TS転生おっさん物語   作:すすぺっと

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第26話 学校の高遠さんと、家の透花

俺にとって、高遠透花というクラスメイトは、少し変わったやつだ。

 

別に、話しかけにくいわけじゃない。

 

声をかければ普通に返事をするし、冗談を言えば呆れながらも返してくる。

機嫌が悪いわけでもなければ、他人を避けているわけでもない。

 

だから前に瀬尾から、

 

「高遠さんって、ちょっと高嶺の花っぽくない?」

 

と聞かれた時も、正直あまりピンと来なかった。

 

見た目の話なら分かる。

 

背が高くて、顔立ちも整っていて、黙って座っているだけでも妙に目立つ。

 

その上、一人でいても全然気にしていないように見える。

 

そういうところだけ見れば、ちょっと話しかけづらいと思うやつがいるのも分からなくはない。

 

でも。

 

「高遠、今日一人?」

 

放課後。

 

帰り支度をしていた高遠に声をかけると、鞄へ教科書を入れながら顔を上げた。

 

「うん」

 

「珍しいな」

 

「そう?」

 

「いつも誰かいるじゃん」

 

朝比奈だったり、小日向だったり、白河だったり。

 

最近は、気づくと誰かしら高遠の近くにいる。

 

俺がそう言うと、高遠は少しだけ考えた。

 

「私が呼んでるわけじゃないけど」

 

「それは知ってる」

 

「じゃあ珍しくないでしょ」

 

「いや、一人になってる時間が珍しいって意味」

 

「そういうこと?」

 

そこでようやく納得したらしい。

 

こういうところだ。

 

たまに、こっちの言葉を妙にそのまま受け取る。

 

変に勘ぐらないというか。

余計な意味を足さないというか。

 

かと思えば、少し真面目な話をすると、今度は妙に落ち着いた答えが返ってくる。

 

同じ高校一年生のはずなのに、時々年上と話しているような気分になる。

 

「桐生は?」

 

「ん?」

 

「帰らないの?」

 

「帰るよ。ちょっと友達待ってる」

 

「そっか」

 

それで会話は終わった。

 

高遠は、

 

「じゃあまた明日」

 

と軽く手を上げ、そのまま教室を出ていく。

 

俺も、

 

「おう、またな」

 

と返した。

 

やっぱり普通だ。

 

少なくとも俺には、瀬尾が言うほど遠い人間には見えない。

 

ただ。

 

その日の夕方。

 

俺は、自分が知っている高遠透花が、学校で見ている一面でしかなかったことを知ることになる。

 

◇

 

夕方。

 

俺は近所のスーパーにいた。

 

家に帰った直後、牛乳と卵が切れそうだから買ってきてほしいと頼まれたからだ。

 

ついでに自分の飲み物も籠へ入れる。

 

あとは卵を取れば、とりあえず頼まれたものは揃う。

 

そう思いながら売り場を歩いていると、少し先に見覚えのある後ろ姿が見えた。

 

背が高い。

 

この辺りで、あのくらい背の高い女子はそう何人もいない。

 

――高遠?

 

少しだけ目で追う。

 

やっぱり高遠だった。

 

学校の制服ではなく、私服姿だ。

 

ただし、一人じゃない。

 

近くに、中学生くらいの男女がいる。

 

二人とも高遠と同じ買い物籠を覗き込みながら、何か話していた。

 

弟妹か。

知り合いか。

 

そこまでは分からない。

 

だからといって、わざわざ近づいて確かめる理由もない。

 

誰かと一緒にいるクラスメイトを見つけたからといって、遠くから声をかけるほどでもないし。

 

俺はそのまま自分の買い物を続けることにした。

 

ところが、売り場を一つ移ったところで声が聞こえてきた。

 

「姉ちゃん、それ買おうぜ」

 

声の聞こえた方に視線を向けると。さっき高遠と一緒にいた男子がいた。

 

「いらない」

 

高遠が即答する。

 

「早くない?」

 

「家に似たのあるでしょ」

 

「あるけど、あれ俺のじゃないし」

 

今度は女子の声がした。

 

「私のでもないよ」

 

「じゃあ誰のだよ」

 

「知らない」

 

