トリニティ、ゲヘナ、ミレニアムという三つの学園を一日のうちに巡った社会科見学も、ようやく終わりを迎えようとしていた。
ミレニアムを出た頃には既に太陽も傾き始めており、アリウス自治区へ戻ってきた一行の足取りには流石に朝ほどの勢いは残っていない。それでも、参加したアリウス生たちの表情は明るかった。
トリニティでは高すぎる物価に驚き、ナギサとセイアから思いがけず新しい服まで買ってもらった。
ゲヘナでは偽物の見分け方を覚え、入ろうとしていた焼肉店が目の前で爆発するという経験までした挙げ句、最後にはフウカのカレーを満足いくまでいっぱい食べた。
そしてミレニアムでは電子決済という便利な仕組みを知り、便利すぎるが故に一万円ほど予算を超過するという、少々痛い勉強までしてきた。
予定表に書かれていた内容からは随分と脱線した一日だったが、それでも帰り道では誰もが楽しそうに今日の出来事を話していた。
「今日はこれで解散にしようか。朝からずっと歩きっぱなしだったし、みんなも疲れたでしょう?」
アリウス自治区へ入ったところで先生がそう声を掛けると、マイアたちから素直な返事が返ってきた。
「少し疲れましたけど、楽しかったです。買ってもらった服も、後でちゃんとしまっておきます」
「私も。今度ミレニアムに行く時は、使った金額を途中で確認する」
「うん、それは絶対に忘れないでね。あと後払いは無料じゃないからね」
「もう覚えました!」
マイアは少し恥ずかしそうにしながらも頷いた。
その隣ではスバルも、今日一日を無事終えられたことに安心したらしく、僅かに表情を緩めていた。
「色々ありましたが、結果的には良い一日だったんじゃないでしょうか。少なくとも、皆がまた外へ行きたいと思えるようになったのなら見学をした意味もあったと思います」
「そうだね。アツコたちから相談された時は、ちゃんと一般常識を教えられるか心配だったけど……」
「一般常識を教えられたかについては少々疑問が残りますが……」
「そこはあえて触れないで行こうか」
先生が肩を落とすと、スバルが小さく笑った。
少し前を歩いている現地スバルはというと、今日トリニティで買ってもらった新しい私服を既に完全に自分のものとして着こなして、肩で風を切りながら歩いている。
そんな何でもない帰り道で先生一行は違和感へ気付いた。
「……あれ?」
普段と比べて、アリウス自治区が妙に騒がしい。
遠くから複数の生徒たちの声が聞こえてくるだけなら珍しいことではない。だが今日は、誰かが慌ただしく走り回る足音や、建物の中から何かを引っ張り出すような物音まで混じっている。
さらに目を凝らせば、かなり遠くの通りを大勢のアリウス生が一方向へ走っているのが見えた。
しかも、どうやら何かを追い掛けている様子だった。
「……何かあったのかな?」
「普通の騒ぎ方ではなさそうですね」
スバルの表情から先ほどまでの穏やかさが少し消える。
ちょうど近くを走り抜けようとしていたアリウス生を見つけ、先生は声を掛けた。
「ごめん、ちょっといいかな? みんな何をそんなに騒いでるの?」
「あっ、先生!」
呼び止められた生徒は勢いよく足を止めた。
息を整える暇も惜しいらしく、興奮した表情のまま答える。
「マダムが戻ってきたんです!」
「…………え? マダムって……ベアトリーチェ!?」
「はい! さっき自治区の中に入ってきて――」
「ベアトリーチェが……」
エデン条約の時。
アリウスを支配し、アリウススクワッドを利用し、自分まで攫った相手。
自分たちがようやくその支配からアリウス生たちを解放したというのに、何故今になって再び戻ってきたのか。
先生が事態の重さを理解し始める横で、スバルの反応はさらに深刻だった。
「……先生」
普段より明らかに緊張した声だった。
