[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第2章 ミレニアム第3話:Life finds a Way

三月から六月中旬まで、ナホトの農園はまさに要塞そのものだった。

 

ミレニアムのエンジニア部が豪語していた「美術館問題(Art Gallery Problem)」に基づくタレット配置と、完全に役割分担されたドローン編隊のおかげで、第4〜第5地帯の外縁ならともかく、第3地帯の内側には蟻の子一匹、雀の羽一枚すら近づけなかった。

 

死角が完全に消滅した、圧倒的ハイテクによる平和。その甘い安心感は、現役の農場主であるナホトの長年の生活パターンさえ変えてしまった。

 

本来なら毎日午前五時に起き、ショットガンを担いで畑を巡回しなければならなかったが、監視網が完璧になって以降は、朝七時にゆっくり起きるようになった。手早く作って出られるトーストやサンドイッチではなく、エッグベネディクトやオムレツのようなきちんとした料理で朝食を迎えた。そしてのんびり身支度を整えた後、八時になってようやく余裕をもって畑へ出るという贅沢を享受していた。

 

いつの間にか夏の入り口である六月末。今日もナホトは平和な朝日を浴びながら、第1地帯中心部に建てられた自分の家から歩いて出てきた。

 

ナホトが最初に行う仕事は、当然ながら第1地帯の正中央に根を下ろした、ゲヘナが作ったルビーロマンの名声を打ち砕くトリニティ新品種の苗木を確認することだった。

 

苗木たちは初夏の陽射しをたっぷり浴び、日ごとに太い蔓を伸ばしており、葉の合間からはすでに鼻先を刺すほど濃密で甘いマンゴスチンの香りが強く漂い始めていた。

 

「うん、とても順調に育っているね。このペースなら九月上旬には……。」

 

ナホトが満足げな笑みを浮かべ、葉の状態を確認していた、その時だった。

 

ウィィィン――。

 

背後から、何かが羽ばたくような音が聞こえた。最初、ナホトはミレニアムのドローンが巡回しているモーター音だろうと考え、特に気に留めなかった。だが、すぐに彼の眉間がわずかに狭まった。

 

ミレニアムのドローンが出す音は、高周波の鋭く軽快な電子音だ。だが今、耳元を打つこの音は、どこか鈍く、重く、本能的な寒気を呼び起こす生物的な振動音だった。

 

ナホトは反射的に、音の発生源へ顔を向けた。

 

「……!?」

 

第1地帯の入り口付近、空中に浮かんでいるそれを見た瞬間、ナホトの呼吸が止まった。それは大人の親指、いや、それよりさらに巨大な二本指ほどの大きさを誇る、醜悪なオオスズメバチだった。

 

正常な昆虫とは信じられない圧倒的な大きさ。しかも、その飛行はどこか異様なほどふらついていた。よく見ると、硬い背甲と羽のあちこちに、丸く焼け焦げた跡がくっきり刻まれていた。大きな傷を負いながらも、中心部の甘い香りを嗅ぎつけ、ついに第1地帯まで飛んできたのだ。

 

「なんだ、あれは……!」

 

愕然としたナホトは迷わず、肩に担いでいた頼もしいダブルバレルショットガン、〈Light & Salt〉を握り直した。彼は素早く非殺傷用の岩塩弾(Rock Salt)を薬室へ押し込み、そいつへ向けて引き金を引いた。

 

タァン――!!

 

塩の結晶が散弾のように散らばり、空中を切り裂いた。焦げついたままふらついていた巨大蜂は粉々になり、腐葉土の上へばらばらと落ちた。

 

ナホトは銃口を下ろしたまま、冷や汗を流した。蜂の身体に刻まれていた丸い火傷の跡。あれは明らかに、ミレニアムの害虫迎撃ドローンが撃ち出した高熱レーザーの痕跡だった。つまり、そいつは幾重にも張られた防衛網のある第2地帯を突破してきたということだ。

 

『くそっ!』

 

不吉な予感に襲われたナホトは、ショットガンを握りしめ、慌てて第2地帯へ駆け出した。そして第2地帯に到着した彼の目の前には、まさにアポカリプス映画でしか見ないような凄惨な光景が広がっていた。

 

「これはいったい……。」

 

空を隙間なく監視しているはずのミレニアム製レーザー迎撃ドローンが数機、地面に墜落し、無残に火花を散らしていた。そしてその上では、先ほど第1地帯で見たものと同じ姿をした巨大なオオスズメバチが、葡萄の房に黒々と何十匹も群がっていた。

 

