万年荷物持ちが今日も気分よく帰ります   作:エスカド

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1話:万年荷物持ちが今日も気分よく帰ります

万年荷物持ちが今日も気分よく帰ります

 

 ***

 ◆モノローグ

 

 ショウが冒険者登録をしたのは十四のときだった。

 

 現代でダンジョンが出現してから、もう三十年近くになる。

 冒険者業はすっかり職業として定着して、ギルドはハローワークみたいな顔をして街中に建っている。

 スキルもランクも、今どきはスマホで管理だ。

 

 そういう時代に、俺のスキルは「ステータスウィンドウを開閉できる」。

 笑えばいいと思う。俺も最初は笑った。

 ただ一つ――誰も知らない事実がある。

 俺はそのウィンドウを、物理的に掴める。

 殴る。踏む。盾にする。荷物を載せる。

 ウィンドウは俺の意思に従って空中に固定され、質量を持ち、破壊されない。

 バレたら面倒くさい。だから隠している。それだけだ。

 

 ***

 ◆パーティ:スパークエッジ

 

「ショウくんだっけ。Dランクの」

 ギルドのロビーで声をかけてきたのは、四人組だった。

 リーダーのタスク。長身で装備が高そうで、それを知っている立ち方をする男だ。最近Bランク昇格を自分で言い触らしていると聞いた。ショウを見る目が、最初から「使えるかどうか」で計算している。

「荷物持ちが欲しくてさ。低ランクでも、まあ連れていってやれないことはないかなと思って」

「へいへい」

「もうちょっと嬉しそうにしてくれよ」

 そう割り込んできたのは、双剣使いのリナだった。小柄で笑顔が似合う見た目をしているが、ショウへの視線は最初から値踏みのそれだった。

「私たちのパーティに同行できるだけでも経験になるでしょ、Dランクには」

 三人目、盾役のゴードンは腕を組んで黙っていた。タスクに同意するタイプらしく、頷き方が上司に合わせる部下のそれだった。話すより威圧で済ませるタイプだ。

 四人目は弓使いのセラ。

 一言も喋らなかった。ショウをちらりと見て、すぐ視線を外した。

 興味がない、というより、最初から人数に入れていない目だった。

 ショウは肩をすくめた。

「まあ、好きに使ってくださいよ」

 タスクが満足そうに頷いた。「わかってるじゃん。Dランクはサボるなよ」

 

 ***

 ◆:ダンジョン

 

 入ってすぐ、リナが声を上げた。

「……何それ」

 ショウの横を、透明な板が浮いている。その上に今日の荷物が全部載っていた。

「俺のスキルです。ウィンドウに荷物置けるんで、便利で」

「ウィンドウって……浮いてるの?」

「まあ」

「気持ち悪い」

 タスクが鼻で笑った。「荷物持ちがサボらないくらいには使えるスキルってことか」

 ゴードンも笑った。セラは見ていなかった。

 ショウは何も言わなかった。

 別に傷ついてもいないし、言い返す気もない。

 ただ、少し退屈だと思った。

 

 ***

 ◆:予想外の強敵

 

 

 ダンジョン中層。

 順調に進んでいたが、通路の奥から巨大な影が現れた瞬間、空気が変わった。

 ミノタウロス級。中層に出るはずのない格だ。

 タスクが一歩引いた。リナが舌打ちをした。ゴードンが盾を構えたが、足が止まっている。セラは後方に下がって矢をつがえたが、手が震えていた。

「おいショウ! 前出ろ、囮やれ!」

 タスクの声は、三秒前までの余裕とまったく違った。

「Dランクなんだから、それくらい――」

 ショウはタスクを見た。

 それから、ミノタウロスを見た。

「……面倒くさいな」

 小さく言って、ため息をついた。

 ぱん、と一枚、ウィンドウを展開する。

 透明な板が空中に固定される。

「は? 何してんの早く――」

 ショウはウィンドウを掴んだ。

 両手で。しっかりと。

 リナの声が途切れた。

 ショウはすでに走っていた。

 ミノタウロスの顔面に、ウィンドウを叩き込む。

 ガッッッッッ――!!

 壁が揺れた。粉塵が舞った。

 ミノタウロスがよろめく。ショウはもう一枚を展開していた。

「おらぁっ」

 二撃目、頭頂部。

 ミノタウロスは音を立てて崩れ落ちた。

 静寂。

 ショウは肩を回した。

 息も切れていない。特に感慨もない。

「……スッキリした」

 

 ***

 ◆:Dランクの荷物持ち

 

 タスクが口を開いた。

「……お前、何者だ」

「Dランクのショウですよ」

「ふざけんな、なんでDランクが――」

「囮やれって言ったのあなたですよね」

 タスクが黙った。

 リナが何か言いかけて、やめた。

 ゴードンは盾を下ろしたまま固まっていた。

 セラだけが、ショウをまっすぐ見ていた。さっきまでと違う目で。

 ショウはウィンドウを閉じ、荷物を床に置いた。

「荷物はそこに。あとはご自由に」

 手をひらひらと振りながら、入口へ向かって歩き出す。

「お疲れさまでした。いや~、いい気分だ」

 

 ***

 ◆:ギルド

 

 

 ギルドに戻ると、受付嬢がため息をついた。

「また何かやらかしたんじゃないでしょうね」

「何も。気分よく帰ってきただけですよ」

「……はぁ。無事ならいいですけど」

 ショウは笑った。

 ギルドは彼を評価しない。誰も彼の真価を知らない。

 だが、それでいい。

 むしろ――そのほうが楽しい。

「さて、次はどんな気分で帰ろうかな」

 ポケットに手を突っ込んで、夜の街へ歩き出す。

 今日もDランクのまま。問題児のまま。

 だがショウは、誰よりも自由で、誰よりも楽しそうだった。

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