転生サトシの旅路   作:ナノブ

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5.旅立ちの日 生まれる絆

第8話 ポケモン!きみにきめた!

 

 

楽しみで楽しみで仕方ないが、昨日は今日に備えてよく寝た。

波導の力も順調にマスターし、ポケモン達の調子もすこぶる好調。

持ってこいの旅立ち日和である。

 

波導の力だが、普段は抑えて他の人と同じように過ごすことにしている。

使いたい時だけ使う、バトルの時は極力自分のポケモンのためだけに使う。

そう決めたのだ。

扱い方をマスターしたおかげと、普段から波導の力を使わないように訓練していたおかげで、最近は前と同じように、普通の人と変わりなく過ごせている。

さて、オーキド博士から最初に貰うポケモンだが―――。

 

そもそも、貰えるのだろうか?

すでにエーフィ、太陽がいることをオーキド博士は知っている。

セレビィと一緒に時を渡ってきたあのユキナリが、この世界で俺がどのポケモンを連れていたか知っているのであれば、それに合った対応をしてくるだろう。

 

つまりこの世界で、ピカチュウを貰えない可能性がある。

正直、それはかなり寂しいし、嫌だ。

だがオーキド博士が仮にピカチュウを用意していなかったら、エーフィと太陽をすでに仲間に加えている俺が駄々をこねるわけにはいかない。

駄々をこねたとして、オーキド博士がその後捕まえてくるピカチュウがあのピカチュウとは限らない。

 

旅立つ前にオーキド博士にピカチュウのことを仄めかさなかった時点で、もう流れに身を任せるしかないのである。

そもそもエーフィと太陽が仲間にいる時点でもう十分に恵まれている。

これ以上贅沢を言っては罰が当たるレベルだ。

 

それでも朝早く行く気にはなれず、一縷の望みをかけて遅く行くことにした。

ドードリオが鳴き、朝の訪れを告げるのを聞きながら、エーフィと太陽と一緒に走り込みをする。

今日はいよいよ旅立ちの日ということもあり、エーフィ達もワクワクしているようで、足取りが軽やかだ。

走り込みを終え、朝食を作り、朝食を食べ、冒険に行く準備をする。

そして―――。

 

 

「サトシどうしたの?せっかく準備できたのに、まだ行かないの?」

 

「う~~~ん………もう少しだけ、家にいたいなぁって……」

 

「まぁこの子ったら!可愛いところもあるのね!」

 

 

前回寝坊した時間まで家で待っていると、心配した母さんに話しかけられてしまった。

言葉を濁すと本当に寂しがっていると思われたようで、抱きしめられる。

 

 

「か、母さん!」

 

「ふふ、大丈夫よ、サトシ。いつもいつでも上手くいく保証はないけれど、あなたにはポケモンがついてる。エーフィちゃん。それに、太陽ちゃん。立派なポケモン達がついているんですもの。一人じゃないわ。それをいつだって忘れなければ、きっと大丈夫」

 

 

頭を撫でられながらそうさとされ、恥ずかしい気分だったのが徐々に落ち着いてくる。

 

 

「うん………そうだね、きっと大丈夫だ。俺は一人じゃない、皆が付いてる!」

 

「そう、その意気よ。でも危険に自ら飛び込んではダメよ?できることできないこと、きちんと考えて行動しなさい」

 

「はぁ~い」

 

 

ポケモンハンターを捕らえた時のことを思い出してしまったのか、母さんは口酸っぱく落ち着いて行動するように言ってくる。

それに頷いて母さんの言葉を聞いていれば、あっという間に時間が経ち、その時がやってきた。

 

 

「母さん、わかってる。もう大丈夫だから!そろそろオーキド研究所に行ってくる!」

 

「あら、行くの。気を付けてね」

 

「すぐそこだよ」

 

 

心配性の母さんに一言告げて、エーフィ、太陽と共に家を出る。

オーキド研究所に向かい歩いていると、オーキド研究所の前に赤いオープンカーが止まっているのが見えた。

 

 

「あ、あれはまさか……」

 

