最強の兄弟喧嘩   作:心ここにあらず

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十三話

薬師・仙泉・市大三高の三つ巴によるGW練習試合も最終戦を迎えようとしていた。ここまで仙泉相手に期待のホープである真木を打ち崩し真田という新たな種も生まれ大勝した薬師高校と、天久というプロスペクトにより仙泉相手に何もさせず持ち前の打撃で大差をつけ完勝した市大三高。

 

互いに余力を残しての最終戦…奇しくも2チームはこの一戦にチームで1番の投手"エース"を温存しこの強敵相手にぶつけるという選択肢を選んだ。

 

 

 

そして本日の最終戦…

 

 

 

 

 

 

 

「タッパは仙泉の一年の方がありそうだな」

 

 

「それでも180近くはありそうだから一年にしちゃあデカいけどな。」

 

 

「お、ほらそろそろ投げるぞ」

 

 

 

 

 

先行を選んだ市大ナインはマウンド上で投球練習を始めようとした空を見つめ話す。

 

そして"それ"は起こった。

 

 

 

 

ーー"ズドォォォォォォォォォォォォン!!!"

 

 

 

 

破裂音のような轟音がグラウンド中を響き渡らせ、観客、味方、相手高、全ての視線を引きつけ黙らせる。それはまるで自分以外の全てが脇役、挑戦者であり、自分こそが最強でありチャンピオンであると誇示するかのような一球であった。

 

 

市大三の選手たちは無言のまま目を見開く。たったそれだけで、この一年生が”普通ではない”ことを本能が理解してしまったからだ。

 

 

 

「……おいおい。たまんなぁな梅宮ぁ」

 

 

 

ベンチにもたれ掛かっていた天久が、初めて真っ直ぐマウンドへ視線を向ける。その口元には笑みが浮かんでいる…だが、その目だけは笑っていなかった。

 

 

 

一方、打席付近でバットを肩に担いでいた市大三の選手たちも、無意識に唾を飲み込む。

 

 

 

「…ははは…本当に一年かよ…コイツ」

 

 

 

空はそんな周囲の反応など意に介さず、新しいボールを受け取る。ゆっくりと指先で縫い目を確かめると、もう一度プレートへ足を掛けた。その横顔には気負いも昂りもない。

 

 

 

「グラウンドに立てば上級生も下級生もない…ましてや名門も弱小も関係ない。…あるのはただ…」

 

 

 

 

 

 

 

『プレイボォォォル!!!』

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーズドォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

『"俺に蹂躙されるか否かのみだ"』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先頭、2番と二者連続で三振を奪った梅宮は3番で市大随一のバットコントロール技術を持つ男に対しても真っ向からねじ伏せた。…結果、県内でもトップクラスの打撃力を有しているはずの市大打線を三者連続三球三振で締め落とすという結果を叩き出したのであった。

 

 

 

 

 

「"Monster"(怪物)… 改めて 噂に違わぬ実力だ。」

 

 

 

市大の監督である田原は集まっているナインに向かって口にする。

 

 

 

 

「これでもう彼の実力を疑う者などいない…ではどうするか…我々は我々の野球をしようではないか!!作戦は試合前と変わらない!さぁ行こう!Going!Going Go!!」

 

 

 

「「「しゃあ!!」」」

 

 

 

 

しかし、この程度で怯むほど市大は弱く無い。だからこその名門…そして今からマウンドに上がるのは決して向こうの怪物投手にも劣らないであろうエースなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田ぁ〜力んで難しいボール引っ掛けんじゃねぇぞ!」

 

 

 

「おすっ!」

 

 

 

 

つっても"あのレベルの投手"が初回から甘い球を投げてくれるとは考えづれぇ…初回からエンジンを掛けてくるような投手じゃなかっはずだが如何にも嫌な予感がプンプンしやがるぜ

 

 

 

 

 

そして雷蔵の予感は的中する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!

 

 

 

 

「っ!?」

(なんつぅコースだよ…)

 

 

 

 

 

「っ…ストレーー」

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!

