ミッションを達成した秀乃は帰路についていた。行きで使っていたヘリはない。そこで秀乃は折角ならばとヌル国の街並みを眺めることにした。
観光好きな秀乃にとってヌル国という場所は非常に退屈な場所だった。どこもかしこも戦火に包まれ、店は尽く閉店し、道端には軍服を着た軍人や巻き込まれた民衆の死骸が至る所に溢れていた。
「うえ……」
死臭が鼻を突く。たまったもんじゃないという様子で秀乃は顔をしかめた。
機械の回転音が静かな街に響く。秀乃は街を一度も名残惜しそうに振り向くことなく走り去った。ローラーから放たれる焔を残して。
――最早この街は無価値だ。そう言わんばかりに。
ヌル国を抜け出し、トリンプ国の宮殿へ全速力で帰還する。報酬を受け取るために。
トリンプ国に入って暫くすると秀乃は何故か途中で速度を落とした。
「何か走りづらい」
ローラーには中途半端に切り刻まれた触手と靴の断片が引っかかり、それが要因になっていた。
「あ――これ?」
彼女は乱暴にそれを放り投げ、走り去った。
★
「戻ってきたよお」
秀乃はローラースケートを駆動させ、一直線でヌル国からトリンプ国の宮殿にいたレーグルの元に帰還した。秀乃は早く報酬をくれと言わんばかりに小刻みに身体を動かし、今か今かと待ちわびていた。
「報酬ですね。では……」
レーグルは手を挙げる。その瞬間、後ろから武装したレーグルのボディーガードと思われる者が数人で秀乃を取り囲んだ。
「やだなあ……。御冗談はよしてよ」
「貴方は使いパシリにされて死ぬのです」
秀乃はため息をついた。
「うーん……支払いならお酒でもいいよ?報酬もお酒に使おうとしてたし」
彼女にとっては報酬がないのは死活問題だ。だから相手が乗るように機会を与えた。
「ふざけきったことを」
されどもレーグルの応答は変化しない。かつて秀乃を迎えた時の温厚な声色は消えたこと――それが裏切りの証明だった。ゆっくりと手を挙げ、ボディガードに攻撃の合図を下す。
ボディガードは即座に反応し、迷うことなく手元の引き金に手をかける。今までもこうしてレーグルの手足となり、色々な者を消してきたのだろう。
だが彼らは通用しない。三発の銃弾で彼らはこの世界から姿を消す。その様子を見てレーグルは怯える他なかった。
「わ、分かりました!報酬な――」
命乞いを聞くことなく、秀乃はレーグルを撃ち抜いた。無表情で何度も何度も。その行動こそ彼女が一体どのような存在かを表しているようだった。
トリンプ国は本当に静かな国になった。争いのない平和な国になった。これからも平和なトリンプ国は不変的に永遠に続くだろう。何故ならその原因が綺麗さっぱりと消えてしまったのだから。
★
惑星フィーアの世界中であるニュースが放映された。どうやらトリンプ国とヌル国という二つの国が一夜にして崩壊したらしい。両国は非常に小さな国という前提はあるものの、その情報は惑星中に伝わり、隠しきれぬ残響となっている。
「しかし……物騒だねえ……。一夜にして二つの国が消えるとか歴史的にも極めて稀じゃないか?」
その知らせは某国のバーにても報道されていた。店主は対岸の火事と言わんばかりの反応を示した。
「ところでお客様。少し飲み過ぎてはないですか?」
店主がカウンターで寝そべっている客へ声をかける。その客は静かに笑い声をあげた。うぇひひと。