眺める紫色の髪をした儚げな雰囲気を纏った少女に、私は笑みを浮かべながら声をかけた。
「ふふ、珍しい客人ね……キャストリス、花畑へようこそ」
「!ブエル様、お邪魔させていただいてます」
あまりにも礼儀正しい態度のキャストリスに内心苦笑いしながら、彼女の隣に立つ。
せっかくだから彼女にこの花畑の感想を聞くことにしよう、私の主観だけじゃ分からないこともあるだろうし。単純にキャストリスはどう思ったのか知りたい。
「ねぇキャストリス、花畑の感想を聞いてもいいかしら?」
「……ここは、とても美しくて心が休まります、まるで俗世から離れているような……そんな気持ちになります
西風の果てがあるのならば、きっとこのような場所なのだと思いました」
う〜〜〜ん、思ってた感想と違う。とはいえ、キャストリスは本気でそう言っているから茶化せない。
彼女は触れたものの命を散らしてしまう、花畑から一歩引いた場所で焦がれるように見ている姿に一つの考えが思いついた。
彼女とよく似た紫色の花を複数摘んで、権能を使用する。
薄緑色の膜に覆われて、眩い光に包まれた。そして光が収まると、先程摘んだ花があしらわれた髪飾りが完成した。
「キャストリス、もし貴方がよければ貰ってくれないかしら?」
「え、私に…ですか?」
「ええ、他でもない貴方に」
「ですが、私が触れればこの花は……」
「この花は“ドライフラワー”と言って、水分が抜けて乾燥した花なの。だから、触れても大丈夫よ、キャストリス」
恐る恐る髪飾りに手を伸ばし、触れるが何も起こらない。キャストリスは髪飾りを胸の前でギュッと抱きしめる。
割れ物に触るように、大事なものを抱き締めるように、まるで花が綻ぶように微笑んだ。は、はわわ……。
「ありがとうございます、ブエル様……ずっと、大切にします」
「気に入って貰えたなら嬉しいわ」
あんなに喜んで貰えたら一個と言わず何個でもあげちゃう。キャストリス、魔性の女じゃん……女の私でもクラっときたもん。とんでもねぇな。
心の中でそう思いながら、去っていくキャストリスに手を振って見送った。
さて、気を取り直して花畑の手入れをしよう。まずは水やりからやりますか。
一通りの手入れを終わらせて、最後の仕上げをするべく花畑の中心部分に立つ。
そして地面から力を注いで花畑全体に行き渡らせる。これをすることで長らく訪れていなくとも花が枯れることはない。神性の無駄遣い?それ言われたら何も出来ない。
満遍なく行き届いたのを確認して、ゆっくりと力を解いて瞼を開けると、歌劇を賞賛するようなそんな拍手が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、ふわりと巻かれた金糸の髪を持つ芸術品のような麗人がいた。いつ見ても彼女の圧倒的な美には驚いてしまう。私が麗しのマハールッカデヴァータ様じゃなければ負けていただろう。まあ、麗しのマハールッカデヴァータ様の美貌が負けるなんてこと有り得ないんだけどね(過激派)
「いつ見ても、先生が権能を使用する瞬間は美しいですね」
「アグライア……いつから見ていたの?」
「つい先程からです。キャスに貴方がここに居ると知らされたので、急いでやってきたんですよ」
「急いでって……そんなに急がなくとも、私は逃げないわよ?」
「オクヘイマの民に神出鬼没の黄金裔と呼ばれていることを御存知ないんですか?」
「(なにそれしらない)」
本当に何それ、知らないんだけど。それは本当です?
いや、確かに用事がなければ基本的に外に出ないし、出ても人目につかないような場所を通る。人通りが多い場所だと一気に人に囲まれて身動きが取れなくなるから。
もしかしなくともソレのせいで神出鬼没とか言われてるのか?別に何ら問題は──いや、よく考えてみろ自分、神出鬼没なマハールッカデヴァータ様は………ア、アリかも…。
神性が際立っている感じがするし、より神秘的な感じがする。よし訂正しない方向性で行こう。
「アグライアが会いに来るのなら逃げないということよ」
「それは一歩間違えたら口説き文句ですよ、先生」
目の保養なのは本当だし…いつも舐めまわすように見たいのを我慢してるくらいだし……。
そういえば、さっき聞きそびれたけど何故アグライアはここに?
