TS転生おっさん物語   作:とりにく

6 / 6
お待たせしました。ようやく高校生編スタートです。

台風が来るみたいで、勘弁してほしいですね。
強い勢力のまま本州まで来る話もあるので、お気をつけください。

それでは皆様の評価感想をお待ちしています。



TS転生したおっさん、高校生になる

 

子供の頃の約束は、思っていた以上に長持ちする。

 

中学を卒業し、高校の入学式を迎えた朝。

俺の隣には、当然のように朝比奈千夏がいた。

 

「同じ高校だね、透花」

 

「そうだね」

 

千夏は嬉しそうに笑っている。

 

たぶん、あの川沿いの道で交わした会話を覚えているのだろう。

同じ高校ならね、と軽く返した言葉を、こいつは本当に進路へ反映したらしい。

 

子供の約束、侮れない。

 

新品の制服に袖を通し、校門をくぐる。

知らない顔。

新しい教室。

新しい人間関係。

 

今度こそ、目立たず、揉めず、ほどほどに過ごしたい。

 

そう思っていた。

 

けれど、昇降口へ入ったあたりから、妙に視線を感じる。

 

理由は分かっている。

 

成長期というものは、俺にずいぶん気前よく仕事をした。

気づけば身長は百八十センチ近くまで伸び、ただ立っているだけでも人混みの中から頭ひとつ抜ける。

 

おまけに、あの蛍光灯みたいな神様が裏で何か余計な調整をしたらしく、体型まで妙に整っている。

 

省エネ生活に向かない外見を寄越すな。

 

俺は内心で神様に苦情を入れながら、空いている席へ向かった。

 

その後ろを、千夏がぴったりついてくる。

 

平穏な高校生活。

 

その願いが、入学初日から少し怪しい。

 

教室へ入ると、まだ担任は来ていなかった。

 

窓際では、すでに何人かが小さな輪を作って話している。

廊下側では、教室の番号を間違えていないか不安そうに確認している生徒もいる。

 

新学期特有の空気だ。

 

誰もが周囲を気にしている。

知り合いを探し、座る場所を確かめ、話しかけやすそうな相手を見極める。

 

前世の新入社員研修と少し似ている。

 

違うのは、名刺交換がないことくらいだ。

 

俺は黒板に貼られた座席表を確認した。

 

後ろから二列目。

窓際。

 

悪くない。

 

後方で、外が見える。

授業中に目立ちにくい。

休み時間に窓の外を眺めていても不自然ではない。

 

なかなか良い席を引いた。

 

「透花、席どこ?」

 

「窓側。後ろから二列目」

 

「あたし、その斜め前」

 

千夏が自分の席を確認して、満足そうに笑う。

 

「近いね」

 

「そうだね」

 

「嬉しくないの?」

 

「知ってる顔が近いのは楽」

 

正直に答えると、千夏は一瞬だけ黙った。

 

それから、少しだけ口元を緩める。

 

「……そっか」

 

何か満足したらしい。

 

俺は自分の席に鞄を置いた。

 

椅子を引いて座る。

少し足が窮屈だ。

 

中学生の頃から慣れてはいるが、身長が伸びると机と椅子の規格が合わなくなってくる。

 

これも蛍光灯の余計な仕事の結果である。

 

「ねえ」

 

声をかけられて顔を上げる。

 

斜め向かいの席に座っていた女子生徒が、こちらを見ていた。

肩まで伸びた髪を軽く揺らしながら、興味を隠そうともせずに俺を眺めている。

 

「高遠さん、で合ってる?」

 

「うん」

 

「背、高いね」

 

「よく言われる」

 

「百七十くらい?」

 

「もう少しある」

 

「え、もしかして百八十近い?」

 

「たぶん」

 

女子生徒は目を丸くした。

 

その隣にいた子まで、会話に気づいてこちらを見る。

 

「モデルみたい」

 

小さな声だったが、聞こえた。

 

困る。

 

褒められて悪い気はしない。

ただ、モデルのような活動的な職業に興味はない。

 

できれば日当たりのいい場所で昼寝をしていたい。

 

「部活、何かやってた?」

 

最初に話しかけてきた女子生徒が尋ねる。

 

「特には」

 

「もったいない」

 

「温存してる」

 

「何を?」

 

「体力」

 

女子生徒は一瞬きょとんとして、それから笑った。

 

「あはは。面白いね、高遠さん」

 

面白いことを言ったつもりはない。

 

だが、空気が悪くならなかったので問題なし。

 