「フィ?」

 

「グォ?」

 

 

エーフィとリザードは同じ方向に首を傾げる。

近付いてみると、シゲルがガールフレンドに応援されながらオープンカーに乗るところだった。

 

 

「やっぱり………」

 

「うん?何だい、サートシ君じゃないか。今日遅刻するとは、僕のライバルとしての自覚が足りないんじゃないか?」

 

 

旅立ちの日ということもあり、シゲルは気分が乗っているようでニヤニヤ笑いながら調子に乗っていた。

ははは、と引きつった笑いしか出てこない。

そんな俺を見てシゲルは勝手に勝った、と思ったようでそれ以上突っかかってくることはなかった。

 

 

「見送りの皆様、ご苦労様です!オーキド・シゲル、ただいまよりポケモントレーナーの修行に行ってまいります!」

 

 

そう言いながら、オープンカーで旅に出て行くシゲルの背をエーフィ達と見送る。

 

 

「あいつ、いつまであぁなんだっけ………」

 

「フィ~~……」

 

「グォ……」

 

 

思わず呟くと、エーフィと太陽も呆然としていた。

気を取り直してオーキド研究所の戸を叩く。

 

 

「はーい。おぉ、サトシか。一番に来ると思っておったが、一番最後になるとは。他の皆はもうポケモンを貰って旅立ったぞ」

 

「オーキド博士!あの…――」

 

「皆まで言うな、ポケモン図鑑とモンスターボールを渡そう!」

 

「…………はい!」

 

 

やはりピカチュウは用意してもらえなかったのか。

心にぽっかりと穴が開いた心地になりながら、オーキド博士の後をついていく。

 

 

「さてサトシ!色々あったがこれが、お主のポケモン図鑑とモンスターボールじゃ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

ポケモン図鑑とモンスターボールを六つ差し出され、お礼を言って受け取った。

ピカチュウとは、今は会えない。

けど俺は、これから旅に出るんだ。

自分の足で、いつかピカチュウに会いに行こう。

せっかく世界を巡るのだから、一つくらいそういう目的があったっていいだろう。

 

そんなことを考えていると、御三家のモンスターボールが置かれている台から、一つのモンスターボールが表れた。

雷マークがついたモンスターボールだ。

 

 

「これって……」

 

「実はの、サトシ。お主に頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと?このモンスターボールのことですか?」

 

「さよう。こやつには少々問題があっての。恥ずかしがり屋のくせに人に慣れにくく、すぐに電気を浴びせてしまう」

 

 

その言葉だけで、誰を指しているのかすぐにわかった。

 

 

「ピカチュウ!」

 

「何じゃ、知っておったのか」

 

 

オーキド博士は心底驚いたような顔をしたが、俺がピカチュウのことを知っている様子に特に何も言わず、モンスターボールを手に取ってそのモンスターボールを見つめた。

 

 

「扱いが難しくて、中々外に出してやれんかった。しかしそれも可哀そうでのう。ヒトカゲ、そしてイーブイの心を助けたサトシ。お主に託したいんじゃ」

 

「いいんですか!?」

 

 

まさかまさかの展開だ。

ピカチュウとまた会える喜び、驚き、感動、様々な感情が胸の内で巻き起こる。

夢みたいだ。

 

 

「うむ。サトシ。お主なら必ずや、このピカチュウの心を開いてくれるじゃろうて。それにエーフィ達がいるとはいえ、そなただけ旅立ちの日にポケモンを貰えないというのもな」

 

「元々ヒトカゲを貰っちゃってる、って解釈もできますが……」

 

「そのヒトカゲは自らトレーナーを決めてしまったもの。断じて、ワシからあげたくてあげたわけじゃない。気にするな、サトシ」

 

「…………はい、ありがとうございます」

 

 

最初の旅立ちの日にすでに三匹、いやスイクンを入れて四匹ものポケモン達を仲間にしているのは、前のサトシの記憶からしても少々ずるい気もするが。

オーキド博士が気にするなと言うのであれば、気にしないでおこう。

やっかみは甘んじて受け入れる。

 

