[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第2章 ミレニアム第9話:大自然の攻城戦、海上迎撃

 

決戦の朝、日が昇る直前の午前5時50分。

 

トリニティ自治区の最外縁、海岸の断崖に位置するイズレ・ナホトのブドウ農場は、嵐の前夜のような重い静寂に包まれていた。水平線の向こうから微かに明け始めた黎明の青い光は、やがて真っ黒な絶望の影に呑み込まれ始めた。

 

海の彼方から空を覆いながら近づいてくるものは、巨大な黒雲ではなかった。実に5億匹にも及ぶアビドスの飢えたイナゴと巨大オオスズメバチたちで構成された、大自然の災厄そのものだった。

 

「チキギギギギギギ――!!」

 

数億枚の羽が一斉に擦れ合って生み出す、奇怪で暴力的な破裂音が海風に乗って押し寄せてきた。それはまるで、数十万台の草刈り機が同時に回っているかのような、背筋の凍る振動音だった。大気を満たす不吉で湿った昆虫のフェロモンが鼻先を刺すと、農場の第3区画中心部で、分厚い作業用エプロンの上に散弾銃の弾帯を巻いて立っていたナホトは、乾いた唾を飲み込んだ。彼の手に握られた愛銃の重厚なウォルナット製銃床に、冷や汗が滲んだ。

 

「全隊員、警戒して。敵本隊が予想射程内に入った」

 

農場事務所を改造した指揮所の中。ヴェリタスのメインフレームと連動したホログラムミニマップを鷹の目で注視していたシャーレの女先生が、マイクを握って断固とした声で口を開いた。普段のネジが抜けたような抜けた大人の姿はどこにもなく、キヴォトスの生徒たちを率いる戦術指揮官としての、冷たく鋭いカリスマだけが管制室を満たしていた。

 

「これより第1段階、海上迎撃作戦を開始する。ヒビキ、弾幕を形成して!」

 

「うん。全部燃やす」

 

海岸の断崖上の高地に構築された臨時陣地。ミレニアムエンジニア部のヒビキが、無表情のまま犬耳をぴくりと立て、多連装自動迫撃砲の発射ボタンを押した。

 

ドン! ドゴォォン――!!

 

鼓膜を裂く鈍い破裂音とともに、数十発の特殊ナパーム弾が放物線を描いて暗い明け方の空を裂いた。標的は、海上を飛来している真っ黒な昆虫連合軍の先頭。砲弾は群れのど真ん中の上空で一斉に起爆し、海上の空に巨大なナパームの炎の嵐を咲かせた。

 

ドドドドン――!!

 

青い海の上に巨大なオレンジ色の炎の嵐が立ち上り、熱帯夜よりも熱い熱気が海岸の断崖まで一気に吹きつけてきた。粘つく超高熱のナパーム溶剤が雨のように降り注いだ。アビドス巨大オオスズメバチたちは、その重量級の体を空中に浮かせるため、広く薄い羽を高速で回転させなければならなかったが、この薄い翅膜はナパームの高熱に触れた瞬間、崩れるように燃え落ちるという致命的な弱点を抱えていた。炎に包まれたスズメバチたちが悲鳴を上げるように墜落することを期待した、火力オタクのヒビキらしい完璧な絨毯爆撃だった。

 

しかし炎が弱まり、煙が晴れ始めた瞬間、衛星カメラを通じて送られてきた映像は、指揮所にいたヴェリタスの部員たちの息を詰まらせた。

 

「先生! あいつらの動きがおかしいです!」

 

チヒロがホログラムキーボードを荒々しく叩きながら、驚愕に満ちた声で叫んだ。熱映像カメラに映ったイナゴの群れは、炎の嵐に狼狽して散り散りになるどころか、むしろ数百万匹が統制された動きで密集し、巨大スズメバチたちの上を薄く覆って熱を防ぐ、巨大な生体シールドを形成していた。

 

ジィィィッ――!

