[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第2章 ミレニアム第12話:Light & Salt

 

圧倒的な絶望感が支配して然るべき第3区画のキルゾーンの真ん中。血生臭さと鼻を刺す硝煙が入り混じって震える、その息苦しい静寂を最初に鋭く引き裂いたのは、深淵から這い上がってきた怪物の凄惨な咆哮でも、背中を貫かれたナホトの苦痛に満ちた断末魔でもなく、ミレニアム最強の武力集団C&Cのコールサイン00、美甘ネルの神経質で鋭い叫びだった。

 

「はぁ?! おい、てめぇ何やってんだ!」

 

ネルの小さく吊り上がった両目には、怒りと困惑が荒々しく渦巻いていた。頬を伝って流れ落ちる土埃と昆虫の体液が、彼女の派手なスカジャンを汚していたが、そんなものは眼中になかった。ただ、目の前で自分の戦闘の流れを完璧に台無しにし、自分の始末もまともにつけられないくせに、分不相応に自分を抱え込んだ挙句、異形の怪物に背中を無惨に貫かれてしまった、愚かでお節介な大人の姿だけが、彼女の視界を満たしていた。

 

「なんで勝手に割り込んでんだよ!!」

 

彼女は青筋を立て、声を張り上げて噛みついた。ミレニアムサイエンススクールの最強として、数多くの死線を越えてきた彼女の自尊心が、完全に傷つけられていたのだ。彼女は、自分が誰かに守られなければならないほど弱い存在ではないことを、あんな昆虫野郎の毒針など自分で避けるか砕くかできたことを証明するかのように、血を流しながら片膝をついているナホトの肩を爪先でつんつんと突き、荒々しく唸った。

 

「うぐっ……!」

 

ナホトが眉間を深く歪め、低く呻いた。それは生命の危機を感じる痛みによるものというよりは、早朝から畑に出て過酷な労働をしている最中、重い農具をうっかり足の甲に落とした時に無意識に漏れる、極めて現実的で疲れの滲んだため息にずっと近かった。彼の背筋をずたずたに裂いて突き刺さった怪物の凶悪な毒針が残した痛みは、脳髄を抉るほど鮮明で悍ましいものだったが、彼は悲鳴すら上げなかった。

 

「ペッ」

 

口の中に溜まっていた甘ったるい暗赤色の血溜まりを、痩せた土埃の上へ乱暴に吐き捨てたナホトは、血で固まった作業服の膝に手をつき、ゆっくりと、実にゆっくりと体を起こした。太い毒針が刺さっていた彼の背中の傷からは、今なお赤い血がどくどくと流れ落ち、傷の周囲の皮膚は猛毒性の体液に触れて黒赤く焼け爛れていた。

 

しかし奇妙なことに、本来なら血管を通って全身へ激しく広がり、肉体を麻痺させ、臓器を溶かし尽くすはずの猛毒の致命的な気配は、まったく感じられなかった。むしろ彼の精神は、これまでになく明鏡止水のように静かだった。望んでもいない深淵の古代語を勝手に人間の知覚へ翻訳し、脳裏を凄惨に押し潰し、前頭葉をチェーンソーで削るような激しい片頭痛を引き起こしていたヘイローの強制的な脈動が、嘘のように止まっていたのだ。

 

キャンベルブドウを搾ったような濃い紫色の髪の上で激しく揺れ動いていた、パステルトーンの黄緑色のブドウ蔓ヘイローは、今では本来の穏やかで平和な光を取り戻し、静かに浮かんでいた。視界を乱していた耳鳴りと頭痛が綺麗に鎮まると、頭の中が冷たく澄み渡ったナホトの感覚は、限界を超えて極限まで研ぎ澄まされていった。

 

自分の背後に立っていた怪物の、真っ黒で巨大な複眼が困惑に細かく震えているのが感じられた。イナゴの知能では到底理解できない怪現象だったのだろう。確かに、自らの尾に宿る最も致命的な猛毒を、翼さえ持たぬ天使の体内へたっぷり注入したはずなのに、悲鳴を上げて融解していなければならない門番が、あまりにも平然と、淡々と再び二本の足で立ち上がる様子は、怪物にとって一種の恐怖として迫っていたのかもしれない。

