だんっだんっだんっ。斧が床を叩く音が薄暗い部屋に何度も響く。
始めたばかりの頃はなんと悍ましい音なのだろうと思っていたけれど、何度も続けている内に心地好いものに感じられるようになっていた。それは良くない変化なのだとわかっているけれど、もう受け入れてしまった。
どぼどぼ、ぽとぽと。赤黒く温かい液体が溢れ、滴る音がいくつもする。鉄の臭いに吐いていたのも最初の数回だけで、鼻が慣れてしまえばそういうものだと気にならなくなってしまった。臭い消しの苦労を思うと、やはり面倒ではあるけれど。
ひゅうひゅう、ぎゃあぎゃあ。今にも途絶えてしまいそうな息の音と、まだまだ元気な悲鳴と怒声。前者に対してはもっと上手にやれればあんな苦しそうな音を出させずに済んだのにと己を恥じるばかりだ。後者に対しては、あまり元気が過ぎるとまた失敗しそうだなという不安で一杯。
断って、繋いで、潰して、混ぜて、焼いて、固めて。それでも贄は足りない。積み重なった怒りと憎悪による呪いは、この程度の贄では叶わない。
「――――ああ、終末を。終末を、呼ばないと。全ての人を救う為に。全ての罪を赦す為に。この新世界に、終末を」
救済とは、死と絶望の果てにしか無い。僕はそれを知っているのだから。
※
リュレへと向かう馬車は非常に快適かつ、息苦しいものだった。トモリがイザナに怯えてしまい、イザナもトモリにどう接するかを考えているのか黙り込んでしまったので誰も何も喋らない重苦しい時間になってしまったのだ。
私はといえば、普段の感じでトモリに話し掛けると今トモリの前で演技を続けるべきかやめていいのか悩んでいるイザナに反射で殴られそうだったので黙っていた。
……まぁ、それはさておきとして。ここまでの道は、不自然な程に何も起こらず平穏なものだった。街に着く前に賊や獣に狙われずに済んだのは幸運と言っても良いのかもしれないが、少し妙でもある。騎士や狩人がこまめに来るような地でもないらしいのだが。
「トモリさん、リュレに着く前にちょっとおさらいしましょうかぁ」
ぱんぱんっと軽く手を打ち合わせて声を掛けると、トモリはびくっと肩を震わせたに後ぱあっと顔を輝かせて私を見た。反応を見るに、トモリもこの沈黙は辛かったらしい。
イザナは……おまえも喋れと思うが、とりあえずまだ見逃してやろう。後で愚痴を聞かされそうだな。
「えっと、はい。リュレに行って何をするか、ですよね」
「そうです。トモリさんが忘れて変なことをしないように、親切で優しいキユが改めて教えてあげるってわけです! はい感謝」
「あ、ありがとうございます」
一発殴っても良いんだぞとイザナをちらりと見たが、聞こえていないのか目を瞑って黙り込んでしまっていた。逆に私が殴ってやろうか。
「まず最初に、リュレではキユ達は騎士とは名乗りません。ジュウゾ様から行ってこいって言われていくのに名乗って威張れないなんて酷くないですかとは思うんですが、名乗れません。まぁ制服着てないしそもそもが傭兵なので、振舞いから気付かれるなんてことも無いと思うんですけどねぇ」
雇われの傭兵である私達は騎士団から受けた仕事の最中であってもそれを公言してはならない。そういう契約だ。
領主などの説明しなければならない立場のある人物やどうしても必要な緊急時以外は、ただの旅人かどこかしらから仕事を受けた傭兵であるとしなければならない。まぁ、呪術などで縛っているわけでもないのだが。
「今回は勇者に雇われた傭兵という形でいこうかなと。勇者であれば王都からお仕事で来ました、と言えばだいたいの人が納得しますからねぇ」
「えっと、同僚の勇者がリュレに行った後から行方不明で、今街で起こっている異変と繋がりがあるはずだと調査に来たってことになるんですよね」
「はい、上出来です。見た目とか名前はそれっぽいのを適当に考えて言ってください。キユ達はただの雇われってことで興味無さそうにしておきますので!」
