[ブルーアーカイブ] トリニティのブドウ農園主   作:ancoracor08

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第4章 ワイルドハント芸術学院 第6話:翼なき天使のトルソー

 

 

[視聴者の皆様、こんにちは。クロノス報道部です。芸術の殿堂、ワイルドハント芸術学院が、連日押し寄せる観覧客によって、前例のないほどの人波で埋め尽くされています!]

 

弾むように高揚したアナウンサーの声が、キヴォトス全域のスクリーンを飾っていた。画面には、ワイルドハントの古風な美術館の外まで延々と続く待機列が映し出されていた。

 

[話題の中心は、何といっても一年生の出品作、《翼なき天使のトルソー》です。当初は完璧な天使の姿をしていたこの彫像ですが、被写体となったモデル本人が展示場に乱入し、銃器を発砲して両翼を粉々に破壊するという前代未聞の事態に見舞われました。ところが驚くべきことに、学院と評論家たちは、この乱闘さえも『完璧な芸術的物語』として認めたのです!]

 

カメラがズームインすると、激しい銃撃戦の傷痕をありありと残したギャラリーの内部が映し出された。大理石の柱には十二ゲージのスラッグ弾が深々と食い込み、壁面と床のタイルは、容赦なく浴びせられたサブマシンガンの弾痕によって蜂の巣と化していた。

 

そして、その廃墟の真ん中に、かつて巨大な翼を誇っていたまばゆい彫像が、黙然と立っていた。背中の翼はショットガンによって引きちぎられ、見る影もない破片へと成り果てていた。だが皮肉にも、その破壊された欠落こそが、彫像に備わっていた作為的な完結性を拭い去り、圧倒的な崇高さを放たせていた。

 

[ワイルドハント側は、床に散らばった翼の破片も彫像の一部として永久保存すると発表しました。ただし、降り注いだ弾丸によって損壊した屋内ギャラリーは、近いうちに大規模な補修工事へ入る予定です]

 

[観覧客たちは、『作品を取り囲んでいる暴力的な背景が修復されてしまえば、彫像が放つ生々しいオーラが大きく損なわれるだろう』と口をそろえています。ギャラリーがきれいに修復される前に、この凄絶にして完璧な前衛芸術の現場を目に焼きつけようとする人々によって、現在の待ち時間は実に四時間を超え――――!]

 

――――――――――

 

トリニティ総合学園の中枢、ティーパーティー本館。

 

ホストの執務室には、午後も遅い時間の赤い日差しが差し込んでいた。だが、机の上に危うげに積み上げられた山のような書類が、その温もりをすっかり台無しにしていた。桐藤ナギサは目を閉じたまま、眉間を何度も強く揉み、疲れを和らげようとしていた。

 

コンコン。

 

軽いノックの音とともに、きちんと制服を着た生徒が慌ただしく執務室へ入ってきた。彼女の腕には、赤い封印が重々しく押された決裁書類のファイルが抱えられていた。

 

「ナギサ様、他学園の公式外交チャンネルを通じて、緊急の行政書簡が届きました」

 

ナギサはゆっくりと目を開き、姿勢を正して座り直した。

 

「他学園からですか?」

 

「ワイルドハント芸術学院評議会より送付された公文書です。事案が奇妙なうえ、トリニティの名誉に直結するほど不快な内容であるため、直ちにホスト様へ直接報告せよとの指示を受けました」

 

「ワイルドハントから?」

 

ナギサは怪訝に思い、手にしていたティーカップを置いた。ワイルドハントとトリニティの間で、これといった摩擦や外交案件が持ち上がるような時期ではなかった。ナギサが書類を受け取るや否や、生徒はこめかみに青筋を立てながら報告を続けた。

 

「はい。トリニティ自治区外縁部の住民がワイルドハントの展示場へ無断で乱入し、展示中だった大理石の彫像を破壊したうえ、公共物を損壊したとの内容です。ワイルドハント側は、この乱闘をアバンギャルドな哲学として解釈し、拘束することなく厳重注意のみで帰したそうです。しかし、建物の修繕費だけは、住民の管理主体である我々ティーパーティーを通じて、民事請求の公文書として送付してきました」

 

ここまでなら、ただ他学園の領土で発生した、ありふれた銃器乱射事件に対する賠償請求程度に聞こえた。だが、生徒の顔には、抑えきれない怒りと深い不快感が色濃く浮かんでいた。

 

「問題は、破壊された部位です。事件報告書とクロノスニュースによれば、暴徒がショットガンのスラッグ弾を使って悪意をもって破壊した箇所は、ほかでもない彫像の『翼』だったそうです!」

