転生サトシの旅路   作:ナノブ

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33.生きているって、きっと楽しいこと そう信じて

第69話 VSサカキ戦 決着

 

 

「!ハァ……………ハッ、ァ…………!」

 

 

息を吐くのすら苦しい。

その息苦しさで、意識が戻った感覚がした。

どれくらいかはわからないが、どうも立ったまま意識を飛ばしていたらしい。

冷気が吹き荒れていて、汗が流れるほど熱くなった体に心地好い。

 

意識を前に向けてみれば。

凍り付いたミュウツーと、そのミュウツーの左手の先に捕まれたまま、宙ぶらりんなスイクンの姿。

 

 

「!!スイクン!!!」

 

 

駆け寄ろうとして、ものすごい疲労感に襲われた。

踏み出した足から、ガクリと力が抜ける。

 

 

「お、っと…!」

 

 

慌ててもう片方の足を前に出して倒れることは防いだが、膝は笑いまくっている。

 

 

「ピ、ピカピ………」

 

「!ピカチュウ!」

 

 

トレーナーエリアに寝かせていたピカチュウが目を覚ましたようで、起き上がろうとしていたので震える足を叱咤して傍に寄り、抱き上げる。

 

 

「ピカピ、ピカチュウ……?」

 

「ちょっと、待ってくれな」

 

 

勝敗の行方を聞いてくるピカチュウにそう言って、ゆっくり、ゆっくりスイクン達に近寄る。

近寄っていた途中で、ミュウツーの手からドサリとスイクンが地面に落とされた。

 

 

「!!!スイクン!!!」

 

 

出せる全速力で走ろうとして、ほぼ歩く速度で落とされたスイクンに近付く。

スイクンは息を荒げながら、起き上がろうとしていた。

最後の〝かみなりパンチ〟が当たっていたらしく、ゲームでいうなら戦闘不能になってもおかしくないはずなのに。

それでもスイクンは、意地で立ち上がった。

 

 

「スイクン…………」

 

 

俺がかけた声に、振り向く体力すらないのに。

スイクンは、立ち上がった。

たぶん、俺のために。

対するミュウツーは―――――。

 

ミュウツーを覆っていた氷が、パキンッと割れた。

 

 

「ッ!?」

 

 

ビシッ、バキッ、と徐々にヒビが入り、ガラガラガラと氷が砕けていく音がしたと思ったら、バキンッと完全に割れ、散っていく。

中から出てきたミュウツーは―――――――ドサリと、うつ伏せに倒れた。

完全に、戦闘不能のようだ。

 

 

「…………………な、なんてことだ…………」

 

 

観客席から手すりに乗り出してこちらを見ていたサカキ様が、呆然としたように呟く。

 

 

「………………」

 

「!」

 

 

無言でサカキ様を見上げれば、サカキ様はたじろいだ。

 

 

「俺達の、勝ちだ」

 

「くっ…!」

 

 

静かに告げてやれば、サカキ様はミュウツーがやられたことが信じられない、いや信じたくないという表情で歯噛みする。

そして懐に手を入れたかと思えば、こちらに何かを投げつけてきた。

 

 

「!」

 

 

片手でキャッチしてみると、それはグリーンバッジだった。

 

 

「………認めよう。確かにお前は強い!今回はこちらの負けだ。そのグリーンバッジをくれてやる。だが、次はない!」

 

 

そう宣言すると、サカキ様は何やら機械を操作し始めた。

ロケット団本部にでも撤退するのかと思いきや、何やら球状の機械が二つ出てくる。

何をする気なんだと身構えていると、その機械はミュウツーの手首辺りに片方ずつついたかと思えば、どういう原理か浮き始めた。

 

 

「なっ!?」

 

「これは元々、我々の物だ!回収させてもらう!!」

 

 

ミュウツーは重いはずなのに、体全体が浮かんで移動し始める。

 

 

「やめろ!!!」

 

 

咄嗟にコノヨザルを出した。

 

 

「コノヨザル!あの機械に〝ふんどのこぶし〟!」

 

「ブヒッ!」

 

 

コノヨザルは器用に機械だけに〝ふんどのこぶし〟を当て、二つとも壊すことに成功する。

機械が取れて落ちてくるミュウツーを、何とか自分を下にして抱き留めた。

 

 

『……う………』

 

 

その衝撃で、ミュウツーも目を覚ました。

 

 

「邪魔をするな!!!」

 

『こ、こは…………』

 

「もうミュウツーを自由にしてやれ!!!!」

 

『…じ、ゆう…………』

 

「黙れ!!!!ミュウツーは我々の物だ!!!!」

 

 

サカキ様が怒鳴り、機械を操作すると同時に、ジムの仕掛けであろう装置がバトルフィールドの壁から現れる。

全開になったままだった波導で探るに、どうも電気ショック装置らしい。

 

 

「っ!?」

 

「これが最後の警告だ!ミュウツーから手を放せ!ミュウツーから手を引け!ミュウツーを置いていけ!今はもう、お前に用はない!」

 

「断る!!!」

 

 

間髪入れず断れば、電気ショック装置から一斉に電撃が向けられた。

咄嗟に外に向けて全開にしていた波導を収縮させ、ミュウツーを包んで電撃からミュウツーを守る。

 

 

「ぐ、あああ…ッ!!!」

 

『!?お前…!』

 

「ピカピ!!」

 

「ブヒッ!?」

 

 

ピカチュウ、コノヨザル、スイクンが目を見開いて俺を見てきて、次いでサカキ様のことを殺気立った瞳で睨む。

だが、ピカチュウもスイクンも、戦闘不能になったばかり。

目を覚ましているだけで何も薬を使っていない以上、戦うだけの力はもう、残っていない。

唯一戦えるのは、コノヨザルのみ。

 

 

「私を睨んだって仕方がないぞ。やめさせたいなら、お前達の愚かなトレーナーを説得しろ。もう既に、グリーンバッジは渡したんだ。トレーナーのポケモンを置いていけと言っているわけでもない。ミュウツーを置いて、出て行けと言っているだけだ!」

 

「ピィカ!ピカピカチュウ!」

 

「ウッキャ!」

 

 

ピカチュウもコノヨザルもスイクンも、すぐにそんなことはしないと否定した。

言葉が伝わらないはずのサカキ様にも、ポケモン達の意思は伝わったらしく、思い切り舌打ちする。

 