「まず家に何があるか確認してから交渉して」

 

高遠が淡々と締める。

 

男子が不満そうに唸った。

 

「姉ちゃん、そういうところ妙に現実的なんだよな」

 

「買って余らせる方がもったいないでしょ」

 

「夢がない」

 

「お菓子に夢を求めるなら自分のお金でどうぞ」

 

「強い」

 

思わず口元が緩んだ。

 

やっぱり弟と妹らしい。

 

それにしても。

 

――高遠、家だと普通に姉ちゃんやってるんだな。

 

別人みたいに変わっているわけではない。

 

声も表情も、学校で見る高遠と大きく違わない。

 

ただ、返事が早い。

 

言葉にも遠慮がない。

 

いちいち相手がどう受け取るかを考える前に、ぽんぽん返しているように見える。

 

まあ、家族ならそんなものか。

 

それ以上見ているのも変なので、俺は別の棚へ向かった。

 

今日の目的は高遠の家族観察じゃない。

 

牛乳と卵だ。

 

あと自分の飲み物。

 

ついでに何か菓子でも買う。

 

それでいい。

 

そう思って棚の角を曲がったところで。

 

「あ」

 

真正面に高遠がいた。

 

向こうも俺に気づいて、少しだけ目を丸くする。

 

「……桐生?」

 

「よう、高遠」

 

結局会った。

 

ここまで近くで顔を合わせたなら、無視する方がおかしい。

 

「買い物?」

 

「見れば分かるでしょ」

 

「まあ、そうだけど」

 

高遠の手には買い物籠がある。

 

野菜や調味料、菓子類までいろいろ入っていた。

 

「家の買い物?」

 

「うん。母さんに頼まれたのと、なくなりそうなもの」

 

「ちゃんとしてんな」

 

「買い物くらいするでしょ」

 

学校で話している時と変わらない。

 

そう思ったところで、後ろから足音が近づいてきた。

 

「姉ちゃん、これって――」

 

さっきの男子が菓子の袋を手にやってくる。

 

途中まで言いかけて、俺を見た。

 

止まる。

 

少し遅れて、さっきの女子も来た。

 

こちらも俺を見て、ほんの少し首を傾げる。

 

一瞬だけ、妙な間ができた。

 

そりゃそうだ。

 

俺からすれば、高遠の弟と妹らしい二人。

 

向こうからすれば、姉と知らない男が話している。

 

高遠が俺たちを順番に見た。

 

「あ、こっちは同じクラスの桐生颯太」

 

紹介されたので、軽く頭を下げる。

 

「桐生颯太。高遠と同じクラス」

 

続いて高遠が二人へ視線を向ける。

 

「こっちは弟の悠真と、妹の結衣。双子」

 

「高遠悠真です。どうも」

 

男子――高遠弟が軽く頭を下げる。

 

「高遠結衣です。はじめまして」

 

高遠妹も続いた。

 

「あ、はじめまして」

 

俺も改めて頭を下げる。

 

それから二人を見比べた。

 

「双子なんだ」

 

「そうっす」

 

高遠弟が答える。

 

言われてみれば、どこか似ている気もする。

 

ただ、雰囲気は結構違う。

 

高遠弟の方は、見るからに話しやすそうだ。

 

高遠妹は少し落ち着いていて、こっちを静かに見ている。

 

自己紹介が済んだことで、さっきまでの微妙な間がなくなった。

 

まず口を開いたのは高遠弟だった。

 

「桐生さんって、姉ちゃんとよく話すんですか?」

 

いきなりそこから来るのか。

 

「まあ、クラスで普通に」

 

「へえ」

 

高遠弟が面白そうに高遠を見る。

 

「姉ちゃん、ちゃんと男子とも喋ってんじゃん」

 

高遠の眉が少しだけ動く。

 

「何だと思ってたの」

 

「いや、喋るとは思ってたけど」

 

「今の言い方だと違うでしょ」

 

俺も気になった。

 

「俺も聞きたい。高遠、学校でどんな扱いされてる想定なんだ?」

 

「ほら、桐生さんも気になってる」

 

「桐生まで乗らなくていいから」

 

高遠が呆れたように言う。

 

高遠弟はかなり話しやすいタイプらしい。

 

