朝、登校すると、ヴァンが自販機の前に立っていた。
何を買うでもなく、腕を組んでじっと商品欄を見上げている。かなり深刻な顔だった。昨日の昼にドラゴンの鱗を栞へ加工してくれた時より、深刻かもしれない。
「どうしたの?」
俺は隣に立って、自販機を見上げた。
「あ、もしかして上の方届かないとか? 押す?」
「ん? ああ、違う違う。確かに届かないがな」
「届かないんだ」
「それくらい椅子でも持ってくればいい」
「自販機の前に椅子持ってくる高校生、だいぶ嫌だけど」
「そんなことより」
ヴァンは低い声で言った。
すごく深刻そうな顔だった。
「酒がないなと」
俺は自販機を見た。
水。お茶。スポーツドリンク。炭酸飲料。コーヒー。いちごミルク。なぜか栄養補助ゼリー。
確かに、酒はない。
ないに決まっている。
「今日の一時間目なんだっけ?」
「話のそらし方が下手すぎないか?」
「保健体育だった気がする」
「だから何だ」
「単元、飲酒と健康じゃなかった?」
「喧嘩売ってるのか?」
売ってはいない。
ただ、タイミングがあまりにも完成されていた。
「おはよー」
後ろからガラテアの声がした。
振り返ると、ガラテアが鞄を肩にかけて歩いてくる。朝から髪がさらさらしている。長生きすると寝癖も出なくなるのだろうか。いや、それは関係ないか。
「ん? どうかした? 二人とも変な顔してるけど」
「聞いてよ。学校の自販機に酒がないとか言うんだよ」
「ああ」
ガラテアは納得したようにうなずいた。
「酒呑にとっては命の水だもんね。意味わかんないけど」
「フォローするのか否定するのかはっきりしろ!」
ヴァンが珍しく声を荒げた。
「いや、でも学校だよ?」
「だから何だ」
「だから何だ、じゃないよ。学校の自販機に酒が入ってたら、だいぶ攻めた校風になるだろ」
「今の技術なら、俺たち専用の自販機の設置くらいできると思うんだがな」
ヴァンは真顔だった。
「種族証明書と年齢認証を通せばいい。酒呑専用。購入履歴も管理できる。むしろ安全だろ」
「安全の方向が変なんだよ」
「専用自販機が無理なら、職員室に置くとか」
「職員室に置いたら先生方も飲みたくなるんじゃない?」
ガラテアが言った。
「飲めばいいだろ。飲める年齢なら!」
「なんの会話?」
俺は思わず学生らしくない会話についていけない。
朝の校内で、制服姿の同級生二人が、酒の自販機を職員室に置くべきかどうか真剣に話している。
総合学校、四日目。
俺はまだ一時間目も始まっていないのに、もう帰りたくなっていた。