「これは、すぐに状況を確認した方がいいですね。マダムが自分からアリウスへ戻ってきたのなら、何の目的もないとは考えられません!」
「うん。私もそう思う!」
「出来ればスクワッドとも合流しましょう。今の彼女が何を企んでいるのか分からない以上、油断は――」
「ああぁぁぁぁ!!?」
「「!?」」
突然、説明してくれていたアリウス生が悲鳴を上げた。
先生とスバルが驚いて振り返る。
「どうしたの!?」
「もうあんなところまで行ってる!?」
アリウス生は遠くを走っている集団を指差した。
「出遅れた! このままじゃ焼肉が!!」
そのアリウス生の言葉に先生とスバルが揃って固まった。
「……焼肉!?」
「はい! 早くしないと良いところ全部取られちゃいます!」
「待って。今ベアトリーチェの話してたよね?」
「だから急いでるんです!」
「どういうこと!?」
説明を求める間もなく、生徒は再び駆け出した。
「すみません先生! 詳しい話は後で! 私も行ってきます!」
「あっ、ちょっと!」
その背中はあっという間に遠ざかり、先ほど見えた大集団へと吸収されていった。
そして混乱している先生の周囲では、社会科見学から帰ってきた他のアリウス生たちまでざわつき始めている。
「もう始まってるの!?」
「クソ! 今日だなんて聞いてないよ!!」
「荷物どうする!?」
「置いてから追い掛けよう!!」
先生の知らない何かが、当然の共通知識として彼女たちの間で共有されているらしい。
その中でも、比較的大人しく周囲の様子を見ていたマイアまで、遠くの集団へ目を向けて慌て始めた。
「先生、もう一人のスバル先輩、私も一度荷物を置いてきます!!」
「マイアさん!!? 何を言ってるの!?」
「焼肉が!!? このままだと間に合わないかもしれないんです!!」
「焼肉とベアトリーチェの関係は!?」
「マダム=焼肉ですよ!! 常識ないんですか!?」
「ごめんなさい、余計分からないわ!!」
「では行ってきます!! 牛・牛・豚・鶏・牛・内臓・内臓!!!」
マイアはトリニティでもらった服や今日買ったものが入った袋を抱え直すと、そのまま自分の部屋がある方向へすごい勢いで走っていった。
他のアリウス生たちも次々と解散し、それぞれ荷物を置いたり、何故か武器を取り出したりしながら追跡へ加わろうとする。
「先生……マイアさんが最後言っていた意味わかりますか…?」
スバルが呆然と呟く。
「食べる順番かな……?」
「そうですか。少なくとも、私が知っているマイアさんでは無くなったようですね」
「それは私もそう思う」
驚愕して足を止めている二人の横には、まだ一人だけ残っていた。
現地スバルだった。彼女は走っていく仲間たちを静かに見つめている。
先生はその姿に少し安心した。
「こっちのスバルは行かないんだね」
「…………」
「まあ、何が起きてるのか分からないし、一度落ち着いて――」
先生の話を無視して現地スバルがゆっくりと体を沈めクラウチングスタートのポーズをする。
「……スバル?」
その口元が不敵に吊り上がった。
「乗るしかない、このビッグウェーブに!!」
「スバル!?」
次の瞬間、現地スバルは凄まじい勢いで走り出した。
「待ってください! そもそも何をするつもりなんですか!?」
「焼肉にしかない風があるんだ。軽くて、澄んでいて……自由気ままな追い風が!!」
なんとも、かっこいいのか悪いのか判断に困るセリフを残し、現地スバルは追い込み馬のごとく風のような速さで追い上げて、そのまま大勢のアリウス生が形成している追跡集団へ合流してしまった。
状況を理解できない二人だけが、その場にぽつんと取り残された。
「この世界の私は、一体どこへ向かっているんでしょうか…?」
スバルは遠ざかっていくもう一人の自分を見つめたまま、疲れ切った声で続ける。
「私にも分からないよ……」
先生も心底困ったように答えるのだった。