 

「それならば、お前達ももう一度沈め!」

 

 

再びサカキ様が何やら操作したかと思えば、電気ショック装置がバトルフィールド全体をしっちゃかめっちゃかに放電し始めた。

 

 

「な、なにこれ!?」

 

「サトシ!無事か!!」

 

 

カスミとタケシの声は聞こえるものの、二人もバトルフィールドには近付けないようだ。

電気ショック装置の電撃が俺とミュウツーだけじゃなくピカチュウ、コノヨザル、スイクンにも当たっていき、苦し気な声を出す。

 

 

「!もういい!皆、戻れ!!」

 

 

モンスターボールに戻そうとすると、皆揃って首を横に振った。

 

 

「!?どうして!皆もう、限界だ!お願いだから、安全なところに―――!」

 

 

スイクンの水晶が、コツンと額に当てられた。

それだけで、言葉が止まる。

スイクンの瞳と、目を合わせる。

波導がなくとも、伝わる想い。

 

いつも一緒だ。

 

 

「…………こんな、苦しい思いまで、共有するつもり、なくて………」

 

「ピカピ、ピカピカチュウ!」

 

「ブヒッ!ウキャ!」

 

 

ピカチュウも、コノヨザルも。

一人で背負うなと言う。

俺が戦うなら、ともに戦うと言う。

 

心強い、仲間達。

それが今は、失うかもしれない恐怖で、いっぱいになりそうで――――。

 

 

『お前でも、そんな顔をするのだな』

 

 

俺の腕の中にいるミュウツーの言葉で、我に返った。

 

 

「そんな、顔って………」

 

『仲間を想うが故の、葛藤か。仲間は、友達は。強くなるだけじゃなく、弱さにもなり得るのか……』

 

 

一人静かに納得しているミュウツーに、今の状況を忘れてキョトンとしてしまう。

そういえばミュウツーは、俺の波導で守っているから電撃のダメージがいま一つないんだった。

スイクンが、口を開いた。

 

 

『………それでも、傍にいたくなる。ともに生きていきたくなるほどの、強い想いを抱いてしまう。だからこそ、強くなる必要がある、か……』

 

 

コクン、とスイクンが頷く。

電撃の嵐の中で、よくこんな呑気に会話ができるな、と思ったところで。

 

 

「………あれ?」

 

 

電撃が、俺達に当たらなくなっていることに気が付いた。

ドーム状に、何かに守られている。

これは、…………ミュウツーの、〝サイコキネシス〟?

 

 

「いつの間に………」

 

『まだ、これぐらいの力は残っている』

 

 

そう言って、ミュウツーは体に力を入れ、俺の支えなしに立とうとする。

だがすぐに崩れ落ちそうになっていて、慌てて支えた。

 

 

「まだ無理だ。無茶するな」

 

『………………どうして……』

 

「ん?」

 

『どうしてお前は、そうも私に……………自分の身を犠牲にしてまで、私を気に掛ける』

 

 

俺の行動理由が、わからないらしい。

 

 

「友達だから、かな。友達が困っていたら、助けるのが友達の役目だ」

 

『!』

 

 

ミュウツーは心底から驚いたようで、目を大きく見開き俺の目を見つめてきた。

 

 

「俺がお前を助けたい理由なんて、そんなもんだよ」

 

『………それだけで、自分が死ぬ思いまでしても、いいというのか?』

 

「よくはないけど、友達を助けるためなら、俺はできる限りのことはしたい。人間でも、ポケモンでも。種族は関係ないんだ。ミュウツー。俺は、お前を助けたい」

 

『…………』

 

 

しばらく呆然としていたミュウツーは、次いでフッと笑って俯いた。

 

 

『そういう人間も、いるのだな………』

 

 

そう呟いたかと思うと、ミュウツーはカッと目を見開いた。

ドーム状にしていた〝サイコキネシス〟を更に全開にし、バトルフィールドの壁についている装置まで電撃を押し戻して、装置を破壊する。

 

 

「!?なに!?」

 

 

これに驚いたのはサカキ様だ。

電撃の嵐の中で、俺達が完全にやられたと思っていたらしいサカキ様が、焦りの表情で手すりを掴む。

ボロボロのスイクンとミュウツーが、同時に俺の前に出た。

 

 

『もう、好き勝手はさせない』

 

 

伝説のポケモンのプレッシャーが、サカキ様を気圧していく。

 

 

「くっ!」

 

 

次の手を、とサカキ様が操作しようとしたと同時に、警報が鳴り響いた。

 

 

「何だ!こんな時に!」

 

 

サカキ様が別の機械に向かって声を発すると

 

 

「ポ、ポケモンGメンのやつらです!!!いきなり、現れて―――!!」

 

 

という切羽詰まった声が返ってくるのが聞こえた。

はて、ポケモンGメン?

俺がシゲルに頼んだのは、ジュンサーさんに通報してほしいということ。

ポケモンGメンにまで話がいくとは思っていない。

 

 

「このタイミングで、何故―――!!?」

 

 

本当に、どうしてなんだろう。

俺が呑気に考えている間にも、ものすごい形相で立っていたサカキ様は、こちらをキッと睨み付けてきた。

 

 

「いいだろう、今回は手を引いてやる。だが忘れるな。全てのポケモンは、我々ロケット団のためにある!お前達に次があるなら、それを思い知らせてやろう!!」

 

 

そう言ってサカキ様は何やらボタンを押すと、足早に去って行った。

サカキ様がボタンを押したと同時に、地面が揺れ始める。

 

 

「な、何だ……?」

 

 

何の揺れかと思っていると、突然天井が爆発して岩が降ってきた。

 

 

「!?危ない!!」

 

『っ!?』

 

 

咄嗟にミュウツーを庇うため、ミュウツーを全力で押しやった。

降ってきた大きな岩に体が当たり、意識を持っていかれそうになったが気合で耐える。

だが、立っていることができずに倒れ込んでしまった。

 

 

「ピカピ!」

 

 

慌てて駆け寄ってくる俺のポケモン達。

そうこうしている間にもあちこちで爆発が起き、ガラガラガラと天井が崩れてくる。

ちくしょう。

お前達に次があるならって、このジムから生きて帰れるなら、ってことかよ!

