アビドス市街には、すでに警報のような音が響いていた。
砂に覆われた通りの向こうから、無数の機械音が近づいてくる。
カイザーPMCのロボット兵士たち。
揃った足音、無機質な銃口、そして装甲車両。
それらが、当然の権利であるかのようにアビドスへ進軍していた。
「来た……!」
セリカがアサルトライフルを構えながら、歯を食いしばる。
「ホシノ先輩がいないって時に……!」
「ん。止める」
シロコが短く言い、前へ出る。
その隣に、シロコテラーが並んだ。
「ん。私も出る」
「黒い私、援護お願い」
「違う、小さい私が援護するべき」
「ん! 私の言う事を聞くべき!」
「ん! 限定の私に逆らわないで!」
「なんでもいいからさっさと行くわよ!!」
そんなどこか緊張感の無いシロコ達のやり取りを見ながら、臨戦ホシノの格好をした現地ホシノは、装備の重さを確かめていた。
自分のものではない装備。
自分のものではない髪型。
けれど、守るべき場所は変わらない。
「……やるしかない」
その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。
先生は一度全員を見渡しながら注意する。
「みんな、無理はしないで。押し返すことを優先しよう」
「了解です、先生!」
アヤネが端末を操作し、敵影の位置を共有する。
「敵部隊は市街地を抜けて、こちらへ複数方向から進行中です。まずは正面の部隊を止めます!」
「では、私も支援に回ります」
水着姿のナギサが、いつもの優雅な調子でそう言った。頭に乗せたサングラスが朝日にきらりと光る。
その隣では、ミカが明るく拳を握っていた。
「よーし、せっかく呼ばれたんだし私も頑張るよー☆」
「ミカさん。くれぐれも単独で突出しすぎないようにしてくださいね」
「分かってるって、ナギちゃん。私を何だと思ってるの?」
「青眼の白龍」
「ナギちゃんに滅びのバーストストリームしちゃうぞ☆」
緊張感のある戦場に、妙な軽さが混じる。
セリカは一瞬だけ二人を見て、頭を抱えそうになった。
「なんで水着の人とさっき会ったばかりの人が頭数に入ってるのよ……!」
「セリカちゃん、今はそんなこと気にしている場合ではありません!」
「分かってるわよ!!」
その叫びと同時に、最初の銃声が響いた。
カイザーPMCのロボット兵士は数が多かったが、アビドス側も今までとは違う。
シロコとシロコテラーが左右から敵部隊を削り、セリカとノノミが正面火力を支える。
アヤネは後方から敵の配置を読み、先生が全体の動きを見て細かい指示を出す。
そして、敵の足が止まった所に――
「いっくよ~!」
軽い掛け声とは裏腹に、彼女が踏み込んだ瞬間、ロボット兵士の一団がまとめて吹き飛んだ。
「えぇ……?」
セリカが大口を開けてぽかんと表情になる。
「なに今の…?」
「これが、ミカさんです」
ナギサが当然のように言う。
「説明になってないんだけど!?」
ミカは振り返って、にこっと笑う。
「大丈夫大丈夫、まだ軽くやってるだけだから☆」
「今ので軽く!?」
セリカの叫びをよそに、戦況は少しずつ傾いていった。
だが、カイザーPMCも簡単には退かない。
市街地の角から次々と増援が現れる。
装甲車両が前へ出て、機銃を構える。
「先生、右側の通りから増援です!」
「シロコ達! 右側を抑えて!」
「「ん!」」
二人のシロコが同時に動く。
その連携は、まるで最初からそう組まれていたかのようだった。
そして、敵の機銃が火を吹こうとした、その瞬間。
「ふふふ……待たせたわね!」
横合いから派手な爆発が起きた。
カイザーの部隊が吹き飛び、煙の中から四人組が姿を現す。
便利屋68。
アルは堂々と胸を張り、ムツキは楽しそうに手を振り、ハルカは緊張で震えながらも爆弾を抱え、カヨコは相変わらず一番冷静な顔をしていた。
「この間の約束を果たしに来たわ!」
シロコテラーは満足げに頷いた。
「ん。流石便利屋、相変わらず義理堅い」