ピカチュウのモンスターボールを貰い、まだモンスターボールから出さずに腰のホルダーに付ける。

電撃を喰らうのはわかっていたので、ゴム手袋を付けてゆっくり話ができる場所で出してあげたい。

 

 

「そういえば、サトシ」

 

「はい、何ですか?」

 

「言っておいた方が良いと思っての。エーフィのことじゃ」

 

「エーフィの?」

 

「フィ?」

 

 

いきなりオーキド博士から話題を向けられ、エーフィも首を傾げる。

 

 

「うむ。エーフィはまだまだカントー地方では珍しいポケモンじゃ。マサラタウンのような狭い町ではまだ良いが、珍しがられ、交換を迫られることもおそらくだが珍しくはないじゃろうて。基本的にポケモンはモンスターボールに入っているもの。エーフィもモンスターボールに入れておくことをお勧めする」

 

「モンスターボールか……」

 

「フィ~……」

 

「グォウ」

 

 

モンスターボールに入るのに抵抗があるエーフィは嫌そうな顔をし、太陽はそんなエーフィを慰めるように背を撫でていた。

 

 

「嫌かもしれんが、ポケモン達が嫌な思いをする前に、こちらができる対策を取らねばな。ストレスがかかるのも嫌じゃろう?」

 

「フィ……」

 

 

オーキド博士の言葉はもっともであり、エーフィもわかっているからか露骨にごねたりはしない。

 

 

「エーフィ、ごめんな。人が少ないところでは、すぐ出してやるからな」

 

「フィ!」

 

 

そうしてほしいと頷いたエーフィに、モンスターボールに入ることでかかるストレスをできるだけ軽減するため、マッサージなんかはいつも以上に丁寧にしっかりやることを決めた。

今はまだ、マサラタウン内なので出していても良いだろう。

 

 

「さて!それではサトシも旅立ちと行くかの!」

 

「はい!」

 

 

というわけでオーキド博士とオーキド研究所を出ると、母さんと一緒に俺の応援団が見送りに来てくれていた。

 

 

「母さん!」

 

「サトシ、いよいよね。立派なポケモントレーナーになれるよう、頑張るのよ!」

 

「うん、ありがとう!」

 

 

俺と母さんが話している後ろで、俺の応援団がシゲルのガールフレンドのように「いいぞ、いいぞ、サトシ!頑張れ、頑張れ、サトシ!」と応援してくれている。

恥ずかしいのでやめてもらいたい。

 

 

「あら。フィーちゃん、太陽ちゃんの他に、ポケモンは貰わなかったの?」

 

「貰ったよ。とっておきの相棒を」

 

 

そう言って、ピカチュウのモンスターボールを取り出して見せる。

狭いところが嫌いなピカチュウ。

早く出してあげたい。

 

 

「けどこいつ、恥ずかしがりやだからさ。今度母さんに会う時までに、その恥ずかしがりやを克服しとくよ」

 

「あら、そうなの。楽しみにしてるわ」

 

 

あっさりそう言って、母さんは引き下がってくれる。

できる優しい母さんで本当に良かった。

 

 

「それじゃ、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい、サトシ!」

 

 

母さんと応援団、オーキド博士に手を振って、マサラタウンを旅立った。

旅立ってすぐの草むらで、忘れずにゴム手袋を手に付け、ピカチュウのモンスターボールを手に取る。

 

 

「出ておいで、ピカチュウ」

 

「ピカッチュウ」

 

 

モンスターボールから出てきたピカチュウは、ちょこんと地面に着地した。

 

 

「ピィカ?」

 

 

ピカチュウは俺と目が合い、次いで俺の周りにいるエーフィとリザードの太陽の姿を見て、不思議そうに首を傾げる。

その様子が微笑ましくて、自然と俺も笑みを浮かべた。

 

 

「ピカチュウ。俺は君のトレーナーになった、サトシっていうんだ。これからよろしくな」

 

「ピッ!」

 

 