初対面でも、自己紹介さえ終われば遠慮がない。

 

一方、高遠妹はすぐには会話へ入ってこなかった。

 

俺と高遠のやり取りを少し眺めてから、ぽつりと言う。

 

「桐生さん、お姉ちゃんと話すの慣れてますね」

 

「そう?」

 

「はい」

 

「まあ、同じクラスだし」

 

「そうなんですね」

 

それだけ言って、高遠妹は今度は姉を見る。

 

なんとなく分かった。

 

高遠弟は口に出す。

 

高遠妹は先に見る。

 

同じ双子でも結構違う。

 

「それより」

 

高遠が弟の手元を見た。

 

「そのお菓子何?」

 

「これ?」

 

高遠弟が袋を持ち上げる。

 

「新商品」

 

「聞いてない」

 

「買おうかなって」

 

「自分のお金?」

 

「家計から」

 

「戻して」

 

「交渉の余地は?」

 

「ない」

 

「姉ちゃん判断早すぎ」

 

「さっきも同じ話したでしょ」

 

そこで高遠弟が俺を見る。

 

「桐生さん、どう思います?」

 

「俺に振るの?」

 

突然、他人の家庭内会議に参加させられた。

 

高遠も俺を見る。

 

「桐生、余計なこと言わなくていいから」

 

「圧が強い」

 

「普通だよ」

 

「姉ちゃんの場合、その普通が怖いんだって」

 

「俺を巻き込むなよ」

 

「公平な第三者の意見が欲しくて」

 

「初対面の相手を家庭内裁判に呼ぶな」

 

高遠が呆れたように言う。

 

「まあ、自分の金ならいいんじゃない?」

 

俺がそう答えると、高遠弟がすぐ高遠を見る。

 

「ほら」

 

「最初からそう言ってるでしょ」

 

「家計から出したかった」

 

「じゃあ駄目」

 

即座に潰された。

 

思わず笑う。

 

学校で、高遠にここまで遠慮なく突っ込むやつはそう多くない。

 

朝比奈なら近いかもしれないが、それとも少し違う。

 

完全に家族の距離だ。

 

「じゃあ俺は巻き込まれないうちに――」

 

言いかけたところで、高遠妹が姉の籠を覗き込んだ。

 

「あ」

 

「なに?」

 

「お姉ちゃん、自分のお菓子入れてる」

 

高遠が止まる。

 

高遠弟もすぐに籠を見る。

 

「あ、本当だ」

 

「それは私のお金で買うから」

 

「俺も自分のお金ならいいってこと?」

 

「だから最初からそう言ってるでしょ」

 

「細かい」

 

「そこは細かくするところ」

 

高遠妹が小さく笑った。

 

俺もつられて笑う。

 

高遠がこっちを見る。

 

「桐生まで笑わなくていいから」

 

「いや」

 

俺は改めて三人を見る。

 

「高遠って、家だとちゃんと姉ちゃんなんだな」

 

「ちゃんとって何?」

 

「そのままの意味」

 

「よく分からない」

 

本人は本当に分かっていないらしい。

 

でも、学校で見る時とはやっぱり少し違った。

 

学校でも別に取り繕ってはいない。

 

ただ家族の前だと、もう一段遠慮がない。

 

返事も早い。

 

突っ込みも容赦がない。

 

高遠弟も高遠妹も、それを当たり前のように受け取っている。

 

今度は高遠弟が俺へ聞いた。

 

「逆に、姉ちゃんって学校だとどんな感じなんですか?」

 

「俺に聞く?」

 

「はい」

 

「本人いるけど」

 

「本人に聞いても分かってないんで」

 

高遠が横から口を挟む。

 

「どういう意味?」

 

高遠妹が静かに続けた。

 

「それはちょっと分かる」

 

「結衣まで?」

 

「お姉ちゃん、自分が周りからどう見られてるか、あんまり気にしてないから」

 

「ああ」

 

思わず納得した。

 

確かにそうだ。

 

高遠本人に、

 

『学校で自分がどんな感じか』

 

なんて聞いたところで、

 

『普通じゃない?』

 

で終わりそうな気がする。

 

「で、どうなんです?」

 

高遠弟がもう一度聞く。

 