「一応言っておくけど、私たちはシャーレに入ったわけじゃないから」
カヨコが念押しする。
「ん。まだ、ね」
「…こっち見ないで」
「正月カヨコの件も諦めてない」
「いい加減諦めてくれないかな…」
カヨコは深いため息を吐きつつも、敵の動きを見てすぐに指示を飛ばした。
「社長、左の車両。ムツキは奥。ハルカは暴発しない範囲で」
「任せなさい!」
「はいはーい」
「が、頑張りますぅ!」
便利屋が加わり、戦線はさらに押し上がる。
しばらくして、さらに別の援軍が市街地へ現れた。
ゲヘナ風紀委員会。
先頭に立つのはヒナ、その後ろからイオリ、チナツ、そして遠隔ではなく現場に来たアコの姿もあった。
「風紀委員会、到着しました!」
チナツが声を上げる。
イオリは少し気まずそうに先生の方を見たが、すぐに敵へ銃を向けた。
「借りは返す! 今はカイザーを止めるぞ!」
ヒナは静かに先生を見る。
「先生。約束通りこの戦いに協力するわ」
「ありがとう、ヒナ!」
「礼を言われることではないわ。この間の件もあるし、それに……」
先生と話している途中でヒナの視界に、ふと奇妙な光景が入った。
水着姿のナギサとその隣には、聖園ミカの二人が大立ち回りしている光景。
「……?」
アコもヒナと同じ方向を見てしまう。
「聖園……ミカ?」
次に、水着姿のナギサを発見してしまう。
「……桐藤ナギサ……水着……え?」
ヒナとアコは、しばらく完全に無言になった。
イオリが眉をひそめる。
「委員長? アコちゃん? どうした?」
ヒナはゆっくりと目を閉じた。
「……何も見なかったことにしましょう」
「委員長!?」
アコもヒナに同意するように頷いた。
「はい。私も何も見ていません。トリニティのティーパーティーの方が水着で戦場に現れて、さらに敵に甚大な被害を出しているなどという不可解な状況は、一切見ていません」
「めちゃくちゃ詳しく見てるじゃないか!!」
イオリの叫び声に反応したナギサが微笑みを浮かべたまま、イオリの方に近づいてきた。
「何か私に言いたいことでも?」
「いえ、何も……」
「遠慮しなくていいんですよ? 先生と私が居たお店を爆撃したゲヘナ風紀委員会のイオリさん」
「………涼しそうでいいですね!」
なんとか当たり障りない答えを返す事で誤魔化す事に成功したイオリだった。
だが、援軍が揃ったことで、カイザーPMCの市街地部隊は完全に押し返され始めた。
アビドス、便利屋68、風紀委員会、ナギサとミカ。
どう考えても過剰戦力である。
「敵の本隊は砂漠地帯の手前に展開しています。このまま進めば、正面からぶつかります!」
「じゃあこのまま行こう! アビドスを、これ以上好きにはさせない」
◆
市街地を抜けた先。砂漠地帯の手前に、カイザーPMCの本隊が展開していた。
そして、その中心に立つ一人の男。
黒いスーツに身を包み、重々しい体躯と黒い外套には赤い布が垂れ、まるで自分こそがこの場の支配者だと言わんばかりに堂々としている。
カイザーPMC理事。
「よく来たな、シャーレの先生」
「どうしてアビドスに侵攻したんですか?」
その問いに、理事は一瞬だけ本気で分からないという顔をした。
そして、すぐに勝ち誇ったように笑う。
「何を言っているんだ?」
「……」
「アビドス高等学校にいた最後の生徒会だった者が退学したんだ。これでアビドス高等学校は、学校という枠組みから外れた!」
理事は大きく手を広げる。
「もうアビドス高等学校は学校ではない! これで我々が大手を振ってアビドスを吸収するだけだ! むしろ、お前たちの方が今では不法占拠者になったのだ!」
その言葉に、その場の空気が凍った。
アヤネは顔を青ざめさせる。
「そんな……」
セリカは悔しそうに唇を噛む。
「ホシノ先輩が退学したなんて……そんなの嘘よ……!」
ノノミも表情を曇らせ、シロコは静かに銃を握りしめる。
便利屋も、風紀委員会も、事情を知らない者たちは理事の言葉に一瞬反論できなかった。