そう言って手を差し出しても、ピカチュウはそっぽを向いてしまい握手には応じてくれなかった。

それを見て、正義感の強い太陽が少しばかり顔をしかめる。

 

 

「いいんだ、太陽。今はこんなもんだよ。ピカチュウ、紹介しておくな?俺の大切なポケモン達、エーフィにリザードの太陽だ」

 

「フィ!」

 

「グォ!」

 

「ピィカ」

 

 

エーフィと太陽がそれぞれ挨拶しても、俺のポケモンだとわかったからかピカチュウは答えずそっぽを向いたままだ。

人間不信気味の今のピカチュウには、人間のポケモンというだけで警戒に値する存在なのだろう。

そんなピカチュウと目を合わせるように、抱き上げた。

 

 

「ピィカチュウ!」

 

「フィィ!?」

 

「グォウ!?」

 

 

途端に〝でんきショック〟で攻撃されるが、ゴム手袋のおかげで被害はない。

慌てたエーフィと太陽も、対策済みなのだとわかればホッと胸をなでおろしていた。

 

 

「ピカチュウ、少しだけ俺の話を聞いてくれ」

 

「ピィカビィカ!」

 

話す気はない、話したくないと、〝でんきショック〟が飛んでくる。

しかし俺に〝でんきショック〟が効かないとわかると、技を放つのをやめて渋々俺と目を合わせてくれた。

 

 

「君は、俺が嫌い?」

 

「ピカピカ」

 

 

うんうん、と頷くピカチュウに懐かしいような、寂しいような気持ちが沸き上がってくる。

それを押し込めて、精一杯の笑顔を浮かべた。

 

 

「俺は君が好きだよ!」

 

「ピィカ?」

 

「俺は、君と仲良くなりたい!友達になりたいんだ!」

 

 

両手でピカチュウを抱え上げ、笑顔でそう宣言する。

ピカチュウはぱちくりと瞬いた後、また〝でんきショック〟を繰り出して俺に効かないのだと思い出し、「ピッ」とそっぽを向いてしまった。

ゆっくり行けばいい。

今回は前の時のようなオニスズメ騒動は起こしたくないしな。

 

 

「まぁ今はそれでもいい。ピカチュウが嫌なら、モンスターボールにだって入れないよ」

 

「ピ?」

 

「これからよろしくな、ピカチュウ」

 

「ピッ」

 

 

相変わらずピカチュウはまともに話を聞いてくれず、そっぽを向いている。

 

 

「一先ず君に、会わせたいもう一人の仲間がいるんだ。そいつに会いに行こう!」

 

「ピィカ?」

 

 

ピカチュウを抱き上げたまま歩き出し、待たせっぱなしのスイクンの元へと向かう。

スイクンは今回、マサラタウンの奥深くにある森から1番道路の近くまで出て来てもらい、近くの草むらに潜んでもらっている。

他の誰かに見つからないうちに合流したい。

ピカチュウを抱き上げたままということで、半ば強制的にピカチュウを連れて行くことになるが、少しの間許してほしい。

エーフィと太陽を連れて、スイクンと待ち合わせした場所へと向かう。

 

 

「お待たせ!待たせてごめんな」

 

「………」

 

 

茂みに馴染みのある波導を感じ取り、そこに向かって声をかけた俺にピカチュウは不思議そうに首を傾げる。

俺の言葉を合図に、スイクンはゆっくりと姿を現した。

 

 

「ピィ!!!?」

 

 

ピカチュウはそのプレッシャーに驚いたのか、驚きのあまり全身の毛を逆立てて硬直する。

ゆっくりと近付いてくるスイクンに、ピカチュウは我に返ると同時に俺の手から逃れようと身をひねった。

 

 

「ピィ!!ピィカ!!!!!」

 

「うわっ!大丈夫だよ、ピカチュウ!スイクンは俺の友達だ」

 

「ピカピカチュウ!!!」

 

 

