万年荷物持ちが今日も気分よく帰ります   作:エスカド

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2話:配信者がいても今日も気分よく帰ります

***

◆ギルド

「ショウさん、またクレーム入ってますよ」

 

 受付嬢の女性――名前はミナミさんだったか――が書類を見ながらため息をついた。

 黒髪を後ろでまとめた、真面目そうな人だ。俺とは相性が悪い。

 

「そうなんですかー。まあ、そういうこともありますよ」

 

「あなた、少しは反省してくださいよ。態度が悪いって言われてるんですから」

 

「態度が悪いのは事実なんで」

 

「開き直らないでください」

 

 ミナミさんは眉間を押さえた。

 俺の扱いにはもう慣れているが、慣れたところで疲れるらしい。

 

「でも、あなたが原因でパーティが壊滅したとか、怪我人が出たとか、そういう話は一度も聞かないんですよね……」

 

 俺の言動が気に入らない奴は幾らでもいる。

 だが、今はスマホで録音も録画もできる。

 でっちあげをしたパーティが逆に炎上して解散した例なんて、少し前は毎日のように起きていた。

 だから誰も俺に濡れ衣を着せようとはしない。

 態度が悪いだけのDランク。

 

「俺、そういうの嫌いなんで」

 

「じゃあ態度も直してくださいよ」

 

「それは無理ですね」

 

「……はぁ」

 

ミナミさんは書類を閉じた。

 

「今日はパーティの誘い、ありませんよ」

 

「ですよねー。じゃ、ちょっとダンジョン行ってきます」

 

「単独で行くんですか?」

 

「換金アイテム拾えたらラッキーかなって」

 

「……気をつけてくださいね」

 

ミナミさんは心底心配そうに言った。

 俺は手をひらひら振ってギルドを出た。

 

***

◆ダンジョン入口

 今日は軽く潜って、適当に換金アイテムを拾って帰るつもりだった。

 ソロは気楽だし、誰にも気を遣わなくていい。

 

 だが、ダンジョン入口で妙な声が聞こえた。

 

「はいどうもー! 今日も潜っていきます! チャンネル登録よろしくー!」

 

 ……配信者か。

 

 最近増えている、“ダンジョン配信”というやつだ。

 視聴者に向けて実況しながら潜る。

 危険だが、当たれば金になる。

 

 そのパーティは三人組で、カメラを持った男が先頭に立っていた。

 派手な金髪、派手な装備、チャラい声。

 

 俺はそっと距離を取った。

 

「映ると面倒だ……」

 

 配信に映れば、ネットで勝手に拡散される。

 俺のスキルが映れば、もっと面倒だ。

 だから、できるだけ離れて潜る。

 

***

◆ダンジョン中層

 しばらく進むと、配信者パーティの声が遠くから聞こえてきた。

 

「うわっ!? ちょ、待って待って! なんでここにこんなデカいのが――!」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 俺はため息をついた。

 

「……事故ったか」

 

 見に行くつもりはなかった。

 だが、後味が悪いのも面倒だ。

 俺はため息をついて、声の方に向かった。

 

***

◆事故現場

 配信者パーティは、巨大なアーマーゴーレムに追い詰められていた。

 なんでこんなところまで潜ってきてんだ。

 

「やばいやばいやばい! 死ぬ死ぬ死ぬ!」

 

「カメラ回ってるから落ち着けって!」

 

「落ち着けるか!!」

 

 完全にパニックだ。

 

 俺はウィンドウを一枚、ぱん、と展開した。

 透明な板が空中に固定される。

 

 それに乗り、飛び上がる。

 

「おい、そこの三人。伏せて」

 

「えっ?」

 

 もう一枚ウィンドウを右手前に展開。

 

 そして――掴む。

 

 

 俺は飛び降りざまにゴーレムの顔面にウィンドウを叩きつけた。

 

 ガッッッッッ!!

 

 金属音が響き、ゴーレムの頭部が大きく揺れる。

 続けざまにもう一枚を展開し、側頭部へ。

 

「おらっ」

 

 バキィン、と嫌な音がして、ゴーレムが崩れ落ちた。

 

 静寂。

 

 配信者パーティは口を開けたまま固まっていた。

 

***

◆配信者

 

「……あ、あの……助けてくれて、ありがとうございます!」

 

 カメラを持っていた男が駆け寄ってきた。

 さっきまでのテンションとは違い、素直に礼を言ってきた。

 

「いやー、マジで死ぬかと思いました! かっこよかったです! あの、これ……配信してもいいですか!?」

 

「いやいや、やめてくださいよ」

 

 俺は手を振って拒否した。

 

「俺、映るの嫌なんで」

 

「そ、そうですか……! でも本当にありがとうございました!」

 

 配信者は深々と頭を下げた。

 俺は軽く会釈して、その場を離れた。

 

「……気分よく帰れたし、まあいいか」

 

***

◆後日:ギルド

 

「ショウさん」

 

 ミナミさんがスマホを見せてきた。

 

「これ、ネットで話題になってる動画なんですけど……」

 

 画面には、配信者パーティがゴーレムに襲われる映像。

 その後ろに――俺の後ろ姿が少しだけ映っていた。

 

『謎の冒険者に助けてもらいました! 誰かわかる人いますか!?』

 

 コメント欄は盛り上がっていた。

 

「これ、ショウさんですよね?」

 

「いやー、知らないっすね」

 

「……はぁ。ですよね」

 

 ミナミさんはため息をついたが、どこか呆れたように笑っていた。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「あなた、本当に自由ですね……」

 

 ミナミさんの言葉を背に、俺はギルドを出た。

 

 今日もDランクのまま。問題児のまま。

 

 夜の街を歩きながら、少しだけ笑った。

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