[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第1章 シスターフッド・第1話:トリニティ郊外のブドウ農園主

トリニティ総合学園の自治区、その最外郭。都心の喧騒から遥かに離れると、果てしなく広がる青い海に面した、開けた海岸の断崖の上に肥沃な土地が姿を現す。潮を含んだ海風が吹き抜けるたび、葉がさわさわと擦れ合い、波音と調和するその場所に、伊豆令ナホトの葡萄農園はあった。

 

「うん、今年の日照量は本当に完璧だし、海風も申し分ないね」

 

青々とした葡萄の蔓の間から、穏やかな声が流れた。ナホトは腰をかがめ、たわわに実った葡萄の房をそっと撫でた。まるで人に接するかのような、慎重で柔らかな手つきだった。

 

眩しい朝日が、ナホトの頭上へ降り注いでいた。彼の髪は、濃く熟したキャンベル葡萄をそのまま搾り出したかのような、深く優雅な紫色を帯びている。光を受けるたび、ほのかに艶めくその髪の下で、澄んだ透明な瞳が農園の風景を映し出していた。ペリドットの宝石のようでもあり、露を含んだ青葡萄の粒のようでもある、澄みきった若草色の瞳。その眼差しには、彼が育て上げた作物へ向ける限りない愛情と、生まれ持った優しさがそのまま滲んでいた。

 

彼の頭上では、トリニティの生徒たちとはまた違う、彼だけの独特なヘイローが静かに回転していた。

 

神聖な儀式に用いられる丸い聖杯――Chalice――の形を中心に据え、その外側を流麗な葡萄の蔓がしなやかに巻き上がっていく幾何学的な造形。ヘイローの色は彼の瞳に似ていたが、明度は高く、彩度は淡く抑えられたパステル調の若草色だった。目に刺さらない、穏やかで柔らかなその光は、見ているだけで心を静かに落ち着かせる、不思議な魅力を秘めていた。

 

「こっちの枝は、もう少し落としたほうがよさそうだね。栄養が全体に行き渡るようにしないと」

 

ナホトは腰に差していた剪定ばさみを取り出し、慣れた手つきで余分な枝を切り落としていった。キヴォトスでは、道行く女子高生でさえ戦車を乗り回し、銃撃戦を繰り広げることが日常だったが、波音だけが響くこの海岸沿いの農園だけは、時間が別の流れ方をしているかのように平和だった。

 

もちろん、ナホトもキヴォトスの住民らしく、武器を所持していた。彼の頼もしい背中には、革のスリングでしっかりと固定された一挺のダブルバレル・ショットガンが吊るされている。歳月の跡が染みついた濃いウォールナットの質感を持つ銃床。そして、冷たい光沢を放つ二本の銃身。左の銃身には「Light(光)」、右の銃身には「Salt(塩)」という文字が、古風な筆記体で深く刻み込まれていた。

 

武器の名は、〈Light & Salt〉。

 

作物をたわわに育てる生命の源である「温かな陽光(Light)」と、断崖の下から吹き上げ、葡萄の糖度を極限まで高めてくれる「潮を含んだ海風(Salt)」を意味する、まさに骨の髄まで農夫らしい命名だった。ナホトが普段この武器を持ち出す理由は、時折葡萄畑の甘い香りにつられて森から下りてくる鳥獣を追い払うという、きわめて実用的な目的のためだった。命を傷つけることを極端に嫌う彼の優しい性格ゆえに、彼は獣を撃ち抜くよりも、ただ空に向けて威嚇射撃をしたり、銃身を折って装填する重厚な金属音だけで怯えさせ、追い返したりしていた。

 

「ふう……」

 

午前の巡回と剪定を一通り終えたナホトは、額に滲んだ汗を袖で拭いながら、農園の一角に設けられた大きな低温倉庫へと足を向けた。分厚い鉄扉を開けると、外の蒸し暑い潮風とははっきり対照的な、ひんやりとした空気が頬を撫でた。倉庫の中には、濃い色のオーク樽と、冷やされたガラス瓶が整然と並んでいた。

 

「明後日は、シスターフッドの大ミサがある日だね」

 

トリニティ総合学園は、その根本からして巨大なミッションスクールであるだけに、年に二度だけ開かれるこの大ミサと聖餐式は、学園全体を包み込む、最も大きく神聖な行事の一つだった。もちろん、あまりにも多くの部活と生徒たちが一堂に会することは、物理的に不可能である。大ミサはまず、トリニティの心臓部であるシスターフッドの大礼拝堂で厳粛に執り行われ、その後、祝福を受けた聖餐用の「葡萄ジュース」が、学園敷地内の各区域にある聖堂を通じて、一般生徒たちへ順次分配される形で進められていた。

 

したがって葡萄ジュースは、シスターフッドのシスターたちはもちろん、お嬢様学校ゆえに舌の肥えた一般生徒たちまでも満足させなければならない、非常に気を遣う品だった。ナホトがこの重大な儀式のために葡萄ジュースを納めるのは、昨年に続いて今回が三度目である。厳格で知られるシスターフッドが、従来の納入業者を押しのけ、三度も連続して彼の農園を選んだということは、ナホトにとってこの上ない名誉であると同時に、重い責任でもあった。

 

ナホトは、最も奥に特別に保管しておいたオーク樽の前へ歩み寄った。彼はオーク樽下部のバルブを慎重に開き、あらかじめ用意していた小さなグラスへ中身を少しだけ注いだ。

 

とくとく――。

 