「は、はい。えっと、どうしようかな……」
適当に知っている死人の名前を使えばいいと思うのだが、これは口にはしなかった。私とこいつが初めて話した日のことを考えると、あまり触れない方がよい気がしたのだ。
「調査は三日から七日程度の予定です。領主様によろしくしてあげてねとは言われてますけど、それ以上は予算を超えるので適当に結論付けて切り上げましょう」
困っているみたいだから手伝ってあげてね。この仕事を命じられた時、執務室を出ようとする私に爺はそう言った。個人的な親交でもあるのか、何か取引でもあったのか。
……嫌な予感がする。正直に言えば今回は失敗したことにするつもりだ。トモリに荒事の経験を積ませたいので多少はやるつもりもあるが。
「あの……解決しないと駄目なんじゃ」
「お馬鹿ですねぇトモリさんは。解決したいならキユ達みたいな傭兵を使わず、騎士団の精鋭を寄越してるんですよ。今キユ達に求められているのは一応お仕事しましたよという言い訳であって成果じゃないんです」
「そう、なんだ……」
あまり納得はしてない反応だ。ただ、理解はできるのか以前のような反論は無かったのでよしとしよう。
……少しはやる気を出させるか。この子のおだて方はわかってきたし。
「――とはいえ、です! キユだって適当に旅行して帰ろうなんて考えていません。というか行方不明が多発してる街で観光楽しんで帰るってのは無理がありますからね。しっかり事件を解決して成果を持ち帰って、報酬もたっぷり貰うんです。ついでにトモリさんも他の勇者から見直されればいいんですよ」
「……そっか。そう、ですよね。そうですよね! わたし、頑張りますね!」
「はい、頑張ってくださいねぇ。あと、はぐれないようにしてくださいね。一応そういう時の為の集合場所とか書いた地図を渡しておきますけど、見付けられなかったら脱走したって言わなきゃいけなくなるんですから」
「が、頑張ります……」
遺跡や遺物を目にした際の反応も確認したいし、精神的に負荷を掛ける事になる。そうでない時はできるだけ気楽にさせておくべきだが、逃げられると思われても困るので釘は刺しておかなければ。
あとは、やることが一つ。左腕を持ち上げ、思い切り隣へ肘を打ち込んだ。
「うぐっ!? きゆ、れっどら……あの、何を」
「はい、可愛いキユちゃんですよ。ちゃんと喋りましょうね、オウダインさん?」
まぁ、こいつにも王国の中で下手な演技の必要無い相手が私以外に要るだろう。面倒見のよいやつなので、案外トモリのような危なっかしいやつとは相性が良いかもしれない。
――さて。仕事の確認や雑談などで時間を潰し、リュレに着いたまではよかったのだが。
トモリの姿が消えたのは、馬車を降りて十分も経たぬ間のことだった。そういえば情けない悲鳴が聞こえた気がする。脱走したわけでないのなら、人混みに飲まれてしまったのだろう。
「どうしてこう……あの子は……はぁ。本当に……お馬鹿で間抜けなのでしょうね。はぐれるなと言ったはずなのに」
トモリがいないことに気付いて最初に口から出てしまったのは、演技を忘れた悪態だった。よろしくないのは理解しているが、耐え切れなかったのだ。
「解釈に困りますわね。逃げようとしてわざと逸れたのか、普通に阿呆の子なのか」
私が演技を忘れたので自分もいいと考えたのか、圧の無い困り顔でイザナが言う。まぁ、今はいいか。ざっと見回した限り王都からの監視も無いし、トモリを見付けるまでは素でいいだろう。
「後者と信じたいところですが」
「正直、わたくしもそう思いますけれど。キユちゃんが後者を信じるのなら、わたくしは前者を疑っておきますわね」
頼むと言うべきか私の判断が信じられないのですかと責めるべきか考えて、黙って頷くことを選んだ。わかっている。あれに関しては私の考えだけで進めてよいものではない。