 

昆虫の群れが焼けていく音よりも、さらに悍ましく背筋が凍るのは、奴らの陣形構造だった。

イナゴの群れは、ナパームの猛烈な炎が後続の同族へ燃え移らないよう、自分たちの間に正確に羽一枚分の一定間隔を保ったまま、黒鉛の原子構造のように幾重もの層を成していた。

 

ナパームの火魔が最外層を襲うと、火のついた数百万匹のイナゴたちは飛行を止め、自ら海へ向かって真っ逆さまに墜落した。まるで蛇が脱皮するように、あるいは玉ねぎの皮が一枚ずつ剥がれるように、燃える表皮の層だけを犠牲にして熱を遮断する間、その下にいた本隊と指揮個体であるスズメバチたちは、陣形を維持したまま飛行を続けた。凄まじい数の同族を断熱材として投げ捨て、本隊の被害を完璧に回避する、大自然の残酷で完璧な群集戦術だった。

 

「まさか……こんなの、あり得るんですか?!」

 

コタマがヘッドホンを掴んだまま、驚愕を隠せなかった。コトリとウタハもその光景を見て、同じように言葉を失ったまま画面を見つめていた。あれは本能を超えた、徹底的に計算された防御陣形だった。

 

「驚いている暇はありません! 敵本隊、海岸線1km前! 勇者アリス、魔王軍の進撃を阻止します!」

 

第1区画最前線、海岸と接する断崖の先端で、アリスが力強く叫んだ。彼女の幼い体の二倍はある巨大なレールガン〈光の剣:スーパーノヴァ〉の砲身に、青いスパークが激しく走り始めた。

機械の体の内側から噴き出す異質で純粋な生命の波動が極限まで高まり、スーパーノヴァの砲身に遥かな光のエネルギーが凝集し始めた。

 

「光の剣、スーパーノヴァ! マナ充填100%! 発射します! 光よ!!」

 

ウィィィィィン――!!

 

レールガン内部のコイルが凄まじい悲鳴を上げながら、大気中のエネルギーをブラックホールのようにかき集めた瞬間。

 

バチッ、プツン――!

 

トリニティ自治区外縁の町全体の街灯が、一瞬ぷつりと消え、すぐに再び点灯した。

 

ドゴォォォォン――!!!

 

続いて鼓膜を消し飛ばすような破裂音とともに、スーパーノヴァの砲口を離れた巨大な閃光の粒子ビームが海霧を裂き、海へ向かって一直線に伸びていき、イナゴの群れへ直撃した。

 

しかし今回も、昆虫連合軍は易々とはやられてくれなかった。

 

ズズズズッ――!!

 

群れの中心部に隠れていた指揮個体が、濃厚なフェロモンと超音波信号を一斉にばら撒いた。その指揮を受けた先頭の虫の群れ数千万匹が、瞬く間に巨大な円錐形へと陣形を組み替え始めた。そして、まるでミサイルのノーズコーンのように固く密集したその楔形陣形の頂点を、飛来するレーザー砲撃の真正面へ向け、自ら投げ出すように衝突した。

 

ジィィィッ!! パァン!

 

先頭の虫たちがレーザーに触れた瞬間、灰となって蒸発した。圧倒的な光量に指揮所のモニターさえ白く点滅し、光の柱がイナゴの群れのど真ん中を貫いていった。

 

「やった! あれだけの火力なら、8割は確実に消し飛ばしたはずだよ!」

 

モモイが快哉を叫びながらぴょんぴょん跳ねた。しかし視界が徐々に回復し、レーダースキャンが再起動すると、指揮部には重い静寂が降りた。衛星写真を通じて確認された虫の群れの密度が、予想よりもはるかに高かったからだ。

 

「……違う。5割だ」

 

チヒロが信じられないというようにホログラムパネルを拡大しながら叫んだ。

 

「目標の半分しか焼却できていない! みんな、陣形を見て!」

 

衛星写真の中の昆虫連合軍の形は、悍ましいものだった。

指揮個体たちの統率に従い、群れは光の軌跡と向き合った瞬間、完璧な円錐形へと陣形を捻っていた。レールガンのビームに触れる断面積を最小化し、円錐の斜面に沿ってエネルギーを分散させながら、最も厚い生体装甲で砲撃を全身で受け流したのだ。

さらに、乱反射する昆虫たちの外骨格が光を屈折させたせいで、レールガンから放たれた光の柱が円錐陣形を貫きはしたものの、破壊力が四方へ分散し、予想よりも被害が少なかったのだ。

 

管制室の一角でマキが驚愕した。あの知能的な大陣形を叩き壊さない限り、遠距離広域迎撃の効率は急落するしかなかった。

 

「驚いてる暇はない! ヒビキ、第二射! このまま弾幕を維持して!」

 

「ちっ、虫のくせに頭を使うね」

 

ヒビキが再び迫撃砲を撃ち上げた。

 

ドン! ドン!