最も恐ろしいのは、そいつらの狂気じみた執着だった。まだ空中に生き残っているドローンが高熱レーザーを撃ち、蜂たちの背甲を焼いていたが、奴らは肉が焼ける苦痛の中でも意に介さず、強力な顎で第2地帯の最高級葡萄粒を貪るように食い荒らしていた。よりにもよって、トリニティ品種である玉色の葡萄「セイントパール」に最も多くの蜂が群がっていた。

 

ゲヘナのルビーロマンよりもトリニティのセイントパールへ多く集まっているのを見ると、やはりセイントパールの方が優れた品種であると証明されたようで気分はよかった。だが、よりにもよってその貴重な果肉を鋭い顎で滅多切りにし、商品価値を叩き潰している様子を見ていると、ナホトは頭が痺れ、目の前が黒く染まりそうだった。

 

レーザーに焼かれながらも葡萄汁を求めるそのおぞましい食欲は、大自然の本能を超えた一種の狂気だった。その最中、レーザーに耐えきれず葡萄房から落ちた蜂の一匹が、方向を失い、ふらつきながら第1地帯の新品種の方へ飛ぼうとした。

 

「どこへ行くつもりだ!」

 

タァン――!

 

ナホトは怒りを込め、もう一度岩塩弾を撃ってそいつを撃墜した。

荒い息を吐きながら、レーザーの熱で死んだ比較的損傷の少ない蜂の死骸へ近づき、その姿をじっと観察した。通常のオオスズメバチとは違っていた。色はひときわ濃い赤褐色で、何より、あらゆるものを噛み砕きそうなほど肥大化した大顎が、奇形的なまでに威圧的だった。彼は比較的原形を保った死骸一体と、地面に墜落したドローン機体一つを拾い上げ、すぐに管制室へ走った。

 

管制室に到着したナホト。

 

墜落したドローンの内部パネルを開け、マイクロSDカードを抜き出してノートパソコンにマウントした。EDR(Event Data Recorder)の映像がデコードされる間、彼は片手でキヴォトス昆虫図鑑を狂ったようにめくった。

 

「見つけた。……アビドスオオスズメバチ(Abydos giant hornet)?」

 

ナホトの目が見開かれた。この巨大な蜂は、砂嵐が吹き荒れるアビドスの不毛な砂漠でしか生息しない、毒種中の毒種だった。

 

『夏の熱い上昇気流に乗ってトリニティの海岸まで飛んできたのか? それとも気候温暖化で生息地がこちらへ移ってきたのか?』

 

頭の中は複雑になったが、本当の問題は生息地ではなかった。モニターに映し出されたドローンのEDR映像は、ナホトの理性を粉々にするには十分だった。

 

映像の中の巨大蜂たちは、ドローンがレーザーを撃ち出すと逃げるどころか、むしろ分厚い背甲で高熱に耐えながら反撃していた。奴らは空中で、ドローンへ向かって無謀な体当たりを試みていた。

 

「タレットはいったい何をしていたんだ?」

 

ナホトは呆れたように、EDR映像を数秒ずつ飛ばして確認した。やがて映像の隅で、タレットの撃ったゴム弾に当たったのか、空中の鳥が墜落したり遠くへ逃げたりする姿が見えた。

 

原因はすぐに把握できた。このアビドス産の巨大蜂は、小型の鳥にも匹敵する途方もない大きさを誇っていたが、本質的には「昆虫」だった。タレットのAIは、狐、狸、烏、猪のような哺乳類と鳥類だけを害獣としてターゲティングするよう設計されており、虫や害虫は完全に空中のレーザードローンが担当するよう役割分担されていたのである。

 

トリニティに鳥ほどの大きさの虫が襲来するとは、ミレニアムの天才たちも、ナホト本人も予想できなかった致命的な盲点だった。

 

「くそっ、まずは今すぐアップデートだ!」

 

ナホトは即座に該当EDR映像と昆虫データをまとめてミレニアムのエンジニア部へ送信し、タレットのターゲティングAIが小型鳥類サイズの昆虫も敵として認識するよう、緊急パッチを要請した。

 

幸い、返信はすぐに戻ってきた。エンジニア部によると、過去に熱帯気候地域の巨大雨林を想定して作っておいたターゲティングデータがあるため、すぐにリモートアップデートを配布するということだった。

 

ただし、ファームウェアアップデートが進行する十五分間は、すべてのタレットが一時的に機能停止するため、農園が完全に無防備にならないよう、今起きている事件がある程度収束したら返信してほしい、という内容だった。

 

「まずは状況を落ち着かせてから連絡しろ、ってことか……。」

 

