転生サトシの旅路   作:ナノブ

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3.新たな仲間

第5話 新たな出会い

 

 

スイクンと出会ってから、早くも一年が過ぎた。

あと四年で旅に出られる。

朝五時に起きて二時間走り込みをし、シャワーを浴びてから朝食を用意して母さんと一緒に食べ。

お昼ご飯を持ってスイクンの元に行って波導の力をコントロールする練習と組手、そして体を鍛える修行をして。

 

最近では自分のことを話してくれるようになったスイクンと談笑しながらお昼を食べ。

スイクンのコンディションを整えながらバトルの練習、技の習得の修行をして。

午後二時頃、オーキド研究所に行って勉強していると何故か突っかかってくるシゲルを相手しながら、本を読ませてもらったりビデオを見させてもらったり、はたまた研究の手伝いとしてポケモンと少しだけ触れ合わせてもらったりしている。

 

そんな充実した一日を送っていたある午後、オーキド研究所を訪れる新たな存在があった。

その存在とは―――。

 

 

 

 

 

 

 

「博士ー?ヒトカゲだけいないけど……」

 

「何じゃと!?あのヒトカゲ、やたら外を見ていると思ったが外に出て行ってしまったのか!」

 

 

そう、いわゆる御三家の健康診断だ。

今度新たにポケモントレーナーになる子どもたちのために、オーキド研究所まで届けられたポケモン達だ。

フシギダネとゼニガメは大人しく座っているが、ヒトカゲだけ姿が見えなかった。

前の時もこんなことあったよな~、と思いながら、それはポケモントレーナー、しかもチャンピオンになった後のことだったので今回の出来事とは違うと思い直す。

 

 

「さっそくトラブル発生するとは…!!」

 

「博士。俺、外に出て探してくるよ!」

 

 

返事を待たずに、ヒトカゲが出て行ったと思われるオーキド研究所の裏口を開ける。

 

 

「あ、待てよサトシ!この僕がヒトカゲを見つけるんだ!」

 

 

慌てたように、張り合うようにシゲルも後ろから付いてくる。

 

 

「頼む!じゃが草むらには入っちゃいかんぞ!」

 

「わかってるー!」

 

 

いつの日かと同じように形ばかりの返事をして、シゲルと一緒に駆け出した。

 

 

「シゲル、手分けするか」

 

「手分けなんてしなくても、この僕がすぐに見つけてみせるけどね。まぁでも、ヒトカゲの安全第一ってことで、君の案に乗ろうじゃないか」

 

「じゃあ俺はこっちだ」

 

「僕はこっちから」

 

 

走りながらそんな言葉を交わし、途中でシゲルと別れ波導の力を全開にした。

見慣れぬ気配を探しながら、ひとまずマサラの森に向かって走る。

しばらく走って当たりの様子を探っていると、森の入り口近くで佇んでいる、見知らぬヒトカゲらしき気配を見つけた。

 

 

「あれか?」

 

 

森に入ってしまう前に、急いでその気配の元へと向かう。

遠目でも確認できる距離に来ると、その気配がヒトカゲだとわかったのでさらに走るスピードを上げる。

 

 

「おーい!ヒトカゲー!」

 

「カゲッ!?」

 

 

呼びかけると、ヒトカゲはもう見つかったのが信じられない、とでも言いたげな顔で驚きながら振り返った。

そんなヒトカゲに苦笑して、ヒトカゲの元に辿り着くと目線を合わせるようにしゃがんだ。

 

 

「ダメじゃないか、勝手に出てきちゃ………外に出たいなら、一言オーキド博士にそう声をかけなきゃ」

 

「カゲ………カゲ!カゲッコォ!」

 

 

さとすように言うと、ヒトカゲは何やら身振り手振りを使って、一生懸命何かを伝えてくる。

 

 

「何々?ヒーローになりたい?ヒーローになりたくて冒険に出たかった?」

 

「カゲッ!」

 

 

そうだ!、と力強く頷くヒトカゲ。

ヒーローに憧れるとは、男の子である。

 

 

「そっか………ヒーロー、カッコいいもんな!」

 

「カゲ!カゲッコォ!」

 

 

