[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主 作:ancoracor08
ナホトの大きな手が、チャコールグレーのロングコートの内側へと重く沈んだ。
彼が取り出したのは、普段なら静かな葡萄農園でカラスのような有害鳥獣を追い払う時に軽く使う、赤い岩塩弾やバードショットではなかった。青みがかった重厚な金属光沢を放つ、十二ゲージのスラッグ弾。ナホトは機械的な手つきで固有武器の冷たい銃身を折り、巨大な弾丸を押し込んだ。
『ガチャリ――』
冷たい金属の摩擦音が、展示場の古色蒼然とした空気を一瞬で引き裂いた。
周囲の観覧客たちが漏らしていた低い称賛の声は、その不吉な音にかき消され、散り散りに砕けた。
ナホトは大股で人垣を荒々しくかき分け、前へと進んだ。彼の重い足取りには、もはや芸術に対する漠然とした憧れも、他者への配慮も、一片たりとも残っていなかった。目の前に立つあの忌まわしい「欺瞞」を粉々に砕き、破壊するという冷酷な意志だけが、冷たく燃え上がっていた。
「あっ、モデルのおじさん! 本当に来てくれたんだ!」
その時、ナホトを怯えた目で見ながら道を開ける群衆の中から、小柄な少女が晴れやかに飛び出してきた。
ワイルドハント芸術学院一年生、ウスバ・リツだった。
彼女は自分の完璧な作品の前に集まった人だかりを見て得意げに笑っていたが、ナホトを見つけると、リスのように跳ねながら手を振った。徹夜作業の厳しい痕跡なのか、リツの頬には白い大理石の粉がうっすらと付いていた。だが、その目だけは、自分の最高傑作を当人に見せるという胸いっぱいの誇りで、眩しいほどに輝いていた。
「どう? 私の作品、すごいでしょ? あの日おじさんがくれた葡萄がすごく甘くて美味しくて、急にインスピレーションがもう狂ったみたいに溢れてきたんだよ! それに、最近『プリミティエ・エデン』っていう新品種を出したのが、おじさんの農園だって聞いたんだけど? その話を聞いた瞬間、楽園を守る守護天使がじゃじゃーんって思い浮かんだの!」
リツはナホトの隣でぺらぺらと喋りながら、自分の彫刻像を誇らしげに指さした。
「守護者っていうなら、やっぱり威厳があって眩しい翼は必須でしょ? エデンを守る門番なら、少なくともこれくらい巨大な翼があってこそ完璧に――」
ナホトは彼女の無垢な声を、頭の中から強制的に消し去った。いや、聞こえなかった。リツが晴れやかに口にする「天使」だの「翼」だの「完璧」だのという傲慢な言葉が鼓膜に潜り込むたび、彼の空っぽの背中では、翼を噛み砕かれた時の血腥い幻肢痛が炎のように噴き上がり、全身を焼き尽くすようだった。
ナホトはリツの挨拶を完全に無視したまま、石像の背後へ回り、重厚なショットガンの銃口を持ち上げた。
「ちょっと、おじさん? どうして銃を出してるの? 今いったい何を――」
轟ッ――!
鼓膜を打つ凄まじい轟音とともに、破壊的な威力を持つスラッグ弾が、大理石の翼の根元をそのまま直撃した。
精巧に削り出された羽根の形の石材片が雪片のように飛び散り、展示場の床へと無惨に降り注いだ。ほのかな光を放ちながら展示場を圧倒していた右側の翼の半分が、醜く砕け、へし折られていった。
「きゃあああっ!」
「テロだ! 舎監隊! すぐ舎監隊を呼んで!」
一瞬にして、優雅だった展示場は地獄のような修羅場へと変わった。
美術品を鑑賞していた観覧客たちは悲鳴を上げ、互いを押しのけながら出口へとなだれ込んでいった。リツは目の前で起きた信じ難い惨状を現実として受け入れられないかのように呆然と立ち尽くしていたが、ナホトが破壊されていない反対側の翼へ銃口を向けた瞬間、ようやく獣のような悲鳴を上げて飛びかかった。
「何してるの、おじさん! 正気なの!?」
ナホトが再び冷たく引き金を引こうとした瞬間、その小さな体から出たとは到底信じられないほどの怪力が、ナホトの腕を荒々しく引っ掴んだ。巨木の根元を素手でへし折り、固く閉ざされた鉄扉を紙切れのように引き剥がすリツの無茶苦茶な力が、固有武器の銃身を下へ強く叩き落とした。
パンッ――!