まるで、殺されるー!!!、とでも言いたげに大暴れして、俺の手から抜け出そうともがくピカチュウは俺の声が聞こえていないみたいだ。

俺の手の中からやっとの思いで抜け出して地面に着地し、ピカチュウは急いで俺の足の後ろに隠れた。

さっきまで〝でんきショック〟を喰らわせようとしていた生意気な姿とは異なり、可愛らしいところもあるもんだ。

 

 

「はは、大丈夫だって、ピカチュウ。こいつはスイクン。俺の友達で、仲間で、恩師で、同志だよ」

 

「ピィ………?」

 

 

ようやく俺の声が聞こえたのか、ピカチュウはそっと顔を覗かせてスイクンを仰ぎ見る。

スイクンは怖がられたことを気にしていないみたいで、新しく仲間になったピカチュウのことをじっと見つめていた。

 

 

「スイクン、紹介するな。新しく仲間になった、ピカチュウだ」

 

「ピィカ……」

 

 

紹介されたピカチュウは、まだまだ怖いみたいで顔を覗かせている姿勢のままだ。

スイクンはゆっくりと頷き、静かに一声鳴いてよろしく、と伝えていた。

スイクンが怖くないとわかると、ピカチュウはようやっとそろそろと俺の足の後ろから出て来て、スイクンにこれまたそろそろと近寄る。

 

 

「ピィカチュウ…?」

 

「…………」

 

 

顔を寄せるピカチュウに、スイクンも同じように顔を寄せた。

鼻先をチョンとついて挨拶した後、ピカチュウはまだ怖いのかそろそろと後ろに下がる。

俺はその様子を見守って、ゴム手袋を外し、モンスターボールを一つ取り出した。

そしてそれをスイクンに向ける。

 

 

「随分と待たせちゃったな。これからもよろしくな、スイクン」

 

 

顔を上げたスイクンは力強く頷いた後、自らモンスターボールに額を当てて入っていった。

 

 

「ピッ!!!?」

 

 

その様子に驚いたのはピカチュウで、微笑まし気に見ているのはエーフィと太陽だ。

凄まじいプレッシャーを放つ存在が、今日トレーナーになったばかりの俺に自らゲットされにいったことに、ピカチュウは心底驚いたようでポカンと口を開けていた。

 

 

「ピィ?ピカピカチュウ?」

 

「ん?どうしてスイクンを仲間にできるのか、って?」

 

「ピカ!」

 

「スイクンと俺は、もう五年の付き合いになるからな。俺が小さい頃からの友達なんだ!」

 

 

俺が答えると、ピカチュウはさらにあんぐりと大きく口を開けて呆然とする。

 

 

「ピィカ………」

 

 

どうやらピカチュウは、自分の予想を遥かに超える俺に興味を持ったようで、ついうっかりゴム手袋なしで抱き上げてしまったが、〝でんきショック〟を放たれなかった。

そしてピカチュウは、先ほど俺が言った「友達になりたい」という言葉を思い返しているようで、スイクンが入ったモンスターボールと俺の顔を交互に見ていた。

 

 

「俺はね、ピカチュウ」

 

「ピ?」

 

「俺は、ポケモンマスターになりたいんだ」

 

 

俺はピカチュウにも話すことにした。

俺が目指す姿。

理想の姿。

そして、理想を目指しながらなりたい職業を探すこと。

隠さず全てをピカチュウに話して聞かせた。

ピカチュウは俺に興味を持ってくれたことが幸いし、真剣に聞いてくれていた。

 

 

「俺は、俺がポケモンマスターになった時、ピカチュウが傍に居てくれたらすごく嬉しいんだ」

 

「ピ……」

 

「だから俺は、君とも友達になりたい。どうかな?」

 

 

そっと差し出した手に、今度はピカチュウはそっぽを向かなかった。

俺が差し出した手を見つめ、ピカチュウはじっくりと考えている。

俺は辛抱強く待った。

そしてピカチュウが出した答えは―――。

 

 

「ピ!」

 

「!」

 

 

手ではなく、尻尾を差し出すことだった。

ピカチュウなりの妥協点なのだろう。

まだ信用することも、信頼することもできない。

それでも、一応認めてはやったぞと。

 