目をキラキラ輝かせて、うんうん頷くヒトカゲはよほどヒーローに憧れているようだ。

 

 

「でもな?ヒトカゲ。ヒーローになりたくても、他の人を心配させちゃダメだ。ヒーローっていうのは、誰かを助け、守り、支えるために存在するものだろう?そのヒーローが、余計な心配かけてちゃ、皆が安心できないからな」

 

「カゲ……」

 

 

ヒトカゲは俺の言葉の意味を理解してくれたようで、落ち込んだように俯いた。

まだまだ幼いヒトカゲに真剣に説教じみたことをしてしまい、少しだけ恥ずかしい。

その気持ちを誤魔化すように、ヒトカゲの頭に手を置いてそっと優しく撫でる。

 

 

「でも、ヒトカゲならきっとカッコいいヒーローになれる。今でさえこんなに熱意溢れた頼もしいポケモンなんだからな。頑張れよ!」

 

「カゲッ………カゲカゲ!!」

 

 

俺の言葉に嬉しそうに尻尾をぶんぶん振りながら、何度も頷く姿は微笑ましく、可愛らしい。

思わず俺も笑顔でヒトカゲに笑いかけた。

 

 

「さ、帰ろう。オーキド博士が心配して―――」

 

 

そこまで言いかけた時、近くの草むらがガサガサと音を立てた。

 

 

「カゲェッ!?」

 

「おっと」

 

 

ビックリしたヒトカゲが抱き付いてきたので、難なく受け止める。

ヒトカゲを安心させるように撫でながら、音がした方に集中した。

何やらポケモンの波導をキャッチする。

 

 

「なんだ……?」

 

 

ガサガサ、ガサガサと音を鳴らしながら、ぴょこりと耳がのぞく。

 

 

「あっ!」

 

「ブゥ、イ………」

 

 

傷付いた、イーブイだった。

イーブイはふらふらと草むらから出てきたと思ったら、どさりと倒れてしまった。

 

 

「イーブイ!」

 

 

慌てて駆け寄り、ヒトカゲを襟巻のように肩に捕まらせるようにしてヒトカゲから手を放し、イーブイの様子を見る。

一目で瀕死状態なのがわかるほど、酷い傷だ。

ヒトカゲもビックリして言葉を失っている。

 

 

「待ってろ!今手当てしてやる!」

 

「ブ……?ッ!?ブイ!!?ブイブイ!!!!」

 

 

一先ず持っていた清潔なハンカチで傷口を拭くと、痛みで目が覚めてしまったのかハッとしたイーブイが、慌てたように手に噛み付いてくる。

 

 

「いっ…!」

 

「カゲッ!」

 

 

思わず痛みに呻いてしまい、ヒトカゲが慌てたように肩から飛び降りてイーブイに近寄った。

 

 

「カゲッ!カゲッコォ!」

 

 

イーブイを説得しようとしてくれているのか、さらにイーブイとの距離を詰めたところ、イーブイが逆に怯えてしまい手に食い込む歯の力が強くなったのを感じて、ヒトカゲを手で止めた。

 

 

「良い。大丈夫だ、ヒトカゲ。イーブイはただ、怯えているだけだから」

 

「カゲ……」

 

 

ギュッと目を閉じ、ガタガタ震えながら噛む力は強く。

どんな目に遭って来たら、こうまで怯えるようになってしまうのか。

イーブイが置かれていた環境を思い胸が痛みながら、イーブイに噛み付かれている手とは反対の手でそっとイーブイの頭を撫でた。

 

 

「ごめんな、イーブイ。痛かったな………怖い思いをさせて悪かった。でも、もう大丈夫だぞ。ここは、安全な場所だ」

 

「……ブ………」

 

 

そっと優しく頭を撫でて声をかけると、イーブイは恐る恐るという表現がぴったりな程慎重に目を開ける。

 

 

「なぁ、イーブイ。俺に、お前の傷を手当てさせてくれないか?痛いの痛いの、飛んでけーってさ」

 

「ブ、ブイ……?」

 

 

俺の言葉に戸惑うように、イーブイはピンと立てていた耳をゆるゆる下げていく。

そしてイーブイを安心させたくて笑いかけた俺に、ポカンと口を開けて固まってしまった。

噛み付かれていた手が離れたのを良いことに、俺はイーブイの応急処置を始める。

 