「先生!」
そんな困り果てている二人の背後から、聞き慣れた声が飛んできた。
振り返ると、自治区の入口側から二人の少女が走ってくる。
「サオリ! アツコ!」
水着姿のサオリとアツコだった。
二人とも普段のシャーレでの様子とは違い、表情には明確な緊張が浮かんでいる。
「先生、無事だったか!?」
水着サオリは先生の姿を確認すると、僅かに安心したように息を吐いた。
「アリウスの生徒から連絡が入った。ベアトリーチェが戻ってきたと聞いて、すぐにアツコと来たんだ」
「私たちも、何をするつもりなのか分からないから心配になって」
アツコも周囲を確認する。
「スクワッドのみんなは?」
「多分自治区の中にいると思う。でも……」
先生は遠くを指差した方向を二人も見ると、大量のアリウス生が、武器を片手に何者かを追い回している。
「逃がすなー!」
「そっち回って!」
「裏道塞いで!」
「捕まえろー!」
勇ましい声が飛び交う。
その一方で。
「肉だぁーー!!」
「號奪戦の間合いだぁぁ!!」
「このイベントを定期開催しろぉぉ!!」
明らかに戦闘とは関係ない声も混じっていた。
水着サオリは目の前の光景から視線を外さず、慎重に尋ねた。
「……先生、これは何をしているんだ?」
「私にも分からない」
「ベアトリーチェが戻ってきたんだよね?」
「そう聞いた」
「どうしてみんな、略奪の構えをしてるの?」
「私が聞きたいよ!」
先生の返事に、アツコまで困り果てた顔になった。
「私たちが知っているアリウスと、この世界のアリウスを同じ感覚で考えない方が良さそうですね……」
「この状況を見るとな…。全面的に同意するしかないな」
水着サオリも真顔で頷いた。
だが、アツコは表情を少しだけ引き締めて話す。
「でもみんなが平気そうだからって、ベアトリーチェが楽な相手になったわけじゃないよ」
「そうだね」
アリウス生たちの反応がどうであれ、相手はあのベアトリーチェだ。
何か企みがある可能性は高い。
「私たちも追い掛けよう!」
先生の一言に、三人とも頷いて答えた。
こうして先生たちも、騒がしい追跡劇の後を追うことになった。
◆
「ハァッ……ハァッ……!」
その頃、全力でベアトリーチェは走っていた。
服の裾が砂埃で汚れることも、呼吸が乱れることも。
今の彼女には気にしている余裕などなかった。
「どうして……!?」
後方から聞こえてくる大量の足音。
「彼女たちはわたくしを追いかけてくるんですか!?」
アリウス自治区へ戻った当初、全ては想定通りだった。
自分を見た生徒たちは目を見開き、逃げ出した。
建物へ駆け込み、仲間へ自分の帰還を知らせ始めた。
恐怖は残っている。自分の支配はまだ終わっていない。
そう確信したのに。実際の現実は正反対だった。
「いたぞー!」
「そっち行った!」
「回り込め!」
気が付けば、逃げていたはずの者たちが戻ってきた。
それも一人や二人どころではない。
集団で武器を持って、明確な敵意を持って自分を追い掛けている。
「やめなさい!!」
ベアトリーチェが振り返り、怒鳴りつける。
「誰に逆らっているのか分かっているのですか!? どうしてわたくしを恐れないのです!?」
「今更マダムにビビってる奴いる!? いねぇよなぁ!!?」
「焼肉だ! 焼肉だろう!? なぁ焼肉だろうお前! 肉置いてけ! なあ!!!」
「晩鐘は汝の名を指し示した…!」
「何故です!?」
自分の命令が通じない。
微塵も怯えもしない。
むしろ追撃の速度が少し上がってしまった。
「貴女たち! わたくしを誰だと思って――」
「マダム!」
前方から声。
「っ!?」
別の道からもアリウス生が現れた。
ベアトリーチェは慌てて方向を変える。
「待てー!」
「そっちだ!」
「挟め挟め!」
「何なのですか貴女たちはぁぁぁ!!」
かつて、自分の顔を見るだけで萎縮していた生徒たち。
