[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第4章 ワイルドハント芸術学院 第5話:大人になると重くなる三文字

 

鋭い初冬の寒風が、ワイルドハント芸術学院の静まり返ったキャンパスを容赦なく切り裂くように吹き抜け、不気味な風の音を響かせていた。

 

舎監棟の建物の角にある、かすかな街灯の明かりの下。自分を待ちながら落ち着きなく歩き回っていたウスバ・リッツの姿は、この上なく痛々しかった。薄い外套の裾から容赦なく入り込む冷気を少しでも防ごうと、肩をぎゅっとすくめている。凍りついて真っ赤になった鼻先と耳。そして、コートのポケットの中で絶えずもぞもぞと動いている小さな指先まで。つい先ほどまで、重い大理石の翼を盾にして耐えていた自分に向かい、猛烈にサブマシンガンを乱射していた、あの凶暴な彫刻家の面影はどこにもなかった。

 

いつから、あそこで自分を待っていたのだろうか。

その哀れな姿を目にしたナホトの澄んだ黄緑色の瞳に、濃い憐れみと罪悪感が揺らめいた。わずか数時間前、彼女の魂が込められた創造物を無残に破壊し、ショットガンのゴム弾でみぞおちを打ち抜いて倒した、自分の未熟な暴力が脳裏をよぎった。冷たい大理石の床を転がり、息さえまともにできず苦しんでいた幼い少女を、この苛烈な冬風の中に立たせてしまったという事実が、彼の胸を重く押し潰した。

 

「リッツ」

 

ナホトは慎重に口を開いた。彼の声には、先ほど展示場を凍りつかせた冷たい怒りの代わりに、農夫特有の優しさと、大人としての重い申し訳なさが色濃くにじんでいた。

 

「近くで少し体を温めながら話そう。どこか暖かいカフェみたいなところはないか? 俺がおごるよ」

 

その提案に、リッツはつま先で大理石のタイルをこつこつと蹴るのをやめ、力なく首を横に振った。

 

「この時間じゃ、学院内で開いてる店は一つもないと思うよ? ワイルドハントは規則が厳しいから、夜になると商業区画は全部きっちり閉めちゃうんだ」

 

リッツは冷えた鼻をすすり、白い息とともに付け加えた。

 

「いっそ、私たちの部室に行くのはどう? あそこなら暖かいから」

 

ナホトは何も言わずにうなずいた。凍えている子どもを連れて暖かい場所で話ができるのなら、そこがどこであろうと構わなかった。彼はリッツの小さな後ろ姿について歩き始めた。

 

しかし、リッツが彼を案内した道は、一般的なキャンパスの広く華やかな大通りではなかった。彼女は華麗なルネサンス様式の回廊や赤レンガ造りの建物の正門を避け、人影のない建物裏の狭く暗い路地へと入り込んでいった。

 

リッツは慣れた様子で、大人の腰ほどの高さがある塀を猫のように軽々と飛び越えた。そして、茂みに巧妙に隠された小道を抜け、使われていないらしい古びた地下通路へと入っていった。光さえろくに差し込まない、冷え冷えとした地下の配管室。糸が絡み合ったように入り組んだ、不気味な迷路のような道。ゴシック様式の華やかさの裏に隠された、ワイルドハントの陰湿で秘密めいた裏側を歩いているような気分だった。

 

長いあいだ沈黙の中を歩き、古びた螺旋階段を果てしなく上り続けた末、リッツは行き止まりの壁の前に立ち、小さな両手で古びた岩を力いっぱい押した。

 

ギギギギッ――。

 

石と石が噛み合いながら回転する鈍い摩擦音とともに、壁が回転扉のように押し開かれると、暖かな空気とともに、妙に居心地がよく私的な空間が視界に飛び込んできた。

 

濃い青色の遮光カーテンが窓を固く覆っており、天井と壁を飾る古風な木製パネルの下は、ありとあらゆる雑物に占領されていた。部屋の中央を占める重厚な無垢材のテーブルの上には、空になったエナジードリンクの缶が転がり、あちこちでは青色と茶色の段ボール箱が危なっかしく塔を築いていた。

 

片側の壁の棚には、のこぎりや電動ドリルといった木工用の工具が物々しく掛けられ、机の上には古びたタイプライターが置かれていた。何よりもナホトの視線を奪ったのは、部屋の片隅に堂々と陣取っている、大きな白いハムスターの彫像だった。

 

だが、壁沿いには柔らかそうなベッドが置かれており、その隣には専攻書や課題が乱雑に積み上げられた机が見えた。片隅では、淡い橙色の光を放つ古いムードランプが、部屋の中を居心地よく照らしていた。

 

最初は、各種の木工用工具や石膏粉の跡を見て部室なのだと思っていた。だが、ベッドや私物が堂々と置かれている生活感を目にしたナホトは、困惑した表情で部屋の中を見回し、面食らった声で尋ねた。

 

「ここ……部室じゃなくて、寮の部屋みたいだけど?」

 

リッツは外套を脱いで椅子にぽんと掛けながら、無邪気に答えた。

 