 

「少し痛いかもしれないけど、我慢してくれよ?」

 

「ブ………」

 

 

近くにあった薬草を使いながら、ハンカチをビリビリと裂いて、一番酷い傷がある左前脚に巻き付ける。

この世界でもスイクンで一度やっていたことなので、意外とテキパキという表現が正しい程順調に手当てができた。

あっという間に応急処置が終わり、イーブイをそっと抱え上げる。

 

 

「ブイ?」

 

「今から、ちゃんと手当てができる場所に連れて行ってやる。怖くないからな」

 

 

もう一度安心させるように笑いかけると、イーブイは安心したのか限界が来たのか、瀕死状態だったこともあって腕の中で気絶してしまった。

 

 

「!!イーブイ!まずい………ヒトカゲ、オーキド研究所に戻るぞ!」

 

 

慌ててヒトカゲの方を振り向くと、何故かキラキラとした瞳で俺のことを見ていた。

よくわからないがもう一度ヒトカゲを促して、肩に捕まってもらいオーキド研究所までの道のりをなるべくイーブイを揺らさないようにしながら走る。

 

 

「博士!大変だ!」

 

「何じゃサトシ、そんなに慌ててどうした」

 

「ヒトカゲは見つかった!でもそれ以上に、傷付いたポケモンがいたんだ!治療してほしい!」

 

「!!なんと!早くこっちへ!」

 

 

オーキド博士は俺の腕にいる傷付いた気絶してしまっているイーブイを見て、顔色を変えて治療台へ誘ってくれた。

そしてイーブイの治療が始まる。

時折痛そうに顔をしかめるのが、心に刺さった。

酷い傷だったが、さすがはオーキド博士。

完璧に治療してくれた。

治療が終わった後の包帯だらけの姿はまだまだ痛々しいが、それでも呼吸が落ち着いているのを確認して一息ついた。

イーブイの治療が終わったところで、シゲルが帰ってきた。

 

 

「お爺様。ヒトカゲですが、中々見つからなくて―――」

 

「ヒトカゲならサトシが見つけてくれたぞ」

 

「なにっ!?」

 

 

驚いたシゲルと目が合い、いまだに俺の肩に掴まっていたヒトカゲを見て更に目を見開いた。

そういえば、まだ肩にいたのか、ヒトカゲ。

 

 

「ふ、ふんっ。今回は手分けしたからな。どうやらサトシが行った方にいたみたいだ」

 

「そうみたいだな。ヒトカゲ、シゲルも探してくれていたんだ。お礼を言っておきな」

 

「カゲッ!カゲッコォ」

 

「な、あ……!」

 

 

俺の言葉に素直に従い、肩から降りてペコリと頭を下げるヒトカゲ。

そんなヒトカゲに驚いたのか、シゲルは今度こそ言葉を失くしてしまった。

微笑ましくて思わず笑みが漏れるが、イーブイが少し呻いた声がして慌ててイーブイの方を振り返った。

シゲルもそこでようやくポケモンを治療していたことに気付いたようで、我に返り慌てて近付いてくる。

そして包帯だらけのイーブイを見て、先ほどとは別の意味で言葉を失った。

 

 

「どうしたんだ、このイーブイは……」

 

「わからないんだ。ヒトカゲを見つけたところに、このイーブイが傷だらけで出て来て……」

 

「ふむ…………ポケモンにつけられた傷が主なようだが、この辺にイーブイが生息しているという情報は聞いたことがない。おそらく、人間に逃がされたのじゃろう。そしてこの辺で見ないポケモンに周りのポケモン達が敵意を向け、追い払おうと威嚇され攻撃され、ここまで逃げ延びてきたんじゃろうな」

 

 

オーキド博士の推測の言葉に、シゲル、ヒトカゲと一緒に愕然とする。

オーキド博士の言葉を補足して二人分の記憶から推測するに、おそらく弱いからといって逃がされたポケモンなのだろう。

ろくに回復もされず、ガリガリなことからご飯も食べられず、バトルで負けたことを理由に逃がされ―――――いや、捨てられたのだ。

本当に、酷いことをする人間がいたものだ。

思わず拳に力が入る。

 

