[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主 作:ancoracor08
夏の盛り、トリニティ自治区最外縁の海岸崖。
息が詰まりそうな灼熱の陽射しが、容赦なく降り注いでいた。アスファルトではなく、ふかふかの腐葉土の上でさえ陽炎が揺らめくほどの猛烈な酷暑だった。海から吹いてくる潮気を含んだ海風までもが熱をたっぷり含み、生ぬるく感じられる八月の真ん中。伊豆礼ナホトの葡萄農園は、静かでありながらも激しい生命力を放っていた。
「ふう……本当に、殺人的な天気だね。」
麦わら帽子を深く被ったナホトが、額を伝って顎先からぽたぽた落ちる大粒の汗を袖で拭いながら呟いた。彼のキャンベル葡萄色の髪はすでに汗でびっしょり濡れ、額に張りついており、背中に背負ったショットガンの革製スリングは汗を吸って重くなっていた。だが、ペリドット色に澄んだ黄緑色の瞳だけは、いつにも増して鋭く、そして優しく葡萄蔓を見守っていた。
ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部の過剰な情熱とオーバーテクノロジーが結合した防衛システムのおかげで、農園は獣と害虫の脅威から完全に解放されている状態だった。空中には光学迷彩をまとった多目的ドローンが、揺らめく陽炎の中を音もなく対空監視しており、地上には数学的に美しく配置されたタレットたちが、猛暑の中でも青白い眼光を光らせ、死角のない警戒に就いていた。
おかげで鵲一羽、狐の毛先一本すら近づけない平和が訪れていたが、ナホトにはそれよりはるかに巨大で根本的な敵が残っていた。
それは、大自然が下す過酷な「夏の天候」そのものだった。
ナホトの足は、農園の心臓部である第1地帯の中央へ向かった。そこにはミレニアム農業技術研究部とナホトの資本、そして骨身を削る努力が投入されて誕生した「究極の新品種」の苗木が並んでいた。成人の胸ほどの高さまで一気に育った蔓の間から、ついに神秘的なガーネット色を帯び始めた瑞々しい葡萄房が、玲瓏たる姿を誇っていた。
その粒の周囲からは、すでに鼻先を強く刺すほど濃密で甘いマンゴスチンの香りが、くらりとするほど漂っていた。限界値まで増幅されたヘキシルアセテートとリナロールが生み出すそのフェロモンは、灼熱の陽射しに温められ、農園全体を甘い霧のように包み込んでいた。
「香りはもう完璧だ……。でも、ここからが本当の山場だね。」
ナホトは腰に差した剪定鋏を取り出し、慎重に葡萄の葉を触った。真夏の露地果樹園農業で最も致命的な敵の一つは、直射日光が生み出す「日焼け被害」だった。葡萄粒が強烈な日光で火傷し、焼ける現象を防ぐには、絶妙な角度で葉を残して日陰を作らなければならない。
葉を切り落とせば果実が直射日光でそのまま焼けてしまい、かといって葉を茂らせすぎれば通風が悪くなり、果肉が腐ったり糖度が上がらなかったりする。ナホトが経験から積み上げてきたヒューリスティックベースの「経験的直観」が光を発する時だった。
ナホトは葡萄房の上へほどよい影が落ちるよう、葉の位置を巧みに結び、光が通る角度を計算して不要な新梢をぷつり、ぷつりと切り落とした。こうしたノウハウは、ただ自然と呼吸してきた農夫の直感と汗だけが可能にする精密な工程だった。
日焼け被害を防ぐ措置が終わると、今度は地面へ視線を移した。彼の視線は、地面を横切る黒い点滴灌水チューブへ向かった。ナホトの目つきが真剣になった。夏の葡萄栽培を台無しにする最も恐ろしい災厄には「日焼け被害」もあるが、水による「裂果」現象もあるからだ。干ばつが続いた後に急に雨が降ったり、水を多く与えたりすると、葡萄の木が急激に水分を吸い上げ、果肉が異常に膨張する。しかし果皮がその膨張速度についていけず、結局ぱっくり裂けて破裂してしまうのだ。
特にナホトが育てているこの新品種は、内部の炭酸を閉じ込めるために果皮の脂質層とリグニンを極限まで固めているため、裂果が発生すれば単なる皮割れではなく、豆鉄砲が破裂するようにぱんっと弾ける危険が大きかった。丹精込めて育てた究極の果実が、収穫前に虚しく粉々になる姿など見られるはずがなかった。さらに、たった一粒の爆発だけでも周囲の無事な葡萄房まで物理的衝撃を受け、裂果が連鎖的に発生する可能性があったため、水分調整は第1地帯全体の生存を左右する時限爆弾処理作業に等しかった。
