万年荷物持ちが今日も気分よく帰ります   作:エスカド

4 / 4
4話:想定外でも今日も気分よく帰りたかった

 

***

◆ダンジョン入口・追跡

 

 追放された女の子が、一人でダンジョンに入っていった。

 

 俺はため息をついた。

 

「……いやいや、無理だろ。

 あの様子でソロは流石に」

 

 追いかけようとした瞬間、

 女の子の姿がふっと消えた。

 

「……は?」

 

 魔法か?

 いや、そんな高等技術を使えるようには見えなかった。

 だが、魔力の残滓が微かに残っている。

 

「ショートカット……?

 上級パーティにいたから許可されてたのか?」

 

 でもギルドでの扱いを見る限り、

 それは余計に危ないだろ。

 

「……嫌な予感しかしないな」

 

 俺はウィンドウを展開し、飛び乗った。

 

 足元に透明な板が固定される。

 さらに側面にもう一枚出し、それを蹴る。

 

 ウィンドウ → ウィンドウ → ウィンドウ。

 

 跳ねるように、滑るように、

 俺はダンジョンの奥へと進んだ。

 

 ショートカットの行き先は恐らく中層手前の休憩所、足水の広場だ。

 

***

◆中層・水場エリア

 

 海鳴ダンジョンの中層は、水場が多い。

 足場は悪く、視界も悪い。

 魔術師が一人で来る場所じゃない。

 

 休憩所からしばらく進むと――

 

「……いた」

 

 女の子が走っていた。

 息は荒く、魔力はほぼ空っぽ。

 その後ろを、ぬらりとした影が追っている。

 

 スライム・ムル。

 

 水場に出る中層魔物で、

 弱いが、魔力切れの魔術師には致命的だ。

 

「ひっ……来ないで……!」

 

 女の子は必死に逃げていたが、足がもつれた。

 

 スライム・ムルが跳ね上がる。

 

 俺はウィンドウを一枚、ぱん、と展開し、

 そのまま踏み台にして跳んだ。

 

「それっと」

 

 ウィンドウを掴み、

 スライム・ムルを叩き落とす。

 

 ぐしゃ、と嫌な音がして、

 魔物は水たまりに沈んだ。

 

 女の子は呆然と俺を見上げた。

 

***

◆救助

 

「あー…と、大丈夫ですか」

 

 俺が声をかけると、

 女の子はびくっと肩を震わせた。

 

「え……あ……あなた……?」

 

「ギルドで見ましたよ。追放されてた人ですよね」

 

「っ……!」

 

 図星だったらしい。

 顔を真っ赤にして俯いた。

 

「す、すみません……邪魔でしたよね……」

 

「いや、別に邪魔とかじゃなくて。

 ここ、一人で来る場所じゃないですよ」

 

 女の子は唇を噛んだ。

 

「……でも、証明したかったんです。

 私だって……できるって……」

 

 声は震えていたが、目だけは強かった。

 

 ああ、なるほど。

 こういうタイプか。

 

 努力家で、真面目で、

 でも不器用で、空回りする。

 それが鈍くさいとされる。

 

 上級パーティーから追放されたのもその辺りが理由か。

 

「とりあえず、立てます?」

 

「……すみません、魔力が切れて……足に力が……」

 

「はいはい」

 

 俺はウィンドウを一枚出し、

 女の子の前に差し出した。

 

「これ、乗ってください」

 

「え……? ウィンドウ?……触れるんですか……?」

 

「ああ、俺は触れるんで」

 

 女の子は恐る恐る手を伸ばし、

 ウィンドウに触れた。

 

「……っ!? これ……すご……」

 

 驚きと感動が混じった声が漏れた。

 

「え、あの……あなた、すごい人なんですか……?」

 

「いやいやいやいや、違いますよ。

 ただのDランクです」

 

「でも……こんな、すごい。しかも助けてくれて……」

 

 やめてくれ。

 そういうのが一番面倒くさい。

 

 とにかく彼女をウィンドウに乗せ、そのまま俺たちは出口へ向かった。

 途中横目に見ると、女の子が俺をちらちらと観察していた。

 

***

◆ダンジョン出口

 

 女の子を出口まで連れていき、

 ギルドの見える場所まで来たところで――

 

「本当にありがとうございました!

 あの、私ミヤって言います! あなたは――」

 

「じゃ、俺は帰るんで!」

 

 俺は珍しくダッシュした。

 

 背後から、

 

「ま、待ってください! お礼を――!」

 

 という声が聞こえたが、

 聞こえなかったことにした。

 

***

◆翌日・定食屋

 

 翌日。

 ギルドに行く前に、近くの定食屋で昼飯を食っていた。

 

 隣の席の冒険者パーティが話している声が耳に入る。

 

「なあ聞いたか? 黒髪のかわいい魔術師の子がさ」

「なんか必死に誰か探してるらしいぞ」

「ボサボサ頭の気だるそうな高校生くらいの男だってよ」

「へえ、何かやったのか、痴話喧嘩?」

 

 俺は箸を止めた。

 

「…………」

 

 そして、心の中で叫んだ。

 

(……げっ)

 

 嫌な予感がする

 

 気分よく帰るどころじゃない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。