それが事実なら、もし本当にホシノが退部どころか退学したのなら。
アビドスは、もう学校として成り立たないのかもしれない。
だが、先生が耐え切れずに小さく笑い始める。
隣でシロコテラーも笑い始める。
「ん。馬鹿発見」
そして、臨戦ホシノの格好をしていた現地ホシノも、二人につられるように笑い始めた。
「そっかぁ……そういう事だったんだ……」
「おじさんを騙して、アビドスを奪うつもりだったんだね……」
その声は、いつものように軽かったけれど、その奥には様々な感情が乗っていた。
「そりゃあ、あっちのおじさんにバカだって言われるはずだよ〜」
「何を笑っているんだ!」
理事が怒鳴るが、ホシノは肩をすくめた。
「ん? ああ、ごめんごめん」
そして、楽しそうに目を細める。
「そっちの計画が、そもそも成功してもいないのに気付いてない、おじさん以上のバカを見てたら面白くてさ!」
「なんだと!?」
「アビドス高等学校、最後の生徒会メンバーの私は退学してないよ……」
その言葉に理事の動きが止まる。
「馬鹿な!? お前は二人目の小鳥遊ホシノのはずだ!」
「残念」
ホシノは自分のポニーテールに手をかけた。
「そっちのおじさんは今頃、お前らの基地で大暴れしてるんじゃないかな?」
「……っ!?」
その瞬間、理事の胸に猛烈な嫌な予感が走った。
ホシノは、ゆっくりとポニーテールを解く。
桃色の髪がほどけ、いつもの小鳥遊ホシノの姿へ戻っていく。
セリカたちが息を呑んだ。
「え!?…私たちの…ホシノ……先輩だったの?」
セリカの声が震える。
ホシノは振り返らず、理事だけを見ていた。
「私が、アビドスの小鳥遊ホシノだからね。こうなると、お前らがアビドスに攻めてきた不届き者ってことでいいのかな?」
カイザーPMC理事は、内心で理解した。
これはまずい。
ホシノは実際には退学していない。
ならば、アビドス高等学校はまだ学校として残っている。
つまり、この侵攻には正当性がない。
この場には、シャーレの先生が居る。もしこの事を連邦生徒会に報告されたら…カイザーグループは終わる。
今はこの状況をどう処理するか、どう撤退するか。
理事が思考を巡らせた、その時だった。
空からヘリの音が聞こえた。
その音に釣られて全員が空を見上げると。
そこに飛んでいたのは、クロノス報道部のヘリだった。
「……なんでマスコミが来ているんだ!!?」
理事が叫ぶと、シロコテラーがその疑問に答えるように涼しい顔で手を上げた。
「ん。私が呼んだ」
「いつの間に!?」
セリカが叫ぶ。
「ん。準備は大事」
クロノスのカメラが、カイザーPMC本隊と理事、そしてアビドス側を映している。
ナギサは報道されていると意識して、終始余裕な表情を崩さずに、ふっと微笑んだ。
「カイザー理事、もう潔く観念したらいかがですか?」
「戦場に水着姿という馬鹿な格好で来ているお前にだけは言われたくないわ!!」
そう言われたナギサの笑顔が凍った。そして言われた事を理解した瞬間に怒りが爆発した。
「……ミカァ!!!!!」
「どうどう! 落ち着いてナギちゃん!」
ミカが慌ててナギサを押さえる。
「今怒るところはそこじゃないよ!」
「ですが今の発言は看過できません!!!」
「分かるけど! すごく分かるけど!」
「私も水着に関しては向こうの言い分に同意だわ…」
「セリカちゃんも変な援護射撃しないでよ!」
その一瞬、場に変な隙が生まれた。
理事はその隙を逃さなかった。
「撤退するぞ!」
近くの装甲車へ駆け込もうとする。
だが、次の瞬間。
横からものすごい勢いで戦車が突っ込んできて装甲車に激突して轟音が響く。
理事の乗り込もうとしていた装甲車は、ものの見事に横転した。
「今度は何だ!?」
砂煙の中、戦車のハッチが開く。
そこから顔を出したのは、目の部分に穴の開いた紙袋を被った少女だった。
「あうう……やっと止まれましたぁ〜」
「ヒフミ!?」
