多様性ラプソディ   作:夕々@4649

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自販機

 朝、登校すると、ヴァンが自販機の前に立っていた。

 

 何を買うでもなく、腕を組んでじっと商品欄を見上げている。かなり深刻な顔だった。昨日の昼にドラゴンの鱗を栞へ加工してくれた時より、深刻かもしれない。

 

「どうしたの?」

 

 俺は隣に立って、自販機を見上げた。

 

「あ、もしかして上の方届かないとか? 押す?」

 

「ん? ああ、違う違う。確かに届かないがな」

 

「届かないんだ」

 

「それくらい椅子でも持ってくればいい」

 

「自販機の前に椅子持ってくる高校生、だいぶ嫌だけど」

 

「そんなことより」

 

 ヴァンは低い声で言った。

 

 すごく深刻そうな顔だった。

 

「酒がないなと」

 

 俺は自販機を見た。

 

 水。お茶。スポーツドリンク。炭酸飲料。コーヒー。いちごミルク。なぜか栄養補助ゼリー。

 

 確かに、酒はない。

 

 ないに決まっている。

 

「今日の一時間目なんだっけ?」

 

「話のそらし方が下手すぎないか?」

 

「保健体育だった気がする」

 

「だから何だ」

 

「単元、飲酒と健康じゃなかった?」

 

「喧嘩売ってるのか?」

 

 売ってはいない。

 ただ、タイミングがあまりにも完成されていた。

 

「おはよー」

 

 後ろからガラテアの声がした。

 

 振り返ると、ガラテアが鞄を肩にかけて歩いてくる。朝から髪がさらさらしている。長生きすると寝癖も出なくなるのだろうか。いや、それは関係ないか。

 

「ん? どうかした? 二人とも変な顔してるけど」

 

「聞いてよ。学校の自販機に酒がないとか言うんだよ」

 

「ああ」

 

 ガラテアは納得したようにうなずいた。

 

「酒呑にとっては命の水だもんね。意味わかんないけど」

 

「フォローするのか否定するのかはっきりしろ!」

 

 ヴァンが珍しく声を荒げた。

 

「いや、でも学校だよ?」

 

「だから何だ」

 

「だから何だ、じゃないよ。学校の自販機に酒が入ってたら、だいぶ攻めた校風になるだろ」

 

「今の技術なら、俺たち専用の自販機の設置くらいできると思うんだがな」

 

 ヴァンは真顔だった。

 

「種族証明書と年齢認証を通せばいい。酒呑専用。購入履歴も管理できる。むしろ安全だろ」

 

「安全の方向が変なんだよ」

 

「専用自販機が無理なら、職員室に置くとか」

 

「職員室に置いたら先生方も飲みたくなるんじゃない?」

 

 ガラテアが言った。

 

「飲めばいいだろ。飲める年齢なら!」

 

「なんの会話?」

 

 俺は思わず学生らしくない会話についていけない。

 朝の校内で、制服姿の同級生二人が、酒の自販機を職員室に置くべきかどうか真剣に話している。

 

 総合学校、四日目。

 

 俺はまだ一時間目も始まっていないのに、もう帰りたくなっていた。

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