命令を下せば従順に従った奴隷だったのに。逆らえば何が待っているのか、身体へ刻み込んだはずだったのに。
「先に捕まえた班、肉多めだからね!」
「ずるい! 私も!」
「さっきから何故、肉の話をしているのです!?」
意味が分からない。何一つ理解出来ない。
ここは自分の知るアリウスではなかった。
「先生の仕業か……!?」
ベアトリーチェは歯を食いしばる。
「やはり、あの男が余計な事を……!!」
自分が少し離れている間に、一体何を吹き込んだというのか。
ここまで狂わせるなど、最早洗脳と言っても過言ではない。
「おのれ……!」
ベアトリーチェはそんな責任転嫁を続けながら、細い路地へ滑り込んだ。
だが、前から別の集団が迫ってくる。
「いた!」
「…………!」
後ろからも追手。
「逃げ道塞いだ!」
「くっ……!」
右も駄目。左も塞がれた。
ならば、さらに奥へ。考える暇もなく、ベアトリーチェは人通りの少ない道へと走り込んだ。
そんな時だった。
――プォォォォォォ……。
「…………?」
足が僅かに止まる。
遠くから聞こえてきた。
ラッパのような低く、古びた音色。
どこか厳かな響きを持ちながら。
プップップープ プププププッププー♪
ベアトリーチェの眉間に皺が寄る。
不穏なはずなのに、何故か妙に間が抜けている。聞いた覚えがあるような、ないような。
重大な場面で流れているはずなのに、これから碌でもないことが起こりそうな予感だけを妙に掻き立てる旋律。
「何なのです、この緊張感を著しく削ぐ曲は……!」
しかし、音色自体には何かがあった。
まるで自分を呼ぶような、意識の奥へ直接触れてくるような不自然な引力を感じる。
ベアトリーチェは音が聞こえてくる方向へ顔を向ける。
「……あちらは確か」
その時、不意にアリウス自治区のさらに奥に長い間、立ち入りを禁じられてきた場所がある事を思い出した。
「そうでしたね……」
ベアトリーチェの口元に、僅かに笑みが戻る。
「ポルタパシス」
禁足地の名で知られている場所。
何故そこへ入ってはならないのか、その全容をベアトリーチェ自身が完全に把握しているわけではない。
だが逆に言えば、アリウスの生徒たちも近付こうとしない場所。
追手を振り切るにはこれ以上ない場所に思えた。
「いたぞ!」
後ろから声が迫る。
目の前には禁足地へ続く道が伸びていた。
――プォォォォン……。
どこかで聞いたことがあるような、妙に歓迎されていない気分になるラッパの旋律が響いた。
「……ええい! 今は選んでいる場合ではありません!」
ベアトリーチェは踵を返し。迷うことなく音のする方向へ走り出した。
◆
「そっちに行ったぞ!」
先生たちが追跡集団へ追いついた頃には、ベアトリーチェは自治区のかなり奥まで逃げ込んでいた。
「ベアトリーチェはどこ!?」
先生が近くの生徒へ尋ねると、その生徒が奥を指差す。
「向こうです! 急に人の少ない方へ逃げました!」
「分かった!」
「先生も捕まえたら焼肉食べます!?」
「今はそれどころじゃないよ!」
「焼肉より優先度の高いものなんてありますか?」
「……もう考えるのは後にしましょう」
スバルが真顔で言う。
「今はベアトリーチェを止めることだけ考えた方がいいです」
「うん。私もそうする」
先生も完全に理解を諦めた。
水着サオリとアツコも銃を構えながら周囲を警戒する。
そして一行がさらに奥へ進むにつれて。
少しずつ、周囲の様子が変わった。
「…………」
さっきまであれほど騒がしかったアリウス生たちの声が、途端に少なくなる。
走る速度も落ちている。
そして一人、また一人と足を止め始めた。
「どうしたの?」
先生も速度を緩める。
先頭にいたアリウス生が、不安そうに前方を見る。
「この先は……」
「何かあるの?」
「禁足地です」
「禁足地?」