イザナは正しさを重視する人だ。だから、私が間違えていればそれを赦さないだろう。間違いを間違いと気付かにままに私がおかしくなれば、こいつはもう駄目なのだと見放すか殺すかしてくれる。そういう人だと知っている。そうでなければ、いつか私は私の決めた終わりに辿り着く。だから、これでいい。
この人は、私のせいで死んだりしない。それで良いんだ。
「キユが間違えることなど有り得ませんが、万が一の時はおまえに任せます」
「この忠犬にお任せくださいまし。いつだってキユちゃんの期待以上の仕事をしてみせますわ」
「……そうでしたか?」
「そうですわよ」
働きに関しては実際文句は全く無いのだが、素直に認めるとそれはそれで面倒臭い反応が遅い返ってくるのでいまいち納得していない体で返事をした。こいつはあまり褒めると喜び過ぎて気持ち悪くなる。
……トモリに関しては、逸れただけであれば心配する必要は無いだろう。待ち合わせ場所を記した地図を渡してある。そこで待てと言い聞かせたし、最悪陽が沈むくらいまで待っていてもらう。逃げたのであれば、探し出して殺さねばならないが。
「さ、オウダインさん。領主の館に向かいましょう。ちゃっちゃか面倒なお話を終わらせて、トモリさんにお説教しつつお夕飯を食べるんです」
「……わたくし、どちらでキユちゃんに接するべきですの?」
「お好きな方で。キユを殴りたいなら普段通りで」
「あれを普段通りにしたくありませんし、わたくしキユちゃんには殴るよりも殴られたいのですけれど」
私はおまえを殴りたくないし殴られたくもないよ。どちらにしろ痛いんだから。
領主の館に着くと、説明の必要も無く門を通されそのまま応接間へと案内された。
全て知っていたかのような守衛と執事に気味の悪さを感じながら領主を待っていると、やはり全て知っているかのように余裕のある笑みを浮かべた身なりの良い赤髪の少年が入ってきた。聞いていた通りの容姿。リュレの領主だ。
「ジュウゾ・アンデッタ様から命を受け参じました、イザナ・オウダインと……」
「あぁ、そういうのはいいですよ。傭兵でしょう? 貴女方に礼儀を求めはしません、楽にしてください」
ぴきり、空気の凍る感覚がした。このお貴族様は傭兵嫌いらしい。もっとも、王国で傭兵を嫌っていない騎士や貴族はいないと言ってもいいのだが。
イザナの顔をちらりと確認。無表情だが、冷たい殺意に満ちていた。イザナは元貴族だ。この手の失礼を最も嫌う。衝動的に銃を抜くということはないだろうが、手は出るかもしれない。
「――それなら、楽にしますねぇ! キユ、こういうふかふかの椅子に憧れてたんですよぉ! ほらオウダインさん! オウダインさんも座って! ふかふかですよ!」
「…………えぇ」
本当に機嫌が悪いな。屋敷を出るまで耐えてくれると良いのだが。どうにもこの屋敷に入ってから妙な感覚があるし、面倒は起こしたくない。
……いや。より正確に言えば、この街に入ったあたりからずっと薄っすら不快な感覚がある。この不快感は、結界に閉じ込められた時の感覚が近いか? 獣避けの類いかと思って触れなかったが、気になってきた。イザナの方がこういった感覚には詳しく鋭い。後で確認を取らないと。
「――はい。理解しています。今このリュレで起こっている事件も、その対応で民から私共への不満が限界に近いことも。そう遠くない内に私はこの地を追われ、この地はリュレではなくなることも。よく理解していますとも」
リュレの現状について話している間も、領主は余裕を崩さなかった。見た目は幼く、十代半ばといったところの少年が領地の危機にこうも余裕を保てるだろうか? これも妙だ。
「一応、キユ達はそうさせない為に遣わされたと思うんですけど」
「手遅れです。今更誰が来たところで、もうこの地は終わります。巻き込まれる前に離れることを勧めますよ。私が意固地になって協力を受け入れなかったと言えば、貴女方の雇い主……ジュウゾ様も責めないでしょう。彼にはよくしていただきました。私からも文を送りましょう。そうすれば、傭兵としての評価にも傷は付きませんよ」