 

「まぁ、ただの推測じゃ。真実はイーブイに聞きでもしない限り誰にもわからん。さぁ、ヒトカゲも見つかったことじゃし、健康診断の続きをしようかの。シゲルとサトシも見学するか?」

 

 

気分が落ち込んでしまった俺達を気遣ってくれたのか、オーキド博士がそう声をかけてきてくれたので、ありがたくシゲルと一緒に乗った。

俺はイーブイに噛まれた手を治療してもらってから、だが。

俺が連れ帰ってきたヒトカゲ、そしてオーキド研究所で待っていてくれたフシギダネとゼニガメの健康診断が行われる。

健康診断が終わった後も、俺が家に帰る時間になっても、イーブイは目を覚まさなかった。

さすがに心配だが、家に帰らないわけにはいかない。

オーキド博士にイーブイのことを頼み、帰宅する。

 

 

 

 

 

翌日、朝の走り込みの時間にオーキド研究所の近くを通りかかると、ガターン!!ドンガラガッシャーン!!と、騒がしい音が聞こえてきた。

何事かと足を止め、音がしたオーキド研究所に向かう。

インターホンを鳴らし、待つことしばし。

 

 

「は、はい……?お、おぉ、サトシか……」

 

「オーキド博士!何か、すごい音がしてたけど………大丈夫?」

 

「あ、あぁ……そ、それがのう……」

 

 

朝早い時間だというのに出てきてくれたオーキド博士は、何故か既にクタクタで一気に困った表情になる。

歯切れの悪いオーキド博士に、不思議に思って首を傾げると中に上げてくれた。

中に入って驚いたのが、何かが大暴れした形跡、家具等がぐちゃぐちゃになっていることだった。

 

 

「な!?何があったんですか!?」

 

「実はのう、イーブイが―――」

 

「ブゥイ!ブイブイ!」

 

「こら待て!暴れるなって!」

 

 

オーキド博士の言葉を遮って、違う部屋からイーブイとシゲルが飛び出してきた。

イーブイは必死にシゲルの手から逃れようと包帯が取れかけたまま部屋を駆け回り、あっちこっち物を倒してはぐちゃぐちゃにしていく。

シゲルはそんなイーブイに追いつこうと、ご飯を入れたお皿片手に必死に手を伸ばしていた。

 

 

「イーブイにシゲル……?」

 

「ブイ!?ブイブイ!!!」

 

 

思わず呟くと、声が届いたのかイーブイは涙目でハッとしたように俺の顔を見て、腕の中に飛び込んできた。

いきなりのことだが難なく受け止めると、ようやく場が落ち着いた。

ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメの三匹も、扉から恐る恐るこちらを見ていた。

 

 

「ど、どうしたんだ、イーブイ……?」

 

「ブイッ、ブイ……」

 

「ど、どうしたも何も、目が覚めていたからご飯を上げようとしたら、急に飛び出して走り回り始めたんだよ……」

 

 

へとへとになったシゲルが教えてくれるが、イーブイはよほど怖かったのか俺の腕の中でぐすぐす泣いている。

そんなイーブイを見て、さすがのシゲルも罰が悪そうな顔になった。

 

 

「おそらくじゃが、人間が怖いんじゃろう。捨てられ―――逃がされた後に、別のトレーナーに捕獲されかけたのか、トレーナーとの間で何かあったのかもしれん。だから急にシゲルに手を伸ばされて、びっくりしたんじゃ」

 

「じゃあ何故、サトシは大丈夫なんですか?」

 

 

ごもっともな疑問をシゲルが不満げに口にする。

 

 

「サトシはイーブイを助けた存在じゃ。それがわかっているからこそ、今は唯一安心できる存在として認識しているようじゃな」

 

 

オーキド博士の言葉を肯定するかのように、イーブイは泣き顔を俺に擦り付けてくる。

思わず苦笑するしかない。

 

 

「イーブイ。ここにいる連中は皆優しい人間だから、大丈夫なんだぞ?」

 

「ブ………ブイ……」

 

 

撫でながらそう声をかけても、イーブイはただただ怯えるばかり。

よほどな目に遭っていなければ、こうはならないだろう。

痛む心を押し隠して、シゲルが持っていたお皿から一粒ポケモンフードを取り出し、イーブイに差し出した。

 