その時、千夏が自分の席から振り向いた。

 

「あんまり勧誘しても、透花は動かないよ」

 

「朝比奈さん、高遠さんと知り合い?」

 

「幼馴染」

 

千夏は迷わず答えた。

 

声が少しだけ誇らしげだった。

 

「小さい頃から一緒だから。透花、昔からこういう感じ」

 

「へえ」

 

女子生徒が俺と千夏を交互に見る。

 

その視線には、単なる興味以上のものが少し混ざっていた。

 

新しい人間関係の材料を見つけた顔だ。

 

まずい。

 

俺は静かに窓の外へ視線を逃がした。

 

高校生活初日。

開始早々、幼馴染という情報が公開された。

 

秘匿するようなことではない。

ないのだが、なぜか千夏が言うと所有権の説明みたいに聞こえる。

 

「瀬尾由奈です。よろしく」

 

先ほどの女子生徒が、自分を指差して言った。

 

瀬尾由奈(せおゆいな)

 

俺は頭の中で名前を記憶する。

 

人懐っこい。

話しかけることへの抵抗が薄い。

周囲をよく見ている。

 

たぶん、情報収集が好きなタイプだ。

 

「よろしく、瀬尾さん」

 

「由奈でいいよ」

 

「そのうち」

 

即座に下の名前で呼ぶほど、まだ距離は近くない。

 

そう返すと、瀬尾さんは一度だけ目を瞬かせた。

そのあと、なぜか楽しそうに笑った。

 

「高遠さんって、ちゃんとしてるね」

 

「普通だと思うけど」

 

「その普通がちょっと面白い」

 

どういう意味だ。

 

首を傾げていると、教室の前方から男子生徒の声が飛んできた。

 

「瀬尾、初日から距離詰めるの早くない?」

 

「桐生くんが遅いんじゃない?」

 

「いや、普通はまだ様子見るだろ」

 

軽い調子で会話に入ってきた男子生徒が、近くの席へ鞄を置いた。

 

名前は、瀬尾さんの呼び方から考えると桐生(きりゅう)

下の名前までは、まだ分からない。

 

桐生は俺を見上げたあと、少しだけ目を細めた。

 

「高遠さん、背高いな」

 

「よく言われる」

 

「何かスポーツやってた?」

 

「特には」

 

「もったいない」

 

今日だけで二度目だ。

 

俺の身長は、部活動へ納品される予定の資材ではない。

 

「高遠さん、バレーとかバスケとか似合いそうなのに」

 

瀬尾さんが言う。

 

「あたしも昔から何回も言ってる」

 

千夏まで加勢した。

 

「本人にやる気がないんだよね」

 

「帰宅も立派な活動だから」

 

俺が答えると、桐生が吹き出した。

 

「帰宅部への誇りが強い」

 

「自由時間は大事」

 

「なんか高遠さん、落ち着いてるな」

 

桐生は笑いながら言った。

 

「同い年のはずなのに、こっちだけ慌ててる気がする」

 

それは買いかぶりだ。

 

俺だって、内心では平穏な席順を確保できたことに喜び、部活勧誘の気配に警戒している。

 

ただ、それを顔に出す必要がないだけである。

 

前世で学んだ。

 

慌てると仕事が増える。

落ち着いていると、少なくとも追加の説明を求められにくい。

 

もっとも、この姿で落ち着いていると、別の意味で目立つらしい。

 

人生、うまくいかない。

 

しばらくすると、教室の前方の扉が開いた。

 

入ってきたのは、少し疲れた雰囲気の女性教師だった。

 

肩までの髪を後ろでまとめ、書類の束を抱えている。

教卓に資料を置くと、教室全体を見渡した。

 

「全員、席についてください。今日から一年間、このクラスの担任をする宮原佳乃です」

 

宮原佳乃(みやはらよしの)

 

黒板に名前が書かれる。

 

俺は瀬尾さんと同じように、頭の中へ記憶した。

 

「最初なので、出席を取ってから簡単に自己紹介をしてもらいます」

 

教室の空気が少しだけ硬くなる。

 

自己紹介。

 

避けては通れない。

 

名前。

出身中学。

趣味。

 

それくらいでいいだろう。

 

余計なことを言うと話が広がる。

ここは短く、無難に。

 

順番に自己紹介が進んでいく。

 

部活を頑張りたい子。

友達を作りたい子。

緊張して声が小さくなる子。

笑いを取ろうとして少し滑る子。

 

それぞれの性格が、短い言葉の中にも滲んでいる。

 

