新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

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新人先生、地下で眠る少女と出会う

 ミレニアム郊外、廃墟区画。

 

 かつて何かの施設だったらしいそこは、今では錆びた鉄骨と崩れかけた壁、そして用途不明の機械類が転がる場所になっていた。

 人の気配はほとんどない。

 ただ、遠くから時折、金属が擦れるような音が響いてくる。

 

「うわぁ……思ったより廃墟だね」

 

 モモイが辺りを見回しながら言った。

 

「廃墟区画に来たんだから、廃墟なのは当然じゃない?」

 

 ミドリが静かに返す。

 

「いや、そうなんだけどさ! もっとこう、宝探しっぽいワクワク感があると思ってた!」

 

「現状は危険施設の探索ですね」

 

 ケイが冷静に言った。

 

 その背後では、先生が周囲を警戒するように歩いている。

 その左右には、臨戦トキと現地トキ。

 二人のトキが、まるで当然のように先生の護衛位置を取り合っていた。

 

「先生、右側は私が警戒します」

 

「では、左側は私が担当します」

 

「この世界の私。先生との距離が近いですよ」

 

「臨戦の私こそ、先生の腕に触れる必要はないはずです」

 

「真面目にやりなさい!」

 

 リオはその少し後ろを歩いていた。

 表情は落ち着いているが、どこか緊張しているようにも見える。

 普段ならこういう場所に自ら足を運ぶことは少ないのか、足取りは慎重だった。

 

「リオ、大丈夫?」

 

「ええ。問題ないわ」

 

 リオはキリっとした顔で頷いた。

 

「この程度の廃墟探索、私にできないはずが――」

 

 その瞬間、足元の小さな瓦礫につまずいた。

 

「きゃっ」

 

「リオ!」

 

 先生が慌てて支えようとする。

 しかしその前に、現地トキが無言でリオの腕を掴んで支えた。

 

「リオ様。足元に注意してください」

 

「……分かっているわ」

 

 リオは少しだけ顔を赤くして視線を逸らす。

 臨戦トキが小さく呟いた。

 

「リオ様は相変わらず運動性能に不安がありますね」

 

「……言わないでちょうだい」

 

 リオの声は少し弱かった。

 

 探索を始めてしばらくすると、廃墟区画の奥から人型ロボットが現れた。

 

 錆びた装甲。

 無機質なセンサー。

 そして、手には旧式の銃火器。

 

「敵性反応ですね」

 

 現地トキが淡々と銃を構える。

 

「数、複数確認」

 

 臨戦トキも即座に二丁拳銃を構えた。

 

「先生、下がってください」

 

「みんな、無理はしないで!」

 

 先生の指示と同時に、戦闘が始まった。

 

「お姉ちゃん、右だよ!」

 

「分かってるよ!」

 

 モモイとミドリは、さすが双子というべき連携を見せた。

 

 モモイが派手に前へ出て敵の注意を引き、ミドリが落ち着いて隙を撃ち抜く。

 モモイが敵の足を止めれば、ミドリが精密にセンサーを狙う。

 

「どうだー! これが双子パワー!」

 

「お姉ちゃん、前に出すぎ!」

 

「分かってるって!」

 

「分かってないから言ってるの!」

 

「ミドリが冷たい!」

 

 言い合いながらも、二人の息はぴったりだった。

 

 一方、二人のトキもまた、恐ろしいほど滑らかな連携を見せていた。

 

 現地トキが敵の射線を誘導し、臨戦トキが死角から撃ち抜く。

 臨戦トキが前へ出れば、現地トキが後方から正確に援護する。

 

 互いの動きが手に取るように分かっているような。

 それは、双子のモモイとミドリとはまた違う、不思議な連携だった。

 

「左から三体」

 

「確認しました。臨戦の私、右上の足場に居る敵を片してください」

 

「わかりました」

 

 二人は同時に動き、ほぼ同時に敵を撃破する。

 

 そして――

 

「「先生」」

 

 二人揃って先生の方へ向き直り、無表情でピースした。

 

「「すごいですか?」」

 

「うん、二人ともすごいよ!」

 

 先生がそう言うと、二人のトキは満足そうな空気を出した。

 ケイは後方でサポートエリアを展開しながら、額を押さえた。

 

「戦闘中にアピールを挟まないでください!」

 

 そう言いつつも、ケイ自身の動きも見事だった。

 

 レールガンから放たれる光が、遠距離の敵を正確に撃ち抜く。

 さらに、味方の足元に光のフィールドを展開し、みんなのサポートを行う。

 

「モモイ、前方の敵は装甲が厚いです! 右に回り込んでください!」

 

「わかった!」

 

「ミドリ、次の敵は上部センサーを狙ってください!」

 

「ドットを打つように緻密に……!」

 

「リオ、そこは危険です! いったん下がって――」

 