 

砲弾が空を彩ったが、虫たちの学習能力は人間の想像を超えていた。

イナゴの群れの外縁から別働隊数万匹が本隊から離脱すると、空を裂いて飛んでくる砲弾の側面に向かって、そのまま肉弾突撃を敢行した。

 

ドチャッ! バキッ!

 

加速のついた砲弾へ、重量級の昆虫たちが狂ったように衝突し、肉片となって散った。だが無数の生体による物理的衝突の蓄積は、砲弾の重心を揺らし、弾道軌道を微かに捻じ曲げるには十分だった。

 

結局、昆虫連合軍の予想着弾地点との間に微妙な誤差を生み出された砲弾は、群れの端を掠めたり、空虚な空中で虚しく爆発したりして、被害を最小限に抑えられてしまった。

 

先生がマイクを握り、落ち着いた声でオーダーを下した。

 

「トキ! 密度が薄くなった今だよ! 防壁に風穴を開けて!」

 

「アビ・エシュフ、起動」

 

無線越しに飛鳥馬トキの乾いた声が聞こえた。農場第3区画外縁、巨大なエクソスーツに搭乗したトキが空中へ舞い上がった。スーツの肩と背中に展開された数十基のマイクロミサイルポッドが火を噴いた。

 

シュウウウッ――ドン! ドドドン!

 

直線的な軌道を持つレールガンや、放物線を描く迫撃砲弾とは違い、標的へ向かって蛇のように軌道を曲げて食い込むトキのミサイルの前では、昆虫たちの軌道攪乱自爆特攻も無意味だった。ミサイルはイナゴ本隊の生体防壁の中央へ食い込むと、連鎖爆発を引き起こし、その堅固な肉壁を内側から無残に引き裂いた。高爆発とともに、巨大な円錐陣形の中心にぽっかりと穴が開いた。

 

「今だよ、カリン!」

 

先生の叫びが飛ぶや否や、農場第4区画の最も高い管制塔の屋根の上で、凄まじい破裂音が響いた。

 

タァァン――!!

 

息を殺し、伏せ撃ち姿勢を取っていたC&Cのスナイパー、カリンが、対物狙撃銃ボーイズ対戦車ライフルの引き金を引いた。音速を突破して空を裂いた特殊徹甲弾が、トキの開けた防壁の穴を奇跡のように貫通した。

 

バキィッ!!

 

群れの中央で陣形を統制し、フェロモンを放っていた、ひときわ色が濃く一般個体より巨大な赤褐色の指揮個体スズメバチ一匹の背甲が、粉々に砕けて弾け飛んだ。

 

「目標沈黙。指揮個体への打撃に成功した」

 

カリンが冷静にボルトハンドルを引きながら報告した。指揮系統の一軸が崩れると、統制の取れていた陣形の左翼が瞬間的に揺らぎ、乱れた。

 

「敵の防御力が低下しました! アリス、二撃目を加えます! 光よ――!」

 

アリスが再びスーパーノヴァから、二本目の光の剣を撃ち放った。破滅的な光の筋が海上の空を切り裂いた。

 

しかし生き残った残りの指揮個体たちの戦術修正速度は驚異的だった。スーパーノヴァに急激に集中するエネルギー場を察知した別の指揮個体が、レールガンがまもなく発射されることを見抜き、進行経路を予測して強烈なフェロモンを撒き散らし、全軍へ回避命令を下したのだ。

巨大な昆虫雲の中央が、まるで紅海が割れるようにぱっくりと裂け、光の剣が狙っていた位置に空白を作り出した。アリスのレーザー砲撃は、虫たちが巧妙に空けておいたその虚空を、そのまま通過するかのように見えた。

 

だが、昆虫のフェロモンによる化学的信号伝達は、必然的に「ボトルネック」を経験せざるを得ず、光の速度で放たれるレールガンを上回ることはできなかった。命令をまだ受け取れていなかった、あるいはボトルネックに詰まって逃げ遅れた外縁の虫1割が、軌道に巻き込まれて灰となって焼却された。

 

何より致命的だったのは、回避を命じるためにその場でフェロモンを噴出していた指揮個体イナゴ一匹だった。そいつは遅れて回避機動を試みようとしたが、レールガンの端に真正面から巻き込まれてしまった。下半身が蒸発したイナゴの指揮個体が、黒い煙を噴きながら海へ墜落した。

