[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第2章 ミレニアム第6話:砂漠の奇跡、そして命の揺りかご

 

【視聴者の皆さま、こんにちは。クロノス報道部です。現在、アビドス自治区ではなんと三日連続で、激しい大雨が降り続いています!】

 

画面の中のクロノス報道部アナウンサーの声には、普段の乾いた報道調ではなく、どこか興奮と高揚が混じっていた。アナウンサーの背後に流れる資料映像には、年中赤い砂ばかりが舞っていた荒涼たるアビドスの風景ではなく、絶え間なく降り注ぐ雨脚が砂漠を激しく叩き、巨大な水たまりを作り出していく壮観な光景が映し出されていた。

 

【乾ききった不毛地帯であるアビドスに、これほど長時間、これほど大量の雨が降るのは、気象観測以来、実に三十年ぶりの記録的豪雨だとのことです。今回の雨は単なる異常気象を超え、砂漠に巨大な生態系の変化をもたらすかもしれないと、学界の期待も高まっています】

 

資料映像が白黒からカラーへと滑らかに切り替わり、かつて山海経自治区高原の北端に広がっていた荒れた砂漠が、一夜にして色とりどりの野花に覆われた、驚異的な写真が映し出された。

 

【かつて山海経高原北端の砂漠に降った豪雨が、砂の下で深い休眠状態に入っていた種子を一斉に発芽させ、砂漠全体を巨大な花畑へと変貌させた前例がありました。果たして、三日連続で大雨が降り注ぐアビドスの砂嵐の中でも、このような“生命の奇跡”は花開くのでしょうか。クロノス報道部が最後まで追跡します!】

 

刺激的で希望に満ちたアナウンサーの言葉が、キヴォトス全域へ広がっていった。砂と借金の山に埋もれ、死にかけていた廃校寸前の学園、アビドスに咲くかもしれない花畑。大衆の視線を惹きつけるには、この上なく完璧で浪漫的な報道だった。

 

そして、クロノスのその大げさな先走りは、完璧な現実となって現れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「信じられません……。」

 

アビドス対策委員会の部室。モニター越しにドローンが撮影したリアルタイム映像を確認していた奥空アヤネの眼鏡の奥に、感嘆混じりの驚愕がよぎった。

 

記録的な豪雨が降ってから、すでに二週間が過ぎていた。普通の砂漠であれば、雨が止み、焼けるような炎天下が照りつけた瞬間、雨水はすぐに蒸発し、再び荒れた砂地へ戻ると考えるのが常識だった。

 

しかし、三十年ぶりに三日間降り続いた巨大な豪雨は、乾いた砂の底深くに眠っていた水脈を完全に目覚めさせてしまった。アビドス西区、雨が降る時だけ一時的に水が流れる巨大な間欠河川であるワジ(Wadi)が、中央区のザリガ川とつながり、乾いた大地を横切って絶え間なく命の水を供給し始めたのである。

 

その豊富な水分をたっぷり含んだ大地に、強烈な砂漠の陽射しが降り注ぐと、地表面の温室効果が最大化され、砂の下で止まっていた生態系の時計の針が激しく動き始めた。

 

「うへ~。本当に砂漠に草が生えたね~。毎日ざらざらした砂粒ばかり噛んでたのに、ふかふかの芝生を見ると、お昼寝にぴったりだね~? ふん~ふふん、お昼寝にいい場所はどこかな~♪」

 

小鳥遊ホシノが間延びしたあくびをしながら、部室の窓の外ではなく、直接自分の足で立っている地面を見下ろした。アビドス対策委員会の生徒たちは、ドローン映像だけでは満足できず、奇跡が起きた現場へ、ピクニックを兼ねた偵察に出てきていたのだ。

 

ホシノの言葉どおり、彼女たちの足元に広がるアビドス自治区西区の砂漠は、赤い砂の代わりに、目が痛くなるほど青々とした緑に果てしなく覆われていた。強靭な生命力を誇るバミューダグラスをはじめとした野生の草が絨毯のように柔らかく敷き詰められ、その上には名前も知らない砂漠の花々が、赤や黄色の蕾を一斉に開かせ、辺り一面で揺れていた。数十年もの間、土埃の中で時を待っていた種子たちが、ワジの水分と太陽の熱を受け、狂ったように生命力を爆発させたのである。

 

「ねえ、これヤバくない?! アヤネ! あれ、薬草図鑑で見たことある気がする!」

 

黒見セリカが猫耳をぴんと立て、手に持った大きな麻袋をばさばさ揺らした。彼女の瞳には、すでにちゃりんちゃりんと鳴るクレジットの幻影が映っていた。

 

「砂漠の薬草とか花って、肌にいいんでしょ! いっぱい採ってトリニティ自治区の市場に売りに行ったら、うちの学校の借金返済にすごく役立つかもしれないじゃん!」

「ん。水の流れに沿って、自転車のオフロードコースを作るのもよさそう。」

 