ナホトは了解したと短く返信を書いてエンターキーを押し、一息つこうとした。その瞬間、彼の脳裏に稲妻のような気づきが走った。

 

『第2地帯がこの有様なら……第3地帯と第4地帯、第5地帯はどうなっているんだ?!』

 

彼は椅子から跳ね起き、〈Light & Salt〉を掴んで外へ飛び出した。

息を荒げながら外縁へ走ったナホトの目に入った光景は、凄惨だった。皮肉なことに、最も外側である第5地帯の一般葡萄畑は、むしろ被害が少なかった。だが、中高級ラインナップであるブラックサファイアとシャインマスカットが植えられた第3、第4地帯は、まさに戦場そのものだった。

 

地面にはゴム弾を受けて羽をばたつかせる烏や、脚の折れた鵲のような害鳥が転がっており、先ほど見た巨大オオスズメバチの死骸も、あちこちに山のように積み上がっていた。

 

何よりナホトを絶望させたのは、エンジニア部自慢のタレットたちの姿だった。

あるタレットは支柱が歪んでおり、また別のタレットは高価な光学カメラセンサーの部分にべっとりした泥を大量に浴び、視界が完全に遮断されていた。

 

「ふざけるな……。」

 

ナホトは額を押さえて呻いた。機械の欠陥ではなかった。これは誰かが意図的にタレットを無力化した痕跡だった。

 

――カッ! カァァァッ!

 

その時、第1地帯と第2地帯がある内側から、鋭い鵲の群れの鳴き声が聞こえてきた。不吉な騒音に、ナホトは来た道を引き返し、再び中心部へ全力疾走した。

 

そして第2地帯の入り口に差しかかった瞬間、ナホトは大自然が繰り広げる奇想天外な戦術的連合作戦を、その目ではっきり目撃してしまった。

 

空では狡猾になった鵲たちが、騒々しい声を上げながら曲芸飛行を行い、タレットのゴム弾砲身とセンサーのヘイトを完璧に引いていた。機械の視線が空へ向いたその刹那、茂みの中に隠れていた赤狐たちが飛び出し、後ろ足で泥を蹴り上げ、タレットのカメラレンズを正確に覆い隠した。

 

視界を遮られたタレットがエラーを起こした瞬間、今度は重々しい猪たちがぶひぶひ鳴きながら突進し、タレットの鉄柱へ無謀な体当たりを食らわせた。ガァン! という音とともに、タレットは作動を停止したり傾いたりし、射角をまともに調整できなくなった。

 

機械が無力化された、そのわずかな隙。

アビドスの巨大蜂をはじめ、あらゆる昆虫が黒々と群がり、葡萄房に取りついて果汁を吸い始めた。

鵲たちは嘴で葡萄の茎を突き、無惨に地面へ落とし、下で待機していた狐や狸たちはシャインマスカットの房を抱え、茂みの中へ矢のように逃げ込んでいた。

 

獣、鳥類、昆虫。種を超えた完璧な役割分担。

 

狂ってしまった獣たちが、おいしい葡萄を勝ち取るために一時的に結んだ、身の毛もよだつ「連合戦線」だった。

 

「……このクソ野郎ども、本当に!」

 

ナホトの澄んだ黄緑色の瞳が、冷たく沈んだ。

 

これはもはや、単なる農作物被害ではなかった。

徹底的に連合した大自然と、それを守ろうとする農夫との攻城戦だった。

 

ナホトは〈Light & Salt〉の銃身を折って開いた。

虫を殺し、獣を追い払う慈悲深い岩塩弾が入っていた薬室を空にし、ポケットから重い真鍮色の弾を取り出した。

本物の殺傷を目的として作られた散弾、バードショット(Birdshot)だった。この程度の近距離なら、バックショット(Buckshot)並みの威力を出すだろう。

 

ガチャリ。

 

重く冷たい装填音が畑に響いた。ナホトは迷わず、葡萄を盗んでいる獣の群れへ銃口を向けた。

 

タァァン――!!

 

鼓膜を裂くような火薬の破裂音とともに、数百個の鉄球が第2地帯の空中を残酷に切り裂いて飛んだ。鵲の悲鳴と獣たちの断末魔が混ざり合い、畑は阿修羅場に変わった。ナホトが素早く弾を込め替えて続けざまに引き金を引くと、肝を潰した獣たちは血を流しながら逃げるのに必死だった。

 

火薬の煙を上げる銃口を下ろしながら、ナホトは苦々しく唇を噛んだ。

 

この日は、伊豆礼ナホトがこの農園を管理し始めて以来、大自然の獣たちに有意な損失を受けた、屈辱的かつ歴史的な最初の日だった。

 

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