「私も少しは戦えるわ」

 

 リオはハンドガンを構えた。

 そして、敵に狙いを定める。

 

 慎重に、しっかりと照準を合わせて。

 その間に、臨戦トキが敵を倒した。

 

「……」

 

 リオのハンドガンが虚空を向いた。

 次の敵を狙う。

 

 今度こそとリオは構える。

 照準を合わせ息を整える。

 

 その敵は、モモイとミドリの連携で撃破された。

 

「……」

 

 リオは無言で銃を下ろした。

 先生がそっと言う。

 

「リオ、無理しなくても大丈夫だよ」

 

「……大丈夫よ」

 

 リオはそう答えた。

 声が少しだけ震えていた。

 

 

 人型ロボットを撃破しながら進んだ一行は、やがて大きな廃工場へたどり着いた。

 

 外壁はひび割れ、入り口のシャッターは半分ほど崩れている。

 奥は薄暗く、空気が冷たい。

 

「ここ、いかにも何かありそう!」

 

 モモイが目を輝かせる。

 

「気をつけて。中にもロボットがいるかもしれないから」

 

 一行は工場の中へ入った。

 

 中は広く、天井も高い。

 古い機械設備が並び、足元には木箱や金属片が散らばっている。

 しばらく周囲を確認して、ひとまず敵影がないと分かると、全員が少しだけ息を吐いた。

 

 その直後。

 

 リオが近くの壁際に腰を下ろした。

 そして、両手で顔を覆う。

 

「私は……このチームの……お荷物よ!」

 

「リオ!?」

 

「ひぐぅ……! うまく動けない……!!」

 

 リオの肩が震える。

 

「ウマク……ウゴケナイ……」

 

 そんなリオの様子にモモイが慌てて駆け寄る。

 

「そんな気にしなくていいよ! リオも頑張ってるって!」

 

 ミドリもすかさずリオの元に行き励ます。

 

「そうだよ! だから泣かないで、リオさん」

 

 先生もすぐにリオの前に膝をついた。

 

「落ち込まないで! リオの頑張りはみんなわかってるし、私よりは役に立ってるから胸を張っていいんだよ!」

 

「………うん」

 

 先生たちが必死に慰めているので、リオもそれ以上泣き崩れることはなかった。

 その様子を少し離れた場所から見ていたケイは、深いため息を吐きながら内心で思った。

 

 一応この章のラスボスですよね、この人?

 

 もちろん口には出さない。

 ケイは横にいた二人のトキを見る。

 

「あれって、本来あなた達の役割じゃないんですか?」

 

 臨戦トキは即答した。

 

「私は先生のメイドなので」

 

「切り捨てが早いですね!」

 

 現地トキは、リオをじっと見ながら冷静に分析する。

 

「この前までは、立派だったんですけどね。急激に幼女化が止まりませんね」

 

「分析しないで助けに行ってあげてください!」

 

 ケイは頭を抱えた。

 

 その時だった。

 工場内に、突然声が響いた。

 

『接近を確認。対象の身元を確認します』

 

 全員が動きを止めた。

 

「なに!?」

 

 モモイが辺りを見回す。

 

「どこから……?」

 

 ミドリも警戒する。

 

 声は、どこか一方向からではない。

 まるで部屋全体に響いているようだった。

 

『才羽モモイ、資格がありません』

 

「えっ、名指し!?」

 

『才羽ミドリ、資格がありません』

 

「私も……」

 

『調月リオ、資格がありません』

 

「……?」

 

 リオはまだ壁際に座ったまま、少しだけ表情を引き締めた。

 

『飛鳥馬トキ、資格がありません』

 

 現地トキが無表情で頷く。

 

『飛鳥馬トキ、資格がありません』

 

 臨戦トキも無表情で頷く。

 

『ん?………二回目?』

 

「なんか困惑してるけど」

 

 モモイが呟く。

 次の瞬間、声の調子が変わった。

 

『!!!? 誰ですかこの、すごい人気が出そうな限定排出の超絶かわいい白髪少女は!?』

 

 ケイの表情が固まった。

 全員の視線がケイに集まる。

 

「……」

 

 ケイは両手で自分の体を抱いて、顔がみるみる赤くなる。

 

「やめてください!! 背中がむず痒い!!」

 

『しかもツンデレ属性ですか!? こんなの私のデータに無いですよ!?』

 

「データキャラやめちまえ!!」

 

 モモイが感心したようにケイを見る。

 

「確かにケイってちょくちょくツンデレだよね…」

 

「言わないでください!」

 

 ミドリも少し頷く。

 

「白髪で赤い目だし……人気出そうなのもわかる気がする」

 

「ミドリまで!?」

 

 先生は少し笑いを堪えながら言った。

 

「ケイ、かわいいって言われてるね」

 

「先生まで!!」

 