狙いを失って逸れた弾丸が、展示場の床の大理石タイルを穿ち、鋭い破片を弾き飛ばした。
リツは自分の小さな両手で、熱を帯びたナホトのショットガンの銃身をぎゅっと掴み、血が出るほど歯を食いしばった。彼女の両目に宿っていたのは、凶悪な銃口を前にした者の恐怖ではなかった。
リツにとって彫刻とは、ただ石を削るだけの単純な行為ではなかった。
それは、粗く荒々しい岩の中に閉じ込められている形を救い出す「救済」の過程であり、自分の崇高な信念を余すところなく込め、鑿と槌で形作った「子供のような創造物」だった。
彼女の視線は、その魂の結晶を目の前で無惨に蹂躙された、創造主の猛々しく血走った殺意そのものだった。
「いったい何をしてるのかって聞いてるの!」
「変なのを作ったら、俺の手で壊すって、ちゃんと警告したはずだ」
ナホトは銃身を掴むリツを荒々しく振り払い、氷のように冷たい声を吐き捨てた。リツは床に転がりながらも負けじと、甲高い声で叫んだ。
「これのどこが変なの! おじさんの姿で、完全無欠な楽園の守護者として生まれ変わらせた芸術作品なのに!」
「完全無欠? 翼のない俺は欠陥だって言いたいのか? ふざけるな」
ナホトはリツの言葉を、一刀のもとに切り捨てた。彼は憎悪を込めるように、彫刻像に危うくぶら下がっている残りの片翼を睨みつけた。
「ないものを、お前の下品な想像で継ぎ足した。それは傲慢で、吐き気のする美化だ。こんなの、芸術でも何でもない。実在する人間をモデルにするなら、欠損した身体のことにはもっと慎重になるべきじゃないのか? どうしても翼を付けたかったなら、俺の顔と体は避けるべきだった」
ナホトの冷ややかな正論は、どんな鋭い彫刻刀よりも深く、鋭く、リツの胸に突き刺さった。ナホトは冷たく銃身を折り、煙を上げる空薬莢を宙へ排出した。
そして、彫刻像に残ったもう片方の翼までも完全に消し去るため、再び重いスラッグ弾を装填した。
「こんな欺瞞、世の中に残しておく価値なんてない」
リツの幼い顔が一瞬蒼白になり、やがて制御不能な冷たい狂気に染まった。彼女は懐から、重く無骨な形をした銃器を取り出した。
硬い石を削り出す彫刻用の道具であり、同時に敵の息の根を蜂の巣にする彼女専用のサブマシンガン、〈携帯用穿孔機〉だった。
「私の彫刻を……私の子を、おじさんが何様のつもりで勝手に否定するの!」
リツが凄まじい勢いで引き金を引いた。狭い展示館の中で、目を開けていられないほど激しい火花が散った。
ナホトは先ほど自分がスラッグ弾で砕き、床に転がっていた巨大な大理石の翼を拾い、それを厚い盾代わりにして素早く身を隠した。鈍い破裂音とともに、リツが浴びせる無差別な連射弾が大理石片の表面を恐ろしい勢いで削り取り、ナホトの防御線を食い潰し始めた。
ナホトは降り注ぐ銃弾の嵐の中でも、遮蔽物の陰でショットガンの銃身を再び折り、左の薬室にゴム弾を、右の薬室にスラッグ弾を装填した。遮蔽物として使っていた厚い大理石の翼片が、リツの無慈悲な穿孔機射撃に耐えきれず、蜘蛛の巣のような亀裂を走らせ、粉々に砕ける寸前。ナホトは床を蹴り、低く身を投げ、射線から完全に外れた。
ドンッ――! ドンッ――!