 

 

 

「っ…高速…スライダー」

 

 

 

 

市大の正捕手…遠藤はこれほど調子の良い真中を見たことが無かった。…確かに真中は好投手であることには間違いない。しかし全国レベル…甲子園に出ている投手クラスと比べたときに劣っているとは言わないが優れているとは到底言えなかった。

 

しかし、今の真中は…球威・制球・キレ共に過去最高…これまで相対した甲子園クラスの投手達にも優るレベルであった。

 

 

 

 

 

そしてそれは真中本人も感じるところであった。

 

 

 

 

 

(体が軽い…まるで指先神経が通ってるみたいだ。こんな感覚……初めてだ)

 

 

 

ミットだけが、やけにはっきりと見える。狙った場所へ吸い込まれるように腕が振れ、ボールが意思を持ったかのように捕手の構えへ突き刺さる。

 

 

理由はおそらく…

 

 

 

"梅宮空"が見せたあの投球…アレを間近で体感しあの一球を見せられた瞬間、身体の奥底で眠っていた”投手”としての本能が叩き起こされた。

 

 

 

(……そうか…俺は今……楽しいんだ)

 

 

自分より格上かもしれない相手。だからこそ負けたくない。追いつきたい。

 

いや――越えたい。

 

その純粋な闘争心が、真中の眠っていた力を余すことなく引き出していた。

 

 

 

 

「ストライーーーク!! バッターアウト!!」

 

「よしっ!!」

 

 

 

山田を僅か五球で料理すると、続く打者も危なげなく打ち取っていく。

 

 

 

ーーードパァァァァァァン!!

 

 

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

「ナイスボール真中さん!」

 

 

 

薬師打線が誇る豪快なスイングも、この日はことごとく空を切る。雷蔵は腕を組みながら小さく息を吐いた。

 

 

 

(……ちっ…やっぱりか…空の野郎に当てられやがったか。)

 

 

 

怪物の存在は、相手を絶望させるだけではない。一流であればあるほど、その怪物を前に己の限界を超えようとする。今の真中は、まさにそれだった。眠っていたエースの矜持が、空という存在によって呼び覚まされていたのである。

 

そして相対するは薬師打線のクリーンアップにして真中を目覚めさせた男・空である

 

 

 

 

「ははっ…やっぱりな。」

 

 

 

 

真中の投球や目の前にしてなお空は笑みをこぼした。

 

 

 

 

「本物だったか。…くく…久しぶりに激ってきやがったぜ」

 

 

「ふっ…」

 

 

 

肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべる空を見た真中も笑みを溢す

 

そして帽子の鍔の奥で細くなった瞳が、捕手・遠藤のミットだけを射抜いた。真中がゆっくりと左足を持ち上げワインドアップの構えから軸足が深く沈み込み、全身に溜め込まれた力が弓のようにしなる。

 

 

次の瞬間――

 

 

 

身体が爆発した。腰が切れ、肩が開く寸前まで腕は鞭のように遅れてついてくる。限界まで打者へ近付いた位置から解き放たれた白球は、空気を裂きながら一直線にミットへ襲い掛かる。

 

 

 

 

「うぉぉぉら!!」

 

 

 

 

真中のボールを目で捉え狙いを定めた空はボール目掛けバットを振り抜く。

 

 

 

 

「っ…なんつぅスイングしやがるコイツ」

 

 

 

 

豪快に振り抜いた空であるが真中の投げたボールは空のバットを掻い潜り捕手のミットに収まっていた。

 

 

 

「ははっ、すっげ…今のが高速スライダーか!」

 

 

 

空振りを喫した空であるがその表情に焦りは一切見えない。空の豪華なスイングを間近で目撃した遠藤はなんとしてでもバットに当てさせてはならないと考える。

 

 

 

ーーブォォォン!!

 

 

 

「マジで見分けつかねぇわ!」

 

 

 

 

2球目も先ほどと同じくアウトコースのストレートと見せかけてのバックドアのスライダーでストライクを先行させる。ここまで寸分の狂いもない見事な投球を見せるエース・真中

 

 

 

 

「…でも…3球目はないぜ」

 

 

 

「「っ…」」

 

 

 

 

空の言葉と共に真中を見つめるその眼光を目撃した真中と遠藤は背中に冷たいものが流れるような気がした。

 

 

 

(危険だ…コイツには生半可なボールは許されない)

 

 

 

(決めるならコイツしかねぇ!…頼むぞ真中!)

