第7話 半分のモンスターボール
ヒトカゲの太陽が仲間になってから、太陽と一緒にものすごい特訓をした。
波導の力を全開にして太陽のことを深く知り、本格的に物理型ではなく特殊型で育てたい旨を話し、納得してもらった。
最初は野生のポケモン相手にも苦労していた太陽だったが、〝ひのこ〟を覚えてからは連勝が続き、指示を出す俺のことをキラキラした目で見てくれている。
聞けば、太陽の目の前で傷だらけのイーブイの警戒心を解き、テキパキ治療したことにより、どうやら俺のことをヒーローだと思ってしまったようなのだ。
弱きを助けるヒーロー。
別にヒーローってほど偉大な存在じゃないと伝えても、太陽は俺のことを羨望の眼差しで見るのを止めない。
嬉しい反面、照れくさくて少し困る。
太陽の技スロットは四つ。
今のところ〝ひっかく〟、〝なきごえ〟、〝ひのこ〟、〝えんまく〟の四つの技を覚えている。
〝ひっかく〟を捨てて〝りゅうのいかり〟か〝りゅうのいぶき〟を覚えさせたいところだ。
エーフィは〝サイケこうせん〟、〝あくび〟、〝でんこうせっか〟、〝アシストパワー〟を覚えており、今はスイクンに〝めいそう〟を教えてもらっている。
技スロットが五つあるというだけで強みなので、活かしていきたい。
スイクンは〝ぜったいれいど〟、〝エアスラッシュ〟、〝しんそく〟、〝アクアリング〟、〝みずのはどう〟、〝めいそう〟、〝ほえる〟、そして新たに〝ねっとう〟を覚えた。
今は〝ぜったいれいど〟が使えるのならと〝れいとうビーム〟を習得しようとしている。
これだけ覚えていても技スロットがまだまだあるのだから、伝説って恐ろしい。
仲間になったポケモン達を鍛えながら、充実した日々を送る。
グリーンフィールドのミーちゃんに思い切り懐かれ、お兄ちゃんと慕われるようになったのは余談として。
あっという間に一年、二年、三年と過ぎ、気付けば俺も九歳だ。
波導の力を完全にマスターし、目で見えるものを制限できるようになった。
体も順調に鍛え、今ではスイクンと立派な組手ができる。
たまにならスイクンを投げ飛ばすことだってできるし、組み伏せることだってできる。
本当にたまにだが。
仲間達に変わったことはない。
強いて言うのならば、太陽がリザードに進化したことぐらいだ。
いや大きな変化か。
野生のポケモン達相手では勝負にならなくなってしまったので、スイクンとエーフィ相手にバトル練習していたところ、初めてエーフィに勝った際俺に抱き付いた瞬間、リザードに進化した。
少しビビりだった面影は鳴りを潜め、元気に俺の後を付いて回っている。
ヒトカゲ、いやリザードの太陽は元々強くなることに積極的だったからバトルをガンガンやっていたが、ひかえめなエーフィは修行こそすれどガンガンバトルというタイプではなかった。
それがリザードに進化した一件で、あまりにも太陽が喜び舞い踊ったため対抗心を燃やし、バトル狂になりつつある。
スイクンは伝説の名に胡坐をかかず修行しているが、そんな二人のことは呆れた目で見ていた。
バトル練習、技の習得、体を鍛える、修行!の毎日を送り、もう少しで旅立ちの日を迎えるという時、ある日母さんに引き留められた。
「そんなに根を詰めていても良いことはないわよ。久しぶりにゆっくり、釣りでもしてきたらどう?」
もうすぐ旅立ち、釣り。
ピンときた。
半分のモンスターボールだ!
