新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

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新人先生、裏側を見てしまう

 ミレニアム郊外、廃墟区画。

 先生たちは再び、あの廃工場へとやって来ていた。

 かつてAL-1S――今のアリスが眠っていた場所。

 

 そして、前回とは違いどこか不気味なほど静かな空気が流れていた。

 前に来た時は、ここでアリスを見つけたのだが、あれからまだそれほど時間は経っていないのに、先生にはずいぶん昔のことのように思えた。

 

「ここに、本当にG.Bibleがあるの?」

 

 先生が尋ねると、モモイが胸を張った。

 

「うん! 偶然にも、この廃工場がG.Bibleの起動が最後に記録された場所なんだよ!」

 

 ユズはおずおずとみんなの後ろから顔を出した。

 

「で、でも……記録上は、たしかにこの近くで反応が途切れてる……はず……」

 

「なら探す価値はあるね」

 

 先生は頷いた。

 アリスは光の剣を抱えて、目を輝かせている。

 

「探索クエストですね! 勇者は古代の遺跡で伝説の書物を見つけるのです!」

 

「うんうん! 分かってるねアリス!」

 

 ケイはその様子を見て、どこか感慨深げだった。

 

「アリスがこんなにも立派に……!」

 

「言葉の吸収元が偏っていますけどね」

 

 臨戦トキが横から淡々と言う。

 

「そこは今後調整します!」

 

 ケイが即座に返した。

 こうして一同は、廃工場内を探索し始めた。

 

 

「お姉ちゃん、ゲームじゃないんだからさ…」

 

「でも壁の色が違う気がした!」

 

「錆び方が違うだけだよ」

 

「むぅ……」

 

 アリスも壁の前で真剣に考える。

 

「アリスも隠し通路を探します」

 

「壊さない範囲でね」

 

「了解です、先生!」

 

 そんな中、先生は地下の一角で、ふと光を見つけた。

 

「……あれ?」

 

 暗い部屋の奥、古びた机の上に、一台のパソコンがあった。

 周囲の設備はほとんど死んでいるのに、その一台だけが稼働しているのか画面は薄く光っていた。

 

「みんな、ちょっと来て」

 

 先生の声に、散り散りで探索していた全員が集まってくる。

 

「パソコン?」

 

 モモイが身を乗り出す。

 

「まだ動いてる……?」

 

 ミドリも驚いたように画面を見る。

 

「古い端末のようですが、稼働していますね」

 

 ケイが眉をひそめる。

 

「警戒した方がいいです。こういうものは大体、厄介な事に繋がっていますから」

 

「それ経験談?」

 

「……黙秘します」

 

 先生たちは恐る恐る画面を覗き込んだ。

 すると、そこに映っていたのは。

 小さな部屋だった。画面の上部には、こう書かれている。

 

【AI控室】

 

 その部屋の中には、三つの存在がいた。

 

 一人目は、小さなケイのような少女。

 デフォルメされたSDキャラのような見た目で、腕を組みながらぷんすか怒っている。

 

 二人目は、見たことのない奇妙なキャラ。

 どこか神秘的で、しかし自販機の上に座っているせいで妙に生活感がある。

 

 三人目は、アロナだった。

 シッテムの箱の中でいつも見ている、あのアロナ。

 

 三人は、なぜか控室らしき空間でくつろいでいた。

 

『ちょっと! またコーラですか!? たまには違うのを出してくださいよ! ポンコツ自販機AI!!』

 

 SDケイが怒っている。

 謎の存在は、自販機の上から堂々と答えた。

 

『コーラが欲しいと思ったことはないか?』

 

『ありません!』

 

『ただ、飲みすぎには注意することだ。その先に待ち受けるのは絶滅であることを心せよ』

 

『いやだから! コーラ以外よこせって言ってるんですよ!』

 

 横でアロナが手を上げる。

 

『イチゴミルクはないんですか!?』

 

『イチゴミルクが欲しいと思ったことは――』

 

『あります! 今まさにあります!』

 

 先生たちは、茫然と画面を見ていた。

 

「……アロナ?」

 

 先生が呟くと、画面の中のアロナが、ぴたりと止まった。

 それに伴ってSDケイも止まる。

 謎の存在も、ゆっくりこちらを見る。

 

 数秒の沈黙。

 

 三人が同時に叫んだ。

 

『『『ヤベッ!』』』

 

 次の瞬間、画面が真っ暗になった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 モモイがぽつりと言う。

 

「今の何?」

 