 ケイが涙目になる。

 謎の声は満足したように咳払いするような間を置いた。

 

『ふぅー……えーと……新人先生。資格を確認しました。入室権限を付与します』

 

『他の生徒達にも、先生の同行者として権限を付与。下部の扉を開放します。危ないですから、白線の内側までお下がりください』

 

「白線?」

 

 先生が足元を見る。

 モモイも慌てて床を見た。

 

「え!? ちょっと白線どこ!?」

 

 ミドリも周囲を確認する。

 

「見当たらないけど!」

 

 リオも立ち上がり白線を探そうとした。

 

「時間経過で薄れている可能性があるわ!」

 

 現地トキと臨戦トキも周囲を確認する。

 

「白線、確認できません」

 

「同じくこちらも確認できません」

 

 ケイが声に向かって叫ぶ。

 

「白線とは具体的にどこですか!?」

 

 謎の声は、妙に得意げに答えた。

 

『フッ……そんなものありません』

 

「はぁ!!? 騙したな!!」

 

 モモイが抗議の声を上げた瞬間。

 足元から、ガチャン、という重い音が響いた。

 

 床が消えた。

 

「うわあぁぁぁぁ!!!」

 

「うそでしょーーー!!!?」

 

「きゃあああああ!!!」

 

 モモイとミドリが叫ぶ。

 

 リオも涙目で落ちていく。

 

「どうしましょうか?」

 

「激流に身を任せ同化する」

 

 現地トキが冷静に問いかけ。

 臨戦トキが冷静にボケる。

 

「こんな時までボケないでください!」

 

 そしてケイが叫ぶ。

 

「……くっ!!」

 

 先生も碌に抵抗できずに落ちていく。

 一行は、そのまま地下へと落とされてしまった。

 

「ぐえっ」

 

 最初に落ちたのは先生だった。

 その上に、モモイ。

 

「うぎゃっ!」

 

 さらにミドリ。

 

「きゃっ!」

 

 そしてリオ。

 

「ひゃっ!」

 

 先生は見事に下敷きになった。

 

「せ、先生!?」

 

 モモイが慌てて起き上がる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 ミドリも青ざめる。

 リオも先生の上から慌てて退いた。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

「だ、大丈夫……みんなが怪我してないならよかった……」

 

 先生は地面に倒れたまま、弱々しく親指を立てた。

 一方、現地トキ、臨戦トキ、ケイの三人は、それぞれ危なげなく着地していた。

 

「先生を受け止め損ねました」

 

 現地トキが淡々と言う。

 

「落下ルートが想定外でした」

 

 臨戦トキも真顔で言う。

 ケイは青ざめながら先生の方へ駆け寄った。

 

「先生! 本当に大丈夫ですか!?」

 

「うん……たぶん……」

 

「たぶんでは困ります!」

 

 ケイが慌てて先生の状態を確認すると大きな怪我はなさそうだったので一先ず安心する。

 モモイとミドリ、リオも無事だったので全員が立ち上がり辺りを見回した。

 

 地下空間は広かった。

 

 廃工場の地下とは思えないほど整った設備。

 その中央に、一つの椅子があった。

 

 手術台にも、見ようによっては玉座にも見える不思議な椅子。

 

 そこに、一人の少女が眠っていた。

 

 長い髪。小さな体。

 

 まるで、ずっとここで誰かを待っていたかのように。

 先生は目を瞬かせる。

 

「女の子……?」

 

 その少女は衣服を身につけていないように見えた。

 そう認識するより早くケイが動いた。

 

「え?」

 

 恐ろしく速い手刀が、先生の首筋に落ちた。

 先生の意識は、一瞬で刈り取られた。

 

「先生!?」

 

 モモイが叫ぶ。

 倒れかけた先生を、現地トキと臨戦トキが同時に支える。

 

「どうして先生を無力化したのですか!?」

 

「必要な措置です」

 

 ケイは真顔で答えた。

 

「……先生には少し眠っていてもらいます」

 

「いやいやいや! 何してるの!?」

 

 モモイがツッコむ。

 ミドリは慌てて自分の荷物を探る。

 

「と、とにかく、何か着せないと……!」

 

 リオは眠る少女を見つめていた。

 先ほどまでのポンコツっぷりが、消えている。

 代わりに浮かんでいるのは、驚愕と、困惑。

 そして、恐怖。

 

「これは……まさか……!」

 

 リオが小さく呟く。

 

 ケイは、眠る少女から目を離せなかった。

 その表情は、今にも泣きそうで、それでいて必死に堪えているようだった。

 

「……アリス」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声で、ケイはその名を呼んだ。

 臨戦トキもまた、静かに目を伏せる。

 地下で眠っていた少女。

 

 AL-1S。

 

 後に、天童アリスと呼ばれることになる存在。

 先生たちは、ついに彼女と出会ったのだった。

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