 

 

「サトシィ!!!!」

 

「サトシ!無事なの!?返事をして!!」

 

 

俺達が今いる場所は、バトルフィールドのちょうど真ん中辺り。

バトルフィールドには岩が散乱し、穴ぼこが開いており、爆発で降ってきた岩がバトルフィールドを囲ってしまっているらしい。

カスミ達が近付けていない。

どうしよう。

完全に退路を断たれてしまった。

 

 

「ピカチュウ、とりあえず、〝10まんボルト〟でこっちの居場所と、俺の無事を伝えてくれるか?」

 

「ピッカ!」

 

「コノヨザル、お前の力が頼りだ。できるだけ岩をどかしてくれ」

 

「ウッキャ!」

 

 

疲れているところ本当に悪いが、命がかかっている状況になってしまえばそんなこと言っていられない。

俺も起き上がろうとして、起き上がれないことに気付く。

まずい。

俺の体が、限界らしい。

初めてスイクンとキズナ現象紛いなことをして、電撃を受けて、大きな岩に当たって。

そりゃ幾ら頑丈でも悲鳴を上げるか。

スイクンが心配そうに俺に顔を寄せてくる。

 

 

「……起き上がれないんだ。どうも、限界らしい」

 

『!?』

 

 

ミュウツーが驚きに目を見開き、俺の傍に膝を付いた。

 

 

「心配するな。人間の体は、そう簡単に壊れるようには、できていないから。医療の技術も、すごいからな、…………少し休めば、すぐよくなる……」

 

 

不安そうな顔をして手を伸ばしてきたミュウツーの手を握って、安心させるように笑って見せる。

俺達の傍に降ってくる大きな岩は、スイクンが俺に覆いかぶさり、技を使って退けてくれていた。

 

やばい。

ピカチュウがコノヨザルを手伝って、岩をどけている音や。

コノヨザルが岩をぶん投げていっている音や。

カスミとタケシが自分達のポケモンにも頼りながら、同じように岩を退け俺に呼びかけている声が、確かに聞こえているのに。

 

眠気が、すごい。

どこか遠くで起きている出来事のように、感じてしまう。

今眠ってしまうのは、非常にまずい。

意識して波導を展開し、状況を探ってみた。

ジムの奥側でポケモンGメンらしき人達が、揺れるジムに四苦八苦しながら証拠を押収し、何とかこちらに向かおうとしているのを感じ取れる。

 

 

「………………」

 

 

ボスのサカキ様は、もうジム内にはいない。

恐らく来ているだろうワタルさんは、そのサカキ様を追えているのかどうか。

 

あ、まずい。

本格的に、眠い………。

 

 

「……………………ミュウツー………」

 

 

何とか眠気に抗いながら、その名を呼ぶ。

これからのことを思って。

 

 

『ここにいるぞ』

 

 

ミュウツーが、繋いだままだった手に力を込めて答えてくれた。

 

 

「俺のリュックの中に、げんきのかけらと、よく効く傷薬がある。それを持って、―――――逃げろ」

 

『…………なに?』

 

 

俺の意外な言葉に、ミュウツーは目を見開いて驚く。

 

 

『ここに突入してきている人間は、味方じゃないのか?』

 

「たぶん、味方だ」

 

『では、何故……』

 

「………お前の力は、人間にとっては眩しすぎる……。眩しすぎる光は、薬にも毒にもなるんだ。ロケット団みたいな悪の組織だけじゃなくて、普通のトレーナーですら求めたくなるほどの、力………。ミュウツーの存在が、広く知れ渡ってしまったら、求める人間が後を絶たない、と思う……。誰かのポケモンならまだしも、な。今突入してきている人間達は、トレーナーの秩序を保つ組織の人間だとしても、扱いに困って…………どういう対応をするか、わからないんだ」

 

 

ミュウツーは、静かに聞いている。

今の、自分が置かれた状況を。

良くてワタルさんの監視下に置かれるか、安全が確保されているどこかの研究所で、数値を調べられるか。

悪くて………………組織の上の人間に、何やら言われるかもしれない。

 

 

「ミュウツー。悔しいけど、今の俺には、お前の自由を保たせる術がない。それだけの、力がない……。だから…………逃げろ。どこか、誰にも知られずに、この世界を、自由に、旅でも………」

 

 

ミュウツーの自由を、俺は約束できない。

約束できるだけの力も、地位も、何も、持っていない。

悔しい。

 

 

「もし、ともに居たいと、ともにいきたいと思える人間と、ポケモンと、出会えたなら。その時は、お前の心を信じろ。お前はきっと、間違えたりしない。きっと、優しい人と、優しい、ポケモンと、この世界で、出会える………」

 

 

ミュウツーの望むパートナーとは、どんな存在だろう。

ちょっと気になる。

 

 

「……………また、会おう。また、会えた、ら…………その時は、また、…………バトル、しよう、ぜ……」

 

 

全てを言い切れたかどうかは、正直わからない。

俺の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

第70話 優しい最強と最強の優しさ

 

 

目が覚めたら、知らない天井だった。

 

 

「ここ、は…………」

 

 

どうも、人間用の病院の病室らしい。

窓から差し込む光を見るに、今は明け方辺りか。

枕元を見れば、俺の荷物が綺麗にまとめて置かれている。

 

 

「ん、……よ、っと………」

 

 

一先ず体に力を入れてみると、簡単に起き上がることができた。

節々からバキバキと音がするが、欠損していたり気持ち悪くなったりは、ない。

本当に頑丈な体だな。

俺の傍には、丸くなって寝ているピカチュウと、俺のジャケットを羽織って俺が寝ているベッドに上半身を預けて寝ているカスミと、椅子に座って寝ているタケシの姿が。

どれだけ眠っていたのかはわからないが、とりあえず皆無事らしい。

 

 

「…………ピカ、ピ……?」

 

 

どうやら布団が摺れる音でピカチュウが起きてしまったようだ。

耳をピクピクさせて、真ん丸な瞳で俺のことを見てくる。

可愛い。

思わず、微笑んだ。

 

 

「おはよう、ピカチュウ」

 

「ピカピ…………ピカ、ピ……………………ピカピィィィィ!!!」

 

 