「そうだな……」

 

本人を目の前にして評価するのも妙だが、聞かれたので少し考える。

 

「まあ、目立つ」

 

「やっぱり?」

 

今度は高遠妹が反応した。

 

「そりゃ目立つだろ」

 

俺は高遠を見る。

 

「背、高いし」

 

「そこ?」

 

「顔も含めて」

 

「急に付け足した」

 

「事実だろ」

 

高遠は特に照れるでもなく、

 

「まあ、それは昔からだから」

 

と流した。

 

こういうところも妙に慣れている。

 

「あと」

 

少し迷って、瀬尾との会話を思い出す。

 

「ちょっと近寄りがたいって思ってるやつもいるみたいだな」

 

高遠弟が目を丸くした。

 

「姉ちゃんが?」

 

その驚き方に、高遠が少し不満そうな顔をする。

 

「失礼じゃない?」

 

「いや、だって」

 

高遠弟が姉を見る。

 

「家じゃ姉ちゃんだし」

 

「家族から見たらそうでしょ」

 

高遠妹は少し考えてから、

 

「でも、見た目だけなら分からなくもないかも」

 

と言った。

 

「結衣は分かるの?」

 

「背も高いし、黙ってると落ち着いて見えるし」

 

「黙ってればな」

 

高遠弟が余計な一言を足す。

 

「悠真?」

 

「褒めてる」

 

「どこが?」

 

「外見は」

 

「限定された」

 

また笑ってしまった。

 

瀬尾が少し高嶺の花っぽいと言っていた高遠。

 

その本人が、家では弟にここまで遠慮なく弄られている。

 

どちらが本当というわけでもないんだろう。

 

見る側が違うだけだ。

 

「でもさ」

 

俺は高遠を見る。

 

「家でも結構落ち着いてんだな」

 

「そう?」

 

やっぱり本人は分かっていない。

 

高遠弟が少し考えてから頷いた。

 

「まあ、それはそうかも」

 

「悠真まで?」

 

「だって姉ちゃん、こういう時だけ妙にしっかりしてるじゃん」

 

「こういう時だけって何」

 

「買うもの決める時とか。無駄なの絶対増やさないし」

 

高遠妹も籠の中を見ながら言う。

 

「お姉ちゃん、必要なものといらないもの分けるの早いよね」

 

「買い物なんだから普通でしょ」

 

「姉ちゃんの普通、たまに基準が厳しいんだよ」

 

「さっきお菓子を家計で買おうとしてた人に言われたくない」

 

「それは別の話」

 

「同じ話だよ」

 

また二人が言い合い始める。

 

俺はそれを見ながら、少し納得した。

 

「学校でもそんな感じだぞ」

 

三人がこっちを見る。

 

「そんな感じ?」

 

高遠が聞き返す。

 

「変なところで妙に落ち着いてるっていうか」

 

「変なところ?」

 

「ほら、そうやって一個ずつ確認するところとか」

 

「聞かれたから答えてるだけだけど」

 

「それ」

 

高遠弟が笑った。

 

「学校でも変わんないんだ」

 

「変わってるつもりないし」

 

「姉ちゃん、自覚ないもんな」

 

「何の?」

 

高遠妹が小さく笑う。

 

「そういうところ」

 

「結衣まで何なの」

 

俺も少し笑った。

 

学校で感じていた高遠の妙な落ち着きは、学校で作っているものじゃないらしい。

 

家族から見ても、昔からこうなのだ。

 

そう考えると、なんとなく腑に落ちた。

 

学校では、高遠が少し離れたところから周りを見ていることが多い。

 

でも家族といる時は、高遠弟も高遠妹も遠慮なく姉の中へ入ってくる。

 

高遠も、それを当たり前のように受け入れている。

 

別人になるわけじゃない。

 

学校で見えていなかった部分が、家族と一緒にいると自然に出てくるだけなのだろう。

 

「桐生」

 

「ん?」

 

「さっきから人の家族見て楽しんでない?」

 

「ちょっと」

 

「認めた」

 

高遠弟がすぐに笑う。

 

「分かります?」

 

「分かる」

 

「桐生?」

 

高遠の声が少し低くなる。

 

「冗談だって」

 