空中へ身を投げたナホトの右の銃身から猛然と火を噴いたスラッグ弾が虚空を裂いて飛び、リツが乱射していた穿孔機の銃身下部を正確に打ち抜いた。凄まじい衝撃力により、銃口の軌道は強制的に見当違いの天井方向へ捻じ曲げられた。そしてほぼ同時に、わずかな時間差で左の銃身から発射された重いゴム弾が、リツの細い腿の筋肉を容赦なく打ち据えた。
脚に凄まじい物理的打撃を受け、骨に響く痛みでバランスを崩してよろめくリツ。ナホトは体が床に触れるや否や獣のように跳ね起き、一瞬で彼女との距離をゼロに詰めた。彼は手にしたショットガンの硬い木製の銃床を荒々しく振るい、必死に銃器を握っていたリツの細い手首の関節を強く打ち払った。衝撃に耐えきれなかったリツの手から、〈携帯用穿孔機〉が空中でくるくると回転し、遠くへ弾き飛ばされた。
一瞬で武器を失い、無力化されたリツだったが、その眼光は死んでいなかった。彼女は怒りに任せた悲鳴を上げ、ナホトの腹部へ向かって猛烈な拳を繰り出した。巨木を倒す、その恐るべき正拳突き。しかしナホトは避けなかった。彼は厚いコートの袖の下、鍛え抜かれた前腕を盾のように立て、リツのその殺人的な正拳を重く受け止めた。骨と骨がぶつかり合い、低く唸るような凄惨な破裂音と衝撃波が全身を走った。骨がじんじんと鳴るほどの凄まじい衝撃が伝わったにもかかわらず、ナホトは苦痛に歪む表情一つ見せず、再び銃身を折ってゴム弾を薬室へ押し込んだ。
鈍ッ――! 鈍ッ――!
ほとんど触れ合うほどのゼロ距離で、腹部のみぞおちと右肩関節という人体の急所に、立て続けに重いゴム弾を直撃で受けたリツは、ついに息が詰まる痛みに耐えきれず、押し殺した悲鳴すら上げられないまま床に倒れ込み、体を丸めてうずくまった。
ナホトは床に倒れて喘ぎながら自分を見上げるリツの恨みに満ちた視線を無感情に通り過ぎ、再び自分の形をした大理石彫刻像の前へと歩いていった。彼は熱い薬莢を排出し、最後にポケットに残っていたスラッグ弾を薬室へねじ込んだ。
そして、石像の背後に最後まで醜くぶら下がって残っていた反対側の翼の根元へ、迷いなく引き金を引き、それを完全に粉々に砕き潰した。
轟ッ――!
ついに両翼がすべて引き千切られた彫刻像を見て、ナホトはこみ上げていた吐き気が鎮まり、深呼吸をしながら重苦しかった胸を落ち着かせることができた。
重い静寂。
破壊行為がすべて終わった二人の交戦は、ワイルドハント芸術学院の中でも最も優雅で古風な品格を誇っていた展示場のタイルを砕き、ギャラリーの柱に凄惨な深い弾痕を刻み込んでいた。
ナホトとリツの個人火器が吐き出した血腥い鉄と、鼻を刺す火薬の臭いがめちゃくちゃに混ざり合った空気が、人々の去った展示館の中を満たしていた。
戦闘の熱が少しずつ冷め、嵐の目のような奇妙な静寂が訪れた時だった。展示館上部の巨大なステンドグラスの窓を、けたたましい破裂音とともに打ち破り、黒い円筒形の鎮圧用催涙弾が数十個、展示場内部へ一斉に投げ込まれた。
シューッ――! プシュウウウ――!
鼻を刺す臭いを放つ白い煙が展示場の床を這い、瞬く間に空間全体を蛇のように呑み込んでいった。銃声を聞いて出動したワイルドハント舎監隊が、武装暴動鎮圧用として散布した高濃度の催涙ガスだった。
空気中へ広がっていく重い煙を眺めていたナホトは、ゴム弾の余韻に苦しそうに呻くリツを静かに見下ろした。
ナホトは感情を排した無造作な手つきで、床にうずくまったリツの服の襟首を、まるで猫の首根っこを掴むように軽く掴んで持ち上げると、ピエタのレプリカ彫刻の膝の上へと放り投げた。
自らの創造物を失い、満身創痍となった幼い彫刻家が、聖母の腕の中に抱かれるようにぐったりと垂れた。
ほどなくして、防毒面と鎮圧装備を身に着けた舎監隊の生徒たちが、展示場内へと雪崩れ込んできた。石像の翼を砕き終えたナホトには、無意味な交戦を続けて抵抗する意志などなかった。彼はショットガンの銃身を折り、薬室の中から硝煙を上げる空薬莢を床へ排出して、武装解除の意思を示した。そして静かに両手を背中の後ろで交差させ、高く掲げた。
興奮した舎監隊の生徒たちに荒々しく両腕を捻られ、制圧され、冷たい手錠をかけられたまま、暗い展示場の外へずるずると連行されながらも、ナホトは濃い煙幕の向こう、ピエタの膝の上でぐったりと息を荒げるリツを、最後まで一度も振り返らなかった。