 

「僕が昔、この農場を最初に開墾した時のことなんだけど」

 

土埃と血痕がこびりついた作業用ズボンを荒い手つきでぱんぱんと払ったナホトが、この血の気が引く戦場の真ん中という状況とはまるで似つかわしくない、無感情で乾いた声でゆっくりと口を開いた。彼の視線は、自分を睨みつけるネルを越え、背後で奇怪な顎を開いたまま狼狽している怪物へ、冷たく固定されていた。

 

「トリニティ外縁の森に棲んでた在来種のスズメバチに、肩を刺されたことがあってね? よりにもよって産卵期で、毒がたっぷり回ってた奴だったんだけど」

 

ガチャリ――。

 

冷たい金属音が静寂を裂いた。彼は両手に握っていた頼もしいダブルバレルショットガンの二連銃身を、滑らかに、しかし断固として折り開いた。直前のゼロ距離射撃で怪物の装甲に傷をつけるために使われた薬室の中から、白く燻る空薬莢が弾き出され、地面の土の上へ、ぽとりと重い音を立てて落ちた。この農場を守る、彼の唯一にして絶対の武器だった。

 

「その時の方が、今お前に刺されたのより三倍は痛かった気がするね」

 

ナホトの口元に濃く滲む、不愛想で致命的な挑発。その傲慢で平然とした態度に、怪物の奇怪に裂けた巨大な顎が、爆発しそうな怒りで不気味に震え始めた。怪物の下半身を構成する強靭なイナゴの脚の筋肉が爆発的に収縮し、地面を砕き潰した。しかしナホトは、奴が放つ凶暴で圧倒的な殺気を、まるで畑に飛び込んできた鬱陶しい羽虫でも扱うかのように、軽く無視した。

 

彼は腰に巻いた散弾銃の弾帯から、特注の弾丸を一つ滑らかに抜き取った。ナトリウム、Naの欠片がびっしり詰め込まれた容赦のない特殊弾を、ショットガンの右側、「Salt」と刻印された銃身の薬室だけに静かに押し込んだ。そして左側、「Light」と刻まれた銃身の薬室は、まだ装填すべき完璧な一片が届いていなかったため、意図的に空のまま残し、銃身を荒々しく持ち上げて閉じた。ガチリ、という重い装填音が、彼の決意を代弁した。

 

「田舎の人間は、蛇でも蜂でも、山で毒々しい奴を捕まえたら、律儀に薬酒に漬けて飲むものだけど……」

 

ナホトの澄んだペリドット色の黄緑の瞳が、奴の硬い黒褐色のキチン質外骨格の中、先ほど自分の近接射撃によってぱっくり割れた胸甲の微細な隙間を、鷹の目のように鋭くなぞった。わずか一寸の誤差も許さない、完璧なターゲティングだった。

 

「お前の毒は薄すぎて、酒に漬けても薬効なんてなさそうだ」

 

[キィィィィィッ!!!!]

 

自らの存在価値を根底から否定されたイナゴたちの王が、引き裂かれるような、金属を擦るような凄惨な奇声を上げ、巨大な羽を狂ったように振動させた。奴の放つ凶々しい気迫に、第3区画の土埃が渦を巻き、巨大な砂嵐を巻き起こした、まさにその刹那。ナホトの耳に差し込まれた古いインイヤーから、耳を刺すような切迫した通信音がけたたましく響いた。

 

――「あ。ああ! 聞こえますか、ナホトさん! コトリです!」

 

ミレニアムエンジニア部所属、コトリの息も絶え絶えな切迫した声が、通信網を通じて滝のように流れ込んできた。戦況の急激な変化を知らせる、不吉な信号だった。

 

――「ハレ先輩がマグネシウム焼夷弾を積んだドローンを第3区画へ飛ばしましたが……上空の状況が非常に良くありません! イナゴの群れがドローンの進入経路を物理的に遮断しています! このままだと弾薬が空中で誘爆する危険が……!」

 