砂狼シロコもいつも通り無表情だったが、背負った自転車の車輪を撫でるその瞳だけは、新しいライディングコースへの期待で輝いていた。

 

「殺風景だったアビドスに、こんな綺麗な花畑ができるなんて、本当に童話に出てくるオアシスみたいでロマンチックですね☆ さあ、アヤネちゃんも西区まで運転して疲れたでしょうし、ドローン操作は少し置いて、景色を眺めながら喉を潤しましょう☆」

 

十六夜ノノミが、自ら用意してきた華やかなピクニックマットの上に可愛らしいティーカップを並べ、明るく微笑んだ。アビドス対策委員会の生徒たちの反応は、平和で希望に満ちていた。長い間、身を切るような砂嵐と終わりの見えない借金の山の中で戦ってきたため、砂漠化の解決は後回しにするしかなかった彼女たちにとって、生命力を放つこの緑は、大自然がくれた思いがけない贈り物のようなものだった。

 

「はは、はい。ありがとうございます、ノノミ先輩。セリカちゃん! あまり遠くへ行ってはいけませんよ! ワジの近くは、沼のようにずぶっと沈むかもしれませんから。」

 

アヤネが紅茶を受け取りながら注意したが、すでに麻袋を手に草原へ突撃していたセリカの耳には届いていないようだった。

 

「えいっ! この薬草、なんでこんなに根がしぶといの! あれ? うえっ! 何これ!」

 

一生懸命草の根を引っ張っていたセリカが、心底嫌そうな表情で手を振り払った。彼女が引き抜いた草葉の間から、成人女性の指ほどもある、丸々と太った大きな黄緑色の草虫が一匹、ぽとりと落ちて跳ね上がったからだ。

 

「あー、もう! 草が増えたら、気持ち悪い虫まで寄ってくるのね。あっち行きなさいよ!」

 

セリカが苛立たしげに足を踏み鳴らして虫を追い払った。ピクニックマットの上でごろごろしていたホシノが、その様子を見て気の抜けた笑い声を漏らした。

 

「うへ~。サバイバル教育BDでは、バッタの唐揚げは海老の頭焼きみたいな味だって聞いたけど、本当なのかな~?」

「先輩!! 本当に変なこと言わないでください!」

 

生徒たちの軽いやり取りが、青々とした緑の上へ平和に散っていった。セリカの目には、ただ気持ち悪い虫が一匹いるようにしか見えなかった。しかしそれは、やがて訪れる恐るべき大災厄の、ごく小さな欠片にすぎなかった。

 

自然の摂理とは本来、浪漫的な童話ではなく、残酷で血生臭い生存ドキュメンタリーに近い。ワジが生み出した膨大な植生の爆発。それはすなわち、草食生物にとって無限の食料庫が開かれたことを意味していた。緑が保たれていたその平和な時間の間に、草の根元の下、湿った土の中では、とても小さく不吉なものたちが、永劫の眠りを破って伸びを始めていたのである。

 

さく。さく。

 

アビドス西区、ワジの水流に沿って形成された、人の手の届かない深い草むらの下。湿った土が柔らかく盛り上がると、その下から爪より小さな何かがもぞもぞと這い出てきた。

黄緑色の柔らかな外骨格、長く伸びた後ろ脚。それは一般的な野原でよく見かける、小さく可愛らしい草虫――バッタの幼虫だった。

 

数十年前、乾いた砂漠のどこかに産みつけられたバッタの卵は、水分がなく孵化できないまま、砂の下で深い休眠状態に入り、死んだように固まっていた。それが三十年ぶりの豪雨で生まれたワジの豊富な水分と、強烈な炎天下の熱によって目覚めたのである。

 

一匹が這い出た土穴の隣から、二匹が飛び出した。二匹が出た場所の周囲から、十数匹が土を突き破って湧き上がった。

 

「ちりり……ちりりり……!」

 

最初は、ただ生態系が豊かになり、昆虫たちが自然に繁殖する平和な現象のように見えた。砂漠の鳥たちは、久しぶりに訪れた豊かな虫のビュッフェを喜び、飽食を楽しんだ。夜になれば響き渡る草虫たちの合唱は、生徒たちにとって浪漫的な夏の夜のホワイトノイズのように感じられた。

 

しかし、ワジが祝福してくれた豊かな食料のおかげで、バッタたちの狂ったような繁殖力と爆発的な食欲は、鳥たちの捕食速度を遥かに追い越してしまった。平和と豊穣の中で、数十万匹として孵化したバッタの幼虫は、目につくアビドスの新鮮な葉を片っ端から齧りながら、恐ろしい速度で世代を交代し、身体を大きくしていった。

 

時間が経つほど、緑の広がった限られた区域の中でバッタの個体数は数百万、やがて数千万匹へと幾何級数的に爆増した。ついにこの限られた食料庫の中で、環境が耐えられないほどの密度で生きることになったバッタたちの生態には、奇怪で恐ろしい変化が起こり始めた。