「私たち『特殊交易部』は、まだ学院から正式な認可を受けてない非公認部活だから、部室を割り当ててもらえてないんだ。だから当分のあいだは、寮の部屋をアジト代わりに使ってるの」

 

その天真爛漫な答えに、ナホトは額を押さえながら深いため息をついた。疲労と呆れが入り交じったため息だった。

 

「……リッツ。誰でもかれでも中に入れていたら、大変なことになるぞ? 気をつけないと」

 

ナホトの心からの忠告に、リッツはベッドの端に腰掛け、両目を丸くして聞き返した。

 

「気をつける? 何を?」

 

その純真無垢で、一片の疑いさえない生意気な問い返しと同時に、昼間の展示場でリッツの殺人的な正拳突きを受け止めた前腕の骨が、再びずきりと痛んで冷たい痛覚を伝えてきた。

 

つい先ほど、ショットガンの銃身を素手で払いのけ、大理石を一息に削り取るほどの無茶苦茶な怪力で、自分の腕をへし折らんばかりに拳を突き出してきた少女だった。キヴォトスの生徒、それもあれほど凶悪な筋力を持つ子どもに危害を加えたり制圧したりするには、最低でも主力戦車を一両は持ってくる必要があるだろう。ナホトは、自分の身の程知らずな余計なお世話がおかしくなり、首を横に振った。

 

「いや。俺が余計なことを言ったな」

 

リッツは肩をすくめると、部屋の中を指さした。

 

「本当はルームメイトがいるんだけど、今はみんな外出中だから私一人なの。ミヨちゃんは今日の当番だからシャーレに行ったし、フユちゃんは廃家電をもらってくるって、ミレニアムサイエンススクールのほうへ行ったから。だから誰もいないよ」

 

リッツはベッドに楽な姿勢で座ると、自分の机の前に置かれていた丸いスツールを足で軽く押し、ナホトのほうへ寄せた。

 

「おじさんはここに座って」

 

ナホトは厚いコートを脱いで脇に置き、慎重に椅子へ体を預けた。

二人がわずかな間隔を挟んで向かい合うと、部屋の中に重い沈黙が降りた。タイプライターの金属の匂いと古い紙の匂い、そして淡いムードランプの明かりだけが、二人の間にある空白を危うげに満たしていた。

 

先ほど展示場で、互いを殺さんばかりに銃口を向け合い、声を荒らげていたのは、ほんの数時間前のことだった。耳をつんざくような銃声と悲鳴、そして粉々に砕けた大理石の翼の破片が生み出した地獄のような修羅場の余韻が、この居心地のよい部屋の暖かな空気と鮮烈な対照をなし、息苦しいほどの気まずさを醸し出していた。ナホトは、この静寂をどう破り、謝罪の言葉を伝えるべきか、頭の中で幾万もの文章を選んでは消すことを繰り返していた。

 

ナホトがごくりと唾を飲み込み、重い唇をようやく動かそうとした、そのときだった。

 

「ごめんなさい、おじさん」

 

静寂を破ったのは、ナホトの重々しい低音ではなく、リッツの沈んだ幼い声だった。

 

ナホトの目が大きく見開かれた。リッツは膝の上に置いた両手をもじもじと動かし、深くうつむいたまま言葉を続けた。

 

「おじさんがどれだけつらい思いをするのかなんて考えもしないで、ただ自分の作品を自分のやり方で完璧に完成させたいっていう自分勝手な気持ちで、勝手に翼をつけちゃったでしょう。それがおじさんにとって、どれほど大きな傷になるのか分からなかった。本当にごめんなさい」

 

リッツの声は、かすかに震えていた。それは石の声にばかり耳を傾け、実際に息をし、傷を抱えて生きているモデルの歴史と苦痛を徹底的に無視してしまった幼い彫刻家の、骨身に染みる悟りであり、心からの懺悔だった。

 

「展示場に残ってる私の彫像は……残った部分も、私が全部壊して片づけるから。おじさんの目に入らないように、跡形もなく片づけるから……だから、もう怒らないで」

 

リッツの告白を聞いた瞬間、ナホトの澄んだ黄緑色の瞳が大きく揺れた。

 

予想もしなかった先回りの謝罪。それは、この小さな部屋に満ちていた重い空気を一瞬で変えてしまった。ナホトの胸の中には、巨大な波のように複雑な感情が一斉に押し寄せてきた。トリニティの複雑な政治の世界を耐え抜き、自分は十九歳の立派な成人であり、大人なのだと自負してきた。だが、つまらない自尊心と羞恥心にためらい、唇を動かすことしかできずにいた自分よりも先に、自らの過ちを認めて口を開いたのは、ずっと年下の少女だった。その事実が、彼を激しく打ちのめした。

 

ナホトは唇を強く噛み締めた。傷ついたというつまらない言い訳で理性を失い、ショットガンで彼女の血と汗が染み込んだ作品を無残に破壊したのは、紛れもなく自分だった。たとえ彼女の意図が欺瞞的だったとしても、大人として対話で解決しようとする最低限の試みさえせず、物理的な暴力で子どもの世界を踏みにじった自分の恐ろしい未熟さが、どうしようもなく恥ずかしかった。