頭痛が消え、頭が奇妙なほど平穏になったナホトの脳内は、コトリの報告を聞くや否や、戦場全体の形勢を一瞬で立体的に把握した。数億匹のイナゴの群れが知能的にドローンの飛行軌道を遮り、物理的な生体シールドを形成しているというのだ。目の前で息を荒げている、外骨格に穴を開けられた怪物が、自分を慕うイナゴの群れを盾にして補給を遮断している、緻密かつ悪辣な遅滞戦術に違いなかった。

 

ナホトの視線が、地面でいまだ荒い息を吐きながらツイン・ドラゴンの引き金を弄っている、小柄なネルへゆっくりと下りた。

 

「聞こえたでしょ? 行って取ってきて」

 

「どこから命令してんだよ」

 

自分を子どもの使いのように指示するナホトの態度に、ネルの眉が険しくぴくりと動いた。彼女の拳が怒りでぶるぶると震えた。ミレニアム最高の武力の化身である自分に、たかが弾薬の使い走りをしてこいなど、彼女のプライドを真正面から踏みにじる侮辱に等しかった。

 

「どうせ君はあの昆虫と相性が悪くて、歯も立たないでしょ。行ってイナゴの群れでも薙ぎ払うなり、君が直接ドローンのところまで飛んで弾丸を回収してくるなりして」

 

ナホトは一切譲らず、冷たく現実的な論理でネルの自尊心を容赦なく突き刺した。ネルの扱う莫大な神秘のエネルギーが込められた弾丸でさえ、あの怪物から直接不吉な力を授かり、奇怪に進化してしまった殻の前では、ただの鉛弾に過ぎず弾き返された、直前の惨憺たる戦闘結果を思い出させたのだ。

 

「私が今、あんな虫野郎の外甲を抜けなくて邪魔だから失せろって言ってんのか、あぁ?!」

 

ネルが唸り、今にもナホトの胸倉を掴みかかりそうに、両袖から鎖を蛇のようにじわじわと巻き取ろうとした、その時だった。通信網を通じて、混乱した戦場の騒音を一瞬で制圧する、強くも柔らかなカリスマを持つ声が流れ込んだ。

 

――「ネル。ナホトさんの言うことを聞いて」

 

シャーレの先生だった。いつもどこかネジが一本抜けたように抜けているが、生徒たちが危機に陥った時だけは、誰よりも冷徹で完璧な指揮官へと変わる大人。

 

――「君が強いことは知っている。でも私たちの目的は、あの怪物じゃなくて、イナゴの群れの物量攻勢を止めることでしょ。主客が転倒してはいけない。ここはナホトさんに任せて」

 

先生の指揮は絶対だった。どれほど制御不能の不良な暴れ者であろうと、先生の正当で合理的な戦術オーダーの前では、無駄な意地を張る名分などなかった。ましてネル自身も、自分がこのトリニティ外縁の名もなき農場まで派遣された本来の目的が、怪物退治ではなく「イナゴの群れの駆除と防衛線構築」であることを、改めて骨身に染みて思い出したからでもあった。

 

「ああ、もう……!」

 

ネルは苛立たしげに自分の赤いスカジャンの裾を翻し、膝を曲げて姿勢を限界まで低くした。彼女の小柄な体全体から、まるで活火山が噴火する直前のように莫大な神秘のエネルギーが爆発的に凝縮されていることが、空気の振動を通じてありありと感じられた。地面を蹴って空へ跳び上がろうとした彼女が、ふと顔を向け、血を流しながら立っているナホトを鋭く睨みつけた。

 

「おい、オッサン」

 

彼女の赤い瞳には、自分をわざわざ庇って守ろうとした、その無謀で愚かなお節介への粘つくような不快感と、同時に、彼が一人であの怪物を相手にできるのかという、本人すら認めたがらないごく微かな心配が、複雑に滲んでいた。

 

「今度ミレニアム自治区で私と目を合わせるつもりでいるなよ。その時は本当にズタズタに引き裂いてやるからな。分かったか?」

 

鋭い、しかしどこか妙に子どものような拗ねた響きを含んだ物騒な警告を最後に、ネルの小柄な体は、発射台を離れた大口径砲弾のように、空へ向かって猛烈に撃ち上げられた。

 

タァァァン!!