背後からちゃきりと鍔の鳴る音が一つ。脅しか、あるいはただの間抜けか。目の前の少年もそうだが、殺気が全く隠せていないな。
「どうぞ、お帰りを。犬小屋が恋しい頃でしょう?」
何処かで同業者が恨みを買ったのだろうか、言葉と同様に強い侮蔑の込められた視線でしっしと手を振られてしまった。
しかし、どうにも王国のお上品な方々は傭兵を犬や家畜と同じように扱いたがるところがあるな。そんなことだからここ数年は負け続きなのだが。
「キユ達、よく躾けられた優秀なわんちゃんでして。ご主人様の許可無しにおうちに帰ることはできないんですよねぇ。ですけど、この街からは出ていきますよ! ちょっと観光を楽しんでからにしますけど」
「…………そうですか。お勧めはしませんが。ああ、宿は取っていますか? まだなら私から声を掛けることもできます」
今、会話に不自然な間を感じたな。視線が泳いでいた。こういう妙な反応を示すやつは、大抵よからぬことを企んでいるものだが。
「いえいえ、ご心配無く! 宿もきちんと取ってますし、お友達も先に部屋で休んでるはずですので! 数日程旅行を楽しんで、戻ったら問題無しとジュウゾ様に報告しますねぇ」
「えぇ、ジュウゾ様によろしくお願いします。――それでは、この街をゆっくりと楽しんで」
ゆっくりと。先とは逆のことを少年が言う。顔立ちと声の幼さに見合わない、諦めと絶望に歪みながら、悦びを秘めた眼をした少年が。
――――私はこの目を知っている。終末を信じる狂人共と同じ歪んだ目だ。そして、獲物を……贄を見付けた者の目だ。
駄目だな、本当に帰れない理由ができてしまった。というより帰してもらえない気がしてきた。ついでにトモリが生きていられるかも不安になってきたな。
今すぐこいつの首を刎ねれば事は済む。が、この館に入ってからずっと妙な不快感がある。これが結界の類であれば、迂闊な行動を取ると返り討ちになる。
どうしますの。イザナが視線で私に問うた。何もするな。私も視線で答える。付き合いの長さは、こういう時に活きる。
「……ではでは、おいとましますねぇ! ジュウゾ様にはキユ達はとっても頑張ったとしっかり伝えておきますので!」
「えぇ、お気を付けて」
素直に帰る姿勢を見せた事で、周囲から放たれていた殺気が緩んだ。惜しいな。この妙な感覚さえ無ければ今がこの場の全員を殺す絶好の機会だったのに。
館を出てから、不審に思われないようあえてゆっくりと歩いた。きっかり三百秒無言で歩き、イザナに合図を送り簡単な結界を張ってもらう。
術者を中心に移動する、音を閉じ込める結界。私も結界の類を張れないわけではないが、こういう器用な真似はできないので助かる。
「面倒な事になりましたわね。どうしましょう?」
結界を張り終えたイザナが私に問う。答えなんてわかっているだろうに。
……こいつが答えの決まっている問いを掛けてくる時は、私の覚悟を試したい時だ。それもわかっている。やるべきことは、きちんとわかっている。
「あれらは処します。それがキユ達の仕事ですから」
「まぁ、そうなりますわよねぇ。けれど応援は期待できませんし、二人でやる事になりますわね」
「最も確実かつ安全なのは、館に火を付けた後不死隊に連絡。トモリを回収後即撤退ですね」
「お優しいですわね、それとも連れてきてしまった罪悪感でしょうか?」
「後の面倒を減らす為です。あの性悪糞爺がわざわざ監視しろと命じてきたのです、ここで死なせてしまいましたとなったら何を言われるか。それだけならまだしも、死体を発見、回収できなかったとなればキユとおまえだけの問題ではなくなってしまいます」
少し嘘を吐いた。が、半分は本当だ。
……トモリがこの街で死んだとして、あの爺はさして気にしない。死体の回収ができれば上機嫌に報酬を上乗せしてくるまであるだろう。ジュウゾ・アンデッタはそういう男だ。噂を聞いていた頃の印象は、実際に目にして確信に変わった。