母さんの提案に一も二もなく頷いて、釣り道具を持って麦わら帽子を被り、川に向かう。
エーフィと太陽はスイクンに今日は休みだと伝えに行ってもらったが、あの三匹は休まずにそのまま修行する可能性が高い。
バトルジャンキーめ。
トレーナーとしてやるべき息抜きは、たまにタケシに教えてもらったマッサージをしたり一緒に昼寝をしたりして、リラックスさせているつもりだ。
コンディションは毎日整えているから、毛艶も肉付きも良い。
大丈夫なはずだ。
そんなこんなで一人釣りをしていると、ふと思い出した。
あれ?俺、ポケモンサマーキャンプ、行ってなくね?と…。
スイクン、エーフィ、そして太陽との毎日が充実しすぎていて忘れていた。
母さんからも特に何か言われたわけでもなく、普段から知識を溜めているだけじゃなくポケモン達と触れ合っていると知っているからか、オーキド博士にも何も言われなかった。
普段から一日の日課が決まってしまっているのもあり、毎年開催されるものだというのにその存在自体をすっかり忘れていた。
あちゃー、と手で顔を覆う。
前回と違う行動を取ってしまった。
もう今更な感じはあるが、これが今後どういう風に響いてくるかわからない。
忘れていたものは仕方ないと、割り切ってしまうのは簡単だが、果たして本当にそれで良いのか。
………………………………良いか、ミュウには会えたし。
そう、ミュウに会えたのだ。
スイクン達と昼食を取っている時に、何やらお腹を空かした野生のコラッタがやってきて、昼食を分け与えたことがある。
そのコラッタが、ミュウが変身したものだったのだ。
波導でわかった。
こちらが気付いたことに気付いたのか、ミュウは変身を解いてクスクス笑い、しばらく俺達と戯れた後どこかに行ってしまった。
人懐っこいミュウだったが、貴重な体験をさせてもらった。
ポケモンサマーキャンプの主な出来事といえばミュウと会える可能性がある、ぐらいしか覚えていないし、特に問題はないだろう。
そう結論付けて再び釣りの空気を楽しんでいると、やはりというかシゲルがやって来た。
そして何も言わず俺の浮きの近くに浮きを投げる。
「今日はエーフィと太陽は一緒じゃないのかい?」
「エーフィと太陽は…………自主練してるよ。あいつらバトル大好きだからな」
スイクンのところにいます、とは言えず少しだけ言葉を濁した。
シゲルは途端に馬鹿にしたような顔つきになる。
「どちらも進化したとはいえ、トレーナーの役割を放棄して呑気に釣りをしているとは。トレーナーとしての自覚が足りないんじゃないかい?」
「今日は休みだからのんびりして良いって言ったんだよ。休みの時間をどう使おうが、あの二人の自由だ」
トレーナーとして、と言われてしまえばそうなのかもしれないが、こちらにも言い分はある。
思わず言い返すと、シゲルはふーん、と馬鹿にしたような顔つきのまま見下した態度を取ってくる。
あぁ、この頃のシゲルはこんなんだったな~、と思っていると、互いの浮きが沈んだ。
慌ててお互いリールを巻くと、かかっていたのは一つのモンスターボールだった。
「運命のめぐり合わせだ!これから旅立つ僕に神様が一足先にモンスターボールをくれたんだ!」
そう言ってシゲルが全力で引っ張るので、慌てて釣竿を持っていかれないようにこちらも全力で引っ張る。
「おい引っ張るなよサトシ!これは僕のだ!」
「何言ってんだよ同時に掛かっただろ!」
思わず言い返してしまい、大人げないと思いつつも先ほどトレーナーとしての心構えを精神年齢的に年下のシゲルに説かれ、少しだけ苛々してしまっていた俺は前と同じように言い合いをしながら橋まで移動した。
ぐいぐい引っ張り合い、ついにモンスターボールが壊れる。
半分になったモンスターボールは、俺とシゲル、それぞれの前に落ちた。
「これって…………」
「……引き分け、だな?」
「引き分け?僕と君が!?」
また前と同じように認めないと言われるかと思いきや、シゲルは手に取ったモンスターボールの半分を見つめ、何事か考え始める。
「僕が、君と引き分け、か………」
「シゲル?」
「……………良いだろう!今回は引き分けだ!けど、次は絶対に僕が勝つ!」
モンスターボールの半分を見せつけるようにして、シゲルはそう宣言してきた。
シゲルの強気な視線が懐かしくて、何故か嬉しくなる。
波導で確認したところ、シゲルの感情に負の色がなかったのもすごく嬉しい。
「俺も、シゲルには負けない。これからは、ライバルだな」
俺も半分のモンスターボールを手に、笑顔でそう宣言してやった。
「僕と君がライバル………僕は、君には絶対負けない!」
再びそう宣言するシゲルは、言葉に込められた激情と熱意とは裏腹に、笑顔だった。
こうして半分のモンスターボールは、前と同じように進んだ。
その後何匹かキャッチ&リリースして釣りを切り上げ、エーフィ達の元へ向かうとやはりというか修行していたので、結局は俺も混ざったのだった。
ポケモンサマーキャンプには行き忘れていたが、その後も順調に時が経ち、いよいよ旅立ちの日がやってきた。
スイクン(色違い) Lv.40→43
エーフィ♀ Lv.8→15
ヒトカゲ→リザード♂ Lv.5→16 -太陽-