 

「成功です! 指揮個体二匹を破壊! イナゴの群れ、追加で1割焼却!」

 

チヒロが拳を握りしめ、歓声を上げた。これで残る四天王は、わずか二匹。

 

「このまま押し切って! アリス、三射目のチャージ!」

 

「はい! マナを集中しま……あれ?」

 

威風堂々と叫ぼうとしていたアリスが、武器を抱え直しながら首を傾げた。

 

「先生! スーパーノヴァのマナ充填速度が異常に低下しました! MP回復デバフにかかったようです!」

 

アリスのインイヤー報告に、指揮所が騒然となった。〈光の剣:スーパーノヴァ〉の充填速度を上げるために設置した簡易発電機は正常に稼働していたが、レールガンの充填ゲージはひどく遅い速度でしか上昇していなかった。

 

アリスの安全を確保するため、近くで護衛していたゲーム開発部のミドリとモモイが急いで動いた。

 

「私たちが線に問題がないか確認してみる!」

 

モモイが太い電力ケーブルの配線に沿って視線を動かした、その瞬間。ミドリが息を呑み、姉の腕を掴んだ。

 

「ひゃあっ!! お姉ちゃん、あそこ見て!」

 

ミドリが指した場所。農場の自前の電線はもちろん、トリニティ外縁の電柱、そしてミレニアムから空輸してきた簡易非常用発電機まで、すべてをかき集めてスーパーノヴァへ接続しておいた太い主電力ケーブルの中間地点に、悍ましい光景が広がっていた。

 

バチッ! バチバチッ!

 

三か所から引いてきた莫大な電力が流れるケーブルの上で跳ねる高圧電流の青い火花の中に、成人女性の腕ほどの巨大オオスズメバチが一匹、しっかりと張り付いていた。そいつは高圧電流に焼かれ、凄まじい苦痛を味わっているにもかかわらず、まったく意に介さず、奇形的に発達した顎で厚いゴム被覆を剥がし、ついには電線のコア合金をバリバリと齧って断ち切ろうとしていた。自らの命を捨ててまで敵の最強火力手段を遮断しようとする、自爆特攻隊そのものの、背筋の凍るサボタージュだった。

 

「く、狂ったスズメバチが電線を噛み千切ってるじゃん!」

 

モモイが仰天して叫ぶのと同時に、管制塔のカリンからの切迫した報告が、指揮所全体に響き渡った。

 

「指揮部、状況報告。敵の指揮個体は、当初イナゴ2匹、スズメバチ2匹だった。先ほどアリスと私が、それぞれ1匹ずつ処理することに成功した。残る指揮個体のうち、イナゴ1匹は依然としてあの本隊の群れに隠れているが……」

 

カリンの声が、微かに震えた。

 

「残ったスズメバチ1匹が、どれだけ探しても見当たらない」

 

カリンの冷たい報告がインイヤーを伝って巡るや否や、アリスのケーブルを確認していたミドリとモモイの背後の茂みが荒々しく揺れた。

 

ブウウウウン――!!

 

チェーンソーが回るような凄惨な羽音とともに、視界の外から巨大スズメバチの群れが茂みを突き破って飛び出してきた。奴らは海上防衛網を正面から突破する代わりに、農場側面の死角を伝って大きく迂回機動し、潜入していたのだ。ミドリとモモイを発見するや否や、猛烈な速度で襲いかかってきた。

 

「きゃあああっ!! こ、来ないで!」

 

二人の少女が凍りついた、その刹那。

 

「ち、近づかないでぇぇっ!!」

 

トンッ――ドゴォォン!!