ここでトモリを死なせるのは、あの爺の思惑通りになって癪に障る。それに、生きていればどこかしらで利用できるかもしれない。命を懸けてまで助けるつもりはないが、今死なせるのは勿体無い。
「トモリに関しては、まず宿に着いているかを確認するところからです。本当に脱走しているか、あるいは何か面倒事に巻き込まれているか。面倒事が誘拐事件絡みであれば利用できるかもしれませんのでトモリを優先します」
「その辺りはキユちゃんの判断に従いますわ。それにしても……はぁ。不死隊、呼びたくありませんわよねぇ」
「えぇ。ということで、今回は最も不確実で危険な手を取ることになります」
「…………そうなってしまいますのね」
心底から嫌だと示すように、イザナが深く長い溜息を吐いた。果たしてどちらが嫌なのか、聞いてみたいところではあるが。
不死隊。法国と名乗る傭兵団の中で、怪物殺しを専門とする部隊。一応は同僚だが、正直関わりたくない連中だ。
やつらが出ると、余計な死体が増える。下手を打つとその死体の中に私達も入ることになる。それに、やつらに手柄をやるのは……癪に障る。
「……イザナ、気付いていますね。あのガキ、終末信者です」
「まぁ、見慣れた目をしてましたものねぇ。どうしますのあれ、これから儀式しますって顔でしたわよ。あそこで殺した方が良かったのではないかしら」
「館に何が仕掛けられているのかわからなかったのです、仕方無いでしょう。おまえはわかったのですか?」
「領主の死、あるいは詠唱による起動を条件として心臓を破裂させる呪いと首から上の血の流れを止める呪い、あとは呪いや魔術とは違う力の流れを感じましたわねぇ」
「…………仕掛けなくて正解だったではないですか、このお馬鹿め」
呪いの類だけであればイザナが防いでくれたかもしれないが、こいつが知らない何かに関してはどうしようもない。
あの場で領主を殺せば終末の召還を防げたが、私達は呪われて死んでいただろう。
今すぐ引き返して館に火を付け、その後に不死隊を呼べばまだ防げるだろう。終末が顕れてしまったとしても、やつらであれば問題無く終末を討ち世界を救うだろう。その代わり、私達は本来の任務を失敗する。
今不死隊が王国で暴れれば、王国は誰が招き入れたのかを調べる。法国の傭兵である私達に辿り着くのは簡単だ。ばれてしまえばこれまでの準備が台無しになる。更に言えば、不死隊の連中は私達が仕事を終わらせるまで王国に近付かないよう命じられている。私達から助けを求めれば今よりも面倒な関係になる。
…………そもそもだ。そう、そもそもを言えば。この状況は、色々とおかしい気がする。山に隔てられているとはいえ、ここは隣国との境目だ。遺物の発掘、管理もしている。前の領主が狂った頃からこの地がおかしくなってゆくことに、王都の連中は気付かなかったのか? それとも、放置していたのか。ここは王国にとって重要な地ではないのか?
深く息を吸い、吐き出す。これは、今は考え過ぎないようにしよう。それよりも、成功した後の上と爺への言い訳を考えなければ。失敗した場合に関しては、殺されるか狂って死ぬかだ。これも今は気にしない。
「儀式を見届け、成就する直前に介入します。目的は呼び出そうとしている終末の特定、撃退。可能であれば術者の捕縛。できる限り情報を持ち帰りますよ」
「本業の時間ですわねぇ……はぁ、嫌になりますわ」
「そろそろ腕が鈍ってくる頃でしょう、丁度良いと思いなさい」
本音を言えば私もやりたくはないが。後の面倒を考えれば、これが最終的に一番楽をできる選択のはずだ。
……トモリを見付け、狂人共が起こした面倒事を処理してさっさとこの地を出る。よし、一晩で片付けよう。というよりも、恐らくだが、今夜で片を付けなければ私達は死ぬ。
やつらはもう動き出しているはずだ。私達を贄としたいのなら、逃げ出す前に仕留めたいだろうし。
「やりますよ、イザナ。お仕事の時間です」