 

「ほら。腹減ってるだろ?」

 

「ブ………」

 

 

イーブイはしばらくクンクンと匂いを嗅ぎ、俺の顔を戸惑ったように見ていたが、俺が微笑んで頷いてみせると意を決したようにぱくりとフードを食べた。

しゃくしゃくと咀嚼し、ごくりと呑み込む。

 

 

「ブイ……!」

 

 

途端に、顔に生気が戻った。

 

 

「な?美味しいだろ?」

 

「ブイ!ブイブイ!」

 

「………も、もっとたくさんあるんだけど――」

 

「ブ!?」

 

 

俺に対しては笑顔を見せてくれていたが、シゲルが顔を覗かせると途端に固まってしまうイーブイ。

ヨーギラスを思い起こさせる。

 

 

「ふむ…………こりゃしばらくは、サトシが世話をするしかないのう……」

 

「くっ………先に見つけたのがサトシってだけで、僕が悪いわけじゃない…………僕が負けたわけじゃない」

 

 

オーキド博士の言葉に、シゲルは悔しそうな顔でブツブツ呟いた後、俺にお皿を差し出した。

 

 

「ほら。イーブイの面倒、しっかり見てあげなよ」

 

「あ、あぁ………ありがとう、シゲル。ほらイーブイ、もっとたくさん食べられるぞ」

 

「ブイ!」

 

 

俺が差し出したご飯のお皿に、イーブイは腕の中から少しずつ食べ始める。

 

 

「サトシ。イーブイの傷は、酷いもの以外はほぼ治りかけておる。手当ての仕方はいつでも聞いてくれ。他に何かわからないことがあれば、いつでも聞きに来るといい」

 

「ありがとうございます!」

 

 

そうして、イーブイのお世話を俺がすることになった。

母さんも許してくれて、イーブイはこの日から俺の家で生活するようになったのだ。

イーブイのお世話を任されてから、変わったことが一つ。

以前から一人でいるのが苦ではなかったので周りの子ども達のことなど気にしていなかったのだが、絡まれることが増えた。

おそらく自分のポケモンを持ったように見えて、羨ましいのだろう。

そういう考えに至ってからは、子ども達の好奇心を刺激して申し訳ないなぁとしか思わないが。

 

そんなこんなで俺の周りの環境が変わる中、スイクンにもイーブイのことを紹介した。

紹介する際、イーブイはずっと俺の足の後ろに隠れていて可愛かった。

女の子のイーブイに、スイクンの方も最初はどう接したらいいのかわからないようで、少しだけオドオドしていた。

可愛かった。

 

スイクンとのバトルの練習、技の習得の修行をしていると、イーブイも興味を持ったようでまずは俺の走り込みについてくるようになった。

一生懸命俺のスピードについて来ようとするのは可愛いが、傷が治ってからだと博士に怒られてしょんぼりしていた。

 

イーブイの傷だが、左前脚の酷いもの以外はすぐに完治した。

遅れて左前脚の傷も完治したが、左前脚の傷は傷跡が残ってしまうかもしれないとオーキド博士に言われ、母さんが女の子に傷が残るのは許せないと憤慨していた。

 

あまりにも母さんが怒るものだから、傷が残るのはそれほど酷いことなのかと思い、手芸で空色のリボンブレスレットを作り、プレゼントした。

傷跡を隠すようにつけてあげると顔を真っ赤にして泣いて喜んでいたので、本当に良いことをしたものだと俺も嬉しくなった。

 

そんなこんなでイーブイの傷が全て完治し、体を万全に動かせるようになってから。

イーブイが俺とバトルの練習をするのに前向きだったので、イーブイにも俺の夢について話した。

 

 

「イーブイ、俺さ………ポケモンマスターになりたいんだ」

 

「ブイ……?」

 

 

ポケモンマスターを目指し、旅をしながら職業についても考えていきたいこと。

 

 

「そんな、まだまだ未熟な俺だけど…………俺に、力を貸してくれるか?」

 

 

情けなく問いかけた俺に、イーブイは―――――。

 

 

 

 

 