 

空を真っ黒に覆い、ドローンの飛行を妨害していた気味の悪いイナゴの群れへ向かって、ネルのツイン・ドラゴンが吐き出す猛烈なサブマシンガンの弾幕と鋭い鎖が、豪雨のように降り注いだ。荒々しい銃声と昆虫の外骨格が砕ける破裂音が戦場の空を容赦なく引き裂くと、第3区画の痩せた地上には、重い息を吐くナホトと、貪欲に彼を睨みつける怪物だけがぽつんと残された。ナホトが、ふっと鼻で笑って口を開いた。

 

「なあ、待ってくれてありがとな」

 

[キィィィエエッ!!]

 

待っていたかのように、イナゴの怪物が雷のような猛烈な速度で突進してきた。鋸刃のような鋭い棘が生えた二本の前脚が、ナホトの喉を一息で断ち切るため、死角へ潜り込みながら殺到したが、ナホトの動きは直前とは明らかに、次元が違うほど変わっていた。

 

酷い頭痛が完全に消え、アドレナリンが血管を狂ったように脈打つ彼の澄み切った目の前で、戦場を恐怖に叩き込んでいた「イナゴたちの王」は、ただ殻が厚く、体が少し大きいだけの、面倒なバッタにしか見えなかった。ナホトは体の重心を低くし、奴の突きを最小限の動きで、紙一枚の差で避けた。そして腰の回転力を乗せ、ショットガンの硬いウォルナット製銃床で奴の折れ曲がった脚関節部を容赦なく叩き潰すように打ち下ろし、怪物の圧倒的な機動力を少しずつ、執拗に削り取り始めた。

 

体重の乗った打撃で脚に疲労が蓄積し、次第に遅く鈍くなっていく怪物の隙は、限界を超えて澄み切った彼の視界には、あまりにも赤裸々に晒された巨大な標的同然だった。

 

ドドドドッ――!

 

上空でネルが吐き出す猛烈な銃声が雷鳴のように戦場へ響き渡り、空を幾重にも覆っていた昆虫の生体防壁が、雑巾のように無残に引き裂かれていった。

 

ウィィィン――!

 

虫の死骸が黒い雨のようにばらばらと降り注ぐ、その狭い隙間を縫って、ミレニアムのマークが鮮明に刻まれた配送ドローン一機が、凄まじい速度で垂直降下機動を見せた。ドローンの下部クランプが機械音とともに解除され、赤いテープが何重にも固く巻かれた特殊弾薬ケースが、ナホトの立つ位置へ向けて正確に投下された。

 

「タイミング、完璧だな」

 

ナホトは怪物が怒りに任せて振るう巨大な鋏の横薙ぎを滑らかなスライディングで受け流すと同時に、宙から落ちてくる重い弾薬ケースを左手で正確に掴み取った。ジッパーを乱暴に引き千切るように弾薬ケースの蓋を叩き割ると、赤い薬莢に収められた高濃縮マグネシウム焼夷弾が、その美しくも破滅的な姿を露わにした。

 

ナホトは一切の迷いなく、自然な動きで焼夷弾を一発抜き取った。そして空けておいた左側の銃身、〈Light〉の薬室へその弾丸を押し込んだ。

 

ガチャリ――!

 

銃身が閉じ、噛み合う完璧な金属音。右側には、昆虫の体液に触れた瞬間に猛烈な水素ガスと化学反応を引き起こすナトリウム爆発弾が、左側には、そのガスに火をつけてすべてを焼き尽くす太陽の欠片、マグネシウム焼夷弾が装填された。イナゴたちの王を深淵へ送り返し、完全に火刑に処すための、完璧な毒杯が完成した。

 

「さっきはそのご自慢の殻がやたらと抜けなくて、少し苦労したけど」

 

ナホトは曲げていた腰をまっすぐ伸ばして立ち上がった。彼のペリドット色の瞳は、果てしなく冷たく沈んでいた。彼は冷たい二連の銃口を、奴の胸甲の中央でぱっくり裂け、青黒い体液をぽたぽたと垂らしている、その致命的な亀裂へ正確に照準した。

 

「今度はずいぶん気持ちよく穴が開いてるな」

 

[キィアアアアアアッ!!!]