「そういえば、アグライアはどうして花畑に?」
「どうして、ですか……先生が神性を見せる瞬間が好きだから、ですかね」
「私が神性を見せる瞬間?」
「ええ、自覚なさっていないようですが、神性を見せる時や権能を使用した時に髪や服の緑色の部分が光るんですよ。その瞬間が美しくて、好きなんです」
なるほど元素爆発()
確かにその瞬間のマハールッカデヴァータ様は大層美しいだろう、なんで私はそれを客観的に見れないんだ。成り代わりは辛い。
でも、そうだな……元素爆発()の瞬間が好きなら、今度から花畑の手入れに行く時はアグライアを呼ぼうかな?
「そうね……──今度から、花畑に行く時はアグライアを招待することにしましょう」
「……時折、貴方が私よりも人性が無くなっているのではないかと錯覚してしまいそうです」
なんで???善意の招待だぞ?????
首を傾げると、やれやれみたいな仕草をしてアグライアは踵を返し──
「──招待、今度から待っていますよ」
あまりにもメロい。私がマハールッカデヴァータ様じゃなかったら天を仰いで愛を叫んでた、危ない危ない。
はーーーー……よし、花畑での用事は済んだことだし帰ろう。そう思っていたら、腰に軽い衝撃が来る。下を見ると、赤毛頭が三つ。
「トリスビアス?全員揃って珍しいわね……どうしたの?」
「ルカちゃんに会いに来たの!」
「最近ぜーんぜん、ルカちゃんに会えてないからな!」
「ライアちゃんに教えてもらったんです」
黄金裔の中で私の居所共有されすぎ問題。キャストリス→アグライア→トリスビアスでしょ、次は誰に情報が行くの?ケリュドラ?セイレンス?サフェル?
ただでさえ顔面偏差値激高な人たちのメロい瞬間を浴びまくったんだ、これ以上は過剰摂取になる。トリスビアスの用事が済んだらさっさと帰ろう。
「ルカちゃん!花冠作ろう!」
「花冠?ふふ、そうね、作りましょう」
「凄い花冠を作るぞー!」
「お、おー!」
花冠って、どうやって作るんだ……?前世含めて花冠なんて作ったことがないぞ。こういう時こそ植物の力を借りて……なるほど、そう作るのか。いや結構難しくないか???
トリスビアスは慣れているのかスルスルと作っていく、森の王であるマハールッカデヴァータ様が花冠を作れないってことが解釈違いすぎる。よし、スーパー花冠を作ろう。
赤紫色のパティサラと白い花を使った花冠を三個量産して、トリスビアスの頭に被せる。
「ルカちゃん?もしかしてくれるの!?」
「おお、これ綺麗ー!」
「嬉しいです…」
「うふふ……パティサラの花言葉を知ってる?」
「?“あたちたち”は知らないけど……トリアンとトリノンはどうかな」
「“ボクたち”も知らない」
「確か……『純潔』と『不滅の祈り』です、よね?」
「ええ、パティサラの花言葉は『純潔』と『不滅の祈り』……トリスビアスにピッタリだと思ったの」
「“あたちたち”にピッタリ?」
「いつだってオンパロスを想い、箴言を伝え、不滅の祈りを持つ貴方にピッタリよ」
この世界のパティサラに花言葉があるって言うのを教えたくて、口をついて出たけど普通に変な人になりそう。焦って口を回していたら更に変なことを言ってしまった。
もうダメだ、今日は人に会いすぎてマハールッカデヴァータ様モードが正常に機能していない。
トリスビアスの反応を伺ってみると、嬉しそうにニコニコしている……まあ、良しとしよう。
最後に私の頭に三個の花冠を被せて言った。
「ばいばいルカちゃん!」
「また遊ぼうな!」
「花冠、だいじにします!」
「また遊びましょう、トリスビアス」
にこやかに手を振って、トリスビアスの背中が見えなくなったと同時に立ち上がる。よし帰ろう、もう帰ろう。私のHPはもうゼロよ。
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「……ブエル先生、頭のソレどうしたんですか?」
「ふふ、お友達に貰ったのよ。素敵でしょう?」
待って、花冠着けたままだったの忘れてた。