しばらく呆然として俺を見ていたピカチュウは、大粒の涙を流しながら腕の中に飛び込んできた。

かなり心配させてしまったようだ。

 

 

「大丈夫だよ、ピカチュウ。俺は、ここにいる」

 

「ピッ…ピッ………ピカ、ピィ……!」

 

 

泣きじゃくり、しゃくり上げながら縋り付いてくるピカチュウの背を撫で、頭を撫で、何とか落ち着いてもらおうとするが、ピカチュウは泣き止まない。

 

 

「ん………ピカチュウ?どうしたの…………?」

 

 

ピカチュウの泣き声で、カスミも起こしてしまった。

 

 

「悪い、起こしちゃったな。カスミ」

 

「……………………サトシ?」

 

「おう。おはよう」

 

 

カスミにも笑顔で挨拶すれば、しばらく呆然としていたカスミはピカチュウと同じように目に涙を溜め始める。

 

 

「サトシ…………サトシ!!!」

 

「!おっと……」

 

 

カスミもピカチュウを潰さないようにしながら、俺に抱き付いてきたので慌てて抱き留めた。

弾みで、カスミがかけていた俺のジャケットが床に落ちる音がする。

 

 

「よかったっ………よかったぁ……!!」

 

「………心配かけたな。俺はもう、大丈夫だよ」

 

「…………まったくだぞ」

 

「!タケシ………」

 

 

いつの間にかタケシも起きたらしく、落ちた俺の上着を拾って枕元に置きながら、俺の頭に手を置いてきた。

 

 

「無茶をするのがお前の専売特許とはいえ、コノヨザルが意識を失ったお前を担いで俺達の前に現れた時には、さすがに肝が冷えた。頼むから、俺達が手を貸せる場所で無茶をしてくれ。そうすれば、俺達もサトシに合わせて一緒に戦える。一緒に戦うことができれば、サトシの負担も減るし、俺達が心配しなければいけない事態も減る。一人で背負うな。俺達を頼れ」

 

「………………タケシ………」

 

 

俺のポケモン達からだけでなく、タケシ達からも同じことを言われるとは。

本当に俺は、恵まれている。

嬉しくて、思わず笑ってしまう。

 

 

「サトシ!俺達は本気で――!」

 

「わかってる。その心は、ちゃんと伝わった。嬉しくて、ついな……」

 

「だったらいいが……」

 

 

あまり納得していない様子で、タケシが鼻をすする。

タケシも、泣いてくれたのか。

 

 

「ごめん。気を付けるって、言うのは簡単だけど、約束できるかは俺もわからない。俺もまさか、あんな事態になるとは思ってなかったから」

 

 

ジムリーダーがサカキ様であることは知っていたが、まさかサカキ様が、ジムを放棄するために破壊するとは思わなかった。

 

 

「サトシも予想してない事態だったのか……」

 

「当たり前だろう?俺は未来視や未来予知ができるわけじゃないんだから。ただ、俺でももっと気を付けてできることがあったと思う。タケシやカスミに、こんなに心配をかける事態を、回避できたかもしれない。それは、悪かった。ごめん」

 

 

俺がバトル以外で、サカキ様がマフィアだということを考慮しておけば。

ミュウツーにとっととげんきのかけらを渡して回復してもらい、手伝ってもらっておけば。

俺が倒れることなく済んだかもしれない――――――。

いや、スイクンとキズナ現象紛いのことをした時点で、倒れることは変わらなかったかもしれないな。

そこはわからない。

 

 

「俺達は、謝ってほしいわけじゃないぞ?」

 

「そうよ!謝ってほしいのはあるけど、それだけじゃない!サトシの隣に立てるほど、強くなるからって言ったのに、………肝心な時に、サトシはいっつも一人で戦っちゃう!少しは、あたし達のことも頼ってよ!」

 

「!カスミ………」

 

 

そうか。

カスミのあの宣言は。

ロケット団のボスのプレッシャーを受けて、俺に庇われたことに気付いたから。

 

カスミが目指しているのは、庇われる女の子じゃなくて、隣に立てるポケモントレーナー。

カスミもタケシも、俺に手を伸ばしてくれていたのに。

それを俺は、無意識に払いのけていたのか。

傲慢にも、全部一人で何とかしようとしていたのか。

 

 

「……………ごめん」

 

「!だから!!謝ってほしいんじゃなくて―――!」

 

「俺、俺のポケモン達にも言われてたんだ。一人で背負うなって………」

 

「!…………」

 

「………」

 

 

カスミもタケシも、ハッとして俺の言葉を待ってくれている。

 

 

「俺、スイクンと会う前はずっと一人でさ…………一人が、当たり前だったんだ。難しいことごちゃごちゃ考えて、一人じゃ解決できなくて。スイクンと出会って、スイクンに支えられて、スイクンの言葉で、ようやくこの世界で息をした。ポケモン達が傍にいる心強さは、きっとその時学んだ。けど、人に頼る方法は、今まで学んでこなかったから………」

 

「…………わからなかったのか。仲間に頼る方法が」

 

「知らなかったのね。一人で戦う方法しか」

 

 

頷いて、肯定。

前のサトシの記憶と経験があるとはいえ、この世界で生きている俺は、その記憶と経験と知識を頼りに動いているだけの、別人。

前と変わっていってしまっている現実世界で、巻き込むのがすごく怖かったのもある。

失うのが、怖かったのもある。

 

 

「仲間がいる状態をどう選択肢に組み込めばいいのか知らなくて、そもそも選択肢がなかったんだ。だから、ごめん―――――――すごく、嬉しかった」

 

「「!」」

 

 

タケシとカスミはハッとする。

 

 

「嬉しいよ。カスミとタケシに、頼っていいんだって言ってもらえて。ポケモンの仲間じゃなくて、人間の仲間ができるのは初めてだ。だから、すごく嬉しい。―――――ありがとう」

 

 

笑顔でお礼を伝えれば、固まっていたタケシもカスミも、次第にまた目に涙を溜め始める。

 

 

「えっ、ふ、二人とも……?」

 

「うわーーーーーん!サトシのバカァァァァァ!!!」

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「えぇぇ??」

 

 