 

『俺が先に言うべきだったのに』

 

深い後悔と自己嫌悪が押し寄せた。子どもよりも先に勇気を出せなかったという骨身に染みる恥ずかしさと、感情を制御できずにショットガンを振るい、生徒が血と汗を流して積み上げた努力を粉々にしてしまった自分の惨めな限界への自責が、喉を締めつけるようだった。

だが同時に、この息苦しい気まずさと緊張の中で、どう口を開けばいいのか分からず立ち止まっていたその瞬間に、彼女が先に堅固な壁を壊してくれたことへの深い感謝、そして、すれ違ってしまった関係を再び取り戻せるという強烈な安堵が重なった。

 

リッツが先に成熟した勇気ある態度を見せたからこそ、大人である自分は、この状況を適当にごまかしてはならない。そんな重い責任感が、ナホトの背筋をまっすぐに伸ばした。

 

ナホトは席から立ち上がると、リッツの目線に合わせるように片膝を曲げ、床に座った。そして、どこまでも優しく、それでいて真剣な声で口を開いた。

 

「違うんだ、リッツ。俺のほうこそ、ごめん」

 

ナホトの重みのある穏やかな謝罪に、リッツはびくりと驚いて顔を上げた。

 

「過去の傷と向き合ったことを言い訳にして、俺よりずっと年下の生徒が、夜も眠らず丹精込めて作り上げた芸術作品を、理性を失って無残に壊してしまった。君の血と汗が混じった努力を、暴力で踏みにじってしまって、本当にごめん」

 

彼はリッツの不安げな瞳をまっすぐに見つめ、微笑んでみせた。過去の傷に囚われていた暗い影がいくらか晴れた、穏やかでまっすぐな淡い微笑みだった。

 

「それに、残った彫像をわざわざ君の手で片づける必要はない。腱や筋肉の筋、それに息遣いまで、あれほど生々しく彫り上げた、本当に素晴らしい作品だったから。俺のせいで翼は壊れてしまったけど……それでも、息が止まりそうなくらい素晴らしい作品だよ」

 

ナホトはリッツの様子をうかがった。

 

こうして言葉で慰めたところで、自分が粉々に壊してしまった彼女の傑作が元に戻るわけではない。

 

どうかリッツが、自分の厚かましい謝罪を受け入れてくれるようにと願いながら、ナホトは荒れた大きな手で、小刻みに震えるリッツの小さな手をそっと包み込んだ。

 

彼の心からの謝罪と、温かみのこもった賛辞を受け、リッツの丸い瞳にたまっていた涙がすっと引っ込み、代わりに強い困惑と驚きが広がった。

 

「本当……? 片づけなくてもいいの? もう怒ってない?」

 

「ああ。もう怒ってないよ。むしろ、俺が壊してしまった翼の破片をどう片づければいいのか、どうやって修復を手伝えばいいのか悩んでいるところだ」

 

ナホトが穏やかに答えると、緊張で固くこわばっていたリッツの肩がゆっくりとほぐれ、彼女の幼い顔にも、ついに澄んだ安堵の笑みが咲いた。重苦しかった空気が散り、部屋のムードランプの明かりが、先ほどよりもいっそう暖かく感じられた。

 

リッツはナホトの穏やかな表情をじっと見つめた。すると、つい先ほどまで泣きそうだった幼い彫刻家の顔に、再びいつもの悪戯っぽい笑みが浮かんだ。彼女はナホトの手をそっと握り、こてんと首を傾けながら、恐る恐る冗談を投げかけた。

 

「でも、おじさん。今の言い方、ちょっと変じゃない?」

 

「どれが?」

 

「今、自分の顔と体をそっくりそのままかたどって作った彫像を見て、『素晴らしい作品』って言ったんだよね?」

 

リッツが場を和ませようと、軽く投げかけた冗談だった。ナホトはしばらく呆気に取られた表情を浮かべると、やがて呆れたように、ふっと笑いをこぼした。先ほどまでの重い感情が、雪解けのように溶け始めた。ナホトはリッツが投げた冗談を避けず、しっかりと受け止めて答えた。

 

「なんだ? おじさんくらいなら、かなり男前なほうだと思うけど? 違うか?」

 

ナホトが調子を合わせて肩をすくめ、もったいぶった態度を取ると、リッツは大げさに舌打ちをして言い返した。

 

「おじさんが本当に美男子って呼ばれたいなら、最低でも『ダビデ像』くらいには勝ってこないと駄目なんじゃない?」

 

「基準がダビデ像なのか? それはちょっと厳しすぎる気がするけど?」

 

「芸術学院の生徒の目線は、もともとあの空のてっぺんにあるものなの!」

 

二人の愉快な掛け合いが続き、部屋の中には、いつの間にか和やかな笑いの花が咲いていた。壊れた彫像の残骸と銃弾が残した対立は、大人の骨身に染みる反省と、子どもの成熟した謝罪の中で、温かな冗談へと溶け合い、跡形もなく消えていった。

 

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