――――――――――
ナホトは、光がほとんど差し込まない暗く冷たい舎監隊本部の取調室で、硬い鉄製の椅子に微動だにせず、まっすぐ座っていた。両手は依然として手錠に縛られたままだった。
彼の向かい、鉄製の机を挟んで座っているのは、事件の全容を調べるために投入されたワイルドハント芸術学院舎監隊所属の二年生二人だった。
「……つまり、ご本人が器物損壊を行った当該大理石彫刻像の被写体、モデル本人だということですね?」
舎監隊の生徒の一人が、調書の書類をめくりながら困惑した表情で尋ねた。ナホトは一切迷うことなく、堂々と頷いた。
「はい。本人の同意や合意もなく、身体の欠損部位を勝手に想像して継ぎ足す作家の傲慢な行為に、極めて強い不快感と侮辱を覚えて起こした、突発的な行動でした。ですが、私と作家の間には『変なものを作ったら壊してもよい』という明確な口頭契約が存在していました。したがって私の行動は、不特定多数に向けた盲目的なテロではなく、私の肖像権と尊厳に対する、極めて正当な物理的撤去です」
その一切揺らがぬ堂々たる抗弁に、取調べを進めていた二人の生徒は言葉を失い、書類綴じを持つ手を止めて、互いに困ったような視線を静かに交わした。この狭い取調室の中の状況は、彼女たちが舎監隊生活の中でこれまで数多く扱ってきた一般的な芸術品テロ犯罪者たち――たとえば、ヴィーガンや気候環境保護主義を装ってギャラリーに乱入し、有名な古典名画にトマトスープやペンキを浴びせて逃げる低俗な承認欲求の塊のような騒乱犯たち――とは、その性質がまったく異なっていた。加害者であるナホトは、むしろ誰よりももっともらしく重い哲学的名分と、美学的倫理の重みを持って、彼女たちを圧迫していた。
特に、取調官のうち左側の席に座っていた生徒は、彫刻を専攻する芸術学徒だった。彼女の立場からすれば、被害者であるリツは、まだファウンデーション課程を踏み始めたばかりで、彫刻の哲学と倫理に関する科目をまだ学んでいない後輩だった。
だからこそ、ただ作品の欠けのない「完全性」という古典的な美のみを追求した末に、肝心の被写体であるモデルが抱えて生きる実存的苦痛と歴史性を徹底的に排除し、対象化するという致命的な芸術的暴力を振るってしまった、その惨憺たる過失を、誰よりも深く理解することができた。
ワイルドハント芸術学院で、あろうことか銃器で彫刻像を破壊したテロリストを取り調べているにもかかわらず、彼女たちが高圧的な態度で詰問できずにいる理由は、まさにそこにあった。
もう一人の取調官は彫刻専攻ではなかったが、評議会入りを目指して舎監隊で活動しており、規則と法理に通じていたため、ジレンマによる割れるような頭痛を感じていた。
「『変なものを作ったら壊してもいい』……なんてこと、よりによって」
彼女は呻き声を漏らし、机の上へ倒れ込むように突っ伏した。他の普通の学院であれば、ナホトのこの抗弁は、真偽を確かめた上で量刑を考慮したり、暴力沙汰の酌量事由として器物損壊の責任を一部軽減したりする、軽い法的争点として残るだけだっただろう。
だが、このワイルドハント芸術学院では、状況がまったく違っていた。「参加芸術のための作家と被写体の相互可変的契約」あるいは「物理的破壊行為を通じた芸術作品の究極的完成」として解釈される芸術的、法理的余地が、十分すぎるほど存在していたからだ。
つまり、それは単に責任を減らす、あるいは消すだけにとどまらず、共同制作になり得る言葉だった。
作家がモデルの権利と尊厳を侵害したならば、モデルにもまた作家の成果物を否定し破壊する「批評的暴力」の正当な権利があるという、この学院特有の奇怪でアヴァンギャルドな論理が、完璧に成立し得た。
結局、二人の舎監隊生徒は、芸術品を破壊した凶悪なテロリストの自白を引き出す取調べをしているのではなく、偉大な芸術の本質と暴力の境界がどこまで許容され得るのかという、難解で恐ろしい美学的論争の真っただ中へ自分たちが引きずり込まれていくような、目眩のする気分で、慎重にボールペンを転がした。
創作者の傲慢と被写体の喪失、そして芸術と暴力に関する難解な解釈がめちゃくちゃに絡み合った取調室の空気は、窓の外の鋭い冬夜の霜のように、冷たく重く沈み込んでいた。