二人とも俺に抱き付いて泣き始めたので、苦しいことこの上ない。

結局潰されたピカチュウが〝10まんボルト〟を放ち、三人で電撃を浴びて、騒動を聞き付けた看護師さんに怒られるまで収拾がつかなかった。

 

落ち着いたところで状況を確認してみると、どうやらここはトキワシティの人間用の病院。

俺は三日も意識が戻らなかったらしい。

俺のポケモン達はスイクン含めて回復済みであり、あとは俺が目覚めるのを待つだけだったと。

 

 

「ミュウツーの姿は、なかったわ」

 

「俺達がコノヨザルに背負われたサトシとピカチュウを確認できた時には、もうバトルフィールドには誰もいなかった」

 

「そうか…!」

 

 

安心した。

ミュウツーは、俺の言葉に従ってちゃんと旅立ってくれたらしい。

いつか会えたら、旅の話でもできるだろうか。

 

 

「トキワジムはどうなったんだ?」

 

「ジムリーダーがロケット団のボスだって知れ渡って、一時運営停止になったわ」

 

「後任が決まるかどうかはまだわからないけど、そもそもジム自体が壊されたからな。修復できるまでにどれだけ時間がかかるかわからない状況だ」

 

 

あぁ、そうか。

トキワジム自体が崩れたんだった。

復興にはかなりの時間がかかるかもな。

 

 

「そういえば、ポケモンGメンが来たのは何でだ?」

 

「ヤマブキシティで、あたし達の活躍で捕らえた下っ端達がいたでしょう?」

 

「その下っ端達に色々情報を聞き出していたら、ポロッと洩らしたらしい。トキワジムにロケット団が関与していることをな」

 

「それでトキワシティにポケモンGメンが来て、ジムの前にいたシゲルと合流。シゲルがヤマブキシティで起こった事件を知って、その事件を解決したサトシから、一時間経っても戻ってこなかったらジュンサーさんに通報してほしいと頼まれていたことを話したらしいの」

 

「それで確信が持てて、逃がさないために裏から回り込んで即奇襲を仕掛けたらしいんだが、残念なことにサカキには逃げられたらしい。ロケット団が使用していたポケモン達は、いくらか解放できたみたいだぞ。サカキの使っていたポケモンなんかは別だけど」

 

 

そうか、トキワジム戦用のポケモン達は、解放されたのか。

それだけでも、ロケット団の戦力を削ぐことができたか?

 

 

「シゲルは?」

 

「サトシの活躍ぶりを知って、焦っていた様子だったわ」

 

「一応、焦るなとは言っておいたがな。サトシの無事を確認した後、すぐにマサラタウンに帰って修行を開始すると言って、去って行ったよ」

 

「ポケモンリーグで僕達の実力を見せるから、君も慢心せず準備しておくように、って伝言を預かってるわ」

 

「はは、シゲルらしい……」

 

「ピカピーカ」

 

 

上半身を起こして二人の話を聞いている、俺の太もも辺りで丸くなっているピカチュウを撫でる。

 

 

「そういえば、サトシにぜひ会いたいって人が来てるぞ」

 

「俺に?会いたい?」

 

「そう!たぶんサトシが目を覚ましたことは伝わったはずだから、そろそろ…――」

 

 

コンコン、と病室のドアがノックされた。

 

 

「?はい」

 

「失礼する」

 

 

入ってきたのは、特徴的な服にマントを羽織った、赤髪のイケメン。

 

 

「!?ワタルさん!?」

 

「ほう。さすがに俺のことを知っていたか。光栄だよ、サトシ君」

 

 

にこやかな笑みを浮かべて、ワタルさんは病室に入ってきた。

 

 

「どうして……」

 

「なに。何度もロケット団関連で、活躍しているみたいだったからね。俺も少々気になったんだ。それと、ポケモンGメンとしてお礼を言っておこうかと」

 

「お礼を言われるほど、俺が何かできたわけでは………」

 

「はは、謙虚なんだな。今時の若者にしては珍しい」

 

 

ワタルさんはクスリと笑う。

 

 

「君のおかげでロケット団の下っ端達を大勢捕らえられ、ボスのサカキが根城にしていた場所を突き止め、抑えることができた。実質ロケット団の弱体化だ。これは誇っていいことだよ」

 

「…………………ありがとうございます。けど、俺一人じゃできませんでした。俺のポケモン達に、何度も助けられました。それから―――――」

 

 

カスミとタケシを見れば、キョトンとした顔でこちらを見ていた。

 

 

「仲間がいたから、俺は戦えました。一人じゃなかったから、俺はここまで来れたんです」

 

「ピカピッカ!」

 

 

そう言えば、二人の目がジワリと見開かれる(タケシは雰囲気)。

 

 

「………そうか。力を持ち、それでいて謙虚で、優しく、仲間想い。とてもいいトレーナーだということがよくわかったよ。おかげでこれを託すことに、迷いがなくなった」

 

「?これ?」

 

 

ワタルさんが懐に手を入れ、何かを差し出してくる。

手渡されたのは、まさかの――――。

 

 

「キーストーン!?」

 

「やはり知っていたか。知識も十分あるなら、託すのに相応しい」

 

 

キーストーンが付いた、メガバングル。

銀色の腕輪。

 

 

「こ、こんな希少なもの、俺が受け取るわけには――!」

 

「いや、君に受け取ってほしい。君はどうやら、厄介事に巻き込まれる体質のようだからね。君自身の力でどうにかするのも、限界があるだろう。その時の保険だと思ってくれ」

 

 

そう言われると、確かにこれから起こる厄介事に対する保険になるか。

俺が揺らいだ隙を見逃さず、ワタルさんはさっさと俺の手にキーストーンを握らせてしまった。

 

 

「マサラタウンのサトシ君。君はきっと、チャンピオンリーグまで勝ち上がってくる。戦える時を、心待ちにしているよ」

 

「!はい!絶対ワタルさんの元まで行ってみせます!その時は、全力でお相手、お願いします!」

 

「ピカピカチュウ!」

 

 

ワタルさんは笑って頷き、それじゃあ仕事があるからと去って行った。

まさかのキーストーンがここで手に入るとはな。

かなり優遇してもらっている。

これは、是が非でもポケモンリーグを勝ち抜かなければ。

 

 

「よかったわね!期待されてるみたいよ、サトシ!」

 

 

カスミが笑顔を向けてくれる。

 