「ブイ!」

 

 

イーブイは、笑顔で頷いてくれたのだった。

 

 

 

「イーブイ、ゲットだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話 ポケモントレーナーとして

 

 

スイクンに続き、イーブイが仲間になってから。

俺は何故か懐かれてしまった、あのヒトカゲの相手をしていた。

俺がトレーナーというわけではないので、イーブイのように鍛えるわけにはいかない。

それでも俺が鍛えているイーブイを見て、目を輝かせて近付いて来られれば邪険にはできなかった。

 

簡単にバトルのやり方を説明して、同期のフシギダネ、ゼニガメと模擬バトルをさせる。

いつもヒトカゲはフシギダネ相手にもゼニガメ相手にも負けてしまっていたが、根性とガッツがあるのでトレーナーが付けばもっと伸びるだろう。

それに、このヒトカゲは物理型ではなく特殊型で育てた方が伸びる個体だ。

〝ひっかく〟しか使えない今が真価を発揮できていないだけだ。

今後のことは、トレーナーの腕次第である。

そんなことを思い、スイクンとイーブイを鍛えていると、ついにその時がやってきた。

 

ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメのトレーナーが決まる日。

新しいトレーナーが誕生する日。

子ども達が、旅立つ日が来たのだ。

俺はまだ六歳だから、旅立てる子ども達を羨ましく思う。

 

ヒトカゲ達との別れは、前日に済ませてある。

いつか旅の途中で出会えたら、その時はバトルしようと約束した。

ヒトカゲはよくわかっていなかったようだが、大丈夫だろうか。

一抹の不安を抱えながらも、イーブイと一緒に走り込みをして朝食を食べ、スイクンの元へと向かう。

オーキド研究所に行く頃には、すでに三匹とも旅立った後だろう。

寂しさはあるが悲しくはない。

今日は三匹の門出なのだから、笑顔で祝福するのだ。

 

 

「スイクン!おはよう!」

 

「ブイ!」

 

 

スイクンの元に行き、笑顔で挨拶すればスイクンも返してくれる。

さぁ、新しい一日の始まりである。

 

 

 

 

 

 

「なぁイーブイ。お前は、進化したいか?」

 

「ブイ?」

 

 

いつもの修行の合間、休憩時間に、ずっと気になっていたことをイーブイに尋ねてみた。

イーブイはものすごくひかえめな性格だ。

それになんと技スロットが五つあり、隠れ特性なのだ。

進化する気があるのなら希望に沿った進化先を選びつつ、イーブイのバトルスタイルを考えていきたい。

イーブイはキョトンとした後、俯いていじいじと前足で土を弄り出す。

 

 

「ん、どうした?進化したいならしたいで好きに進化先を選んで良いし、したくないならそれで良いんだぞ?」

 

「ブ……!」

 

 

俺がそう言うと、予想外だったのか驚いたようにこちらを見上げるイーブイ。

強制はしたくない。

ジョウト地方の四天王、カリンさんだって言っていた。

「強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき」だと。

 

ポケモンを強くするも弱くするも、輝かせるも曇らせるも、トレーナーの腕次第なのだ。

強制してイーブイと心の溝を作って関係がギクシャクするくらいなら、強制なんてしたくない。

進化しなくても強いってことを、俺の未熟なトレーナーの腕で幾らでも証明してやる。

そんなことを思っていると、イーブイは目を潤ませながらそっと体を寄せてきた。

毛並みを梳くようにそっと撫でてやると、気持ちよさそうに声を漏らす。

 

 

「イーブイの命だ。イーブイの好きなように生きたらいい。………どうしたい?」

 

「ブイ!」

 

 

もう一度尋ねると、イーブイは覚悟を決めたように涙目のまま笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途端、光り出すイーブイ。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィ。エーフィ」

 

 

 

 

 

 

 

イーブイは、エーフィに進化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず口を開けて、ポカンとなる。

もう進化する準備ができていたの?とか、会ってからまだ数日だよね?とか、フェアリータイプの技を覚えてなくて良かったねとか。

色々言いたいことはあるが、一先ずは――――。

 

 

 

 

「進化おめでとう、エーフィ。綺麗になったな」

 

 

「フィッ――!?」

 