先生は初めて聞く言葉に眉を寄せた。
「何がある場所なの?」
「……分かりません」
「分からない?」
「昔から、入っちゃいけないって言われてるだけです。何があるかまで知ってる子は、多分ほとんどいません」
「なるほど…?」
先生は前方を見ると崩れかけた構造物に他の場所とは明らかに違う、長い間人の手が入っていない道。
その奥にベアトリーチェの姿が一瞬だけ見え、そのまま奥の方へと走っていく。
「マダム、本当に禁足地に入っちゃった……」
アリウス生たちは追おうとはしなかった。
先ほどまで武器を持って果敢に追跡していた者たちでさえ、古くから教えられてきた入ってはいけないという言葉を簡単には無視出来ないらしい。
先生も無理に進むべきか判断出来ず、足を止めた。
「…………ここ」
その時、スバルの声が聞こえた。
「どうしたのスバル?」
先生が振り返ると、先ほどまでとは明らかに顔色が違うスバルが、禁足地の奥を見つめたまま立ち尽くしていた。
「……まさか」
水着サオリも足を止めて呟いた。
「どうして、ここに……」
アツコも自然と歩みを止めた。
三人の反応が他のアリウス生たちとは明らかに違っていた。
「三人とも、この場所を知ってるの?」
先生には何も分からない。
禁足地だということも今知ったばかりだ。
ましてや、その奥に何があるのかなど想像も出来ない。
「先生、ここは――」
スバルが先生の問いに答えようとした時。
「追い詰めたぞ!」
現地スバルの声が聞こえて来た。
「え?」
気付けば、彼女は先生たちより前へ出ていた。
闇の奥へ消えていくベアトリーチェの姿を見つめている。
「スバル先輩、待って!」
現地のアリウス生が止める。
「そこは禁足地だよ!?」
「…興味ないね!」
「カッコつけてる場合じゃないですって!」
「今ここで、逃がしたら焼肉が遠のくんだぞ!?」
「判断基準そこなの!?」
先生が思わず突っ込む。
現地スバルはそんな声にも動じず、奥へ一歩踏み出した。
「待ちなさい!!」
今度の声はスバルだった。
先ほどまでとは比較にならないほど鋭い。
「そこに貴方が入っちゃダメなんですよ!!!」
「…………?」
現地スバルが不思議そうに振り返る。
自分と同じ顔をした少女が、本気で焦っている。
「どうした?」
「いいから戻ってきてください! 今すぐ!」
水着サオリも一歩前へ出る。
「スバル、その先は駄目だ! ベアトリーチェの事は一旦放っておけ!」
アツコまで、珍しく声を強くした。
「お願いだから、戻ってきてスバル先輩!」
「…………」
現地スバルには、その必死さの理由が分からない。
そして悲しいことに先生にも分からない。
しかし募集組の三人だけは知っていた。
この場所で何が起きるのかを。
「どうしてだ?」
現地スバルが不思議そうに尋ねると三人は一瞬言葉を詰まらせた。
その僅かな時間が致命的だった。現地スバルは再び前を向く。
「話は戻ってから聞く」
「待って!!」
「ベアトリーチェを逃がす方が面倒だと判断した!」
そして走りだしてしまった。
「止まれ馬鹿!!!」
スバルの叫び声が響く。水着サオリも追おうとする。
だが現地スバルは止まらない。
そのまま禁足地のポルタパシスの奥へと姿を消した。
「……っ!」
スバルの顔から血の気が引く。
水着サオリが歯を食いしばる。アツコも、先ほどまでの困惑した様子を完全に失っていた。
「どうしたの!?」
先生が三人を見る。
「一体、あそこに何があるの!?」
すぐには返事がなかった。
代わりに禁足地の奥から。
――プォォォォォォォン……。
ラッパの音が聞こえてきた。
「…………」
先生が眉を寄せる。
「なんなんだ……このラッパの音……?」
「そんな……」
震える声で呟かれたスバルの絶望を嘲笑う様に、ラッパの音がもう一度ポルタパシスの奥から鳴り響いたのだった。