 

生徒は憤りを爆発させながら言葉を続けた。

 

「ナギサ様、トリニティにおいて『翼』は天の恩寵であり、純潔を表す絶対的な象徴です。それなのに、我が自治区の住民がわざわざ他学園へ殴り込み、よりにもよってその翼を銃で撃ち砕いたのです! そのうえ、ワイルドハントの者たちは、それを片づけるどころか、《翼なき天使のトルソー》などという不敬極まりない名前までつけて、展示を強行しています! これは明白な、トリニティに対する冒瀆行為です!」

 

興奮した生徒は息を荒らげながら、結論を吐き出した。

 

「直ちにワイルドハント側へ公式な抗議書簡を送り、当該彫像の展示を全面的に中止させるべきです! そして、その『イズレ・ナホト』という住民を即刻拘束し、思想を徹底的に検証したうえで教化するのが当然の事案だと考えます!」

 

「……」

 

生徒は、赤い文字で記されたその名前が持つ重さを、何一つ知らなかった。

 

ナホトがトリニティ本校に在籍していたのは、すでに四年も前のことだった。しかも一年生をまともに終えるよりも前に、中央自治区の息苦しい政治に耐えきれず、外縁部にあるカルメル園芸高等学校へと、逃げるように転校してしまっていた。

 

現在在学しているごく普通の生徒たちにとって、『イズレ・ナホト』という名前は、ただ聞き慣れず、異質に感じられる外縁部の農夫の名前にすぎなかった。トリニティの高潔なる象徴である翼をショットガンで冒瀆した、不敬な異端者。その表面的な情報だけが、彼女を激しく憤らせていた。

 

「ご苦労さまでした。書簡は確かに確認しました」

 

ナギサは表情の筋肉一つ動かすことなく、冷ややかなほど乾いた声で答えた。

 

「この件については私が直接検討し、対処します。もう下がってかまいません」

 

生徒は、ホストの断固として威厳に満ちた命令に恭しく頭を下げ、執務室を後にした。

 

ガチャリ。

 

重厚な執務室の扉が閉まり、完全な静寂が訪れると、ナギサは手にしていた決裁書類のファイルを、音を立てて机の上へ放り置き、静かに額を押さえた。

 

「……はあ」

 

肺腑の最も深い場所から無理やり引き上げた、長く、果てしなく重い溜息が、静まり返った部屋を満たした。先ほど生徒の前では、一分の動揺も見せないティーパーティーのホストとして、完璧な平静を演じていた。

 

だが、書類に記された『イズレ・ナホト』という名前と、『大理石の翼を粉々に破壊した』という報告の行間を読み取った瞬間から、彼女の胃は鋭い悲鳴を上げながら痙攣していた。

 

ナギサは、完全に冷めきってしまったダージリンティーを無理やり一口飲み込んで胃をなだめると、ずきずきと痛むこめかみを何度も強く押した。ナホトが関わる事件の規模は、年を追うごとに、いや、月を追うごとに、彼女の想像力と行政的防衛線の限界を残酷に試していた。

 

シスターフッドにおける最も神聖な大ミサの聖餐式に、ブドウ果汁の代わりにアルコールを含んだ『ワイン』を納品してしまった大事故。

 

外から見れば、単なる誤納品という、取るに足らない出来事に見えたかもしれない。だが、アルコールに酔い、感受性が爆発したヒナタの容赦ないフリーハグによって、院長であるサクラコさえ肋骨を押さえて倒れるなど、シスターフッドが一時的に無力化された。まさに大聖堂を阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌させた、恐るべき物理的テロ行為だった。

 

当時ナギサは、『被害当事者であるシスターフッドが慈愛に満ちた赦しによって終結させた事案に、ティーパーティーが介入することは越権行為に当たる』という名分を掲げ、議案を穏便に却下することで、ナホトの痛恨の失敗をひそかにもみ消さなければならなかった。

 

蝗の群れを防ぐためだと言って、ミレニアムのC&C、ゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部という、他学園の武装集団をトリニティ領内へ無断で持ち込んだ事件。

 

一歩間違えば自治区間の武力紛争へ発展しかねなかった事態を、ナギサはシャーレの権限を盾にして、『ミレニアムの生徒たちによる海辺への避暑、および農村奉仕活動を兼ねた観光』という涙ぐましい行政上の煙幕を張ることで、かろうじて防ぎきった。

 

さらに、真相調査を名目に自ら現場へ足を運び、他の高位役職にある生徒たちからの圧力まで抑え込んだ。

 