 

古いキャビネット模様のバッグに半ば身を隠し、ぶるぶる震えていたゲーム開発部部長のユズが、目をぎゅっと閉じたままMGLグレネードランチャーを持ち上げ、引き金を引いた。

 

グレネード弾がスズメバチの群れと空中で衝突して爆発し、破片と炎がスズメバチの群れを荒々しく引き裂いた。爆発の衝撃波に弾き飛ばされたスズメバチ数十匹が、地面に転がった。

 

指揮所でこのすべての状況を見ていたヴェリタスの部員たちと先生は、驚愕のあまり言葉を失った。

 

「いったい……これが本当に昆虫の知能なんですか?!」

 

チヒロが額に浮かんだ冷や汗を拭い、震える声で呟いた。

 

「肉壁戦術で火力を相殺して、モーセの奇跡みたいに裂けてレールガンの軌道を避けたと思ったら、今度は電線を断ち切って、後方に暗殺部隊まで送り込むんですか? これじゃ高度な戦術訓練を受けた軍隊と戦っている気分ですよ!」

 

泣きっ面に蜂とばかりに、インイヤーからさらに別の切迫した交戦報告が重なって入ってきた。

 

「あはは! マスター! 大変だよ! こっち、トキちゃんとカリンちゃんの陣地側なんだけど、こっちにもものすごく大きなスズメバチの群れが飛んできたよ?!」

 

「コールサイン、ゼロスリー、アカネです。狙撃チームを狙って迂回した別働隊の群れと思われます。こちらで綺麗に清掃いたしますが、狙撃支援には多少支障が出そうです。ふふ」

 

管制塔下部で、カリンとトキの安全を確保していたアスナとアカネだった。指揮個体スズメバチの緻密な戦略だった。それぞれの陣地ごとに別働隊を分けて投入し、天敵の足を縛っているのだ。

 

そしてその火力の空白を突き、海を渡ってきたイナゴの先鋒が、ついにナホトの農場第5区画外縁の海岸線の断崖を黒く覆いながら上陸を開始していた。ミレニアムの圧倒的な技術力で8割以上を海上で消し飛ばすはずだった当初の計画は、完全に外れた。敵の悪辣な知性のせいで、予想よりもはるかに早く、そして悲惨な地上戦が強制されたのだ。

 

先生は抜けた様子を完全に消し去ったまま、指揮棒をテーブルに叩きつけ、断固として命令を下した。

 

「全員、作戦目標変更! 予想より地上戦が早く始まった!」

 

「アリス、トキ、カリン! あなたたち三人は絶対に後方を振り返らないで! まだ上陸中のイナゴの群れにだけ火力を集中して、数を最大限減らして!」

 

「アカネ、アスナ、ユズ、モモイ、ミドリは、後方に侵入した別働隊のスズメバチから陣地を死守して!」

 

「ウタハ! 視界から消えた最後のスズメバチ指揮個体を探す必要がある! ドローンを総動員して農場内部を徹底的にスキャンして! ハレは、スズメバチの指揮個体がいつ群れから離脱して、どの経路で迂回上陸したのか位置を割り出して!」

 

「ネル! ナホトさん! 地上に上陸した奴らは……二人に任せます!」

 

第3区画にいたネルとナホトのインイヤーに届く先生の指揮。

 

ガチャリ――! ネルが両手に握った二丁サブマシンガン〈ツイン・ドラゴン〉のチャージングハンドルを勢いよく引き、唸った。

 

「ゴミ掃除は私が全部やってやるから、ひ弱な農夫は私の後ろで足でも引っ張ってろ」

 

ナホトもまた、肩にかけていた固有武器〈Light&Salt〉を握り直した。彼は静かに、ダブルバレルショットガンの二連銃身を折り下げた。威嚇用の岩塩弾など、とっくに捨てていた。厚い黄銅色のバードショット弾二発が薬室へ滑り込む、重く冷たい金属音が空気を裂いた。

 

ナホトの澄んだペリドット色の黄緑の瞳が、普段の優しさを完全に消し去り、冷たく決然とした闘志で閃いた。彼のキャンベルブドウ色の濃い紫の髪の上で、聖餐杯に絡みつくブドウ蔓のヘイローがパステルトーンの黄緑色の光を眩く放ちながら、激しく脈動し始めた。この土地の主であり、かつて数多の戦場を経験したトリニティの農夫としての神秘が爆発する瞬間だった。

 

「僕がミレニアム最強であるC&Cの部長より弱いとしても、大自然と取っ組み合って生きている農夫だからね。ひ弱なんて言われるのは、さすがに自尊心が傷つくな」

 

ナホトは、農夫特有の優しさを完全に消し去った、冷たく悲壮な笑みを浮かべながら、先頭に立つネルの隣へ並んだ。

 

これは、単なる害虫駆除作業ではなかった。

圧倒的な群集知能、ハイヴマインドを持つ大自然との凄惨な戦争。

2億5千万匹の飢えた災厄が、この要塞の門を叩いていた。

 

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