 

バッタたちは狭い草原で限られた餌を奪い合うため、必然的に互いの身体が絶えずぶつかり合わざるを得なかった。特に、彼らの敏感な後ろ脚が、狭い空間で他個体の身体と絶え間なく摩擦を起こした。この継続的で不快な物理刺激は、バッタたちの脳と神経系に作用し、体内のホルモンを爆発的に急増させるトリガーとなった。

 

平凡だった草食昆虫の身体に、遺伝子単位の変異が、まるで爆弾のスイッチが入るように作動した。

いわゆる「相変異(Phase Polyphenism)」。

自然界が許した最もおぞましい進化の魔術であり、災厄の始まりだった。

 

独立して散らばって暮らし、目立たない緑の保護色をまとっていた温和なバッタ(Solitary phase)たちは、脱皮を一度重ねるたび、その形態を奇怪で醜悪なものへ変えていった。

爽やかだった黄緑色の背甲は、黒とくすんだ黄色、あるいは不吉な赤褐色の斑模様に、どす黒く染まっていった。身体は俊敏さよりも筋肉質に鍛えられたように硬く重くなり、何より長距離を飛行するため、羽が異常に大きく、しなやかに発達した。後ろ脚はさらに太くなり、柔らかな草葉を食べていた口器、大顎は、木の枝はもちろん、飢えれば同族の死骸さえ噛み砕いて飲み込めるほど獰猛に太くなった。

 

彼らはもはや、温和な草食昆虫「バッタ」ではなかった。

群居相。

群れを成して移動し、穀物の神「セラピス(Serapis)」を裁いた、聖書における十の災いの主役。

「蝗(Locust)」へと変態してしまったのである。

 

さくさく、ざくざく!

 

最初は小さな雨音のようだった捕食音が、今では大粒の雹が降り注ぐかのような不気味な騒音へとまとまり、アビドス外縁を不穏に響かせ始めた。黒々と変じた数億匹の蝗の群れが、黒い波のようにうねりながら、アビドスの奇跡だった青い草原の上の小さな実や柔らかな花びらを、文字通り「消して」いき始めた。

 

彼らの食欲の前に慈悲はなかった。柔らかな葉はもちろん、硬い茎、強靭な根、さらには砂の上に落ちた他の昆虫の死骸まで、無慈悲に齧り尽くしていった。対策委員会の生徒たちが自転車コースを考え、薬草を摘み、笑っていたあの美しいオアシスは、地獄から這い上がってきた悪魔の顎の前に、なすすべもなく砕け散っていった。

 

「じぎぎぎぎっ――!」

 

数億匹の蝗が羽を擦り合わせて発する奇怪な振動音が、砂嵐の音を完全に呑み込んだ。アビドスの奇跡と呼ばれたバミューダグラスと野花が彩っていた桃色の絨毯は姿を消し、再び広がっていく乾いた荒野と、その上を黒々と覆う巨大な虫の絨毯だけが残った。

 

蝗の群れは、なおも凄まじい飢餓に苦しんでいた。

変態の過程で莫大なエネルギーを注ぎ込んだ彼らには、尽きることのない空腹を満たす新たな食料庫が必要だった。より甘く、より水分に満ち、果てしなく広がる巨大な命の群落が。

 

アビドスにわずかに残ったオアシスの無花果やサボテンの実から漂う微かな甘い匂いを追い、群れを導く先頭個体たちは上昇気流に乗るため、空へ舞い上がった。

 

ばさっ、ばたたたっ!

 

貧弱な砂漠の果肉をもとに次の目的地を決めようとしていた、その瞬間。キヴォトスの大気をなぞっていた先頭個体の不気味な複眼がぎらりと光り、敏感に伸びた触角が、風に乗って流れてきたごく微かでありながら圧倒的な匂いを捉えた。

 

それは遥か南。トリニティ自治区最外縁の海岸に位置する伊豆礼ナホトの第1地帯葡萄農園から、炎天下に乗って蒸発し、飛んできた「濃密で目眩のするフェロモン」だった。

 

ナホトが日焼け被害を防ぐため大切に育てていた、あの究極の新品種が放つ香りは、飢えた災厄の軍団にとって、拒みようのない甘い招待状だった。

 

「きりっ、ちりりりりっ――!!」

 

先頭の鳴き声を号砲として、黒い災厄の群れが一斉に空へ羽を広げた。数億匹の羽ばたきが太陽の光を遮り、アビドス外縁に巨大な影を落とした。

 

豊かな甘さが待つ南へ向け、不気味な振動音を放ちながら、蝗の軍団が大移動を開始した。砂漠に降った三十年ぶりの奇跡の恵みの雨は、命の揺りかごを超え、ついに大災厄を産み落としてしまったのだった。

 

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