 

死の冷たい脅威を本能的に察した怪物が、最後の悪あがきとして巨大な上顎を恐ろしく突き出し、ナホトを丸ごと噛み砕いて呑み込むために殺到した。しかしナホトは一歩たりとも後退しなかった。むしろ地面を強く蹴り、上体をぐっと踏み込ませると、裂けた胸甲のど真ん中へ、ショットガンの冷たく硬い銃口を肘まで深くねじ込んでしまった。

 

「古語が聞こえてくるよりは、今のその声の方がマシだね。虫の分際で言語だなんて、身の程を知れ」

 

タァァン!!!!

 

ナホトの指が、右側の引き金を容赦なく引いた。〈Salt〉銃身から噴き出した数百個の銀白色のナトリウム片が、胸甲の亀裂を完璧に通過し、保護膜を失った怪物の柔らかな内臓の奥深くへ雪崩れ込んだ。ナトリウム片が湿った体液と結合した、その刹那。凄まじい腐食性の液体とともに莫大な量の可燃性水素ガスが爆発的に膨張し、奴の腹の中に巨大な時限爆弾の雷管を完成させた。

 

[グアアアアアアッ!!!!]

 

臓器が丸ごと溶け落ちる凄まじい化学的圧痛に、怪物が奇怪な金属音を上げ、苦しげに身を捩った。ナホトは、可燃性ガスが体内に満ちた完璧で刹那的なタイミングを決して逃さず、間髪入れずに左側、〈Light〉銃身の二つ目の引き金を荒々しく引いた。

 

タァァン!!!!

 

奴の体内最深部に到達したマグネシウム片が、先に撃ち込まれたナトリウム弾によって満たされた水素ガスと結合し、圧倒的な高熱の聖火を吐き出した。

 

ピカッ――!!!!

 

まるで夜空の太陽の欠片を地上へ無理やり引きずり下ろしたかのような、網膜を焼き潰すほどの盲目の閃光が、第3区画の戦場を白く呑み込んだ。燃料気化爆弾の威力にも匹敵する、巨大で破滅的な内部爆発が連鎖的に起こり、怪物の青黒い体液と柔らかな内臓器官は、悲鳴を上げて沸騰する間すらなく、即座に完全に気化してしまった。難攻不落の要塞のようだった黒褐色のキチン質外骨格さえも、その猛烈な高熱の前では飴細工のように無惨に溶け落ち、一握りの黒い灰となって虚しく酸化してしまった。

 

目を焼く光がゆっくりと消え、大地を焼き尽くすかのように激しかった火柱が、鼻を刺す煙とともに弱まっていく頃。傲慢にもエデンの果実を貪ろうとした怪物が立っていた場所には、ただ鼻を突く悍ましい焦げ臭さと、舞い散る黒い灰だけが、傷痕のように残されていた。

 

ガチャリ。ぽとっ。からん。

 

ナホトが銃身を静かに折り、任務を果たして真っ黒に焼け焦げた二つの薬莢を地面へ吐き出した。地面の土埃に触れた熱い薬莢から、ジュウッという音とともに白い湯気が立ち上った。

 

「本当にオッサンになったのかもしれないな」

 

彼は強張ってくる首をぼきぼきと鳴らしながら、全身の筋肉にべったりと染みついた疲労が濃く沈んだ声で、小さく呟いた。怪物にやられた背中の傷からは、今なお鈍い痛みが押し寄せており、アドレナリンが抜けていくと、体は鉛のように重くなった。中核と統率力を完全に失ったイナゴの残党は、もはや方向性もなくあちこちに散らばり、自滅していた。上空を引き裂いていたネルの銃声も次第にまばらになり、戦場は平穏を取り戻しつつあった。

 

ナホトは、まだ熱の冷めきらないショットガンの銃身を、自分の広い肩へ無造作に担ぎ上げた。暗赤色の昆虫の血と土埃がこびりついて重くなったワークブーツが、荒れ果てた土の地面を踏みしめ、ゆっくりと、しかし揺るぎなく前へ進んだ。この幼いミレニアムの生徒たちが、まだ畑に残ったゴミのような残党を片づけながら奮闘しているというのに、農場の主であり、年齢だけは十分に重ねた成人が、立ったまま楽に休んでいるわけにはいかなかったからだ。

 

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