ナホトは土の上に膝をつき、腐葉土を貫いて通る黒い点滴灌水チューブを一つ一つ点検した。ミレニアムのセンサーが土壌湿度を測定し、自動で給水量を調整していたが、彼は機械のデータだけに頼らなかった。自ら素手で深い土を掘って握り、指先に触れる微細な湿り気と温度を確認しながら、バルブの微調整器を手動で回し、土の呼吸を整えてやった。
「もう少しだけ我慢してくれ。ほどよく喉が渇いてこそ、糖度を限界まで引き上げられるんだから。」
自立心を育てるためには、親が子供のあらゆる問題を解決してやってはいけない。同じように、農作物がよく育つためには、わずかなストレスを与えることで駆け引きをしてやらなければならない。水分ストレスを精密に制御するナホトの口元に、淡い笑みが広がった。熱い地熱のせいで作業用ブーツの中は汗でぐしょぐしょになり、膝と腰は悲鳴を上げていたが、その手つきには疲れた様子などなく、限りない愛情だけが滲んでいた。
樹冠管理と水分制御が終わると、ナホトは荷車に満載してきた特殊紙袋の束を取り出した。真夏の葡萄栽培の締めくくりであり、最も過酷な肉体労働である「袋かけ」作業だった。
いくら葉で影を作り、ミレニアムのドローンが害虫を撃ち殺しているとしても、空気中を漂う炭疽病菌や微細な昆虫の接近まで百パーセント防ぐことはできなかった。完全に傷ひとつない果実を収穫するためには、粒が太り、糖度が上がり始める今の時点で、数百、数千の葡萄房一つ一つに袋をかけ、外界から遮断しなければならない。
さく、かさり。
ナホトはつま先立ちになって両腕を上へ伸ばし、ガーネット色に熟し始めた新品種の葡萄房一つ一つに、丁寧に白い特殊袋をかけ、口をピンでしっかり結んだ。
「次。」
両腕を上げ続けて作業しなければならないせいで、肩と首の筋肉が硬くこわばってきた。太陽は頭頂を無慈悲に炙り、汗は顎を伝って落ち、土を濡らした。シャツはとっくに汗でびしょ濡れになり、身体に張りついていて、呼吸するたびに熱い空気が肺を刺した。
だがナホトは一言も不平をこぼさず、黙々と畑の畝に沿って歩き、数百の袋をかけていった。
さく、かさり。
進んでも進んでも終わりの見えない広大な第1地帯の畑。その孤独で激しい労働の時間の中で、ナホトを支えているものはただ一つだった。ゲヘナのルビーロマンを超え、キヴォトス農業の歴史を塗り替える究極の果実が、自分の手で完成へ向かっているという、農夫としての純粋な熱望と矜持だった。
太陽が西の海岸線へゆっくり傾き始め、赤い夕焼けが葡萄園を染める頃。ついに第1地帯の最後の葡萄房に袋をかけ終えたナホトが、重く痛む腰を叩きながら深く息を吐いた。
「ふう……。」
果てしなく並ぶ葡萄蔓の一本一本に、真っ白な袋が整然と吊るされている光景は、それ自体が壮観だった。農夫の血と汗の努力とハイテク技術が結合し、大自然の気まぐれさえ完璧に制御してみせた勝利の勲章だった。
「このまま秋の収穫期まで無事に持ちこたえれば完璧だ。今年の農作は大成功だね。」
ナホトは誇らしげな笑みを浮かべ、重い足取りで農園事務所へ向かった。涼しくシャワーを浴び、薄氷の張った葡萄ジュースを飲み干すことを考えると、自然と鼻歌が漏れた。自分が築き上げた鉄壁の防衛網と完璧な生育制御のおかげで、もう収穫の喜びを味わうだけだと、固く信じて疑わなかった。
だが、ナホトが大自然の天候を制御したと信じていた、まさにその瞬間。
キヴォトスのまったく別の場所で、大自然は誰も予想しなかった巨大な「異常気象」という名のサイコロを転がしていた。
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同じ頃。
農園の炎天下とはかけ離れた、冷たく快適なエアコンの風が漂うミレニアムサイエンススクールのハッカーサークル「ヴェリタス」部室。
「もぐもぐ……あれ?」
片手にエナジードリンクを持ち、モニター画面に表示されたキヴォトス気象衛星データを何気なく眺めていたハレの口から、小さく間の抜けた声が漏れた。彼女は食べていた菓子を置き、ホログラムキーボードを素早く叩いて、特定区域のレーダー網を拡大した。