 

「あぁ!期待には応えなきゃな!」

 

「さて。それじゃあ俺達は、買い物ついでに今のトキワジムがどうなっているか、少し見て来ようか。サトシはしばらくゆっくりな?」

 

「はーい」

 

 

カスミとタケシが買い出しに出かけた後で訪れた医者の診断を受けると、元気であり体に異常がないなら昼頃には退院して問題ないと告げられた。

ピカチュウしかいない病室で入院着から自分の服に着替え、リュックを背負い、出発の準備をする。

腰のホルダーに自分のモンスターボールを装着した。

 

 

「!」

 

 

すると、スイクンがモンスターボールから出てきた。

 

 

「…………おはよう、スイクン」

 

 

頬を寄せてきてくれたスイクンに俺も頬を摺り寄せれば、ピカチュウも肩に乗ってきてスイクンの水晶に頬を付ける。

しばらくそうしていると、不意にスイクンが俺が背負っていたリュックを開け、頭を突っ込んでゴソゴソし始める。

 

 

「?どうした?」

 

 

何かを見つけたらしいスイクンが顔を上げ、咥えて出したであろうそれを、俺の手にポトンと落とす。

 

 

「?」

 

 

手に落とされたのは、モンスターボール。

リュックに入っていたのだから、空の……………あれ?

 

 

「空じゃ、ない………?」

 

 

パカッと開き、眩しい光とともに、中に入っていたポケモンが姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『体は、もういいのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫ばなかったことを、褒めてほしい。

 

 

「ミュ、ミュ――!!!?な、なんっ!!ど、どう!!?だ、だ、な、ど――!!!?」

 

『?言葉にできるか?』

 

 

誰のせいだと!!!

 

 

「どうして!俺のモンスターボールに!?」

 

『ポケモンGメン、の者達が突入してきて、姿を見られそうになった時。スイクンがお前のモンスターボールに入っていったのを見て、なるほどそうすればいいのかと思って、真似した』

 

「?。?、????」

 

 

ごめん。

理解が追い付かない。

 

 

「俺、旅にでも出たらって、言わなかったっけ……?」

 

『言っていた。だが、お前から離れるという選択肢が、なかった』

 

「?どうして?」

 

『………どうして、だろうな…………………………ただ単純に、離れたくないと思った。そんなことを思う自分に驚いて、生まれて初めて抱いた、自分の意思に、よくわからくなって…………。お前と一緒にいられるスイクンの行動を、模倣した。そうすれば、離れなくて良いと、思ったから………。一体、どうして、私も、そんなことを思ったのか…………わからないが…………それでも、お前の傍にいたいと………』

 

 

ミュウツー自身も、生まれて初めて抱いた己の意思に、困惑し、戸惑っているようだった。

それはまるで、初めてのことに戸惑い、知りたがる、子どものようで。

あの時のヨーギラスのように。

ミュウツーも、やっとこの世界に生まれたのだ。

やっとこの世界で、息をしたのだ。

 

あぁ。

俺でも。

今の、俺でも。

ミュウツーを救うことができたのだ。

嬉しい、なぁ……。

 

 

『!?何故、泣く…!?何か、私が、何か、してしまったのか!?』

 

 

つい溢れてきてしまった俺の涙に、ミュウツーが混乱したようにアワアワしている。

その姿が可愛くて、今度は思わずふふ、と笑みがこぼれた。

泣き出したと思ったら笑い出した俺に、ミュウツーは怪訝な目付きになる。

 

 

『………一体……何を……』

 

「悪い。ごめん、ミュウツー。からかいたいわけじゃないんだ。ただ、ミュウツーがこの世界に生まれてきてくれたことが、すごく嬉しくて」

 

『!!?』

 

 

俺の言葉に、ミュウツーは大きく大きく目を見開いた。

 

 

『…………私が、生まれて、嬉しい……?』

 

「あぁ。これは、嬉し涙だよ。ミュウツーがこの世界を拒絶せず、この世界に絶望せず、ただ生きていてくれることが、本当に嬉しいんだ」

 

 

そう言って笑ってみせると、ミュウツーはまるで泣くのを堪えるような顔になり、ギュッと両手を握る。

 

 

「…………何か、嫌だったか?気に障ったか?俺が、お前に生きることを望むのは、嫌だったか?」

 

『違う!違う………嫌では、ない……。ただ、この、辺りが………』

 

 

ミュウツーはそっと右手で自分の胸辺りをギュッと握る。

 

 

『ギュッと、なった………。温かい何かが、生まれて…………涙、が、勝手に、出そうになって………これは、何だ………?』

 

 

波導で見なくたって、わかる。

この世界で生きているミュウツーが、きっとこれからたくさん生み出していくもの。

 

 

「嬉しい、っていう、感情、かな?」

 

『…………これが、嬉しい………………』

 

 

恐らくだが、生まれて初めて明確に嬉しいという感情を抱いて、その感情が生み出す温かさに混乱したのだろう。

ミュウツーは今、本当に赤ちゃんと同じようなものなのだ。

 

 

「泣いて、笑って、時には怒って。感情に心揺さぶられる。それがこの世界で生きているってことだよ。そして時には一人で抱えきれないそれらを、分かち合うのが友達だ」

 

『……………世界で最強のポケモンとして作られた私は、兵器も同義。そんな私が、感情を生み出せる、のか。友達に、なれる、のか………』

 

 

ミュウツーが呆然と呟いた言葉に、つい顔が険しくなるのを自覚する。

 

 

「ミュウツー。お前は、兵器じゃない。この世界で生きている、ポケモンだ」

 

 

俺がそう言うと、ミュウツーはフッと笑った。

 

 

『お前が、何度も何度も兵器であることを否定してくれるのも。私はどうやら、嬉しい、らしい』

 

 

本当に嬉しそうにミュウツーがそう言ってくるので、思わず照れくさくなる。

ふとそれまで静かに見守ってくれていたスイクンが、ミュウツーに顔を寄せて口を開いた。

 

 

『………自分のことを、本当に大切に想う存在がいるのは、幸せなことだと。私が嬉しいと感じるのも当然のことだと。離れたくないと思ったのも、自分を大切にしてくれる存在を手放したくなかったからではないか、か………』

 

 

スイクンが頷く。

 

 

『……………確かに、世界でお前だけが、私の心を信じ、私の心をすくいあげてくれた。お前のおかげで、私はこの世界に生まれてこれたのだな』

 

 

何か、壮大な話になってない?