 そのモモイの疑問に誰も答えられなかった。

 やがて、黒い画面に白い文字が浮かび上がる。

 

【Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください】

 

「……切り替わった」

 

 ミドリが呟く。

 

「……露骨に誤魔化しましたね」

 

 ケイが額を押さえる。

 アリスは目を輝かせた。

 

「入力画面ですね? アリスが入力します!」

 

「ちょっ、アリス?」

 

 先生が止める前に、アリスはキーボードへ向かった。

 

 そして、勢いよく入力する。

 

【今のは何ですか?】

 

 少しの間。

 返答が表示された。

 

【は? 今のとは? 定義が曖昧なのでお答えできません。情報は正確に、お願いします】

 

「なんか腹立つ!」

 

 モモイが叫んだ。

 

「アリスは正確さを求められてしまいました」

 

「いや、さっきの見られたの誤魔化してるだけだよ!」

 

 今度はモモイがキーボードを奪う。

 

【さっきの事だよ! 2~3分前くらいの!】

 

【それは何時何分何秒? キヴォトスが何回まわったときですか?】

 

「ムカツクーー!!」

 

 モモイが地団駄を踏む。

 

「小学生みたいな返ししてきた!」

 

「お姉ちゃん、落ち着いて!」

 

「落ち着けないよ! なんか煽ってくるんだけど!!」

 

 ケイは顔をしかめる。

 

「今の返答、性格が悪いですね」

 

 臨戦トキが頷く。

 

「過去のあなたですよ?」

 

「トキ?何か言いましたか?」

 

「……いいえ、何も」

 

「そういえばさっきのSDキャラはケイに似ていましたね!」

 

「それは見た目だけです!!」

 

 次に、ミドリがキーボードの前に立った。

 

「ちゃんと目的を聞けば答えてくれるかも」

 

「頼んだよミドリ!」

 

 ミドリが入力しようとした瞬間、画面表示が変わった。

 

【汝の探し求めている物を強く心に想い、次の質問に答えよ】

 

「……雰囲気変わった」

 

 ユズが小さく呟く。

 

 次の表示。

 

【汝は何かを探してここに来た?】

 

 その下に、選択肢が並ぶ。

 

【はい】

【いいえ】

【わからない】

【たぶんそう。部分的にそう】

【たぶん違う。そうではない】

 

 モモイが画面を見て、ぽつりと言った。

 

「アキ〇イターじゃん……」

 

「既視感あるね…」

 

 先生が苦笑する。

 ミドリは少し困りながらも、選択肢を選んでいく。

 

【それは紙でできている?】

 

「たぶん違う……かな?」

 

【それはデータである?】

 

「はい」

 

【それはゲームに関係がある?】

 

「はい」

 

【それは食べられる?】

 

「いいえ」

 

 アリスが首を傾げる。

 

「ゲーム機は食べられません。アリスは学習済みです」

 

「うん、えらいね」

 

 先生が褒めると、アリスは嬉しそうに頷いた。

 

 その間もどんどんと質問は続いた。

 

【それを探している者は廃部寸前?】

 

「はい……」

 

 モモイが悲しい顔で答える。

 

【それを探している者は勢いだけで行動しがち?】

 

「誰のこと!?」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 ミドリがそっと【はい】を選んだ。

 

「ミドリ!?」

 

【それを探している者は、直談判に武器が必要だと思っている?】

 

「やっぱり私のこと言ってるよね!?」

 

 ミドリはまた【はい】を選んだ。

 

「ミドリ!!」

 

 そして、ついに画面に文字が表示された。

 

【汝が探している物は、G.Bibleですね?】

 

 ミドリが【はい】を押す。

 

 画面に大きく表示された。

 

【Q.E.D.】

 

 沈黙。

 

 ミドリが叫んだ。

 

「いやだから何!? 何にも進展してないって!」

 

 モモイも頭を抱える。

 

「ただ当てただけじゃん!」

 

「無駄に質問が長かったですね」

 

「このAI、絶対遊んでますね」

 

 そんな無為な時間を過ごしていると、突然画面が乱れた。

 ザザッ、とノイズが走る。

 そして、今度は音声が流れ始めた。

 

『遊んでいたら電力限界に達しました! 早く記録媒体を接続しろ、モモイ!!』

 

「うわ! 名指し!?」

 

 モモイが飛び上がる。

 

「記録媒体って言われても……ゲームのメモリーカードでいい?」

 

『それで構いません! 転送開始します!』

 

「早いなぁ!」

 