 

「ありがとう!ピカチュウ!」

 

「フィ!」

 

「グォ!」

 

 

ピカチュウの尻尾と笑顔で握手すると、ピカチュウは照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。

エーフィと太陽も嬉しそうに笑顔を見せる。

スイクンも満足したようで、モンスターボールをカタリと揺らしてくれた。

 

 

「それじゃ、行こう!俺達の旅の始まりだ!」

 

「ピッカ!」

 

「フィー!」

 

「グォウ!」

 

 

俺の声に合わせて、皆が返事をしてくれた。

こうして俺達の旅は始まったのだった。

 

 

 

 

 

第9話 旅にトラブルはつきもので

 

 

少しだがピカチュウが心を許してくれてから、俺達はトキワシティに向かって足を進めていた。

オニスズメの群れに襲われることもなく、ただ皆とお喋りしながら歩いているだけの穏やかな時間だ。

そんな折、ようやく野生のポケモンであるコラッタを見つけた。

 

 

「旅立ってから初バトルといくか!太陽!」

 

「グォウ!!」

 

 

やる気満々のリザードの太陽を向かわせたが、ここら辺の野生のポケモン達相手に苦戦するはずもなく特に戦略も戦術もなく〝ひのこ〟で一発KOしてしまった。

逃げ帰っていくコラッタを見送って、物足りない顔をする太陽の頭を撫でて宥める。

旅立つ前から鍛えていたこともあり、序盤で苦戦することはもしかしたらないかもしれない。

 

 

「ここらじゃ敵なしだからな、太陽もエーフィも………ピカチュウ、バトルしてみるか?」

 

「ピィカァ~?」

 

 

心は徐々に開いてくれているが、まだ完全に気を許したわけではないのでピカチュウは嫌そうな顔をする。

バトルしないなんて勿体ない、という顔をするのはエーフィと太陽だ。

バトルジャンキーどもめ。

 

 

「まぁ、やりたくなったら言ってくれればいいよ」

 

「ピッ!」

 

 

ふんっ、と顔を背けるピカチュウ。

そんなピカチュウを見て、勿体ないなぁ、という顔をしながら太陽がバトルに勝ったよ、褒めてとばかりに甘えてくる。

 

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「グォウグォウ」

 

「よしよし、初バトルお疲れ様!」

 

 

グリグリと、俺に顔を押し付けてくる太陽の可愛いこと可愛いこと。

思わず撫でまわして甘やかすと、エーフィが自分も撫でてほしいと控えめに擦り寄ってきた。

 

 

「フィ~」

 

「ん?エーフィも可愛いなぁ」

 

「フィ!?」

 

 

俺が可愛いと口に出すと、何故か顔を真っ赤にして固まってしまうエーフィ。

母さんに相談したところ、嬉しくてそうなっているので気にしなくていいと言われたが、本当に大丈夫なんだろうか。

 

 

「よしよし。よ~しよしよし」

 

 

甘えてくる二人の可愛いこと可愛いこと。

思わず甘やかしていると、唯一混ざれなかったピカチュウは面白くなかったのだろう。

すねたようにそっぽを向き、俺達から離れていってしまった。

 

 

「お~い、ピカチュウ!ピカチュウもおいで?」

 

「ピッ!」

 

 

ふんっ、とそっぽを向いて、ピカチュウは小さな石を蹴り上げた。

完全にご機嫌斜めだ。

今は二人だけではないのだから、もう少し自重するべきだったか。

そんなことを考えていた俺は、ピカチュウがすねて蹴り上げた石の行く先を見ていなかった。

痛そうな音を立てて着地した石に、ん?と不思議に思ってそちらに目を向けると―――。

涙目のオニスズメが、いた。

 

 

「あ」

 

「ピ?」

 

「フィ」

 

「グォ」

 

 

っと思った時にはもう遅かった。

群れの仲間を呼ばれ、オニスズメの大群に囲まれる。

慌ててまだレベルの低いピカチュウを守るように抱き上げた。

 

 

「ピ!?」

 