 

 

 

 

市大バッテリーはここで生半可なボールでカウントを稼ぐよりも勝負を優先する選択をする。

 

真中が大きく振りかぶり、その右腕を振り下ろす。投じられたボールは"激しいスピン"を重ね空へと向かっていく。

 

 

 

「ん!」

(高速スライダー!!)

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

バッテリーが選択したのは今打席3球目の高速スライダーであった。いかに球種が少ないと言えど切り札とも言える高速スライダーを多用するとは思えない…

 

 

 

 

ーーはずであった

 

 

 

バッテリーの誤算はここで発生した。なんと空は2度見た高速スライダーに対し自らのイメージと合致させることに成功。そして超回転するボールの視認に成功した空はジャストなタイミングでバットを一閃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャストミート…のはずであった

 

 

 

 

 

今度は空側で誤算が発生した。先までの2球の高速スライダーと空のイメージ…この2つを合致させ振り抜いた空であったが三度投げられた高速スライダーは"回転数"…つまりは変化量が先の2球とは異なってたのだ。

 

 

 

コンマ数センチのズレ…しかし野球の打撃と言うものは数ミリがズレただけで強打から凡打へと変貌を遂げるスポーツである。

 

 

その結論からもたらされる結果はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!!

 

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

「お…まじかぁ…」

 

 

 

「ナイピー真中!!」

 

 

 

「Greatなボールだ真中ボーイ!!」

 

 

 

「…っ」

 

 

 

 

 

空を完璧に抑えた真中に対し市大サイドは暖かく迎えた。…しかし当人である真中本人はとても満足しているような表情は浮かべておらず…

 

 

 

「??どうしたんだ真中ボーイ」

 

 

 

「……違うんです…今のボールは"本当なら打たれてた"筈なんです。」

 

 

 

「如何言う意味だ?」

 

 

 

リリースの瞬間、ボールがいつも以上に指へ食い込む感覚があった。俺が狙った以上に鋭く、そして大きく曲がる。意図したコースから外れたその一球は、結果として打者のバットをかわし、梅宮を切らせた。コースも変化量も俺の想定を超え、完全に投げミスだった。だが、その”偶然”が打者の読みを外し、結果だけを見れば最高の一球になってしまった。

 

 

 

 

「くそっ…抑えてこんな気持ちになったのは初めてだ…」

 

 

 

 

そう言い真中は対岸にいるであろう梅宮へと目を向ける

 

 

 

 

「次は必ず抑えて見せる…」

 

 

 

 

名門のエースはどこまでも貪欲にただひたすら前だけを向いている。もう結果だけでは満足出来ない。内容も含めて全て手に入れて見せる…それが市大三高のエースを背負う者の宿命なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三振した割に随分と嬉しそうな顔じゃねぇか」

 

 

 

 

三振を喫した空に対して真田が声をかけた

 

 

 

「ふっ…そう見えるか?」

 

 

 

「あぁ。ここ最近で1番笑ってるぞ」

 

 

 

「久しぶりの挑戦者だ。今楽しまなくて如何するんだよ」

 

 

 

「三高相手にチャンピオン気取りかよ。どこまでも上からだなほんと」

 

 

 

「燃えてきたぜ」

 

 

 

 

 

そして——

 

怪物に触発されたエースと、そのエースを引っ張り上げた空。両者一歩も譲らぬ投手戦が、ここから幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両校のエースが支配的な投球で圧倒することから始まった薬師と市大の練習試合、互いに絶対的な力を持つエースを抱える投手力はさることながら1番から9番まで隙のない打者が揃う市大打線とバント無しのフルスイングが主体のパンチ力のある打線が武器の薬師打線。

打撃力もうりの両校であるが、試合は思いもよらぬ展開が続いていた。

 

 

 

 

 

 

「…ここまで拮抗した試合が続くとはな」

 