瀬尾さんは明るく話し、桐生は軽く笑いを取った。

千夏は少し緊張しながらも、部活を探していることを話した。

 

そして、俺の番が来る。

 

立ち上がった瞬間、教室の視線が集まった。

 

前の席の生徒が、少しだけ首を上げる。

後ろの方では、誰かが小さく息を呑んだような気配がした。

 

目立ちたくはない。

だが、身長ばかりはどうしようもない。

 

ここは余計なことを言わず、無難に終わらせる。

 

「高遠透花です。出身は東中です。よろしくお願いします」

 

以上。

 

趣味も、部活の希望も、抱負も言わない。

話題を増やさない。

質問の種をまかない。

 

完璧に無難な自己紹介だった。

 

俺は静かに席へ戻る。

 

これなら印象にも残らないだろう。

身長で目立つのだけはどうしようもない。

 

そんなことを思いつつ、席へ座る途中、教室のあちこちから小さな声が聞こえた。

 

「背、高い……」

 

「近くで見ると、ほんとに大きいね」

 

「なんか、すごく落ち着いてない?」

 

「声、静かで聞きやすい」

 

自己紹介の内容について触れている者は、誰もいない。

 

困る。

 

俺は名前と出身中学しか言っていない。

これ以上ないくらい普通に終わらせたはずだ。

 

なのに、普通の自己紹介を普通にしただけで、なぜか周囲がこちらを気にしている。

 

自己紹介が普通でも身長が高いというのはそれだけで目立つ要因となる。

穏やかに過ごしたいと常に思っているが、あの神様の気遣いで、そうは行かないらしい。

 

前世と今世そのどちらでも、理不尽な目に遭うことは避けられない。

内心で嘆息して、俺は理不尽な現実か目を逸らすため、窓の外へ視線を逃がした。

 

校庭の桜は、少しずつ散り始めている。

風が吹くたび、淡い花びらが空を流れていく。

 

きれいだ。

 

できれば、このまま静かに眺めていたい。

 

「透花」

 

斜め前から、千夏が小声で呼ぶ。

 

「なに?」

 

「あたしも、今年は静かに過ごしたい」

 

「それはいいことだね」

 

「だから、今年もよろしく」

 

千夏は笑っている。

 

静かに過ごしたい人間の言葉にしては、妙に逃げ道がない。

 

「こちらこそ」

 

そう答えると、千夏は満足そうに前を向いた。

 

その横顔を見ながら、俺は少しだけ考える。

 

高校生活こそ、平穏に。

 

そう思っていた時期が、俺にもあった。

 

入学初日の朝くらいまでは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか(作者:ねこ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

(救いは)ないです。▼前世でプレイしていたソシャゲに転生したものの、未実装・闇落ちキャラ「比良坂クオン」になってしまった。▼何とか闇落ちしても「もとはいい人だったから」と同情を買って助けてもらいたいと努力するが、そういう足掻きは人の心をかえってくちゃくちゃにしたり、疵を残したりするものですよ?▼


総合評価:923/評価:7.92/連載:8話/更新日時:2026年05月30日(土) 21:18 小説情報

TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う(作者:第616特別情報大隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 転生した先は地獄だった。▼ 非力な少女の身体に、スラムの孤児という立場。▼ しかし、ある女性との出会いが私を変えた。▼ 魔法使いであるソフィア──彼女が私を弟子にし、希望をくれたのだ。▼ しかし、魔法使いとなった私は普通ではなかった。▼ 詠唱がいらない。▼ 魔法陣もいらない。▼ 魔導書もいらない。▼ それは世界に敵視されかねない危険因子──イレギュラー。▼…


総合評価:56/評価:-.--/連載:9話/更新日時:2026年05月31日(日) 12:11 小説情報

転生してイージーモード!(作者:ハニラビ)(オリジナル現代/日常)

普通に生きて普通に死んだ男がチートを得て現代日本にTS転生したお話。作者はバカだからよぉ、難しい話は無しにしねーか?(ただのバカ)


総合評価:2986/評価:8.62/連載:15話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:02 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:イア! イア!!)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:834/評価:8.47/連載:9話/更新日時:2026年05月31日(日) 11:33 小説情報

ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない(作者:なはた)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼フィジカルよわよわなTS銀髪魔法少女がクール系敵幹部を必死に装いながら魔法少女達と戦うお話。


総合評価:1737/評価:8.3/連載:6話/更新日時:2026年05月28日(木) 21:29 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>