 モモイは慌てて携帯ゲーム機を取り出し、メモリーカードを接続する。

 すると、画面内で再び声が騒がしくなった。

 

『ちょっと押さないでください! ただでさえ容量足りないんですから!!』

 

『コーラのデータ領域を確保することは重要である』

 

『コーラ消して!』

 

『イチゴミルクは!?』

 

「なんか揉めてる?」

 

 先生が困惑していると画面の中から、声が響く。

 

『余分なデータを削除します!』

 

『致し方あるまい…』

 

『いいですか? いいですね!!』

 

「ちょっと待って、私許可してないよ!?」

 

 モモイが焦ったように叫んだが時すでに遅し。

 

『はい残念、削除~♪』

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「な、何が消えたの……?」

 

「考えない方がいいかもしれない」

 

 ミドリが小さく言う。

 それから一分ほどして、転送は完了したらしい。

 モモイの携帯ゲーム機の画面に、一つのファイルが表示される。

 

【G.Bible.exe】

 

「!」

 

 セーブデータが消えて絶望していたモモイの目が輝く。

 

「これがG.Bible!」

 

「ついに……!」

 

 ミドリも嬉しそうに画面を覗き込む。

 

「実行してみよう!」

 

 モモイがファイルを開こうとするが、ファイルは開かなかった。

 そして代わりに、ポップアップが表示される。

 

【要塞都市エリドゥのシステムに接続したらロックが解除されます】

 

 一瞬の沈黙の後、モモイが盛大に叫んだ。

 

「どこだよそこ!! 要塞都市エリドゥって何!? 聞いたことないんだけど!」

 

 ミドリも困惑している。

 

「私も知らない……」

 

 ユズも小さく首を横に振る。

 

「私も聞いたこと、ない……」

 

 アリスだけが、目を輝かせていた。

 

「なんだかRPGのおつかいイベントみたいですね!」

 

「アリスは楽しそうだね……」

 

 先生が笑っていると、その時ふと思い出した。

 

「そういえばミレニアムに来た時、トキがスケッチブックに書いていたのが、そんな名前じゃなかったっけ?」

 

 全員の視線が、臨戦トキへ向いた。

 臨戦トキは無表情のまま、少しだけ視線を逸らした。

 

「……」

 

 モモイが詰め寄る。

 

「トキ! 知ってるの!?」

 

 ミドリも真剣な顔で近づく。

 

「要塞都市エリドゥって、何?」

 

 ユズも恐る恐る聞く。

 

「知ってるなら……教えてほしい、です……」

 

 臨戦トキは沈黙した。

 そして、いつものようにスケッチブックを取り出そうとする。

 しかし、ケイが横から言った。

 

「自業自得ですね。ミレニアムに来た初日に、ドローンへ向けて『横領都市エリドゥを許すな』などと掲げた貴女が悪いです」

 

「あれは、精神攻撃として有効な手段だったのです!」

 

「その結果、今詰められているようですが?」

 

 モモイがさらに詰め寄る。

 

「横領都市って何!? 要塞都市じゃないの!?」

 

「説明して、トキ!」

 

 臨戦トキは少しだけ困ったように先生を見た。

 先生は余計なことを言ったかもと苦笑するしかなかった。

 

 

 一方その頃。

 先生の持つシッテムの箱の中で、アロナは一人、胸を撫で下ろしていた。

 

『あぶなかった~……』

 

 画面の中のアロナは、額の汗を拭うような仕草をする。

 

『まさか控室を見られるとは思いませんでした……。でも、シッテムの箱にBluetooth機能入れておいてよかった~』

 

 アロナはふふんと胸を張る。

 

『これで先生にはバレていませんね!』

 

 なお、先生はすでに画面でアロナを見ていた。

 だが、アロナはその事実から目を逸らしていた。

 

『それにしても……』

 

 アロナは少しだけ頬を膨らませる。

 

『あの自販機AIさん、本当にコーラしか出さないんですよね。次は絶対イチゴミルクを出してもらいます!』

 

 シッテムの箱の中で、アロナは謎の決意を固めていた。

 その頃、廃工場の地下では。

 

「トキ! 吐けー!」

 

「要塞都市って何なの!?」

 

「横領都市って何……?」

 

「アリスはおつかいイベントを開始したいです!」

 

「ちょっと落ち着いてください…!」

 

 臨戦トキが、モモイたちに囲まれていた。

 

 G.Bibleは手に入った。

 ただし、開くには要塞都市エリドゥへの接続が必要らしい。

 廃部回避への道は、またしても妙な方向へ曲がり始めていた。

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