 

 

「言うほど大したことはしてないよ。俺は、俺にできることだけしかやれてない。それに、せっかくこの世界に生まれたんなら、やっぱり直接生きている世界を見てきたらどうだ?旅に出ることに否やはないんだろう?」

 

『確かに、ない。だが、お前が言ったのだ。ロケット団みたいな悪の組織だけじゃなくて、普通のトレーナーですら求めたくなるほどの力。広く知れ渡ってしまったら、求める人間が後を絶たない、と』

 

 

確かに、言った気がする。

 

 

『だがお前は、私の力を求めなかった。私に勝っておきながら、私の力を求めず、何の見返りも求めず、私を助けた。…………それが、お前という存在なのだろう。私にとってはそれが、心地好かった』

 

「…………」

 

 

改めて言葉にされると、少し気恥ずかしいな。

そんな立派なものではないと思っている分、余計に。

 

 

『そんなお前の言葉にあった。誰かのポケモンならまだしも、と。誰かのポケモンであったなら、私の存在が広く知れ渡ってしまったとしても、そこまで問題にはならないということだろう』

 

「まぁ…………よっぽど礼儀がなっていないか、常識がなっていないかじゃない限り、誰かのポケモンを盗ろうとはしない、と思う。それこそ、悪党じゃない限りは」

 

『それなら、誰かのポケモンになってしまうのが手っ取り早い』

 

 

言っていることは、確かにわかる。

それでも………。

 

 

「俺じゃなくても、よかったんじゃないか?」

 

 

俺がそう言うと、ミュウツーは首を横に振った。

 

 

『これも、お前が言っていた。もしともに居たいと思い、ともにいきたいと思える人間と出会えたなら、その時は私の心を信じろと。きっと間違えたりはしないと。優しい人間と、出会えると』

 

 

確かに、それも言った気がする。

 

 

『確かに、出会えた。私の知る限り、最強の優しさを持つ人間に』

 

「!」

 

 

ミュウツーの視線と、交差する。

 

 

『私は、私を超える最強の力を見せた人間とポケモンの行く末を、見てみたい。戦いと、破壊と、略奪以外の未来を、見てみたい。できることなら、私も同じ夢を見たい。私も夢を支えたい。夢が叶う瞬間、私も同じ景色にいたい』

 

「………………ミュウツー………」

 

 

まさか、ミュウツーがそんなことを言うとは。

では、あの時。

バトルしていた時にミュウツーが新たに抱いた感情、―――羨望は、俺とスイクンの関係に対して?

 

 

『私がそう思えるようになったのは、間違いなくお前が影響している。私が、優しい心を持つと断言した、お前が………』

 

 

そう言われると、な。

俺は知識でズルしただけなので、ちょっと気まずくなってしまう。

 

 

『………思い出したことがある。遥か遠い昔。私がまだ生み出されて間もない頃。私にも、友と呼べる存在がいたのだと』

 

「!」

 

 

ミュウツー…………記憶を、思い出したのか?

 

 

『全部をハッキリ思い出したわけじゃない。けれど、とても優しい気持ちになる記憶だ。私にとって、大切な記憶なのだろう。その記憶で、大切な誰かが言っていた。生きているって、きっと楽しいことだと』

 

「あぁ………俺も、そう思うよ」

 

『今までの私は、生に楽しみなど感じていなかった。楽しみなど、わからなかった。ただ力を示すことが、私が作られた理由だと、そう思っていた』

 

「………」

 

『だがその価値は、誰かさんがぶっ壊してくれたからな』

 

 

ミュウツーはフッと笑って、晴れ晴れとした表情で俺を見てくる。

 

 

「ミュウツーにとって大切なものを壊して、悪かったな」

 

『いや違う。そのおかげで、私はようやく、この世界に生まれたのだ。生きている。それが、ようやく私にもわかった気がした』

 

 

ミュウツーの言葉に、ハッとする。

そうか、同じだったのか。

ミュウツーも、俺と―――――。

 

スイクンが、そっと寄り添ってきてくれた。

それにフッと笑って、スイクンの心地好くなるポイントを撫でる。

 

 

「この世界に生まれて、独りぼっちなんてことは、絶対にないと思う」

 

『………だが、私は―――』

 

「確かに、生まれは違うかもしれない。生まれはコピーという、人間に作られたポケモンかもしれない。けど、今は生きている。この世界に生まれて産声を上げた、一匹のポケモンだ。そこに違いはない。そして………生き物はきっと、独りでは生きていけないんだと思う。孤独に耐えられないから。誰かが必要なんだ。お前を必要とし、お前が必要とする誰かが……」

 

『…………必要とする、誰か………』

 

「実はさ、ミュウツー。俺も、この世界に生まれて孤独を感じていたんだ」

 

『!?』

 

 

顔を上げたミュウツーが、驚きの表情で俺を見てきた。

擦り寄ってきたスイクンを撫でて、笑ってみせる。

 

 

「スイクンに出会えたことで、初めて本当にこの世界に生まれた心地がした。ようやく、息ができたんだ。ミュウツーにとってのそんな場所が、この世界のどこかに必ずあるよ」

 

『………………それなら』

 

 

ミュウツーがそっと、スイクンを撫でている手とは反対の手を取ってきた。

キョトンとしてミュウツーを見れば、真剣な顔。

 

 

『お前の傍が、その場所だ』

 

「………………へ?」

 

 

スイクンが、フッと笑った気配がした。

 

 

『ようやくわかった。そうだ。私は、お前に運命を見たんだ。私の呪縛を砕き壊した存在。私というポケモンを、この世界に生まれ直させてくれた存在。私を、教え導ける存在。スイクンの言っていたことが、今ならわかる。死ぬまで傍にいたいと、思える存在。私にとっても、それがお前だったというだけの話なんだ』

 

 

何か一人で納得しちゃってるけども。

 

 

「俺は、そんな大した存在じゃないよ。言ったと思うけど、何の変哲もないただの一般人だ。特別なことは、……………まぁ、波導の力ぐらいか?でもそれだけ。選ばれし者でも何でもない」