先生が驚いたように叫ぶと、ヒフミは紙袋の位置を調整して、周囲を見回した。
「そうだ! 皆さん無事ですか!?」
「ヒフミ、どうして戦車に……?」
「あの、私も何かできないかと思いまして……トリニティの戦車を少しだけお借りして……駆けつけました!」
「それは借りたって言うのかな?」
先生が困った顔をしていると、ヒフミはそこで、ようやくナギサとミカを認識した。
「……!?」
まず、水着姿のナギサ、次に、隣にいるミカ。
ヒフミの体がプルプル震えだす。
「ナ、ナギサ様!? なんで水着を着ているんですか!?」
「……」
「それにどうしてミカ様までいるんですか!!?」
「………落ち着いてください」
「落ち着けませんよ! 私は普通のトリニティ生なのに! 私の人生どうなってるんですか!?」
ナギサはいろいろ考えを巡らせていたが、途中であきらめたのか切り替えて堂々と宣言した。
「…………これで逃げられませんね? どうですかカイザー理事、すべて私の計画通りです」
「何、今の間! 絶対嘘だよね!?」
ミカが即座に突っ込んだ。
セリカも同時に叫ぶ。
「下手な嘘つかないで!!」
アロナも先生のシッテムの箱の中で叫んでいた。
『もう何が何だか分かりません! 全部が私の予想外ですよ!!』
「私も分からないや」
けれど、状況はもう大方決したといっていい。
カイザーPMC理事の主張は崩れた。
ホシノは退学していない。
クロノス報道部が現場を撮影している。
逃げようとした理事の装甲車は、ヒフミの戦車によって横転した。
カイザーPMCの兵士たちは動揺し、指揮系統は乱れている。
アビドス側は、その隙に一気に制圧したのだった。
こうして、カイザーによるアビドス襲撃事件は幕を下ろした。
ただし、その幕引きは誰も予想していなかった形になった。
色んな事がすべてが重なり、カイザー理事の計画は盛大に崩壊する事になるのだった。
先生は、砂漠の風に吹かれながら息を吐く。
「……みんな、本当に無事でよかった」
その言葉に、セリカが振り向く。
「無事だけど! 無事だけど、説明しなきゃいけないことが多すぎるのよ!」
ホシノは、少し気まずそうに笑った。
「うへ〜……セリカちゃん、黙っててごめんね~。怒ってる?」
「当たり前でしょ!」
「ん。ホシノ先輩は説教」
シロコが静かに言う。
「うへ〜……」
ホシノは逃げ道を探すように視線を泳がせた。
だが、シロコテラーがその横に立つ。
「ん。逃がさない」
「大きいシロコちゃん、後生だから見逃してよ~……」
「ダメ」
ナギサは水着姿のまま、こほんと咳払いをした。
「では、事後処理に移りましょうか。まずカイザーPMCへの慰謝料の請求とクロノス報道部への対応、風紀委員会と便利屋68へのお礼、そしてヒフミさんの戦車の件について――」
「ナギサ様ぁ! 戦車の件は本当に良かれと思ってした事でして!!」
「流石ヒフミさんです。貴女のやさしさには私も涙が出そうです、詳しいお話を聞かせてもらえるともっと涙が出そうです」
「ううぅぅ……!」
ミカはけらけら笑っている。
「賑やかだね、ナギちゃん」
「貴女も説明する側ですよ、ミカさん」
「え、私も?」
「助っ人として来た以上、当然です」
「ナギちゃんが呼んだんでしょ!?」
そんなやり取りを聞きながら、ヒナとアコはもう一度目を閉じた。
「私たちは何も見なかったことにしましょう」
「はい、ヒナ委員長。私は何も見ていません」
そんな混沌の中に、妙に上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
「ふんふんふ〜ん♪」
全員が音の方向に振り向くと、砂漠の向こうから、臨戦ホシノがのんびりと歩いて戻ってきていた。
その顔にはやけに満足そうな笑みが浮かんでいた。
「ホシノ!」
先生が思わず駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「うへ〜。大丈夫大丈夫〜」