「ピカチュウ、大丈夫だ。ここは俺達に任せろ!」

 

「フィー!」

 

「グォウ!」

 

 

エーフィと太陽もやる気満々で前に出る。

そこからは乱戦になった。

エーフィの〝あくび〟で何体か眠らせ〝でんこうせっか〟で撹乱しながら、太陽の〝ひのこ〟と〝りゅうのいかり〟で押していく。

1番道路にいるオニスズメということもあり、レベルはまだまだ低い。

スイクンに頼るほどのことでもなかった。

 

 

「よし!いいぞ、皆!」

 

「フィーー!」

 

「グォウ!」

 

 

俺の声に呼応するように力強く鳴くエーフィと太陽の、心強いこと。

前の時のようにオニスズメ騒動は起こってしまったが、ピカチュウは無事に終わりそうだと思った時、急にゾワリと悪寒がした。

慌てて波導の力を使って気配を探ると、怒り心頭でこちらに向かってくる大きな影。

 

 

「まずい!あれは――――!!!」

 

 

言い切る前に、その影が俺達の前に姿を現した。

バサリと両翼を広げ、高らかに鳴き声を上げる。

その正体は。

 

 

「ギャース!!!」

 

「オニドリル!!」

 

 

マサラタウン付近では、あまり見ないレベルの高さだ。

波導の力を使って調べてみれば、エーフィと太陽よりもレベルが高い。

戦ってもいいが、まず間違いなく被害が出る。

そのレベルだ。

 

 

「戻れ!エーフィ!太陽!」

 

「フィ!?」

 

「グォ!?」

 

 

オニドリルの出現にかモンスターボールに戻されることにか、驚くエーフィ達を急いでモンスターボールに戻し、ピカチュウを抱えたまま慌てて逃げに転ずる。

オニスズメだけならどうにかなりそうだったのに、オニドリルまで呼ばれるとか聞いてない!

 

 

「ピカチュウ、お前は俺が絶対に守る!だから安心しろ!」

 

「ピカ………」

 

 

ピカチュウを抱き抱えたまま、急いで1番道路を駆けていく。

後ろから追いかけてくるオニドリルとオニスズメ達は、残念ながら振り切れそうになかった。

いつの間にやら雲行きが怪しくなり、雨も降ってきた。

 

 

「くそっ………前の再現なんていらないのにっ!」

 

 

思わずそう溢しながら、腕でオニスズメ達の攻撃からピカチュウを守る。

 

 

「ピカピ………」

 

「大丈夫、大丈夫だ!」

 

 

己にもそう言い聞かせながら、ただひた走る。

スイクンに頼ることは、頭から抜け落ちていた。

前の再現ということもあり、すっかり忘れていたのだ。

これは余談だが、後になってスイクンからかなり怒られた。

 

 

「うわぁ!!!」

 

「ピ!?」

 

 

前だけ見て走っていたからか、雨で足元がぬかるんでいるのに気付くのが遅れた。

ズシャーッと思い切り転び、ピカチュウが腕から投げ出される。

当然、オニスズメ達には追い付かれた。

 

 

「ギャース!ギャース!!!」

 

「くっ………」

 

 

泥が付いた顎を拭って、急いでピカチュウを庇える場所に移動する。

そして、結局こうなるのかとピカチュウのモンスターボールを取り出した。

 

 

「ピカチュウ、これに入れ」

 

「ピ?」

 

「この中が嫌いなのはわかってる。でも、これに入れば、助かるかもしれないんだ。だからお願いだ、入っててくれ。俺なら大丈夫だ」

 

 

ピカチュウの前にモンスターボールを置いて、背を向けて格好つける。

正直オニドリルがいる今回、俺が盾になって、ただで済むかはわからない。

それでも、また前のようにピカチュウがボロボロにされるよりかはマシだった。

 

 

「来い!オニスズメにオニドリル!俺が相手になってやる!」

 

 