 

『例えお前が自身を平凡だと言おうが、世界が普通だと言おうが。私の中では特別で、大切で、唯一無二の存在だ。だから、付いて行きたい。私以上に強い、最強の存在に』

 

 

…………あ~~~~~~。

くそ恥ずかしい。

お口が悪くなるのはユルシテ。

 

 

「俺、まだまだ弱いぜ?最強とは程遠い存在だ。それでもいいのか?」

 

『?最強である私を倒したのに、最強じゃないのか?』

 

「あぁ、俺達がやっているバトルは複雑なんだ。精神力も、体力も、戦略も、戦術も大事になってくる。殺し合いじゃないから次が何度でもあるし、一度のバトルで全てが決まることもない。何度も何度も繰り返しバトルして、その時の自分達の強さを知るんだ。今の俺が、例えスイクンと一緒に戦っても、チャンピオンに勝てる確率はかなり低い。それだけポケモンとポケモントレーナーの関係は重要になってくるんだ」

 

『……………』

 

 

ミュウツーはよくわからない、という顔をする。

 

 

「例えば。次ミュウツーが全力で俺とスイクンと戦うことになったとして。正直なところ、俺達がまた勝てるかはわからない」

 

『…………それは………』

 

 

ぶっちゃけ、負ける確率の方が高いだろう。

もう〝ぜったいれいど〟という切り札は切っちゃったし。

それに今回も、スイクンが俺のために立ち上がってくれただけで、実質引き分けみたいなものだったからなぁ。

 

 

「ミュウツーも次があるなら、俺達に負けてたまるかって奮起するだろう?」

 

『そうだな』

 

「そういうことだよ。バトルには次がある。そしてバトルに絶対はない。前回勝った方が勝つとは限らないし、負け続けているからといって次も負けるとは限らないんだ。だから、俺はまだまだ最強とは程遠い。勝ち続けるほどの強さは、まだない」

 

『…………何となく、理解できた気がする』

 

 

ミュウツーの言葉に、そっと微笑む。

 

 

『だがそうだとしても、私の想いは、心は変わらない。ポケモンとポケモントレーナーの関係は、一方通行のものではないのだろう?どちらかが欠けては成り立たない。それなら、私もお前と一緒に、強くなろう。それともお前は、私と一緒は嫌か?』

 

「嫌じゃない!嫌じゃないよ。ただ………………ミュウツーの力に頼っちゃうと、俺自身が成長できない。スイクンもそうだけど、よっぽどのことがない限り、ミュウツーをバトルに出すことはないと思う。それでも、いいのか?」

 

『構わない。私は、お前とともに在れるなら、何でもいい』

 

 

なんか、重いなぁ……。

まぁ、ミュウツーが納得し、そう望み、願うならいいか。

 

 

「わかった。俺は、マサラタウンのサトシだ」

 

『サトシ。私は、ミュウツーだ』

 

「これから、よろしくな」

 

『あぁ』

 

 

ミュウツーに握られていた手の向きを変えて、ミュウツーと握手する。

あれ?

そういえば。

 

 

「モンスターボール、オーキド研究所に転送されてないな………?」

 

『あぁ、私の力で防いでいる。私はサトシの旅路を傍で見守るために、力になるために存在しているからな』

 

 

…………………重いのは気のせい?

スイクンが片頬を膨らませた。

可愛い。

 

 

『スイクンのモンスターボールもそうするか?』

 

 

ミュウツーの問いかけに、少し悩んだスイクンは首を横に振った。

 

 

『今はオーキド研究所でやることがある、か』

 

 

プテラのことか。

そういえば近いうちにどうにかしないとな。

 

何はともあれ、ミュウツーが仲間になった。

本当によっぽどのことがない限り、ポケモンバトルには出さないだろう。

ミュウツーは最強すぎる。

チートだ。

それは戦った俺達が一番よくわかっている。

 

それでも。

これから色んな危険に巻き込まれることを考えたら、頼もしい仲間ができた。

俺の旅路は、人間の暗くて汚い部分も見せてしまうことになるけれど。

せめてミュウツーに、楽しい思い出をたくさん作ってもらおう。

せめて、世界の綺麗な部分をたくさん紹介しよう。

 

ミュウツーの命が、輝けるように。

 

 

 

買い出しから帰ってきたタケシとカスミに、ミュウツーが仲間になったことを紹介したら、ひっくり返って驚いていた。

やっぱりそういう反応になるよなぁ。

 

 

 

 

 

そういえば、マスターボール、どうしよう?

 

 









スイクン(色違い) Lv.55

エーフィ♀  Lv.57

リザードン♂ Lv.59 -太陽-

ピカチュウ♂ Lv.59

キュウコン♂(色違い) Lv.48

バタフリー♂ Lv.50

ピジョット♂ Lv.50

ニドキング  Lv.51

フシギダネ♂ Lv.50

リザードン♂ Lv.53

カメール♂  Lv.50

キングラー♂ Lv.49

ニンフィア♀ Lv.50

ゲンガー♂  Lv.55

バタフリー♀(桃色の色違い) Lv.20 -モルガナ-

ゲンガー♂  Lv.54

コノヨザル♂ Lv.57

ブラッキー♂(色違い) Lv.48

ウインディ♂(ヒスイの姿) Lv.50

リーフィア♂ Lv.40

ベトベトン♂ Lv.47

ジバコイル(色違い) Lv.45

ケンタロス♂ Lv.36

ガルーラ♀  Lv.34

ニョロゾ♂  Lv.36

ドサイドン♂ Lv.43

バサギリ♂(色違い) Lv.34

ゾロア♀(色違い) Lv.31

ヒンバス♂(色違い) Lv.30

ラッキー♀  Lv.32

カラカラ♂  Lv.36

ポリゴン2  Lv.35

カブトプス♂ Lv.43

プテラ♂   Lv.60

オムナイト♂ Lv.30

トゲピー♀  Lv.16→17

フシギソウ♀ Lv.30

ミュウツー  Lv.70 NEW!

ちょっとアンケート。 長くていいからバトル中区切らないでいるか、長いと読みにくい等あるから区切るか。 読者の意見が知りたいのでお願いします。

  • 翌日の投稿でいいからバトル中に区切る。
  • 長くていいからまとめて。
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