地球にて生み出された機械少女には侵略の為に特異なシステムが備え付けられていた。ARMSシステムという名を持つそれは一体一体の機械少女に専用の武器を生み出し、機械少女のサポートを担う。秀乃も例外ではなく、彼女はピストルが相棒だった。
ARMSシステムによって絶命した生命体は灰になる。そこには例外は存在しない。それこそが宇宙傭兵をするにあたっての秀乃の武器の一つになり得ていた。
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「大丈夫お姉ちゃん?ゴミ捨て場で寝てたら風邪引いちゃうよ?」
少年は秀乃の安否を確認するべく、小さな触手で肩を叩いていた。表情からは少々の不安感があった。
「うぁあ……?」
いつも通りの様子で頭を抱えながら秀乃は起きる。秀乃は目の前の少年を捉え、彼の顔を観察した。彼女には興味があった。そう少年に向けて。
意識がはっきりしていると確信した少年は秀乃に距離を詰め、手を取る。
「良かった!そんな所にいると風邪引くよ?」
「ん?ああ……お姉ちゃんを心配してくれるのかあ〜?」
冗談交じりに秀乃は笑う。その笑みは自身がお姉ちゃんと言われたことが滑稽だと自嘲しているかのようだった。
秀乃はゴミ捨て場の横に置いてあるお酒を取ろうとするが、頭の痛みと倦怠感でイマイチ動きに鈍さがあるようだった。手だけで取ろうとするが届かない。暫くすると秀乃は諦め、少年に依頼した。
「ごめんそこの瓶取って〜。お姉ちゃんこれ無いと動けないからさあ〜」
緩さをはらんだ声で少年に依頼をする秀乃。その瓶を少年は迷い無く秀乃に渡した。
秀乃は瓶をゆるりと受け取る。その時の表情は少女らしい愛らしい笑顔で、兵器であることを忘れさせるようだった。そしてくいっと口元に瓶を運ぶ。
目覚めの一杯。しかし、そのお酒は昨日から飲んでいるのもあって無くなるのも早かった。
「あ……?これだけかあ……。ナハハ……」
寂しい笑い声だけが滅びかけの街に響く。何度か雫の一滴も逃すまいと、瓶を上下に振ってはみたが口元に届くことはない。
「お姉ちゃん動けそう?ここは危険だから離れた方がいいと思う。外国の人でしょ?」
少年はというとそんな秀乃に対しても普通に接していた。お酒を飲む大人など戦火に巻き込まれた町では珍しくはないのだと思われる。
「ああ。俺さ、お仕事で来てんだ」
「そっか。お仕事頑張ってね」
秀乃の言葉に少年は踏み込まなかった。代わりに彼の言葉には少し含みを持っているかのようだった。そんな少年を気にすることなく、秀乃は酒瓶の蓋をコインの代わりにし、コイン投げに勤しんでいた。
「お?今日は吉日?うぇひひっ」
コイン占いをしている秀乃。少年は興味深く見つめ
「僕もやりたい!」
と秀乃の側に寄りかかった。二人は占いにも関わらず何度も投げた。表が出ては歓喜し、裏が出ては落胆する。悲惨な町とは対称的に、和やかな雰囲気が二人の中に漂っていた。
暫くして、コイン占いに飽きたのか、秀乃は瓶の蓋を遠くに指でピンと飛ばした。少年も異論はないようだった。
「お腹すいたなあ……」
秀乃は呟く。コイン占いに夢中になっていたらいつの間にか正午に近い時間になっていた。頬に人差し指を押し当て、目を閉じ、思案する。
その内。秀乃は気づく。隣にこの場所について何でも知っている都合の良い者がいるということを。そして秀乃は彼を見つめ、一つ依頼をした。
「おいしいご飯屋……。教えてよおー」
「そうだね僕も空いちゃった」
少年は同意する。
「あ。ただ僕からも……。ちょっと触らせて!」