 

 

 

心の底から綺麗だと思ったので口にしたところ、エーフィは真っ赤になって尻尾をピンと立て、固まってしまった。

母さんに、綺麗だと思ったら口に出しなさい、女の子はとにかく褒めなさい、と言われていた通りのことをしたのだが、お気に召さなかったのだろうか。

一部始終をずっと見ていたスイクンは、微笑まし気に見ていたのに最後の最後で何故か呆れたように大きなため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、エーフィが進化してから数日が経った。

この数日はヤバかった。

何がヤバかったかって、オーキド博士からのエーフィについての追求だ。

最近発見されたばかりのポケモンにイーブイが進化したとなれば、その進化方法が何だったのか知りたいと思うのはまぁ当たり前のことだろう。

そして実物が目の前にいるとあれば、研究したいから貸してほしいと頼まれるのもまぁわかる。

エーフィが怯え震え拒絶する勢いで嫌がっていたので、一度は断った。

オーキド博士に土下座する勢いで頼まれたのでシゲルと一緒にドン引きし、俺と一緒ならエーフィが怖がらなかったこともあって、午後の空いている時間に研究に協力することになったが。

 

子ども達からの絡まれようもすごくて、エーフィと一緒にいつも森に逃げていた。

無理やり触ろうとしてくる子、抱き上げようとする子、自分のものにしようとする子の多いこと多いこと。

子どもだからまだ許されることだが、人のポケモンを取ったら泥棒になると教わらなかったのか。

 

規定があるので俺が十歳の旅立ちの日まで、エーフィとスイクンはモンスターボールに入れることができないが、博士に言ってエーフィのモンスターボールだけ貰い一人の時以外はモンスターボールに入れるようになった。

モンスターボールは博士預かりということにして。

 

エーフィはモンスターボールの中があまり好きではない様子だったが、子ども達にもみくちゃにされるよりかはマシなようで、我慢してくれている。

スイクンのことはもちろん博士にも秘密にしてあるので、モンスターボールには入れていない。

スイクンのいる湖に向かいマサラの森を歩いていると、ガサリと草むらが揺れる音がした。

 

 

「フィ?」

 

「ん?」

 

 

コラッタかポッポか。

はたまたニドランかマンキーか。

そんな予想を立てながら波導で気配を探ったところ、見知った波導の気配を感じて思わず驚く。

 

 

「ヒトカゲ!?」

 

「フィ!?」

 

 

そう、草むらを揺らした気配の持ち主は、あのヒトカゲだった。

エーフィも誰を指しているのかわかったのか、同じように驚きの声を上げる。

俺の声が聞こえたのか、草むらから顔を覗かせる影が一つ。

 

 

「カゲッコォ……」

 

 

やはり、ヒトカゲだった。

ボロボロになって、悔しそうな顔で涙を堪えて、俺の顔を見上げてくる。

 

 

「ど、どうしたんだ!?何でここに!?」

 

 

俺の疑問には答えず、ヒトカゲはゆっくりと俺に近付いてくる。

そして、ギュッと足に抱き付いたのだった。

泣くことはしない。

それでも涙を堪え、唇を噛み締めている。

事情はわからないが、一先ずは傷の手当てだ。

そう思ってヒトカゲをそっと抱き上げた。

 

 

「オーキド博士のところに行こう?傷の手当てをしてもらうんだ」

 

 

俺の言葉に、ヒトカゲは涙を堪えたまま小さく頷く。

それからオーキド研究所に行って、ヒトカゲを治療してもらった。

旅立ったばかりのヒトカゲがもう戻ってきて、オーキド博士も驚いていた。

そして、ヒトカゲを貰って行った子どもに連絡を取ってくれたことで、ようやくヒトカゲが戻ってきた事情がわかった。

曰く、相性の良いポケモンにすら勝てなくて、野生のポケモンにすら一回も勝てなかったから、新しいポケモンを捕まえて捨てた、そんな弱いポケモンはいらない、と。

 

怒りでどうにかなりそうだった。

ポケモンが弱いんじゃない。

ポケモンを弱くしたのは、トレーナーの腕だ。

ヒトカゲが悪いんじゃない。

ヒトカゲの良さを見極められなくて、早々に諦めたトレーナーが悪いのだ。

 