グラスに注がれた液体は、完璧なルビー色を帯びていた。蛍光灯の光を透かし、玲瓏たる赤い輝きが倉庫の壁面で踊るように揺らめく。グラスを鼻先へ近づけると、純粋で濃密な果実の香りがふわりと立ちのぼった。口に含めば、舌を満たすのはただ深く澄んだ果実の甘みだけ。アルコールの気配など一パーセントも混じっていない、老若男女の誰もが安心して飲める、百パーセント最高級の無加糖葡萄ジュースだった。

 

「……完璧だ」

 

ナホトの若草色の瞳が、満足げに柔らかな弧を描いた。海風をたっぷり浴びて育った今年の作柄は、例年にも増して見事だった。

 

「サクラコ様も、きっと喜んでくださるよね。今年は去年よりずっと美味しく仕上がったから」

 

ミッションスクールであるトリニティ本校の性質上、義務的に参加しなければならないチャペル――キリスト教系の学校や機関で定期的に行われる礼拝であり、ミッションスクールでは卒業要件に含まれることも多い――は、一般生徒たちにとって退屈で苦しい時間にならざるを得なかった。

 

ナホトは、その事実を誰よりもよく知っていた。かつて彼には、トリニティ総合学園本校の唯一の男子生徒だった時期があったからだ。

 

数多くの女子生徒たちの中で、ただ一人だけ男子生徒であるという事実は、息をしているだけで視線が集まるほどの、凄まじい重圧だった。結局、降り注ぐ関心と圧迫感に耐えきれなくなった彼は、茶葉、園芸、造園を主力とするトリニティ外郭の農業特化校へ転校することを選んだ。今では都心を離れ、海岸沿いで土を耕しているが、本校時代に毎週のように味わった、あの長く退屈なチャペルの記憶だけは、今なお鮮明に残っていた。

 

毎週続く退屈という名の干ばつの中で、一学期にただ一度だけ開かれる聖餐式。その大ミサで、金色の聖餐杯に注がれて出される二十ミリリットルほどの葡萄ジュースは、まさに干天の慈雨にも等しい存在だった。

 

ナホトは、自分が丹精込めて搾ったこの甘い葡萄ジュースが、その退屈な時間の中で無理に席を守り、こっくりこっくりと船を漕いでいる子たちにとって、小さな楽しみであり、確かな「ご褒美」になることを心から願っていた。

 

「聖餐式に参加するすべての生徒たちの口に合うといいな」

 

ナホトは第一倉庫の扉をしっかりと施錠し、宿舎へ向かった。その夜、彼は農園を狙う飢えた獣たちを追い払うため、遅い時間までショットガンを手に、海岸沿いと農園の外周を巡回しなければならなかった。

 

そして、いよいよ納品当日。午前四時。

 

まだキヴォトスの夜が明ける前、海から押し寄せた濃い海霧が、葡萄農園を白く飲み込んでいた。徹夜の巡回の影響で瞼は鉛のように重かったが、ナホトは一学期に一度きりの、重要で退屈な行事に「楽しみ」を遅れて届けるわけにはいかないという一念だけで、重い体を引きずるように外へ出た。

 

「ふぁぁぁ……疲れたな。早く積み込んで、トリニティへ行かないと」

 

朦朧とした意識のまま大きくあくびをしたナホトは、トラックのエンジンをかけ、倉庫区画へ車を走らせた。濃い海霧のせいで、一寸先もまともに見えない状況。睡魔に絡め取られたナホトの足が向かった先は、葡萄ジュースが保管されている右側の「第一倉庫」ではなかった。

 

彼の足取りは自然と、それとまったく同じ外観をした左側の「第二倉庫」へ向かっていた。

 

第二倉庫。そこは、ナホトが外部の一般食堂や酒場へ大量に納品するために造っておいた、「普及型ワイン」が積まれている場所だった。葡萄ジュースと普及型ワインは、初期工程が完全に同一である。同じ圧搾設備から分かれていくうえ、どちらの品目も鮮度維持と発酵管理のために一定の低温保管が不可欠だった。そのため、電気代と冷房効率を考慮して大きな中央冷却機を共有する設計にした結果、第一倉庫と第二倉庫は自然と、そっくりな双子の建物のように並んで建つしかなかったのだ。

 

ぎい……。

 

分厚い鉄扉が開き、海霧に混じった甘く重厚なオーク樽の香りが、ナホトの鼻先をくすぐった。普段なら一瞬でその眩暈のするような香りの違いに気づいたはずの彼だったが、疲労に沈んだ脳と、眠気に鈍った嗅覚は、濃いアルコールの香りをただの「よく熟した葡萄ジュースの甘い匂い」と誤認し、そのまま処理してしまった。

 

「よいしょっと。結構重いな。やっぱり今回の葡萄は濃度が高いからかな」

 

ナホトは鼻歌まで口ずさみながら、第二倉庫に積まれていた重いオーク樽と木箱を、トラックの荷台へせっせと運び込んだ。本物の葡萄ジュースの箱たちは、第一倉庫の暗闇の中で静かに主人を待っていたが、すでにハンドルを握ったナホトの耳には、何の声も届かなかった。

 

「よし、出発! この一箱に、うちの農園の真心と……澄んだ陽射しと海風の祝福が、いっぱい詰まっていますように」

 

彼は眠気を追い払うためにカラマンシーゼリーを口に放り込み、ハンドルを切りながら、柔らかな微笑みとともに呟いた。

 

トラックのヘッドライトが海霧を切り裂き、トリニティ自治区の中心部へと遠ざかっていく。

 

嵐の前の静けさが、波音とともに、美しい紫色の葡萄畑の上へ柔らかく降りていた。

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