半分は。

 

◇

 

少し話しているうちに、本来の目的を思い出した。

 

まだ買うものが残っている。

 

このまま立ち話を続けていたら、帰るのも遅くなる。

 

「じゃあ俺、まだ買うもんあるから」

 

「あ、うん」

 

高遠が頷く。

 

高遠弟も軽く頭を下げた。

 

「じゃあ、桐生さん。また」

 

「おう。またな」

 

高遠妹も、

 

「ありがとうございました」

 

と頭を下げる。

 

「いや、こっちこそ。話せて面白かった」

 

高遠弟がすぐ反応した。

 

「主に姉ちゃんで?」

 

「主に高遠で」

 

「桐生」

 

「じゃあな」

 

何か言われる前に手を上げて、その場を離れる。

 

少し歩いてから、さっきの三人を思い返した。

 

高遠弟は、とにかく姉への遠慮がない。

 

でも、本気で馬鹿にしている感じじゃない。

 

あれだけ好き勝手言える時点で、むしろかなり仲がいいんだろう。

 

高遠妹は、弟ほど前には出ない。

 

その代わり、よく見ている。

 

たまに入ってくる一言が妙に的確だ。

 

初対面の俺にも普通に受け答えしていたし、思っていたより話しやすかった。

 

――高遠の家、結構にぎやかなんだな。

 

学校の姿からは、あまり想像していなかった。

 

一人でいても平気そうで。

 

誰かが来れば話すけど、自分から騒ぎの中心へ入っていくことは少ない。

 

それでも家族といれば、普通に弟と妹に絡まれて。

 

普通に言い返して。

 

普通に姉をやっている。

 

別に性格が変わるわけじゃない。

 

相手が違えば、見える部分も違う。

 

そういうことなのかもしれない。

 

俺は籠の中を見る。

 

牛乳。

 

卵。

 

飲み物。

 

あとは。

 

「……菓子」

 

忘れるところだった。

 

俺も高遠弟を笑えない気がしてきた。

 

◇

 

翌日。

 

教室へ入ると、高遠はもう来ていた。

 

席に座り、プリントを眺めている。

 

昨日までと何も変わらない。

 

背が高い。

 

目立つ。

 

落ち着いている。

 

一人でいても気にしていない。

 

瀬尾が見れば、やっぱり高嶺の花っぽいと言うのかもしれない。

 

でも俺にはもう、別の姿も浮かぶ。

 

弟に菓子を戻せと言っていた高遠。

 

妹にしれっと突っ込まれていた高遠。

 

必要なものといらないものをさっさと分けて、家族にあれこれ言われていた高遠。

 

そう考えると、昨日までより少しだけ身近に見える。

 

俺は自分の席へ向かう途中、高遠の机の横で足を止めた。

 

「高遠」

 

顔を上げる。

 

「なに?」

 

いつもの返事だ。

 

昨日のことを思い出す。

 

「お前、やっぱ普通に姉ちゃんなんだな」

 

高遠が数秒黙った。

 

「……昨日から何だと思ってたの?」

 

「いや、なんか面白くて」

 

「失礼だな」

 

「褒めてる」

 

「悠真と同じこと言ってるよ」

 

「あ、それはちょっと嫌だな」

 

「昨日初めて会った弟と張り合わないで」

 

高遠が呆れたように息を吐く。

 

その反応を見て、俺は少し笑った。

 

やっぱり普通だ。

 

学校で見ても。

家族と一緒にいても。

 

高遠は高遠だった。

 

ただ、今まで俺が見ていたのが全部じゃなかっただけだ。

 

「何笑ってるの?」

 

「いや」

 

俺は自分の席へ向かいながら答える。

 

「高遠って、やっぱ高遠だなと思って」

 

「何それ」

 

後ろから聞こえた声に、また少し笑った。

 

瀬尾の言っていた高嶺の花という表現は、今でも完全には分からない。

 

ただ。

 

遠くから見ている時と、近くで話している時。

 

学校で見る時と、家族といる時。

 

見えるものが少し違うだけで、どれも同じ高遠なんだろう。

 

昨日より、それだけは少し分かった気がした。




これから不定期の更新になりますが、のんびりとお待ちください。
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