「真中はともかくついこの前まで中学生だった梅宮はどうなんだ…」

 

「本物だったってことだよ。"帝東と市大"にこのピッチングなんだから。」

 

「とは言っても"2人の内容は大きく異なる"けどな」

 

 

 

この試合を見届ける観客達が口を揃えて言った通り、試合は思いもよらぬ投手戦が繰り広げられていた。

 

 

試合は現在7回表が終了した時点…

 

 

空は初回から快投を繰り広げここまで被安打2の無失点であり、奪三振は脅威の14奪三振であり、とてもルーキーとは思えないピッチングである。

 

対する真中は無失点で抑えているものの、被安打は7であり毎回のようにランナーを貯めるものの要所を占める投球と鉄壁を誇る野手陣の奮闘によりどうにかこの投手戦を繋いでいると言う様相。

 

 

 

そして、7回裏というゲームの終盤に入る場面…等々薬師打線が真中を捉え始める。疲労が溜まった真中は序盤から見せていた寸分の狂いも許さない制球が言うことを聞かなくなり甘めのボールが増えだす。

 

そして、それを見逃してくれるような打者は今の薬師打線にはいなかった。

 

 

 

結果…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か真中?」

 

「……はぁ……はぁ…はい…」

 

 

薬師の主砲である黒川に2点タイムリーを許してしまった真中に対し、内野陣が円を囲むように集合する。真中の疲労は酷く、今も滴る汗の量と吐く吐息の回数がそれを物語っている。

 

 

 

「…真中もう十分ーー」

 

「本当に一年なんすかねアイツ」

 

「は?」

 

 

 

遠藤の言葉に被せるように真中がいい放つ。遠藤が見た真中の表情はいかんせん疲労困憊であるが目の輝きは消えていない。

 

 

 

「ふっ…同感だ」

 

「だよな大前」

 

「…お前達」

 

 

 

真中の言葉にファーストの大前も反応し、2人は笑う。

 

 

 

 

「…」

 

「…っ…まだ行けるか?」

 

「もちろんですよ。…中学上がりのルーキーにこれ以上調子に乗らせるわけには行きませんからね」

 

 

監督とアイコンタクトを取った遠藤は真中に確認する。そして真中の答えを聞き、監督に向かって合図を送る。"エースはまだ死んでいない"…と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7回と8回を2失点で止めた真中は8回を投げ2失点の好投で締めくくる。…しかし、相手は梅宮空であり空自身は現在の9回途中まで投げ16奪三振の被安打4、無失点である。

 

 

そして9回ツーアウトの時点で打席に入るのはーー

 

 

 

 

「ここまでとはな」

 

 

 

 

そう言いながらも顔には一切の曇りはなく、晴れやかな表情を浮かべているエース・真中。

 

真中自身はここまで3打数無安打でありチームの中でも9番に入っていることから打撃はピッチング程得意ではない。本来の実力差を加味するなら空なら無難に抑えれる相手であるが…

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!

 

 

 

 

真中であっても…いや…"真中だからこそ"空はこの試合でも1番のボールを投げていた。それはここまで対等に投げ合ってきたライバルに対しての敬意か…それとも

 

 

 

そしてツーストライクと追い込んだ空は市大を…真中を仕留める為に最後の腕を振るう

 

 

 

 

 

「ふっ…本当に凄いよ。お前はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーだが、俺もこのままじゃあ終われない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーガキンッ!!

 

 

 

 

「いっ!?」

(ってぇな!…まるで鉛みてぇなボールだぜ)

 

 

 

 

 

鈍い音が響き渡る。これまで全くタイミングの合っていない真中は空のストレートに対して一か八かの賭けに出た。コースを高めに設定しインでもアウトでも強振すると決め、あとは空の足を上げるタイミングを伺うだけ。

 

そうすることでタイミングを測った真中はインコース高めへと投じられたストレートを強振する。

 

 

鈍い音を奏でながら打たれた打球の行方はーー

 

 

 

 

 

「…うっそだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーガシャン…とレフトフェンスを僅かに超える真中自身、高校初ホームランとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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