ゲヘナの美食研究会が、お兄様の栽培した新品種のブドウを奪おうとして、トリニティのど真ん中にあるガウディーホテルのテラスを丸ごと爆破したときも同じだった。

 

よりにもよって、その場にパテル派の高位役職者が関わっていたため、一部では極めて悪意に満ちた中傷まで持ち上がった。

 

『かつてパテル派の聖所で翼を失ったイズレ・ナホトが恨みを抱き、そのプリミティエ・エデンを餌にして美食研究会を誘い込み、パテル派を狙った間接テロを依頼したのではないか』というものだった。

 

ナギサは、復讐のために新品種を開発したなどという話は荒唐無稽だとして、この事件をカイザーコンストラクションと美食研究会の間に発生した偶発的な衝突として処理した。

 

さらに一歩踏み込み、いっそ『カイザーコーポレーションがトリニティの自治権を侵害し、首脳部を脅かした重大なテロ行為』であると公式に規定した。そして、再開発事業を狙っていたカイザー勢力を粛清することで、非難の矛先をそちらへ向けた。

 

だが、今度は。

 

他学園の展示場へ入り込み、ショットガンを発砲して、トリニティの崇高な象徴である『翼』を粉々に砕いてしまった事件。

 

すでにクロノス報道部の放送を通じ、当該彫像の存在はキヴォトス全域に知れ渡っている。

 

「……」

 

ナギサは静かに唇を噛み締めた。

 

先ほど、こめかみに青筋を立てていた生徒の怒りは、至極当然の反応だった。

 

トリニティの生徒たちにとって、『翼』とは自らのアイデンティティであり、天より授けられた神聖さの絶対的な象徴である。それがショットガンによって無残に粉々にされ、他学園でこれ見よがしに展示されているという事実は、トリニティ全体を冒瀆する行為にほかならなかった。

 

すでにクロノス報道部の放送網を通じて、彫像の姿はキヴォトス全域へ広まっている。ティーパーティーのホストとして、ワイルドハント芸術学院に即時の抗議書簡を送り、当該彫像の展示を全面的に中止させることは、避けることのできない、必ず踏まなければならない当然の外交的手順だった。

 

しかし、ナギサの胃を鋭く締めつけている本当の理由は、他自治区の学園との外交問題ではなかった。

 

ワイルドハント評議会の書簡によって、暴徒の正体がナホトであることまで、すでにトリニティの行政網に受理されている状況だった。

 

彫像を撃ち、翼を破壊して冒瀆した不敬なテロリストだとして、シスターフッドのシスターたちや、正義実現委員会の強硬派が立ち上がり、その異端者を見つけ出して地下取調室へ引きずってこいと騒ぎ始めるのは、時間の問題だった。

 

『お兄様。いったい私に、どこまで、どれほど重い荷を背負わせるおつもりなのですか』

 

ナギサは心の中で、ナホトに対して恨み言をこぼし、拗ねるように愚痴を吐いた。

 

だが、その感情の根底に怒りはなかった。

 

無理やり継ぎ接ぎされた翼を目にしたとき、ナホトが感じたであろう吐き気と苦痛を想像できたからこそ、怒りを覚えるよりも、胸の奥がひりひりと疼くような痛みを感じていた。

 

むしろ、見舞いに訪れ、翼を失ったナホトの姿を目にした途端に理性を失い、『お兄様の、その自己犠牲的な優しさは美徳ではなく、ただの愚かさです』と叫んだ、あの日の記憶が、ナギサの胸を張り裂けんばかりに締めつけた。

 

だが、感傷に浸っている時間はなかった。

 

先ほどの生徒が見せた、こめかみに青筋を立てるほどの反応からも分かるように、ナホトが『トリニティの翼を破壊した異端者』という烙印を押され、正義実現委員会の地下取調室か、シスターフッド地下の異端審問室へ引きずられていくことは明白だった。

 

『まず最初に、この事件にまとわりついた宗教的、象徴的な不敬性を、完全に洗い落とさなければなりません』

 

シスターフッドの無力化、自治区内における他学園の軍事作戦疑惑、パテル派高位役職者に対するテロ疑惑の揉み消し。

 

それらに続き、今度はトリニティの象徴を破壊したという『異端』の疑惑まで。

 

学園内のどれほど厳格な政敵であろうと、決して揚げ足を取ることのできない、完璧で、なおかつ狡猾な大義名分を絞り出さなければならなかった。

 

ナギサは頭が砕けそうなほどの激しい頭痛を黙って耐えながら、お兄様に塵ほどの被害も及ばぬよう、ただ一人、深夜まで静まり返った執務室に残り、書類との凄絶な死闘を続けなければならなかった。

 

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