臨戦ホシノは満面の笑顔で親指を立てた。
「ちゃんと証拠も撮ってきたよ~」
「証拠……?」
先生が首を傾げると、臨戦ホシノはスマホを取り出した。
「そうそう。先生、これ見てよ〜」
「え?」
画面を覗き込んだ先生は、固まった。
そこに映っていたのは、黒服だった。
ただし、普段の余裕ある姿ではない。
全身ぼろぼろで、壁にもたれかかるように座り込み、顔には明らかに殴られた跡が残っている。
そして、その両手は臨戦ホシノによって無理やり持ち上げられ、ダブルピースの形にさせられていた。
隣には、満面の笑顔でピースしている臨戦ホシノ。
先生はしばらく画面を見つめたあと、ぽつりと言った。
「……なにこれ?」
「ボコ顔ダブルピース」
臨戦ホシノは平然と答えた。
「そんな記念写真みたいに言うものなの?」
「うへ〜。おじさんにとっては記念だからね〜」
「記念なんだ……」
先生が困ったように笑う。
その写真を横から覗き込んだセリカは、一瞬だけ目を丸くした。
「……これが、ホシノ先輩を騙した奴なの?」
「うん。そうだよ〜」
臨戦ホシノが頷く。
セリカはしばらく黙っていたが、やがてふんっと鼻を鳴らした。
「……ざまあみなさい」
アヤネも、横から画面を覗き込む。
「この人が……ホシノ先輩にあんなことを……」
ノノミはいつもの柔らかな笑顔を浮かべていたが、その目はまったく笑っていなかった。
「あらあら〜。とても素敵なお写真ですね〜☆」
「ノノミ先輩、その言い方が一番怖いです」
シロコも画面を覗き込み、静かに頷く。
「ん。後で頂戴!」
「送るよ〜」
「ん。ありがとう! 部室に印刷して飾ろう!」
「飾らないでください!」
アヤネが慌てて止める。
その少し後ろで、現地ホシノも写真を見ていた。
黒服のぼろぼろの顔。
無理やり作らされたダブルピース。
そして隣で満足げに笑う、もう一人の自分。
「……はは」
現地ホシノは、困ったように笑った。
けれど、その胸の奥にあった重たいものが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
自分を利用しようとした相手、自分の弱さにつけ込み、アビドスを奪おうとした相手。
その相手が、こうして情けない姿で写真に収まっている。
それは決して、全部を解決するものではない。
現地ホシノが間違えたことも、皆を傷つけてしまった事も、自分が一人で消えようとした事実も、なくなりはしない。
それでも。
「……ちょっとだけ、すっきりしたかも」
現地ホシノが小さく呟く。
シロコテラーが隣で頷いた。
「ん。ならよかった」
臨戦ホシノは、にこにこと笑う。
「ちゃんと君の分も借りを返してきたからね〜」
先生はそんな臨戦ホシノを見て、少し呆れたように、でも安心したように笑った。
「本当に無事でよかったよ」
「先生は心配性だね〜」
「ホシノたちが無茶するからだよ」
「うへ〜。そう言われちゃうと言い返せないな〜」
臨戦ホシノは肩をすくめる。
その手元では、黒服のボコ顔ダブルピース写真が、まだ堂々と表示されていた。
アビドスの面々は、その写真を見ながら、それぞれ少しだけ息を吐く。
怒りも、悔しさも、悲しさも、まだ消えてはいない。
けれど少なくとも、この瞬間だけはこの事態を起こした黒服への溜飲が、少しだけ下がったのだった。
学校を奪おうとした者たちは撃退したが、問題は山ほど残っている。
借金や砂漠化など、アビドスの抱えている問題は何も終わってはいない。
けれど少なくとも、アビドス高等学校はまだまだ存続できそうだった。
アビドス編が終わったら次はどっちの話が見たいですか?
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時計じかけの花のパヴァーヌ編
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エデン条約編