少年は我慢出来なかったように飛び出し、秀乃の服や身体を興味津々に触り始める。少年にとっては秀乃は他の人とは異なるイレギュラーなお姉ちゃん。見た目も服装も珍しいので当然であろう。
「うぇひっ!?……こちょばいからやめ……っつ……ひゃん!」
秀乃はこちょばさの余りゴミ袋の上から地面へと転がり落ちそうになる。しかし少年が身体を支えることで衝撃を受けることは無かった。
「大丈夫お姉ちゃん……?」
少年に抱えられた秀乃は重たそうにしている少年を案じてかすぐに飛び降り、サムズアップした。
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あのゴミ捨て場から少し離れた土地。そこで少年と秀乃はトリンプ国で人気のご飯屋に来ていた。隣国と戦争が起き、店は戦火でボロボロ。にも関わらず、店内は人で賑わっていた。
暫くすると机に並べられたのは赤色の汁にクラゲの頭のようなナニカと中途半端に溶けたジャガイモのようなナニカ、この国特有のものと思われる葉っぱなどがブチ込まれた鍋だった。
「うぇ……」
秀乃にとってその料理の見た目はゲテモノにほかならなかった。だが少年は気にすることなく満面の笑みを浮かべながら食事をしている。
秀乃は冷や汗をかき、何度も何度もゲテモノから目を背けようとしていた。匂いもドブのように臭い。思わず秀乃は追加注文した。
「……酒くれ」
その後の秀乃は目の前のゲテモノを食べては酒で流し込み、食べては酒で流し込みを繰り返した。観光日記に愚痴を記録するため、食材を残すという選択肢はとっくに封じられていた。
秀乃と少年は店から出ていった。表情は言うまでもなく対称的であった。
「……うう」
秀乃は気分が悪いせいかお酒を二瓶両手に持ち、短期間に何度も喉に運んでいた。この時ばかりはお酒が大好きな秀乃であっても料理の毒味が勝ったのか苦汁の面を浮かべていた。
「お姉ちゃん?もしかして口に合わなかった?ごめん」
「……クソまずい……」
少年に気遣うこともなく、秀乃は正直に言った。
その後……某所で秀乃は全て嘔吐したのは言うまでもない。
★
お別れ前にサプライズがあると少年に言われ、秀乃は少年の家の少し離れた所で待っていた。少年の家はというと紛争の影響か、住める所では到底なかった。屋根は石のような材質だが半分ヒビが入り、潰されるのは時間の問題と言った所、壁も一つは割れていて、玄関はドアのかわりに暖簾が使用されていた。風も少し冷たい。
暫くすると少年は家から出て、秀乃に笑みを浮かべ距離を詰めていた。
「じゃあん!これで最後遊ぼうよ!」
少年に手渡されたのは二足の靴。そして靴底に小さな車輪が付いていた。
秀乃はコツコツと靴を軽く小突いていた。お姉ちゃんにも知らないことはある。
「あ……これね足につけるものだよ!やったげる!」
不器用ながら少年は秀乃に靴を履かせていた。片足を履いた段階で秀乃はローラーを回転させながら遊んでいた。最初は慣れていない様子だったものの直に一定のリズムを刻みだし、二つ目をつけ終わった段階では秀乃は自分なりに音楽をローラーで奏でていた。
「ひひ……」
車輪を回すのが癖になったのか秀乃は笑みを浮かべていた。その表情は機械少女であるかを忘れさせる程の純粋なものだった。
「おいかけっこしよ!まあまあ速度出るけど多分お姉ちゃんなら大丈夫!あ……名前は?」
「秘密」
「ひみつ姉ちゃんかあ!じゃあひみつ姉ちゃん僕を捕まえて!」
ひみつ姉ちゃんと少年のおいかけっこ。それは夜が明けるまで続いた。
ひみつ姉ちゃんが捕まえて少年がおいかける側になったが、ひみつ姉ちゃんは少年の手ではずっと見つけられないままだった。