俺が強がってそう叫ぶと、オニドリルが一際大きな声で鳴いた。

緊迫感を増すように、ゴロゴロと雷も鳴る。

来る。

回避に徹しようと波導の力を全開にした時、後ろにいたピカチュウが足から肩へ登ってくる気配を捉えた。

 

 

「っ!!!待て、ピカチュウ!!!!!」

 

 

俺の制止を振り切って、ピカチュウは肩から飛び出した。

瞬間、ピカチュウに落ちる自然の雷。

 

 

「ピィィィカチュウウウウウウウウ!!!!!!!」

 

 

もはや〝でんきショック〟ではなく、〝かみなり〟と見紛う程の電撃が、ピカチュウの体から放たれた。

雨雲を貫いて、切り裂く威力。

眩しくて、目を開けていられない。

思い切り目を瞑り、ピカチュウの名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか気を失っていたらしく、気が付くと俺は地面に倒れていた。

目を開けた先に、同じく倒れているピカチュウの姿。

 

 

「!!ピカチュウ!!!」

 

 

慌てて立って抱き上げると、ピカチュウはかすり傷程度でそこまで深い傷を負っているわけではなかった。

ホッと息を吐くと、気を失っていたのだろうピカチュウも、目を覚ました。

 

 

「ピカピ……」

 

 

俺の名を呼んでくれる姿に、涙が滲む。

 

 

「ピカチュウ、ありがとな……」

 

「チュウ……」

 

 

ペロペロと、ピカチュウは俺の頬を舐めてくれた。

結局は前回と同じ道を辿ってしまったような気がするが、それでもピカチュウは前ほどボロボロになっていない。

それだけでよかった。

そう思っていると、特徴的な鳴き声が大きく響き渡った。

まさかと思って空を見上げると、虹が架かった晴れた空に、羽ばたく大きな影一つ。

 

 

「あれは――!」

 

「ピ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホウオウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのままピカチュウとホウオウを見つめていると、一枚の虹色の羽が俺の元に落ちてきた。

前回は貰えなかった羽。

劇場版でもらえていた羽。

ここは、劇場版の世界?

 

 

「ピカピ?」

 

 

思わず羽を見つめて考え込んでしまっていたが、ピカチュウの声でハッと我に返った。

 

 

「何でもないよ。ピカチュウ、いつかあいつに会いに行こうぜ!」

 

「ピカピカチュウ!」

 

 

ちゃっかりポケモン図鑑にホウオウを登録して、ピカチュウと笑顔でホウオウを見送る。

そのままエーフィと太陽を出すと、二人とも涙目で抱き付いて来た。

スイクンもガタガタとモンスターボールを揺らし、何故自分を出さなかったのかとアピールしてくる。

素直に忘れていたことを謝って、エーフィと太陽にも傷だらけの腕を見て泣かれてしまったので、心から謝罪した。

それでも皆が無事でよかったと告げると、余計泣かれてしまった。

自分のせいで事態を引き起こし、自分を庇ったからだと自覚している分、ピカチュウも罰が悪そうだった。

 

 

「悪かったって、皆。さぁ、トキワシティはすぐそこだ。今日中に行こうぜ」

 

「ピカ!」

 

「フィ!」

 

「グォウ!」

 

 

何とか泣き止んでくれたエーフィと太陽に、エーフィだけをモンスターボールに戻してピカチュウを肩に乗せ、さぁ出発しようと帽子をかぶり直す。

その時、近くの草むらが揺れた。

 

 

「グォウ?」

 

「何だ?」

 

 

オニスズメ達が残っていたのかと、慌てて波導で調べてみると、何やら弱り切っている波導の持ち主。

傷付いているのだとすぐにわかって、俺の方から草むらを覗き込んでみた。

ピカチュウと太陽も続く。

そこで見たのは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ロコン!?それも、色違い!?)」

 

 

マサラタウン、そしてトキワシティ周辺にはいるはずのないロコン、それも色違いの姿だった。

 

 









スイクン(色違い) Lv.43

エーフィ♀  Lv.14→16

リザード♂  Lv.16→18 -太陽-

ピカチュウ♂ Lv.5→8 NEW!

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