「部長。チヒロ部長。これ、ちょっと見て。」
「何、ハレ? またゲーム開発部がヴァイブコーディングでバグを直すとか言って、他の部のトークンをこっそり抜き取ったの?」
片隅でサーバー保安コードを点検していたチヒロが、眼鏡を押し上げながら近づいてきた。部室の隅でキャンバスとペンキをいじっていたマキも、好奇心から顔を出した。
「えー、なになに? ハレ先輩、また変なの見つけた?」
ハレは答える代わりに、モニターのある座標を指差した。そこは一年三百六十五日、赤い砂嵐だけが吹き荒れる乾いた不毛地、アビドス自治区の中心部だった。
「アビドス上空に……巨大な雨雲が形成されてる。それも単なるにわか雨のレベルじゃなくて、とんでもない量の水蒸気を含んだ積乱雲だよ。」
「アビドスに雨?」
チヒロの目が大きく見開かれた。彼女はすぐにハレのコンソールを引き継ぎ、ミレニアムの気象観測スーパーコンピューターでデータの交差検証を始めた。画面に表示された気圧、湿度、上昇気流の数値は、明白に巨大な豪雨を予告していた。
「冗談じゃないね。この水蒸気量なら、アビドス砂漠全体をびしょ濡れにできる。」
「わはは! アビドスの子たち、すごく驚きそう! 急に空から水爆弾が落ちてきたらさ!」
マキが悪戯っぽい笑い声を上げたが、チヒロは気象図を見ながら、妙に顎に手を添えた。
「驚く程度では済まないかもしれない。この規模の降水量なら、乾ききった砂の下の生態系が、一時的に完全にひっくり返る可能性がある。」
そしてヴェリタスが捉えたこの異常気象データは、ほどなくしてキヴォトス随一の情報力を誇るクロノススクール報道部のレーダー網にも引っかかってしまった。
日がゆっくり暮れ始めた夕方。
一日中続いた樹冠管理と袋かけの労働を終えたナホトは、くたくたになった身体を引きずって宿舎へ戻ってきた。
「ああ、腰が……。」
彼は葡萄ジュースの中の薄氷をがりがり噛み砕きながら、ソファにどさりと座り、テレビをつけた。画面にはいつものように、甲高い声でニュースを進行するクロノス報道部アナウンサーの顔が映し出された。
【キヴォトス速報です! 視聴者の皆さん、奇跡という言葉を信じますか? 本日、その奇跡が乾いた大地に降臨しました!】
「奇跡? ゲヘナ学園の生徒が全員出席でもしたのかな?」
ナホトは疲れた目をこすりながら、特に気にせずチャンネルを変えようとした。だが、アナウンサーの次の言葉が彼の指を止めた。
【驚くべきことに、年中砂嵐だけが吹き荒れていたアビドス自治区上空に、巨大な雨雲が形成されました! ミレニアム気象観測所のデータによれば、これは単なるにわか雨ではなく、アビドス砂漠全体を濡らすことができるほどの、非常に大量の豪雨だとのことです!】
画面には、人工衛星から撮影された、アビドス上空を黒々と覆い尽くす巨大な雲の群れの写真が映し出されていた。
【果たしてこの雨は、乾ききったアビドス砂漠に命の種を芽吹かせる「奇跡の恵みの雨」となるのか、多くの学界の関心が集まっています! 以上、クロノス報道部でした!】
「へえ。アビドスに雨か……。」
ナホトは興味深げに顎を撫でた。砂漠に雨が降るというのは、ただ美しく温かな自然の奇跡のように見えた。ナホトはニュースを見ながら、同じ自然を相手にする農夫として、アビドス自治区に暮らす生徒たちに訪れた久しぶりの幸運を、心から祝ってやりたい気持ちになった。
彼は窓の外に広がる自分の平和な葡萄園を見やった。第1地帯で静かに熟していく新品種葡萄のシルエットが、月明かりを受けて柔らかく輝いていた。
「それでも、こっちには収穫前までどうか雨が降らないでほしいところだね。今、水を吸ったら、せっかく調整しておいた果肉が全部弾けてしまうから。」
ナホトは軽く伸びをし、テレビの電源を切った。
だが、ナホトは知らなかった。
砂漠に降る奇跡の恵みの雨が、痩せた砂の下で数十年もの間、死んだように眠っていた「数億個の不吉な卵」を一斉に孵化させる、命の揺りかごになるという事実を。
平和な葡萄園の夜、エアコンの風を浴びながら鼻歌を口ずさむナホトの頭上に、甘いマンゴスチンの香りが時限爆弾の導火線のように濃く垂れ込めていた。