治療を終えたヒトカゲは、包帯だらけの姿でそれでも泣いていなかった。

ヒーローを夢見ていた幼いヒトカゲ。

トレーナーができ、本格的にその道を歩むことができるようになった矢先。

バトルに勝てず弱いと捨てられた。

涙を堪え、大声で泣かない様子が逆に心に刺さる。

 

ヒトカゲはオーキド博士の手から降り、テクテクと歩いてきて、俺のズボンの裾をギュッと握った。

俯いたまま、悔しそうに。

もう放って置けなかった。

前回と違うだなんて、今更だ。

俺のリザードンは、タケシがゲットすることになっても良いのだから。

ヒトカゲの表情がさらに心に刺さり、俺はヒトカゲの手を自分の手で包み込んでヒトカゲと目線を合わせるようにしゃがんだ。

 

 

「ヒトカゲ。お前は、弱くなんかないぜ。今勝てなくたって、これから勝てるように修行すればいいだけの話なんだ。ポケモンバトルで、勝てるように導くのがトレーナーの役目だ。ヒトカゲが悪いんじゃない。ヒトカゲの能力に早々に見切りを付けて諦めた、トレーナーの責任なんだ。悪いのはヒトカゲじゃない。だから――――」

 

 

そこで一旦言葉を区切った俺を不思議に思い、ヒトカゲはようやく顔を上げた。

ボロボロの顔。

ここまで頑張った証だ。

 

 

「これから俺と、強くなろうぜ?」

 

 

俺の言葉に、ヒトカゲは希望を見い出したのかその瞳が輝いた。

そして俺の手を、ギュッと握り返す。

 

 

「カゲッ!カゲッコォ!」

 

 

力強く頷いて、ヒトカゲは涙を一粒流したのだった。

オーキド博士の方を見上げると、仕方ないとでも言わんばかりのしょうがなさげな顔で俺達のことを見ており、俺と目が合うと頷いてくれた。

オーキド博士の正式な許可が出て、ヒトカゲが仲間になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒトカゲ、ゲットだぜ」

 

「フィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、名前が欲しい?」

 

「カゲ!カゲッコォ!!!」

 

 

あれから、ヒトカゲの傷が治り、本格的に俺とバトルの修行が始められるようになった時のこと。

波導で意思疎通をしている俺に、ヒトカゲは波導なんていらなくてもわかるほど目を輝かせてうんうん頷く。

曰く、ヒーローとしてのカッコいい名前が欲しいのだとか。

 

 

「わ、悪いヒトカゲ。俺、そういう名付けのセンスないから―――」

 

「カゲ!カゲカゲ!カゲッコォ!!」

 

 

遠回しに別の誰かに付けてもらうよう促してみたが、それでも良い、サトシに付けてもらいたいのだと、ヒトカゲは引き下がる様子は見せない。

 

 

「う~~~~~~~~~~~ん………」

 

 

ヒーローとしての名前なんて、一生かかっても思いつかない気がする。

 

 

「ヒーロー……助ける………正義………ヒトカゲ……炎………熱い………明るい………リザードン………」

 

 

うんうんと唸る俺の横で、ヒトカゲはキラキラした目でこちらを見ていた。

期待には応えたいが、こればっかりはセンスの問題なのでどうしようもない。

 

 

「う~~~~~ん……………………昼間………日の出……太陽――――あっ」

 

 

ようやくピンときた。

 

 

「太陽!太陽ってのはどうだ!?皆を明るく照らし、熱くも優しい熱で皆を見守るヒーローの名前、太陽!」

 

「カゲ!!!!!カゲッコォォォ!!!!」

 

 

俺が太陽という名を呼ぶと、ヒトカゲは大喜びではしゃぎ回った。

どうやら気に入ってくれたようだ。

 

 

「じゃあお前の名は、今日から太陽だ!よろしくな!」

 

「カゲ!」

 

 

こうして、新しく仲間になったヒトカゲに名前が付いたのだった。

 

 









スイクン(色違い) Lv.40

イーブイ→エーフィ♀  Lv.7→8 NEW!

ヒトカゲ♂  Lv.5 -太陽- NEW!

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